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“新しい”ヴィンテージウォッチは、最近ではどこからともなく出てくるわけではない。そして、ヴィンテージウォッチの知名度が上がった今、昔ながらの魅力的な時計が影を潜めているとは考えにくい。だが、ブローバのMIL-SHIPS-W-2181 復刻版は、そのような概念を覆す。
1957年にブローバが初期の軍用ダイバーのためのミルスペック契約に基づき、アメリカ海軍のために製作した試作品であるMIL-SHIPS-W-2181に敬意を表したブローバのMIL-SHIPS(ミルシップ) 復刻版は、現代のブローバがその存在にさえ気づかなかったレアピースを蘇らせたものだ。軍用ダイバーズウォッチの歴史に魅せられた一人のコレクターの根気強い努力によって、この時計の存在がブローバ社の目に留まり、このような形で復活を遂げたのである。
アダム・ビクター氏は、ニューヨークを拠点とする、並外れた審美眼を持つコレクターだ。彼は、軍用としての歴史を持つダイバーズウォッチ、特に1950年代から60年代にかけての初期のダイバーズウォッチを愛している。世界的に有名なブランパンのフィフティ ファゾムスのコレクターでもある彼は、この非常に珍しいプロトタイプのダイバーズウォッチへの情熱を持って、ブローバ社に働きかけ、MIL-SHIPS-W-2181 ダイバーズウォッチを初めて市場に送り出す後押しをした。
発表されたブローバのMIL-SHIPS-W-2181 復刻版は、限定モデルと通常モデル、2種類のバリエーションでスタートする。限定モデルにはセリタ社製の自動巻きムーブメント、通常モデルにはミヨタ社製の自動巻きが搭載されている。
アダム・ビクター氏との繋がり
「私は30年間、ヴィンテージウォッチを追い続けてきました」とビクター氏は話す。「そして、フィフティ ファゾムスという別世界に入ってみると、そこにはさまざまな細かな違いや生産期間の違いがあることに気づきました。すぐに気づいたことのひとつは、ブランパンではないけれど、その美学やDNAにおいてブランパンと密接に結びついている時計がほかにもいくつかあるということでした」
ブランパンのヴィンテージダイバーズウォッチやトルネク・レイヴィルの兄弟機を何年も追い求めてきたビクター氏が、偶然見つけた道のひとつが、ブローバのプロトタイプ MIL-SHIPS-W-2181だった。
「すぐに、このブローバの美しさに魅了されました」と彼は言う。「ブランパンに似ていますが、ある意味、それもより頑丈。しかもアメリカ製です。なぜこの時計を見たことがないんだろう? どこにあるんだ? と思いました」
オリジナルのブローバ MIL-SHIPS-W-2181のプロトタイプは、12個しかその存在が知られていない。ビクター氏はかつて、そのうちの5本を所有し、現在は2本を所有している。2019年夏にブローバ社のマネージングディレクターであるマイケル・ベナベンテ氏を紹介された彼は、同社のアーカイブスシリーズにおける最新モデル導入の糸口を作り、その過程でMIL-SHIPS-W-2181に関するストーリー、そして彼の個人的な時計との関係を同社と共有した。
「この時計のすべての要素は、会話にあります」とビクター氏は語る。「ビクターさん、そんなこと誰も気にしていないのでは? とブローバ社に言われたことは一度もありません。なぜなら、誰もが同じように、あるいはそれ以上に気にかけているたった一人の男と話をしていることを彼らは理解していたからです。この時計は、私のコレクターとしてのDNAの一部となっています」
ヴィンテージウォッチについて
軍との契約は極めて重要なものだ。第二次世界大戦中、アメリカ軍のために何千本もの時計を製造し、1960年代には研究開発の責任者にオマール・S・ブラッドリー元帥を起用したブローバ社は、ほかの企業よりもアメリカ政府と密接な関係を持っていた。
1955年12月5日、アメリカ軍艦船局は、爆発物処理潜水士(EOD)や水中破壊工作部隊(UDT)のダイバーたちにおける業務上の必要性を満たすため、「Contract Specification; Wrist watch, Submersible, MIL-SHIPS-W-2181(契約仕様; 水中用腕時計, MIL-SHIPS-W-2181)」を作成した。この仕様書では、水の侵入を許さない防水性、暗闇での視認性、回転可能なアウターリング(ベゼル)を備えていることが求められていた。
2年後の1957年5月、NEDU(海軍実験潜水部隊)でテストを行うため、ブローバは3回に分けて試作品の第1号を提出。このモデルは、特殊な2ピース構造のケースバック、厚手の真鍮製耐磁ケースホルダー、そして巻き過ぎを防ぐ独自のスリップ機構を備えた手巻きムーブメントCal.10BPCHNを搭載していた。58年にも少量の試作品が納入され、潜水部隊と海軍のUDT-21フロッグマンチームによる実戦テストが行われた。
「この時計は、NEDUにとても評判が良かったようです」とビクター氏は語る。「NEDUはブローバの仕事をすべて気に入り、何度かの修正を経て、彼らがブローバに言ったことは、基本的に“この時計を作れば、我々は安心だ”ということ。アメリカ海軍はこの時計のことを公に話し始めたほどでした」
1959年12月、艦船局の広報誌(Bureau of Ships Journal)では、ブローバの提出した時計が1ページを割いて紹介され、軍用の新しい特殊なダイバーズウォッチとして紹介された。「彼らは完全に乗り気で、この時計の注文をしようとしていた」とビクター氏は分析する。「これは彼らが望んでいた通りの時計だったのです」
だが、突然、ブローバ社は採用を取りやめた。プロトタイプ以外の時計は製造されなかったのだ。理由はいくつか推測されているが、確証はない。当時の状況を見てみると、同社はさらに重要な時計のリリースを控えていた。1960年に発売された最初のアキュトロンウォッチだ。時計の歴史を変えるような新しいタイプの時計を発表するため、同社はアキュトロンの成功に向けて全力を傾けることにしたのだと考えられる。
ビクター氏は、当時何が起こったのかについて自分なりの考えを持っている。
「もし、私がオマール・ブラッドリー元帥で、軍にコネがあるとしたら、このブローバの注文は、実はそれほど大きな契約ではないかもしれないという情報を得ていたかもしれません」と彼は推測する。「数年前に遡り、ブローバに代わって発売されたトルネク・レイヴィルを見てみると、その注文はたったの1000本でした。アレン・トルネクは最初それを知らず、知ったときにはとても不機嫌になったと思います。私の感覚では、オマール・ブラッドリー元帥はその情報を知っていて、それが彼の決断に影響を与えたのではないかと思います。証拠はありませんが、私の勘ではとても納得がいくことです」
何かが起こったとしても、ブローバはMIL-SHIPS-W-2181の開発競争を投げ出すことは断固としてなかった。今日に至るまで、試作品は歴史から消えたかに見えたが、今回、初めてブローバのMIL-SHIPS-W-2181が市販されることになったのである。
「これは復刻版ではありません」とビクター氏は言う。「ようやく発売されたのです。この時計は今まで手に入れることができませんでしたが、ようやく実現したのです」
復刻版について
今回のミルシップモデルは、オリジナルのデザインを可能な限り忠実に再現することを意図している。ケースサイズは41mmと、オリジナルとほぼ同じで、風防はサファイアクリスタルに変更されているが、1950年代のデザインと同様にダブルドーム仕様になっている。
「針は正しいし、ダイヤルも正しい。モイスチャーディスクもきれいに貼られています」とビクター氏。「ブローバと仕事をしていて学んだことのひとつは、昔に戻って昔のやり方をすることはできないということです。物事は改善されるもの。よりよい新しい方法があるのです。純粋主義者である私が、オリジナルのよりよいバージョンであることを理解するには、多少の譲歩が必要でした。それはモイスチャーディスクにも、ベゼルインサートにも言えることだと思います。オリジナルのベゼルインサートはアクリルとラジウムでしたが、新しいベゼルインサートはアルミニウムにスーパールミノバが施されています。風防については、とても多くの時間を費やしました。この時計はとても、本当にとても、オリジナルに忠実です」
ブローバのミルシップウォッチの最も特徴的な点は、MIL-SHIPS-W-2181を受注したトルネク・レイヴィルと共通している。それは時計内部の水分量を測定する独自の紙片を備えているということで、200mまでの防水性能が失われた場合、紙片の色が変化する。この紙片は、1950年代に使用されていたものと同様、新しいミルシップウォッチでも機能している。また、押したときだけ回転するプッシュロック式の回転ベゼルを採用しているほか、これまで自動巻きモデルは作られていなかったものの、今回のモデルはよりオリジナルに近い仕様となっている。
「ビクター氏は、彼が持っている実際のデッドストックの時計を1つ提供してくれました」とベナベンテ氏は話す。「その時計を数ヵ月間貸していただけたおかげで、私たちが持っていない時計の正確なレプリカを作ることができました。何しろ、図面すらなかったのですから」
新しいブローバのMIL-SHIPS-W-2181には、2つの異なるバリエーションがある。1つはスイス製バージョンでシリアルナンバー入り、1000本限定、セリタの自動巻きムーブメントを搭載している。古いダイバーズヘルメットをイメージした特別なパッケージに入っており、価格は1990ドル(約22万円。日本未発売)だ。また、ブルーのNATOストラップに、ミヨタのCal.82S0を搭載した通常生産モデルが8万8000円(税込。日本では10月下旬発売予定)で販売される。ムーブメント以外はほぼ同じで、どちらのモデルにもブローバ MIL-SHIPS-W-2181の歴史を綴ったユニークなストーリーブックが付属する。
アダム・ビクター氏にとって、ブローバ MIL-SHIPS-W-2181の発売は、何年にもわたる情熱的な収集と研究の結果であり、そこにはまだ発見する価値のある未開拓の地があることを証明している。
「多くのブランドが復刻を行い、その多くが非常によくできています。ひいき目があるかもしれませんが、私にとっては、これが最高のものの一つなのです」
日本では通常生産仕様のブローバ アーカイブスシリーズ “ミルシップ” 復刻モデルが8万8000円(税込)で10月下旬に発売予定。詳細は、ブローバ公式サイトをクリック。