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Photos by Tiffany Wade
今年は、過去に発売されたモデルに新素材の仕上げを施した時計が多く見受けられた。ゴージャスなものもあれば、迫力に欠けるものもあったが、エルメスのHO8ほど素材変化により変貌を遂げたものはないだろう。
HO8は、私が美しい時計と呼べるようなものではない。おもしろくて完成度の高いスティール製のマニア向けスポーツウォッチでもなければ、古きよき時代のノスタルジーに浸れるモデルというわけでもない。この時計は、世の中にある数々の時計のなかでも、より個性的な印象を与えるものだと思う。そして私はこの時計を常に尊敬しており、ほかの人が気に入ってつけていたのを見てきたのだが、今年ローズゴールドとブラックチタンがリリースされるまでは、この時計にはあまり引かれなかった。
なお、エルメスはW&WでHO8のクロノグラフモデルを発表した。このラインが今後、どのように進化していくかを示す興味深いヒントとなっている。ただ今回、RGに注目したのは、私のなかで時計の精神がまったく変わってしまったからだ。今では逆に、日常的な選択肢として、より広い範囲にわたってアピールすることができるようになったと思う。いかなるシーンにも対応する頑丈さと、カラフルなストラップの組み合わせは、ブランドのクラシックなデザインから離れた鋭いカーブを描いているが、RGという素材がそのジグザグなカーブの印象を和らげている。
39mmのクッション型ケース、エルメスのマニュファクチュールCal.H1837、この時計のために特別にデザインした前作と同様のアラビア数字(ファンキーでおいしそうな数字の4に注目)、4時30分位置にある日付窓など、ほぼすべてのスペックは変わっていない。エルメスの時計づくりにおいて、クリエイティブ・ディレクターのフィリップ・デロタル(Philippe Delhotal)氏がデザインしたRGのミドルケースは、それほどコントラストが強くないため、ブラックセラミックのベゼルとリューズ、ブラックDLC処理されたチタン製の裏蓋(ボディフレームに近い)をより引き立たせている。ブラックニッケル処理されたサテンブラッシュ仕上げの分表示ディスクは、マットなダイヤルのなかでひとときの輝きを与え、かなり大き目なアラビア数字インデックスにはスーパールミノバを施すことで、視認性を確保している。シースルーバックからは、私がこの時計で最も気に入っている部分のひとつである、ローターに刻印したエングレービングを見ることができる。クラシックな“Hermès”のHが繰り返されており、魅惑的なパターンを作り出しているのだ。
私はRG(とピンクとレッド)に極端なこだわりを持っているが、通常はドレスウォッチに採用されるものだ。素材との相性のよさを感じさせないスポーツウォッチを探すほうが難しいのだが、ここではエルメスH08の分類不能のジャンルなところが救いになっているのだろう。90年代のティーン向けロマンチックコメディのように、メガネをかけた変わり者がプロムに間に合うようイメチェンするのだ。この時計はもともと格好いいことに変わりはないのだが、今は少しだけ明るく輝いている。