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先週の結果を振り返ろう。eBayで見つけてひと目惚れしたモバードはすでに売約済みとなっていた。誰かがあの素晴らしい時計を795ドル(日本円で約12万円)で手に入れたようだ。もし読者の誰かが購入したのなら、おめでとう! そしてもうひとつのリマインダーとして、ローズベリーズのオークションで出品されるカルティエ ロンドンの2本、ブレスレット付きタンク LCとベニュワールが2月5日(水)に出品される。どちらもバレンタインデーの贈り物にぴったりだ。
それでは、今週のピックに入ろう!
フランク・ミュラー ヤヌス・ワールドタイム モノプッシャー クロノグラフ、1990年代製
現在のフランク・ミュラーとは大きく異なるものの、創業初期の同ブランドは圧倒的な技術力を誇る存在だった。彼らのマスター・オブ・コンプリケーションというキャッチフレーズを耳にしたことがあるかもしれないが、それは決して誇張ではない。フランク・ミュラー(Franck Muller)氏は1984年にトゥールビヨン搭載の腕時計を発表し、その後も次々と革新的な複雑機構を開発してきた。ジャンピングアワー付きトゥールビヨンウォッチ(1986年)、ミニッツリピーター・トゥールビヨンウォッチ(1987年)、ミニッツリピーター・パーペチュアルカレンダー・トゥールビヨン(1989年)、トゥールビヨン・スプリットセコンド・クロノグラフ(1990年)、ミニッツリピーター・ワールドタイム(1990年)、そして最後に登場したのがこのダブルフェイス・ワールドタイム・モノプッシャー・クロノグラフ(1991年)である。
これらの時計にはすべて“Franck Genève”のサインがダイヤルに刻まれており、コレクターのあいだでは“プレ・ブランド”として知られている。これは彼の名を冠したブランドが正式に立ち上げられる前、つまり1991年より前に製作されたモデルであるためだ。長いあいだ忘れ去られていたが、近年のネオヴィンテージ時代の時計への関心の高まりとともに、これらのモデルの評価は急上昇している。さらに現在のフランク・ミュラーがこうした時計を製造していないことも、その魅力を一層際立たせている。実際、初期のFranck Genèveサイン入りの時計は、オークション市場においても好調な結果を残している。昨年5月にはミニッツリピーター・パーペチュアルカレンダーがサザビーズで22万8600スイスフラン(当時の相場で約3930万円)で落札され、さらに昨年11月にはプラチナ製ヤヌスがフィリップスで12万7000スイスフラン(当時の相場で約2180万円)の価格を記録した。
ふたつの顔を持つこのワールドタイム・モノプッシャー・クロノグラフは、ヤヌス(Janus)という正式名称を持つ。その名は門や扉、通路、始まりと終わりを司るローマ神話の双面神に由来している。フランク・ミュラーは、このヤヌスをおよそ15本製作したと考えられており、そのうちのいくつかはプラチナ、そして残りはイエローゴールドでつくられている。今回の出品モデルは特にユニークな特徴を持っており、裏面のダイヤルにはパルスメーター、テレメーター、タキメーターのスケールを配置。ほかのモデルでは通常、パルスメーターのみが搭載されているため、この仕様は特別なものと言える。なおケースバックにはPièce Unique(ユニークピース)と刻印されている。
ケースといえば、この時計のケースにはケースメーカーを示す“JPH”と施されている。その名はジャン-ピエール・ハグマン(Jean-Pierre Hagmann)。彼はGPHGの審査員特別賞(Special Jury Prize)を受賞した伝説的な職人であり、現在はレジェップ・レジェピ(Rexhep Rexhepi)氏のインハウスケースメーカーとしても知られている。フランク・ミュラーがハグマンをケースメーカーに選んだという事実は、これらのプレブランド時代の時計がいかに高品質なものであるかを物語っている。私の目には、当時のジュネーブにいた才能ある独立時計師が街を巡りながら最高の職人を見つけ、可能な限り最高の時計をつくろうとした姿が浮かぶ。それこそが、この時計に込められた情熱を感じさせる。
この時計の詳細なリストはA Collected Manに掲載されている。販売価格は10万ポンド(日本円で約1900万円)となっている。
ブシュロン “ゴンドーロ” ホワイトゴールド、1960年代製
このコラムを再開して以来、ずっと素晴らしいヴィンテージブシュロンが市場に出てくるのを待ち望んでいた。ヴィンテージブシュロンは、現代の時計ブランドともほかのヴィンテージブランドとも、異なる独自の魅力を持つ。私はブシュロンの大ファンであり、これまでに何回かこのブランドについて詳しく書いてきたし、優れた個体が手元に来るチャンスがあればどうしても見逃すことができないのだ。
この個体はフランスで製造され、ヴァンドーム広場で販売されていた。当然ながらカルティエとの比較が思い浮かぶが、それは決して的外れではない。両ブランドとも、主にジュエリー顧客の需要に応じて腕時計を製作しており、各モデルに共通する明確な美学を持っている。もちろんカルティエにおいてその美学とは、独特なドレスウォッチのフォルム、ローマ数字のインデックス、エッグシェルホワイトの文字盤というスタイルを指す。一方でブシュロンはよりモノクロームなデザインにこだわっていた。典型的なブシュロンウォッチでは文字盤の仕上げがケースの仕上げと統一されており、ブランド名がどこにも表示されていないことがほとんどだ。むしろ時間を示すインデックスがあるだけでも幸運といえるほど、シンプルなデザイン哲学を貫いている。
現在、ヴィンテージ市場で最もよく見かけるブシュロンモデルは、タンク風のリフレとスクエア型のカレである。しかしカルティエと同様、ブシュロンも顧客のオーダーに応じて少数生産された特別なモデルを多く手がけていた。このゴンドーロもそうした特注品のひとつだと考えている。私自身、このようなケースデザインをブシュロンで見たのは初めてだ。そのフォルムは柔らかく丸みを帯びており、ケースサイズは30mm×28mmと、当時としてはかなり存在感のある大きさとなっている。また12時位置のラグには、1958年にブシュロンが特許を取得したデザインが採用されており、これはカレにも見られる特徴だ。この構造では、ケースからラグ部分をスライドさせることができ、特注サイズの一体型レザーストラップを装着できるようになっている。さらにこのゴンドーロのケースはホワイトゴールド製である点も特筆すべきだ。ブシュロンでWGが採用されることはきわめてまれであり、出品者によれば、WGはブシュロン製時計のわずか3%しか製造されていないという。
Gary at HighendTimeがこのブシュロンを6750ドル(日本円で約105万円)で販売している。詳細はPushers.ioアプリから確認できるので、気になる方はチェックしてみて欲しい。
ユニバーサル・ジュネーブ ポーラルーター Ref.20217/3、1954年製
この時点で、HODINKEEの読者にとってユニバーサル・ジュネーブ(UG)のポールルーター(Polerouter)は、もはや説明不要のモデルだろう。しかし、ポーラルーター(Polarouter)についてはどうだろうか。ジェラルド・ジェンタ(Gérald Genta)が初めて手がけたデザインが1954年に市場に登場した際、このモデルは現在よく知られるポールルーターではなく、ポー“ラ”ルーターという名称で販売されていた。そのあと現在のユニバーサル・ジュネーブが好んで使用するポールルーター表記へと変わっていったようだ。ブランド名のスペル変更については混乱を招く部分もあるが、今回復活したユニバーサル・ジュネーブを責めるつもりはない。さすがに、私のようなヴィンテージウォッチマニアを満足させるためだけに、わざわざ初代モデルの名前を“間違ったスペル”にするわけにもいかないだろう。
とにかくそういうわけで、この有名な時計の最初のモデルはポーラルーターとしてサインされ、市場に出ていたということだ。知識として覚えておいて損はないだろう。今回紹介するのは、Ref.20217/3のノンルミナス(非夜光)仕様のシルバーダイヤルの個体だ。現在、ポーラルーターを見つけるのは非常に難しくなっているが、もし自分が1本手に入れるとしたら(まあ強くすすめられたら、という前提で)、このようなノンルミナスダイヤルと針を備えたものを選びたい。1954年当時、夜光塗料といえばラジウムが主流だった。別にラジウムそのものが怖いわけではないが、時計にとっては時間とともにダメージを与える可能性がある。実際、ラジウム焼けやダイヤルのブツブツ状の劣化を何度も見てきたので、同じ条件で選べるならば夜光塗料付きよりもノンルミナスを選ぶというのが自分のスタンスだ。
ポールルーターは、1000以上のバリエーションが存在すると言われており、その多くはマイクロローター式の自動巻きムーブメントを搭載していた。しかしこの初期モデルが登場した当時は、まだマイクロローター技術が開発されていなかった。そのためこのポーラルーターには、UG製Cal.138SSのバンパー式自動巻きムーブメントが搭載されている。バンパームーブメントは腕につけていると独特の振動が伝わってきて、わずかに音が気になることもあるが、ポーラルーターという希少性を求めるならばそこは受け入れるしかないだろう。
本個体はイギリス・ビラリキーのeBayセラーによって出品されており、終了は2月5日(水)午後6時(アメリカ東部標準時)となっている。詳細や写真はこちらから。
ロレックス オイスター プレシジョン Ref.6424、1953年製
先ほどラジウム夜光を好まないと言ったばかりだが、すぐにその発言を覆すことになりそうだ。この1953年製オイスター プレシジョンは、まさにラジウム夜光を使用したモデルだからだ。紹介するRef.6424は希少性が高く、夜光の有無にこだわる余裕はないのかもしれない。デイトジャストやエクスプローラー、デイト付きのヴィンテージロレックスではない、シンプルなモデルのなかで、私は常にこのリファレンスを探し求めている。6424のケースサイズは36mmで、初期のRef.1016 エクスプローラーにとてもよく似ている。しかし同モデルは手巻きムーブメントを搭載しているため、実際にはエクスプローラーや当時のデイトジャストよりもかなり薄型だ。この時計をBring A Loupeに掲載するかどうか迷ったのは、ヴィンテージロレックス界における最も隠れた名品のひとつだと思っているからだ。もしシンプルに“これはきれいなヴィンテージロレックスだ”と語れる1本を探しているならば、この時計を検討すべきだろう。
36mmというサイズに注目した理由は、当時のOP(オイスター プレシジョン)のほとんどが34mmケースだったからだ。もちろん、34mmのヴィンテージロレックスに対して文句を言うつもりはまったくない。しかし36mmというサイズがより多くの人に愛されるバランスであることに誰も異論はないはずだ。少なくとも、HODINKEEの読者のあいだではそれが共通認識になり得るだろう。スペック以上に重要なのは、6424を選ぶ際にしっかりとしたケースコンディションのものを待つことだ。この個体のように良好な状態のケースを見つけるのが理想である。ラグの輪郭がしっかり残っていなければ、当時のオイスターケースの魅力が大きく損なわれてしまっている。
ブラジルのeBayセラーがこのロレックスをオークションに出品しており、終了は2月7日(金)午後3時1分(アメリカ東部標準時)となっている。詳細はこちらから。
ルガン(LeGant) クロノグラフ、1970年代製
最後に、eBayで見つけた1本を紹介しよう。文字盤のブランド名を見ても、ほとんどの人にはなじみがないかもしれない。ルガンは私の故郷シカゴに拠点を置く、巨大なカタログ販売および百貨店運営企業、モンゴメリーワード(Montgomery Ward)の社内ブランドである。その名はエレガント(Elegant)をもじったもので、実際の品質以上に高級感を持たせる狙いがあった。とはいえ、決して低品質な時計というわけではない。この時計はおそらくモンディアによって製造されたものと考えられる。モンディアは1970年代にゼニスやモバードとともにグループを形成していたブランドのひとつだ。このルガン クロノグラフはステンレススティール製ケースを備え、ムーブメントにはバルジュー7736を搭載。そして何より特筆すべきは、その大胆なダイヤルデザインだろう。
モンディアはこのダイヤルデザインとまったく同じクロノグラフを製造しており、鮮やかなブルー、深みのあるレッド、そして今回紹介するものと同様のフォレストグリーンに近い色合いのバリエーションが存在する。このシリーズの文字盤はどれも素晴らしく、個人的にはルガンのブランド名が入ったもののほうが好みである。モンゴメリーワードやシカゴとのつながりがあるほうが自分にとっては魅力的だからだ。デザインは非常に1970年代らしいファンキーな雰囲気を持っており、モンディアの時計全般に見られる特徴でもある。当時のモンディアはトレンド感のある、ファッションウォッチのようなデザインを手がけるブランドとして活用されていたようで、この時代の“安価な”時計にすらバルジュー製クロノグラフムーブメントが搭載されていた。
このモンディアは、ニューハンプシャー州デリーのeBayセラーが即決価格635ドル(日本円で約9万8000円)で出品している。詳細はこちらから。