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In-Depth ニューイングランドの老舗時計メーカー、チェルシークロックが次の100年に向けて新たな航路を描く

伝統ある時計メーカーの歩みと未来。

マサチューセッツ州チェルシーにある三角の形をした小さな工場、チェルシークロック。100年以上にわたり、大統領、海軍、数え切れないほどの著名人、そしてクラシックなアメリカ時計を求めるすべての人々のために時計を手作りしてきたこの工場は、苦難の時代を乗り越えてきた街のランドマークであり、これまで会社を支えてきた。しかし、次の100年に向けた準備として、チェルシークロックはまもなく現在の場所を離れ、より近代的な施設へと移転する予定だと、J・K・ニコラス(JK Nicholas)最高経営責任者は語る。今回は、アメリカの時計づくりのランドマークである、この建物のなかをご案内しよう。

 「この建物には、何ともいえない味わいがある」と、ニコラス氏は現在の工場について語る。「でも、本当に実用的ではないこともわかります」

 実際、そのとおりだった。

 建物は古くて窮屈だ。そして21世紀の競争を勝ち抜くには、製造工程を可能な限り改善することが現実的な選択肢となる。しかし、ニコラス氏は遠くへ移転するわけではないと語る。チェルシーはこれからもチェルシーにあり続ける。

 引っ越しの準備が始まる前に我々は工場のなかを見学し、チェルシークロックが何世代にもわたって真摯な手仕事へのこだわりを貫きながら、どのようにして生き残ってきたのかを確かめたかった。

チェルシークロックの数々。

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 クラシックなチェルシークロックはもともと船のブリッジや操舵室での使用を想定して設計された、真鍮製の船鐘と気圧計をセットにしたものだ。チェルシーを象徴するこれらのアイコニックな製品が、この会社を100年以上支えてきた。船の当直(英語で“watch”と呼ばれる)は、伝統的に4時間交代で行われる。チェルシーの船鐘は、船員に当直の交代を知らせるために設計されている。時計は30分ごとに1回鳴り、以降30分ごとに音が追加され、4時間経過すると合計8回の音で当直の終了を知らせる。このサイクルが、次の当直でも繰り返される。

ティファニー向けのチェルシークロック

ハーバード大学やオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ向けの文字盤が準備完了。

 一方でチェルシーは、自社で組み立てた最新の手ごろなクォーツウォッチ、海軍艦艇向けに特別に製作された時計、退役した海軍用時計の修復品、そしてもちろん船鐘のさまざまなバリエーションまで、幅広い製品を展開している。

 また個人や企業向けに特注時計の製作も行っている。訪問時には、職人たちがハーバード大学、ティファニー、オーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブなど多様な特注製品の製作に取り組んでいた。

製造途中のイタリア製真鍮ケース。

イタリア製真鍮時計ケースを磨く作業。

 チェルシーの時計と気圧計は、鍛造された真鍮でつくられている。イタリア製の重厚な金属(6フィートモデルでは7ポンドの重量)と革張りのハンマーがチェルシー特有のクラシックな鐘の音色を生み出している。時計はすべて自社で製造されており、その工程は1900年に特許を取得して以来ほとんど変わっていない。

文字盤のシルバー加工。

シルバー加工済みの文字盤1枚と、未加工の真鍮製文字盤3枚が並ぶ。

 時計の製造はチェルシー工場の地下室から始まる。高品質のイタリア製真鍮が旋盤にかけられケースへと加工される。そのあと職人がケースを手作業で磨き込み、完璧な仕上げを施す。真鍮の文字盤には数字が刻まれ、手作業で銀溶液が塗布される。この銀溶液には意外にも酒石酸クリームが含まれている。この工程が文字盤の特徴的な銀色を生み出しているのだ。

船鐘のムーブメント用の真鍮部品をフライス加工する作業。

 同じ地下室では、職人たちがガシャンと音を立て、油を滴らせながら動く古い機械を使い、365個の部品からなるムーブメントの小さなホイール、ギア、スピンドルをひとつひとつ製造している。そのなかには宝石を使用したエスケープメントも含まれる。こうして地下室でつくられた部品は、小型の運搬用エレベーターで上階に運ばれ、そこで職人の手によって組み立てられる。

時計のムーブメントを調整する上級時計職人ジャン・ヨー(Jean Yeo)氏。

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 上級時計職人のジャン・ヨー氏は52年間チェルシーで働き、ムーブメントの組み立てをはじめとしたほぼすべての時計の文字盤加工や打刻を担当してきた。訪問時、彼女は後継者を育成している最中だった。印象に残った注文について尋ねると、彼女はボストンの熱心なスポーツファンらしくボストン・ブルーインズの伝説的選手ケン・ホッジ(Ken Hodge)の名前を挙げた。さらにジョー・ケネディ(Joe Kennedy)に会えたこともうれしかったと付け加えた。さらにエルビス・プレスリー(Elvis Presley)が注文した6インチ(約15cm)の船鐘時計60個も、特に印象に残っていると語った。

ケーシング直前のムーブメント。

 チェルシークロックは、アメリカの政治史にも特別な足跡を残している。これは歴代の大統領が執務室で長年使用してきたのだ。下の写真では、ハリー・S・トルーマン(Harry S Truman)大統領が閣僚とともに宣誓を行っており、その背後のマントルピースにチェルシークロックが置かれている。

チェルシークロックを背に、宣誓を行うハリー・トルーマン大統領と閣僚。

 チェルシーが今直面している大きな課題は若い世代のコレクターの関心を引くことだ。チェルシークロックに熱心なコレクターの多くは、いわゆる“グレイテスト・ジェネレーション”と呼ばれる世代で、ヨットマンや戦時中に従軍した海軍関係者などが多い。チェルシーは高品質なアメリカ製品への関心が再び高まるなかで、新しい世代のコレクターがチェルシークロックに魅力を感じることを期待している。

 「チェルシークロックには宝飾品のような付加価値はありません」とニコラス氏は語る。「実際のところ、それは家庭用インテリアです。しかしニッチな愛好家にとっては、機械仕掛けの芸術品でもあるのです」

アメリカ政府の24時間時計。

 ニッチなコレクター層を超え、より幅広い人々にアピールすることがニコラス氏のチェルシーに対するビジョンの核心だ。彼は約7年前にこの会社を引き継いだ。彼によればその計画は新しいデザインを取り入れられるよう、チェルシーの立ち位置を見直すことだった。つまり工場に新たな活力をもたらし、グローバルな材料調達やエンジニアリングへの再投資といった21世紀型の製造プロセスを導入することだった。さらに、ニコラス氏は修理・整備事業の拡大にも取り組んできた。

 「準備が整わないうちに、デザインを取り入れることは避けたかったのです」とニコラス氏は。「もう1度、開発とものづくりができる体制をしっかりと整えたかったのです」。しかし基盤が固まった今、ニコラス氏は“デザインを再び、新製品の原動力にするにはどうすればよいか?”と問いかけている。

 チェルシーの移転計画はその問いに対するひとつの答えだ。しかしこの変化があったとしても、チェルシーが“高品質な手づくりによる機械式時計製造”に対するこだわりを捨てることはない。それこそがチェルシーの根幹であり、だからこそこのブランドは100年ものあいだ存続してきた。そしてその姿勢こそが、これからの100年もチェルシーを支え続けることになるとニコラス氏は語る。

詳細は、チェルシークロックの公式サイトをご覧ください。