Photos by Kasia Milton
日常的に時計に触れている私が、最近本当に求めているのは、素晴らしいサプライズを与えてくれるものだ。予想もしなかった方法で私をよろこばせ、その時計、そしておそらくはそれを製造したブランドの背景や枠組みを再考させるような時計を望んでいる。少し前、ニューヨークにあるシチズンオフィスを訪れたとき、私はそんな驚きに出合った。ブランドの新作に目をとおしていると、すでに発売されている1本の時計が、テーブルを挟んで私の前にやってきたのだ。ザ・シチズンである。誇張しているわけではなく、ザ・シチズンという名前なのだ。
その問題の時計は、“信じられないほど軽い”というコメントとともに私の手元に届いた。それは遠くから見ると、金無垢モデルに見えたため、そのコメントの理由がわかった。それを踏まえて、この作品をきちんと紹介しよう。
この“ゴールドに見える”時計は、スーパーチタニウム製のザ・シチズン限定モデル、AQ4103-16Eだ。そのケースは見れば見るほど金無垢のように見え、実際に手に取って着用するまでその錯覚が続く。スーパーチタニウムを使用しているため、とんでもなく軽い。黄金色のカラーリングはデュラテクトゴールドコーティングによるもので、硬度と耐傷性を高めているスーパーチタニウムは商標登録されている素材である。
シチズンはわずか350本の限定生産で、41万8000円(税込)という価格体系の最上位に位置し、高精度のクォーツ時計製造におけるシチズンの実力を表している。グランドセイコーなどに対抗するための時計であり、多くの人はこの価格帯のクォーツを否定的に思うかもしれないが、これはシチズンが得意とするところであり、クォーツウォッチとしては最高級のものを手に入れていることを理解しなければならない。
このモデルは実用性がすべてだ。シチズン製のCal.A060は、年差±5秒という極めて高い精度を誇る。時計を止めることなく(またはその正確さを損なうことなく)時間を変更できる独立した時針が備わっており、もちろんこの機能は旅行時にも便利だ。しかし、それは50万円以下の価格で得られるもののほんの始まりに過ぎない。
同ムーブメントはパーペチュアルカレンダーでもあり、毎月末に日付が自動的に正しく変更される。さらに充電量表示機能、充電警告機能、パワーセーブ機能、衝撃検知機能、針自動補正調整、時差設定機能、0時ジャストカレンダー更新機能を搭載する。それだけでもすごいのに、おまけにこのムーブメントには、どのような光源からでも持続可能な電力が供給される光発電エコ・ドライブを搭載しているのだ。
この記事でムーブメントの技術的な特徴を紹介することにしたのは、この時計の性能と、クォーツでしか実現できない精度のレベルを示していたからだ。そしてこのように言うのは、実用性に関する私のポイントを明確にするのに役立つからである。なぜなら、これを読んでいるあなたは、なぜブランドがこの時計を金無垢で作らなかったのかと自問しているかもしれないからだ。
まあひとつには、そうすると価格が大幅に上昇し、想定していたターゲット市場から遠ざかってしまう可能性があるためだ。そして私がここで推測できるものとして、その市場は、ドレスとカジュアルのあいだを行き来できる高級な時計を求めており、かつ予算を超えることなく手に入れることができる若いプロの愛好家たちだということでもある。
スーパーチタニウムを使用することで、軽量で傷がつきにくく、さまざまな加工方法が可能なゴールドのパッケージのなかで、前述した高いレベルの機能を発揮する。ケースは10気圧の防水性があり、ザ・シチズンはしなやかなレザーストラップ(通常、この手の時計のストラップにはガッカリさせられる)を提供し、それにマッチするデプロワイヤントシステムのゴールドクラスプが付いている。
さて、これが本当に実用的な時計であることをわかったが、見た目や装着感についてはどうだろうか? この時計をニューヨークで初めて見たとき、最初に驚いたのはこのふたつの部分だった。私がこの時計に魅了され、レビューのために真剣に向き合う時間を求めたのはそれがきっかけだった。ひと言で言えば、これは見た目もつけ心地も洗練されている。あぁ、ひと言では収まらなかった。
“見た目は金無垢だがすごく軽い”という問題が解決すれば、あとに残るのはあらゆる意味で限定版のように感じられる、真に身につけやすい時計である。特別な要素は十分にあるが、日常的なシーンでも問題なく使える。そして私がザ・シチズンで気に入っているのは、38mmのケースサイズだ。36mmから40mmのあいだのものを好む傾向がある私にとって、これは本当にぴったりだった。
柔らかいレザーストラップも、私の手首にしっかりとフィットし、サイズもぴったりであった。私の目には、これは質感のある黒い文字盤で、ほとんどマットなものに見える。しかし実際にはもっと正しい表現方法がある。これは日本の障子などに使われている土佐和紙の質感に影響を受け、その風合いをそのまま取り入れた文字盤で、ブランドはこれを“和紙”文字盤と呼んでいる。
文字盤にも金箔が施されているが、これは想像のとおり“砂子蒔き(すなごまき)”という日本の伝統的な手法によって丁寧に施されている。文字盤は熟練の紙漉き職人によって手作りされ、唯一無二のものが完成する。これらのダイヤルの製造においては、安っぽく見えるものや低品質なものは一切ない。日付窓のフレーム、日付窓内の数字、ザ・シチズンの象徴であるイーグルマークは、本モデルの製造における高いレベルの完成度を物語っている。イーグルマークを引き継いだ裏蓋でさえ、非常によくできている。
41万8000円(税込)という価格が本当に意味を持つのは、これらの全体像を見てからだ。正直に言うと、ザ・シチズンとの別れは辛かった。たくさん身につけて、ほかのお気に入りの時計から時間を奪ってしまいそうなタイプの時計だった。そして、これはわずか350本だけの限定モデルなので、長く残ることはないだろう。ザ・シチズンが今後、このモデルシリーズをどのように改良していくのか、とても楽しみにしている。
ザ・シチズン 高精度年差±5秒 エコ・ドライブ 限定モデル。Ref.AQ4103-16E。スーパーチタニウム(デュラテクトゴールド)ケース、直径38.3mm、厚さ12.2mm、10気圧防水。土佐和紙金箔文字盤。光発電エコ・ドライブ駆動のザ・シチズン製Cal.A060、時・分・センターセコンド、3時位置に日付表示、年差±5秒、パーペチュアルカレンダー。ほか秒針停止機能、日付早修正機能、パーペチュアルカレンダー、衝撃検知機能、針自動補正機能、0時ジャストカレンダー更新機能、時差設定機能、充電量表示機能、充電警告機能を搭載。ソリッドバック。レザーストラップ。世界限定350本(特定店限定モデル)。価格は41万8000円(税込)で、2023年9月7日発売。
ザ・シチズンの限定モデルの詳細については、シチズン公式ウェブサイトをご覧ください。
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