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Hands-On ガガ・ラボラトリオ ラボルマティックはモー・コッポレッタによる独創的な時刻表示のイタリア流アプローチだ

タトゥーアートで知られるアーティスト、モー・コッポレッタ氏が、新進ブランドでデザイナーとしての新たな役割を担う。

昨年のGeneva Watch Daysで、思いがけない人物と偶然出会った。フェアで見かけるとは思っていなかったが、仕立てのいいスーツに厚めのフレームのメガネが印象的な人物だった。しかし、その洗練された装いだけではモー・コッポレッタ(Mo Coppoletta)氏の多彩なバックグラウンドをすべて読み取ることはできない。彼はタトゥーアーティストとしてキャリアをスタートさせ、そのあとカーデザインやインテリア、スピリッツ、メンズウェアといった幅広い分野でデザインを手がけてきた。そして今、彼がクリエイティブを率いるのが“ガガ・ラボラトリオ(Gagà Laboratorio)”という比較的新しいブランドだ。コンセプトは、“イタリアンデザインとスイスの精密技術が融合したラグジュアリーウォッチ”。 現行モデルのラボルマティックは、その独特で目を引くデザインが印象的だった。そこでブランドマネージャーと話をしたあと、実機を詳しく見るために2本取り寄せてみることにした。

Gaga Lab Labormatic

ラボルマティック・バウハウス

 ラボルマティックにはふたつのバージョンがあり、上のバウハウスと下のチンクアンタは、どちらも市場でよく見かけるデザインとは一線を画している。個人的に、アイデアの先駆者でないなら少なくともその分野で最高のものをつくるべきだと思っている。そうでなければ、まったく新しいものを生み出すほうがいい。そんななか称賛すべき点は、コッポレッタ氏がこの退屈になりがちな市場に対する鮮やかなアンチテーゼを提示していることだ。

 コッポレッタ氏の時計デザインへの進出はこれが初めてではない。過去にはブルガリやクロノパッションと協力し、タトゥーをモチーフにした限定オクト フィニッシモを手がけている。ただ、タトゥーのない自分としては、あの限定モデルについて深く考えたことはなかった。自分のスタイルに合うとは思えなかったからだ。しかし新しいラボルマティックでは、彼のクリエイティブなデザインがより身につけやすい形で表現されている。

Gaga Lab Labormatic

ラボルマティック・チンクアンタ

 この時計は独特なセクタースタイルのダイヤルを採用しており、立体感にあふれている。4つの象限と時刻表示を囲むフレームが盛り上がり、その内部にはドーム状のセクションが配置されている。さらに中央の分表示は1段高くなっており、コントラストのあるカラーを採用。そして文字盤中央にはブランドロゴ入りのキャップが配され、これがスモールセコンドとして回転する仕組みだ。内部には自動巻きムーブメントを搭載しており、シースルーバック、ドーム型サファイアクリスタルで全体的に厚みのあるデザインとなっている。その結果ステンレススティールケースのサイズは42mm径、厚さは13.3mmと、ややボリューム感のある仕上がりだ。

Gaga Lab Labormatic

 印象的なデザインもさることながら、この時計の主役はやはりディスプレイだ。一見すると、カルティエのタンク・ア・ギシェのようなジャンピングアワーに見えるかもしれない。しかし、5000ドル(日本円で約77万円)以下の価格帯でそれを期待するのは少々無理がある。実際にはアワーディスクが文字盤の下に隠されており、12時位置の開口部を通して時間を読み取る仕組みだ。

 両バージョンとも時刻を指し示す赤い矢印が付いているが、ジャンピングアワーのように瞬時に切り替わるわけではなく、時間が経つにつれてゆっくりと回転していく。そのため時刻表示の数字は時間が進むにつれて部分的にフレームから外れることがあるが、それを補うためにディスク上で数字が繰り返し配置されている。ただし大きな数字がディスプレイの中央にしっかり表示されるのは、ちょうど時間が切り替わるタイミングのみとなる。この仕様は最初少し戸惑うかもしれないが、慣れれば問題なく判読できる。

Gaga Lab Labormatic

 文字盤の中央、スモールセコンドの周囲には分表示が配置されている。バウハウスバージョンでは目盛りと長めのインデックスが描かれており、5分刻みの間隔が強調されている。時刻を示すのは小さな赤い針で、先端には円と矢印があしらわれている。一方チンクアンタでは、ミニッツトラックが個性的でスタイリッシュなフォントで描かれ、ボックスのなかに収められた矢印が分を指し示すデザインになっている。

 このデザインは視認性に優れ、かつクリエイティブだ。しかし何よりも特筆すべきは(残念ながら、これを称賛しなければならないほど)フォントの選択が素晴らしいことだ。そう、これはクールなフォントなのだ。多くのブランドが似たようなフォントばかりを使い、セリフ体とサンセリフ体をごちゃ混ぜにし、無料フォントサイトのdafont.comから適当に拾ってきたようなデザインを採用しているのが現状だ。そんななかガガ・ラボラトリオは大手ブランドよりも真剣にフォント選びに取り組んでいる。

Gaga Lab Labormatic

 全体的なプロダクトとして見ると、視認性の面では決してひと目で読み取りやすい時計とは言えない。しかし私はウルベルクやMB&Fといった、時間をシンプルに伝えることを第1に考えていないブランドのファンでもある。そのためガガ・ラボラトリオが既存の枠にとらわれず、新しい試みに挑戦している点は評価したい。とはいえブランドが今後さらに進化し、デザインやモデル展開を広げていくうえで、いくつか指摘したい点もある。

 シースルーバックをとおして、ガガ・ラボラトリオはムーブメントを披露している。このモデルはラ・ジュー・ペレのLJP-G100を搭載し、ディスク表示を可能にするためのカスタマイズが施されている。またローターはブランドロゴを想起させるデザインに改められており、クリエイティブなアプローチが見られる。しかしここからが問題だった。この時計を実際に使い始めた途端、私の評価が少し変わり始めたのだ。

Gaga Lab Labormatic

 ラ・ジュー・ペレのLJP-G100は、信頼性の高いエボーシュムーブメントであり、しばしばセリタSW-200の代替として使用される。ただし、パワーリザーブはSW-200の約80%増しと、持続時間の面で優れている。このムーブメントは、ファーラン・マリの3針セクターアンオーダインのモデル1(手巻き仕様のSW-210版も併売)、ファラーのレゾリュート IIなど、さまざまなブランドの時計に採用されている。なかでもアンオーダインは最も高額なモデルで、最小サイズで2688ドル(日本円で約40万円)する。ただし、同ブランドのモデルはガラス質のエナメルダイヤルを採用しており、ダイヤルのクオリティを考えれば非常に優れたコストパフォーマンスを誇る。一方でこのラボルマティックの価格は3900スイスフラン(日本円で約65万円)。ほかのLJP-G100搭載モデルと比べると、かなり高めの設定となっている。確かにユニークな表示スタイルではあるが、ムーブメント自体のコストと直接結びつく価値の提案としてはやや弱い印象を受ける。

La Joux-Perret LJP–G100
Gaga Lab Labormatic
Gaga Lab Labormatic

 ローターも腕につけているとかなり緩い印象を受けた。この感覚は、むしろ1000ドル(日本円で約15万円)以下のダイバーズウォッチに期待するものであり、税込みで5000ドル(日本円で約75万円)近くになる時計では少々気になるポイントだ。また、12時位置に配置されたリューズはデザインとしては素晴らしいが、実際に時刻を調整する際にはやや扱いづらさを感じた。この問題は、かつてのF.P.ジュルヌのクロノメーター・レゾナンスでも見られたものだ。つまり、ガガ・ラボラトリオだけが機能性よりもデザインを優先したわけではない。しかし、ジュルヌは最終的にこの設計を改めている。

 予想どおり、ラボルマティックの両バージョンにおいて最も魅力的なのは、やはりデザインの要素だ。モー・コッポレッタ氏は全体のルックスに相当なこだわりを持って取り組んだことがうかがえる。ケースには独特なフレア状の段差を持つラグが採用されており、これはスパイダーラグと、パテックのRef.2549に見られるデビルズホーンラグを掛け合わせたような印象だ。またイタリアンブランドであるロックマン デシモ・カントも、これに似た(より大胆な)デザインを採用している。ケース素材についてはプレミアム・ステンレススティールとされているが、具体的にどの合金が使われているのかは明記されていない。仕上げは基本的にポリッシュだが、バウハウスモデルではミドルケースとラグの段差の一部にアンスラサイト調のサテン仕上げが施されており、適度なコントラストが加えられている点は好印象だ。

Gaga Lab Labormatic
Gaga Lab Labormatic
Gaga Lab Labormatic

 本作はミッドセンチュリー調のデザインにインスピレーションを受けているように見えるが、なぜかアステカ的な雰囲気を感じずにはいられない。その理由をはっきりと言葉にするのは難しいのだが、もしかするとあなたも同じ印象を受けるかもしれない。特にチンクアンタではそれが顕著に感じられる。このモデルはその名のとおり1950年代をテーマにしており、その時代のデザイン要素を色濃く取り入れている。

Gaga Lab Labormatic
Gaga Lab Labormatic

 ブラックダイヤルのほうが実用的で、さまざまなシーンで使いやすいのは間違いない。しかしチンクアンタのソフトなブルーグリーンの色合いに加え、数字のデザインや、ミニッツトラックを囲むフレームの細やかなつくり込みを考えると、個人的にはこちらを選びたい。コッポレッタ氏はまだまだアイデアのストックが尽きることはないだろう。価格設定、フィット感、仕上げにさらに磨きをかければ、ガガ・ラボラトリオは画一的なモデルが多い市場において、引き続きユニークな選択肢を提供し続けることができるはずだ。

Gaga Lab Labormatic

ガガ・ラボラトリオ ラボルマティック。Ref.LMBA-001(バウハウス)、Ref.LM50-001(チンクアンタ)。ステンレススティールケース、直径42mm、厚さ13.3mm、防水性能の記載なし。12時位置にディスク式の時表示、中央に円形の分表示とスモールセコンドを配置。ムーブメントはラ・ジュー・ペレLJP-G100を改良し、最大約68時間のパワーリザーブ。ストラップはイタリア製サフィアーノレザー。価格は3900スイスフラン(日本円で約65万円)。