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クイック解説
1892年にペンシルベニア州ランカスターで創業したハミルトンは鉄道の正確な運行を支え、やがて軍用時計の分野でも存在感を示しながら、アメリカという国の時間そのものに寄り添ってきたブランドである。だからこそ、2026年のアメリカ建国250周年は、単なる祝賀の年ではなく、自らの出自と歩みをあらためて見つめ直すための節目ともなり得るのだ。そのタイミングでハミルトンが投入するのが、カーキ フィールド メカ 36mm ジャパン エディション。この企画にあたりハミルトンが参照した“FAPD 5101”とは、1970年代に米国空軍のナビゲーター向けとして開発された軍用時計で、過酷な環境下でも確実な判読性と信頼性を求められた、いわば同社の歴史を語るうえで外せない1本だ。ハミルトンも、同機をベトナム戦争期に米軍へ時計を供給していた時代の系譜に連なるモデルとして位置づけている。
FAPDとはFederal Aviation Procurement Divisionの略で、航空任務向けの調達規格を示すものだという。青山の時計店、キュリオスキュリオの萩原秀樹氏曰く、同作は1970年9月にわずか1500本ほどの支給にとどまっていたという。「それまで米軍では、耐磁性能を持った時計は支給されていませんでした。そのころ空軍用にはGG-W-113という型が支給されていましたが、これも耐磁性能を有するものではないんです。しかしジェット戦闘機時代の到来により、コックピット内には計器類が増え、磁気の影響を受ける可能性も高まりました。ナビゲーション用途では時計の狂いが任務の成功に直結しかねず、そのため高い精度と耐磁性を備えた時計が必要とされたのではないかと思われます。FAPD 5101は軟鉄製のケースによってムーブメントを覆った二重構造をとっており、当時として高い耐磁性を備えていました」
1970年代当時のオリジナルFAPD 5101。
下は、FAPD 5101の分解写真である。ムーブメントの周囲に軟鉄のインナーケースが配置されており、そこに同じく軟鉄製の蓋をはめ込めるようになっている。その上からステンレススティール製の裏蓋をねじ込むことで、軟鉄の蓋を押さえ込む構造になっている。「軟鉄は一般的な鉄合金と比べて炭素の含有量が極端に少ないんです。その耐磁しにくい特性から内部へ磁気を通さない役割を担っていますが、一方でSSほどの腐食耐性はない。そのため、外装には耐水性能を備えたSS製のケース、内にはムーブメントに磁力を伝えにくい軟鉄を使用した、互いの特性を活かしつつ補い合うような構造となっていたんです」。なお、1967年に同じ構造を持つ時計が英国軍で見られたという。「ダイヤルは、真鍮のプレート下に軟鉄の板を合わせた二重構造となっていました。米国軍は英国軍のものを参照したのでしょう」。また、FAPD 5101のムーブメントにはハック機能に加え、ネジによる調速機構が搭載されていた。こうした仕様は当時としてはかなり先進的で、プロダクトとしての丈夫さに加えて時間の正確さも強く求められたのだろうと萩原氏は語る。「先ほど総計1500本とお伝えしましたが、もしかしたら、FAPD 5101が長く使い続けることができる優れたスペックの時計であったから、大量に作る必要がなかったと考えることもできますね。まさに、過酷な環境下でも絶対的な信頼性を必要とする、ナビゲーターのために設計された時計でしょう」
英国軍モデルの二重構造ダイヤル。
そして、ハミルトン カーキ フィールド メカ 36mm ジャパン エディションは、36mmというコンパクトなサイズ、マットな仕上げのケース、必要な情報だけを整然と並べたブラックダイヤル、そしてボックス型アクリル風防がもたらす無骨なヴィンテージ感という外観上のデザインだけでなく、当時を思わせる意匠として二重の裏蓋構造も採用した。ムーブメントにSS製のダストケースを重ねることで、当時の雰囲気と設計思想を再現したのだ。実のところ、搭載されているCal.H-50はニヴァクロン®︎製ヒゲゼンマイを使用した、すでに十分な耐磁性能を有しているムーブメントである。あくまで意匠の再演にとどまっているのはそれが理由ではあるだろうが、裏蓋をソリッドバックとしながらも本ディテールを取り入れたところに、復刻モデルに対するハミルトンの本気度が伝わってくる。
左が今回の復刻モデル。
ラグ、針、リューズなどはオリジナルと比べてやや太めに取られ、実用性の向上とともにモダンな雰囲気を醸し出しているが、基本的な意匠はFAPD 5101を踏襲している。とりわけ(着用時は隠れてしまう箇所ではあるが)アイコニックなのが固定式のバーだろう。作戦中、手首に衝撃が加わったとき、時計が簡単に脱落しないようにと考案された仕様である。これによって着用できるストラップは限られてきてしまうが、この時計でもっとも当時らしいディテールだ。
ねじ込み式の裏蓋には、支給国、軍種、用途、製造年、シリアルナンバーなどを記したオリジナルを思わせる雰囲気の刻印がなされている。ストラップはコットン素材のNATOストラップに加え、1000セット限定でNATOのレザーストラップが付属。価格は9万9000円(税込)で、5月20日(水)より展開される。
ファースト・インプレッション
アメリカ建国250周年というキャッチーなトピックを祝うにあたり、本作は手に取りやすい価格を維持しながらオリジナルの要点をきちんと押さえた、バランスのよいアニバーサリーモデルに仕上がっている。オリジナルが語りどころの多い時計だけに、“復刻”と聞くとどうしても求めるものは多くなる。完璧を目指すなら、針や風防の取り付け部に至るまで本作のためにいちから設計し直し、二重ケースもムーブメント全体を覆う軟鉄製にするべきだろう。“HAMILTON”の旧ロゴがダイヤルでなく、裏蓋にひそかに刻まれていれば、なお申し分ない。
とはいえ、従来のカーキ フィールド メカの価格帯を逸脱せずにより多くの人に手に取ってもらうことを重視するのであれば、すでにムーブメント自体に十分な耐磁性が備わっている以上、合理的な判断と見るべきなのだろう。もちろんH-50をさらに軟鉄製ケースで覆っていたなら、日常使いにおいて理想的な1本になっていたかもしれない、とも思う。
状態のよいオリジナルのFAPD 5101をいま手に入れようとすれば、50万円前後は見ておきたい。そう考えると、希少なヴィンテージミリタリーのエッセンスを巧みに取り入れつつ、36mm径のカーキ フィールド メカとして高い実用性も備えた本作が9万9000円(税込)という価格であるのは、デイリーウォッチとしても十分に有力な選択肢となるはずだ。本作は本数限定ではないものの、2026年度限りの生産予定とされている。本数に追い立てられないのはありがたく、しかし十分に希少性を煽る施策である。オリジナルへの憧憬を残しつつ、それでもなお現実的なプロダクトとして成立させているあたりに、本作の企画としてのうまさがある。
基本情報
ブランド: ハミルトン
モデル名: カーキ フィールド メカ36mm ジャパン エディション
型番:H69399932
直径: 36mm
厚さ: 10.2mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: ブラック
インデックス: プリント
夜光: スーパールミノバ®︎ グレード X2
防水性能: 10気圧
ストラップ/ブレスレット:コットンファブリックのNATOストラップ、および1000セット限定でブラウンのレザーストラップが付属
ムーブメント情報
キャリバー: H-50
機構: 時・分表示、センターセコンド
パワーリザーブ: 約80時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 2万1600振動/時
石数: 17
クロノメーター認定: なし
価格 & 発売時期
価格: 9万9000円(税込)
発売時期: 2026年5月20日(水)
限定:限定数なし、1年間のみの販売
詳細は、こちらをクリック。
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