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これはあなたにも起こったことがあるかもしれない。手首の上の時代遅れの小さな機械に無限の美しさを見出し、誰かに自分が時計に情熱を注いでいるとのだと伝える。ムーブメントについてロマンチックに語り、聞き手があなたが何を言っているのか分かっているかのように、リファレンスナンバーをさりげなく散りばめる。会話に勢いをつけるための土壇場の努力のように聞こえる独り言の中で、時計と時計製造の美徳を絶賛し終えると、聞き手からすぐに理解できなかったと伝えられる。さらには理解しようともしていないと伝えられるのだ。彼らにとって、それは分かろうとする価値のあるものの範疇にないのだ。彼らが言うように、それを持っているかもっていないかのどちらかなのだ。
私はしばしば自分自身が時計について詩的に語るとき、誰かが抽象芸術について私に同じことをするとしたら、上記のシナリオにおいて、私は聞き手になるだろう。
ウブロ ビッグ・バン ウニコ サンブルーIIの限定モデルは、ハイウォッチメイキングと抽象芸術の世界を融合させたモデルだ。
本機は、ウブロとタトゥー・アーティスト、マキシム・ビューチとのコラボレーションによって誕生した時計である。彼のスタジオでありクリエイティブエージェンシーであるサンブルーロンドンは、ファインアート、ファッション、社会学、タトゥー文化を探求する雑誌を発行。さらに同スタジオは、書体も手掛けている。彼らは、バレンシアガやストックホルム市のロゴも手掛けてきたが、アメリカ人にお馴染みの点でいうと、マキシム・ビューチがカニエ・ウェストに、彼の娘と母親の誕生日のタトゥーを入れていることだろう。
これは、ビューチとのコラボレーションシリーズの新作だ。アーサー・トゥーショットがその第1弾を取材、ウブロはこの時計独自のベゼルや時刻表示を新たに作成するなどマキシムの要求に応え続けてきたが、その結果"ウブロの最高傑作"であったと結論づけている。
続編は、初代に匹敵するのだろうか?
正直言って、私はサンブルーの世界にはあまり詳しくない。ファッションは時々ハードルになるかもしれない(読者の方からファッションポリスに捕まるべき、と指摘を受けたこともある)。大学では社会学の入門的な授業しか受けたことがなく、タトゥーの文化についてもあまり読んでいない。しかし、過去にアーサーが述べているように、時計のデザインに関しては、従来の考え方から一歩踏み出した、魅力的な時計だと感じている。
ウブロというブランドは、異なる素材やアイデアの融合を体現し、現在の製品ラインナップにはテーマ性の強いビジュアル・アイデンティティが見られ、多くのモデルでは、同じように顕著なデザインの特徴を表現している。そのウブロとサンブルーのコラボレーションは注目に値するのだ。
サンブルーIIに込められた思いを理解するために、スリーブタトゥーやワンポイントタトゥーを入れる必要はない。サンブルーIIと標準的なビッグ・バンを並べて想像してみていただきたい。まず、45mmのケースは、面取りやアングル、交互に施された鏡面仕上げとサテン仕上げを特徴とする見た目に変貌を遂げた。このモデルには、チタンとキングゴールドの2種類の素材がある。キングゴールドはウブロが独自に開発したもので、標準的なゴールドよりも少しリッチな質感をもつ。やや赤みを帯びていて、鏡面仕上げにもよく馴染んでいる。チタン製が世界限定200本、キングゴールド製が世界限定100本の製造となる。
この時計のメインカラーは、まさにサンブルーから連想されるブルーだ。2016年に行われたサムシングキュレーション(Something Curated)のインタビューで、ビューチはブルーの色調についてのコンセプトを説明していた。
『フランス語で「青い血」を意味するサンブルーは、この文化の交錯を意味のある方法で暴露するという考え方から生まれた。青い血は高貴さの象徴であり、青いインクと血を使った言葉遊びは、ほとんど偶然の産物だ。気高さに言及するという発想は、実は現代文化についての発言だったのだ。"高い"とか「高貴」などと言って「サブ」とか「下劣」とか「モテる」という伝統的な価値観が通用しなくなった文化。若者は文化を横断的かつ全体的に捉えているんだ』
私が、文字盤の色で比較した他の時計はジン U1 Bだけだ。色は非常に似ているが、腕に着けたときの感じ方は全く違う。角張ったケース形状と幾何学的に装飾された文字盤は、現代の時計というよりも、悪霊から身を守る神秘的なお守りや、はるか未来や過去の文明からの技術の一部のように感じられる。
格子状の針は、この時計の美学の決定的な特徴である。これは幾何学とデザインの興味深い試みであり、サンブルーのタトゥーデザインに由来している。この三角形のモチーフは、彼のロンドンのスタジオが行ってきたタトゥーワーク全体に現れている。文字盤の周りの大きな針でそれぞれ時針、分針を表す。
昔やった、三角形がいくつ表示されているかを問う幾何学のクイズを覚えているだろうか? サンブルーの針で同じゲームをすることだって可能だ。
文字盤の一部から素材を取り除き、HUB1240の上に配されたクロノグラフモジュールの露出部分上にクロノグラフ針が浮かんでいるように見えるが、「針」はむしろ格子状の円盤のようになっており、針とケースのモチーフを反映している。ローターもこのやり方を踏襲。また、クロノグラフディスクの上には、目印となる三角形の夜光が塗布されている。
この時計には多くの深みがある。複雑な要素が異なる平面上に存在し、16.5mmの厚さの本機は、ムーブメントの露出した要素を見下ろすことで、視覚的な旅を楽しむことができる。観察するたびに新しいディテールを発見できること。私にとっては、これがこの時計の本質だ。
サンブルーⅡによって、抽象芸術を語れるようになるまでには至らなかったが、ビューチの作品と機械式時計製造が出会うことで何が起こるのかを理解することはできた。アート同様に、機械式時計を理解していない人がいることからも分かるように、世の中には万人向けではないものもある。しかし、1つ確かなことは、「サンブルーII」を短時間使用したことで、私は抽象芸術を鑑賞することに一歩近づいた(少なくとも時計に関しては)ということである。
ウブロ ビッグ・バン ウニコ サンブルーIIは、約72時間のパワーリザーブをもつ自動巻きクロノグラフキャリバーHUB1240を採用。キングゴールドとチタンの両モデルとも45mmのケースを備える。キングゴールドは世界100本限定で価格は501万円。チタンモデルは世界200本限定で、価格は267万円(どちらも税抜価格)。詳細は、ウブロ公式サイトへ。