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10月8日の朝、独立系時計メーカー愛好家耳寄りのビッグニュースが、ジュネーブから飛び込んできました。フィリップ・デュフォーが、シンプリシティ誕生20周年を記念し、20本の限定版シンプリシティを製造し、その第1弾が11月のフィリップスオークションで紹介されるというのです。現代の時計製造において、この時計に勝るものはそうありません。それについて僕は、以前から記録に残してきました。デュフォーのシンプルでありながら最上級の時計作りは、僕個人に訴えかけるものがあるということを言い続けてきました。そんなことを心に留めつつ、今回の特別な腕時計の第一印象や、デュフォーの全作品の中での位置づけについて述べておきたいと思います。
まず、シンプリシティのバックグラウンドについて紹介します。フィリップ・デュフォーは、極めて複雑なストライキングウォッチ(時打ち時計)の製作で名を馳せた後、彼にとって初の本格的な量産モデルとなるシンプリシティを製作。時計の原点に立ち返り、わずか3本の針のみ、そして、スイスの伝統的なスタイルのムーブメントに素晴らしい装飾を施した逸品でした。およそ2000年から2014年の間に、デュフォーはこうした時計を約200本製作しました。もともとは限定シリーズとして100本を製作する構想でしたが、彼は世の需要の高さを実感し、倍の200本にしたのです。非常にシンプルなデザインフォーマットに沿っており、2つのケースサイズ(34mmか37mm)のうち1つはホワイトゴールド(WG)、ローズゴールド(RG)またはプラチナ(PT)製で、ホワイトラッカーとシルバーギヨシェのペアダイヤルが付いています。いくつかカスタムメイドの時計も世に出回っていますが、現代の時計としては極めて希少なものです。
ここで示した腕時計は、おおむねそうしたフォーマットに沿って作られていますが、いくつか微調整が加えられています。ケースはRGで、ムーブメントは全く同じものですが、ダイヤルは新しいものです。カラーはダークグレイで、ブレゲ数字が採用され、中央部にはギヨシェ装飾が施されていますが、12時位置には、以前のモデルでは見られない大きな“PD”のロゴが付いています。このロゴは、リューズとヒンジ付き裏蓋(ハンターケース)の内側にもあります。このハンターケースも、初めてシンプリシティに採用されました。ほとんどの場合は内部を見やすいサファイアのケースバックなのですが、ハンターケースによって隠れたムーブメントの魅力が増すことになりました。また、この腕時計には、00/30のシリアルナンバーが付けられており、これもコレクターにはたまらない要素となっています。
1つ注目しておきたいのは、厳密に数えれば、この限定エディションには21本の腕時計が存在するということです。WG、RG、PTが各7本あり、この00番が21番目となります。加えて、デュフォー自身がPTモデルのうちの1本を所有します。 RGとPTの時計については、わずか6本ずつしか個人では入手できません。一方、WGについては、7本全てが個人向けに販売されます。
フィリップスはこのシリーズを、フィリップ・デュフォーによる初のリミテッドエディションとして売り出しています。“リミテッドエディション”の定義によってはそうかもしれませんが、僕は基本的に、デュフォーによって作られた腕時計は全てリミテッドエディションと見なすのが妥当だと思います。正確な数字にはばらつきがあり、それを誰に尋ねるかによっても違いますが、デュフォーは30年以上にわたって自身の名の下で250本弱(たいていの数え方では230本ほど)の腕時計を製作しており、その多くは唯一無二の製品です。
つまり、このリミテッドエディションは、シリーズが完成するまでに市場に出回っているデュフォーの時計の総数のうち約8%を占めることになります。このことだけで、売りに出されているこれらの腕時計が、多かれ少なかれ特別なものになることを意味するでしょうか? いいえ、そうではありません。でも、マーケティングを越えて、この時計に興味をもつ人たちが、実際に何に惚れ込んでいるのかを知ることは、意味があることだと僕は思います。
この腕時計の推定価格は20万~40万スイスフランで、現在の為替レートでは21万8000~43万6000ドル(約2300万〜約4600万円)となります。ここ数年のシンプリシティのオークション価格の詳細については、本稿の後半部分をお読みいただきたいのですが、その価格は、以前の腕時計に提示されてきた価格の範囲内に正しく収まるものになるでしょう。その価格の範囲で販売されるのか、かなりのプレミアムプライスで取引されるのか、それはまだ分かりません。ですが、来月のオークション開催日が近づくにつれ、目が離せなくなることは確かです。
皆さんが異なる配色を好んでいたとしても、またオークションの場を避けたいと思っていたとしても、他の時計の注文方法については、まだ情報がありません。しかし、フィリップスは、この時計が最初に納品される製品になると話しています。この腕時計は、フィリップスの「Retrospective: 2000=2020」オークションの一環として販売されます。このオークションは、21世紀の時計業界の最初の20年を振り返るもので、2020年11月8日にジュネーブで開かれます。カタログはまだオンラインで公開されていませんが、間もなく掲載されるはずなので、フィリップスのウェブサイトに注目しておいてください。
さらに2本のデュフォー
あたかも前述の時計だけでは飽き足らなかったかのように、さらに2本、フィリップ・デュフォーのシンプリシティがオークションに掛けられました。香港にて、サザビーズがよりベーシックなシンプリシティのペアを売りに出したのです。1つは34mmのPTケースのギヨシェダイヤルで、シリアルナンバーは100番(ロット番号2152)。2つめは37mmのWGケースのギヨシェダイヤルで、シリアルナンバーは68番(ロット番号2151)です。ここ数年、シンプリシティは非常に安定したペースでオークションに出品されてきましたが(特に価格が高騰してきました)、シンプリシティの中でも、とりわけ特別な2本を含めた3本が同時に売りに出されるのは、大変なことです。
なお、先日公開した記事「フィリップ・デュフォーのシンプリシティ No. 100がサザビーズ香港オークションにて約7000万円で落札」でも紹介したように、ロット番号2152は、現在の為替レートで66万2698ドル(513万6000香港ドル・約7000万円)という信じられないような価格で落札。また、ロット番号2151、37mmのシンプリシティも、当初のエスティメートよりも高額な45万5217ドル(358万8000香港ドル・約4809万円)で落札されました。
ここで留意しておくべき2つの点を以下、記しておきます。
1)最初のシンプリシティがオークションに出されたのは、さほど昔ではない2016年です。これ以前には、公には一本たりとも売られたことはありません。そのため、他の独立系腕時計メーカーや、ロレックス、パテック フィリップのようなビッグメーカーのものに比べると、これらの時計オークション市場は比較的未成熟です。
2)価格が安定的に上がってきています。2016年11月に売りに出された最初の時計の価格は、25万ドル(約2700万円)を少し上回る程度でした。2019年後半にフィリップスで売りに出された37mmのWG製のペアの価格は、32万5000ドル(約3543万円)と32万5000スイスフラン(約3640万円)でした。
こうしたオークション市場での力強さこそが、デュフォーが新たな腕時計シリーズを作り続ける理由の一部になっています。とはいえ、そうした新しい腕時計の出現によって、オークション市場がこれから影響を受けるのかどうか、興味深く見ていきたいと思います。