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Bring a Loupe ブラックダイヤルのローズゴールド製パテック Ref.96、ロイヤル オーク誕生へと繋がるモバードのダイヤル、そしてフランスのオークションで見つかったふたつの逸品

今市場に出ている掘り出し物のヴィンテージウォッチをお届けしよう。

Bring A Loupeへようこそ! 夏本番のいわゆるドッグデイズに突入したいま、我らがアンディ・ホフマンが報じたとおり、中古時計市場はこの3年間で最高の四半期パファーマンスを記録した。実を言うと私はこれまで“ドッグデイズ(dog days of summer)”という言葉を犬たちが暑さでぐったりする季節くらいの意味だと思い込んでいたのだが、今日初めてその語源がシリウス(Sirius)、つまり犬の星にあることを知った。シリウスはおおいぬ座で、最も明るく輝く恒星であるが、夏のこの時期に太陽とともに昇ることから古代ギリシャ人やローマ人たちは、太陽とシリウスの力が重なって猛暑を生み出していると考えていたのだという。いやはやひとつ賢くなった気分だ。

 さて、前回紹介した時計のうち2本が新たなオーナーのもとへ旅立った。ロンドンのボナムズではトロピカルダイヤルのチューダー サブマリーナーが9600ポンド(日本円で約191万円)で、Loupe Thisではオーデマ ピゲのスケルトンモデルが1万1000ドル(日本円で約160万9000円)で落札された。この時期はとにかく慌ただしく、ドッグデイズのせいで気持ちもぐらつき気味だが、さあ気を取り直して本題に入ろう。インターネット上で見つけた“ベスト”な時計を紹介する。


1941年製 ブラックダイヤルを備えたパテック フィリップ カラトラバ Ref.96 /18Kローズゴールド製
A 1941 Patek Philippe Calatrava Ref. 96 with Black Dial in 18k Rose Gold

 近年、愛好家のあいだで注目を集めているパテック フィリップ Ref.96。オリジナルのカラトラバであるこのモデルは発表から93年を経たいまなお、評価が分かれる存在である。イケてる人たちのあいだではこれを支持するのが“クール”だとされている(自分もそのひとりだ)が、より現実的な視点を持つ人であれば、30.5mmというケース径にためらいを覚えるかもしれない。とはいえファンとして断言するが、Ref.96のプロポーションは実に見事だ。もしもそのひとつの数値だけに目を向けるならこの時計に魅力を感じないのも理解できるが、まずは1度手首に着けてみて欲しい。18mmのラグ幅が、印象を大きく変えてくれるはずだ。

 説教じみた話はこれくらいにしておこう。元祖カラトラバは1973年まで、実に約40年にわたって製造され、パテック フィリップにおけるシンプルなラウンドウォッチの基幹モデルとして長らく君臨してきた。これはブランド初の量産モデルともされ、ドレスウォッチとは何かを体現する象徴的存在となった。まだ語り足りない気もするが、このあたりでやめておこう。読者のなかには、もうすでに何度か目を回している時計史マニアの方もいるだろうから。

A 1941 Patek Philippe Calatrava Ref. 96 with Black Dial in 18k Rose Gold on the wrist

 この個体はただの古いRef.96ではなく、そのなかでも極めて人気の高い貴金属製モデルのひとつである。ローズゴールド(お好みでピンク)製のケースに収められた、第2世代初期にあたるこのモデルには非常に重要でコレクティブルなブラックダイヤルが備わっている。イエローゴールドでもRGでも、ブラックダイヤルのRef.96は極めて希少であり、ユニークピースやほぼ一点ものを除いてもまさにコレクターの夢といえる存在だ。ヴィンテージパテックにおいては、金無垢ケースにブラックダイヤルという組み合わせのオリジナル個体に対して熱狂的ともいえる人気がある。その理由は、希少性と手首に載せたときの独特な外観にある。もし街中でブラックダイヤルのヴィンテージパテックを見かけたら、ぜひその持ち主に声をかけてみてほしい。

 今回ご紹介しているこの個体はヴィンテージウォッチ収集の永遠の議題である、希少性とオリジナリティにおける3つのC(コンディション、コンディション、とにかくコンディション)について考えさせられる存在だ。率直に言ってこの時計は、嘘のない正直な個体である一方、正直に人生を歩んできた痕跡がある。ラッカー仕上げのダイヤルにはクラックや気泡が見られるが、何より重要なのはそれが洗浄、修復、そしていじられた痕跡がないという点である。ケースを含めすべてが完全なオリジナルであり、多少の使用感や過去のポリッシュの痕跡はあるものの、販売用に整えられた形跡は一切なく、84年間使い込まれてきたことを物語っている。

A 1941 Patek Philippe Calatrava Ref. 96 with Black Dial in 18k Rose Gold
A 1941 Patek Philippe Calatrava Ref. 96 with Black Dial in 18k Rose Gold
A 1941 Patek Philippe Calatrava Ref. 96 with Black Dial in 18k Rose Gold

 ブラックダイヤルを備えたRGケースのオリジナルRef.96が最後に公に取引されたのは2021年のサザビーズで、落札額は3万5280ドル(当時のレートで387万5000円)。当時はいまほどこのリファレンスが注目されておらず、またそのコンディションはオリジナルだったが、完璧ではなかった。ほぼ完璧なコンディションのイエローゴールド仕様が今年5月にフィリップスで7万9459ドル(当時のレートで約1140万円)で落札されており、これが現在の高値の基準となっている。今回紹介している個体には文字盤の種類を確認できるパテックのアーカイブが付属し、整備前のオリジナルコンディションを持つこの時計は、上記のふたつよりもかなり低い予想落札価格となっている。

 販売者はペンシルベニア州ベスレヘムに拠点を置くSteel City Vintage Watchesのニコ氏とアリ氏で、希望落札価格は3万3000ドル(日本円で約490万円)だ。詳細はこちらから。


1970年代製 オーデマ ピゲ 自動巻き Ref.5205/18Kホワイトゴールド製
A 1960s Audemars Piguet Automatic ref. 5205 in white gold

 超希少モデルから少し距離を置いて、1970年代製のオーデマ ピゲ タイム&デイトモデル、Ref.5205をご紹介する。Cal.K2072を搭載した、シンプルながら興味深いこの時計は非常に価値のあるものだ。1960年代半ば、オーデマ ピゲは腕時計の生産数をわずかに増やし始めた。といってもその規模は数百本単位の増加であり、数千本規模ではない。それまでの生産数が極端に少なかったため、それほど手間はかからなかった。この生産拡大は1970年代に入り、ロイヤル オークの発表を機に加速した。ブランドはこの頃からジャガー・ルクルト(JLC)から自動巻きエボーシュを本格的に仕入れ始めた。

 このモデルに搭載されているムーブメントもJLC製エボーシュのひとつだが、注目すべきはオーデマ ピゲが自社で極めて高水準の仕上げを施していたという点である。Ref.5205のようなモデルは、市場における流通量がほかのヴィンテージAPに比べて多いため、しばしばありふれた存在として見過ごされがちで、その価格も1万ドル(日本円で約150万円)を下回ることが多い。しかし直径35mmで、18KWG製ケースにカラトラバ風の端正な外観をもつAPのヴィンテージウォッチがこの価格というのは、正直言って信じがたい。もちろんこれはロイヤル オークではないし、Ref.5093 “ディスコヴォランテ”に見られる、この時代のAPのほかの作品のような独創的なデザイン要素も備えていない。だがこれは紛れもなく素晴らしい時計だ。とはいえオーバーサイズ気味の平坦なラグと、ねじ込み式のケースバックを備えたこのケース形状には独自の魅力があり、1970年代製とは思えないほどモダンな印象を与えている。

A 1960s Audemars Piguet Automatic ref. 5205 in white gold
A 1960s Audemars Piguet Automatic ref. 5205 in white gold
A 1960s Audemars Piguet Automatic ref. 5205 in white gold

 販売者はHuntington Companyのラワド(Rawad)氏で、この非常に状態の良いRef.5205に対する希望落札価格は9900ドル(日本円で約147万9000円)だ。詳細はこちらから。


1970年代 モバード 聖クリストファーダイヤル/金張りケース
A 1970s Movado with a Saint Christopher Dial

 ヴィンテージモバードへの愛は隠しようがない。個人的にモバードは、ヴィンテージ市場における品質の面で、同価格帯のほかのブランドと比較して頭ひとつ抜けていると感じている。それはあくまでプロダクト単体としての話だが、それに加えて同ブランドにはストーリーの面でも掘り下げがいがある。今回紹介するモバードはそうした魅力を象徴するような最高の背景を持つ1本だ。

 ヴィンテージ期のモバードは、スイスにおける一流のケースメーカーやダイヤルメーカーからパーツを調達していた。つまりパテック フィリップやヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ ピゲといった名門ブランドと同じサプライヤーであり、そのうちのひとつが名門ダイヤルメーカーである、スターン・クリエイション社(Stern Créations SA)だった。モバードはこのスターン社に多くのモデルのダイヤル製造を委託していたが、1970年代初頭にはギヨシェ彫りをあしらったダイヤルにおけるスペシャリスト、ラ・ナショナル(La Nationale)社にも製造を依頼していた。この聖クリストファーダイヤルもその一例だ。同社はジュネーブに拠点を置き、スターン社のすぐ隣に位置していた。ところが同社の職人が急逝したことにより、モバードが注文した50枚前後のダイヤルを完成させることが不可能になってしまった。そこで1971年、ラ・ナショナル社はこのギヨシェ彫りをあしらったダイヤルの製造をスターン社に依頼する。その際、スターン社にはこの種のギヨシェ加工専用の彫刻機7台と、300種類ものパターン設計が譲渡されることとなった。

A 1970s Movado with a Saint Christopher Dial

 1年後、スターン社はこれらの機械とパターンを活用して、現在タペストリーとして知られる技法を開発し、ジェラルド・ジェンタ(Gerald Genta)とともにロイヤル オーク Ref.5402のダイヤルを生み出した。1976年、ジェンタはパテック フィリップの新たなプロジェクトのために再びスターン社を訪れ、同社は10種類のタペストリーダイヤルのパターンを提案した。そのすべてがラ・ナショナル社から引き継がれたパターンに基づくものであり、最終的にパテック フィリップ Ref.3700 ノーチラスに採用される仕上げを選んだのはスターン社の当主アンリ・スターン(Henri Stern)本人だった。つまりロイヤル オークとノーチラスが今日に至るまであのような外観を備えているのは、モバードとこのダイヤルのおかげなのだ。

 このダイヤルは34mmの金張りケースに収められている。理想的な仕様とは言えないが、そういうものだ。またeBayに掲載されている写真のクオリティはお世辞にも高いとは言えないものの、ダイヤル自体はかなりクリーンに見える。

 このモバードはサウスカロライナ州シックスマイル在住のeBayセラーが出品しており、即決価格は1500ドル(すでに販売済み)だ。詳細はこちらから。


1960年代製 LIP ノーティック・スーパーコンプレッサー
1960s LIP Nautic Super Compressor

 今週のラスト2本はフランスからご紹介する。まずは、なかなか目にすることのないフレンチダイバーの名作、1960年代製のLIP ノーティック・スーパーコンプレッサーだ。LIPは完全なフランスの時計メーカーであり、20世紀を通して革新性と大胆なデザインで知られたブランドである。軍用時計の供給から電気機械式ハイブリッドムーブメントの開発に至るまで、ヨーロッパの時計史において重要な役割を果たしてきた。

 ノーティック・スーパーコンプレッサーは私自身これまで出会ったことのなかったモデルだが、1960年代の典型的な設計コンセプトに則っている。ESPA製スーパーコンプレッサーケースと、トリチウム夜光をたっぷりと厚めに塗布した濃いブラックのダイヤルを組み合わせている。このケースはヴィンテージウォッチ技術において興味深い存在であり、EPSAはねじ込み式ではなく、ダイビング中に深く潜るほど内圧によって密閉性が高まり、より強く締まる仕組みをケース内に採用しており、加圧によって防水性が向上する構造となっている。

1960s LIP Nautic Super Compressor

 このダイヤルは光沢のあるブラックトリチウム仕上げで、大ぶりなアラビア数字とマッチしたブロードアロー針を備えており、ロリポップ型のスイープセコンド針がアクセントになっている。クロスハッチ模様があしらわれたふたつのリューズは、それぞれ針とインナーベゼルの調整に使用される。この個体はまさに(この手の時計が)見つかるべき理想的な場所でオークションにかけられており、オリジナルの風合いが残されたままの自然なコンディションだと思われる。実に素晴らしいエイジングとシャープなケースだ。

 このLIPノーティック・スーパーコンプレッサーは、フランスのモンペリエにあるHôtel des Ventes Montpellier Languedocにて開催されるAncient and Modern Jewellery - Gold Coinsセールのロット38として出品予定。オークションの開催日時はアメリカ東部時間で7月16日(水)午前2時(日本時間で7月16日(水)午後3時)で、推定落札価格は800~850ユーロ(日本円で約13万7000~14万6000円)だ(編注;現在は終了している)。詳細はこちらから。


1970年代製 ピエール・カルダン×ジャガー“UFO”/ステンレススティール製
A 1960s Pierre Cardin UFO

 最後はちょっと楽しいフレンチピースで締めくくろう。このピエール・カルダンはデザイン重視の時計愛好家向けかもしれないが、それでも優れたヴィンテージウォッチであることに変わりはない。ピエール・カルダン(Pierre Cardin)が時計分野に進出したのは1971年、エスパス(Espace)コレクションの発表からだった。これは彼のスペースエイジデザインの哲学を果敢に拡張したシリーズであり、今回の“UFO”モデルはその大胆さを最もよく体現している。このコレクションは全部で26種類の彫刻的なデザインのモデルで構成されており、『2001年 宇宙の旅』や『バーバレラ』といった未来志向の映画からインスピレーションを得ている。アクリルやスモーククリスタルといった素材と、幾何学的フォルムを大胆にも組み合わせた非対称なケース形状が特徴だ。この“UFO”モデルは、PC101やPC115といったモデル名・型番で知られており、空飛ぶ円盤のような形状の約40mm径のケースはサテン仕上げを施したステンレススティール製だ。

 裏蓋の刻印からもわかるとおり、カルダンはこのエスパスコレクションの製造をジャガーと提携して行っていた。ただしこの提携の詳細については時計史研究家のあいだでも見解が分かれており、ジャガー・ルクルト(JLC)とフランスのジャガーが当時別会社だったのかどうかははっきりしていない。また、内部に搭載されているムーブメントはJLC製ではなくフランス製エボーシュのCal.FE-36であり、かつこれらの時計はスイスではなくフランス国内で製造されていたため多くのコレクターはこのジャガーをル・サンティエのJLCとは別物だったと推測している。

A 1960s Pierre Cardin UFO

このピエール・カルダン“UFO”は、フランス・アンティーブでアメリカ東部時間で7月11日(金)午後10時に開催されるSummer Heteroclite SaleにてCarvajal SVVからロット105として出品される(編注;現在は終了している)。詳細はこちらから。