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Second Opinions ロイヤルオーク コンセプト "ブラックパンサー" フライング・トゥールビヨンの魅力に迫る

それは、美しい......何か?

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私は時計の世界では新参者だ。なのでこの話は「ファースト・オピニオン」に入れるべきだと思うほどだ。私のバックグラウンドはデザインで、趣味は他の人のドラマ。今日は皆さんと一緒にオーデマ ピゲのブラックパンサー ウォッチについて忌憚なく語っていきたい。

 以前の仕事では、製品についてそれが与えるインパクトとその意図を考えることに多くの時間を費やしていた。誰かが座る必要があるから椅子を作るのではなく、アメリカのデザインを世界に広めたいから、あるいはアップサイクル合板が未来の道であることを提案するためにそれを作る。そして、その椅子を世に送り出すと、ステータスシンボルになったり、話題の中心になったり、嘲笑の的になったりと、自分の手を離れるわけだ。

 私がHODINKEEで過ごした短い時間のなかで、オーデマ ピゲ(以下AP)のロイヤル オーク コンセプト“ブラックパンサー”フライング トゥールビヨンほど広範囲に影響を与えた時計はなかった。ダニーのHands-On記事(日本版の記事「Introducing オーデマ ピゲ ロイヤル オーク コンセプト“ブラックパンサー”フライング トゥールビヨン マーベルとコラボした2021年新作(編集部撮り下ろし)」はこちら)のコメント欄を見ると、458件もの(まだ増えている)コメントが寄せられており、誰もが深い思いを抱いていたようだ。この16万4000ドル(約1804万円)の時計には賛否両論あったが、その状態は続いている。ある人は醜いと言い、ある人は美しいと言い、ある人は単に困惑している。しかし、私たちはまだそれを話題にしているのだ! 4月に話していたことを思い出して欲しい - まだ話題にしているだろうか? 私は忘れた。そのあいだ、少なくとも7回のTikTokダンスが現れては消え、夏のオリンピックが開催され、『ジェパディ!(Jeopardy!)』のローテーション・ホストは何十人も登場した。

Black Panther Royal Oak

 APの真の意図を知ることはできないかもしれない。しかし、コアなコミックファンを満足させたいという思いは伝わってきた。4月に、APのコンプリケーション部門責任者であるマイケル・フリードマン氏がダニーに次のように語っている。「この時計にとって本当に重要な瞬間でした。コミックブックの世界のファンは、細部にまでこだわりを持っていますから」。発表会に起用されたケビン・ハート氏やセリーナ・ウィリアムズ氏といった著名人は、「これはブラック・カルチャーを称える時計である」というメッセージを伝えるために選ばれた。そのメッセージとともに、AP社がこの作品の製作に着手したのは、2020年夏に企業が多様な人材を採用するという包括的な姿勢を発表するかなり前、映画公開前に主演のチャドウィック・ボーズマンが若くして悲劇的に亡くなる前だったことが明らかにされた。

 もし、文字盤に描かれているのが、最もアイコニックな黒人スーパーヒーローではなく、『アントマン(Ant-Man)』だったら、私はこのエッセイを書いていただろうか。そして、そのアントマンが、人種的に重大な審判が行われているときに、たまたま高級時計に登場したとしたら? 絶対書いていない。ブラックパンサー・ウォッチの話題のなかには、この時計が祝福を意味するのか、営利目的なのか、あるいはその両方を意味しているのか、という疑問が暗黙のうちに(ときには明示的に)含まれていた。誰もが声を大にして尋ねたくない質問であり、完全かつ正直に答えるのが最も難しい質問でもある。なぜなら、完全な答えを得るためには、機密事項にかかわることの多いデザイナーや経営者の意図を読み取る必要があるからだ。

 ある製品がブラックネスからある種の文化的名声を得たとき、私はいつも疑問に思うことがある;この製品が作られたとき、そこに誰がいて、誰がそこから利益を得ているのかということだ。リベラルアーツカレッジの4年間の学費と同じくらいの費用がかかる時計であっても、関係者は重要だ。それがすべてではないが、意味はある。

 APは、ホワイトゴールドのブラックパンサーによる520万ドル(約5億7200万円)のオークション収益を、「First Book」と「Ashoka」という2つの慈善団体に寄付することを発表した。同社によると、これらの団体は「10歳から18歳までの低所得者層の学生に、地域社会に変化をもたらすためのリソースを提供すること」を目的としているという。意義あることだが、それがすべてではないだろう。

 お金と文化資本の絡み合いから一歩離れても、私たちにはまだ疑問が残る。この時計は本当は何なのか? 独創性や希少性に価値を見出す本格的な時計コレクターのためのものなのか、それとも、裕福なコミック愛好家のための、腕につけるアクションフィギュアのようなものなのか。AP社の幹部がリシャール・ミルに対して、自分たちもちょっと変わった高級時計を作ることができるというメッセージを発しているのだろうか? それともレブロン・ジェームズがオリビエ・オーデマに「こんな時計が欲しいんだけど」と言って、オリビエが「もちろん」と言ったのだろうか。想像は膨らむ。

 多くの人がそうであるように、私もこの時計を実機(“watch in the metal”この言葉をタイプしたかった)で見るまでは完全に混乱していた。そして、ついにこの時計の地球上での存在意義が明確になった:アートなのだ。ポピュラーアート、ほとんどストリートアートと言っていい。ボッティチェリというよりバスキア、カンディンスキーというよりカウズだ。インスタグラムで多くの人に見てもらうことを目的としたアートで、最近ではほとんどの人がこうやってアートを体験している。APのロイヤル オーク コンセプト“ブラックパンサー”フライング トゥールビヨンは、映画『ブラックパンサー』を見た人やコミックを読んだ人が、あるレベルまで共感できる手首サイズのアートなのだ。それは、何十万人、何百万人という人たちになるだろう。ここまで文化的に浸透した時計は、そうそうないと言ってもいいだろう。

 「私はこれを一つの彫刻として見ています」アートアドバイザーで時計コレクターのガーディ・セント・フルール氏(Gardy St. Fleur)は語った。「色も、ディテールも、すべてが素晴らしい。最初に見たとき、決して見飽きることは無いと思いました」
 ブラックパンサーの時計を持っていると想像してみて欲しい。あなたはそれを金庫にしまいたくないだろう。 大理石の玄関にお気に入りのヘブル・ブラントリーと一緒に飾りたい。とてつもなく大きくて高価な玄関ドアを通る人は、誰もがそれを理解することができるはずだ。

 この時計は、真の現代アートのように、オークションで収益を上げることができる。150本のうち最初の1本は、すでにクリスティーズに出品されており、9月7日に落札される予定だ。今、私たちは、時計オークションにとってまさにワイルドな時代に生きている。しかし、高額な時計が、発売後すぐにクリスティーズに登場することは通常ない。クリスティーズのアジア太平洋地域の時計部門責任者であるアレクサンドル・ビグラー氏は「これまでのところ、驚異的な反響をいただいています」と語っている。「この作品は発表されて以来、市場で議論を呼び、時計コミュニティのなかでも活発に議論され続けています」予想価格は38万ドル(約4180万円)から65万ドル(約7150万円)。しかし、それ以上になることは間違いないだろう。

 ロイヤル オーク コンセプト“ブラックパンサー”フライング トゥールビヨンは、偉大な現代アートがすべきこと、つまりオープン・エンドの会話を始めることを実現した。誰も勝たない議論。活発な議論だ。この時計には混乱させられる。そして、最近ではそうしたことがいかに珍しくなったことか。時計に関して言えば、細部(どのように機能しているか)に驚かされるよりも、全体像(すべてが何を意味するか)に驚かされることのほうが珍しいのだ。

 私のなかの現実主義者は、あらゆる思考を整理し、感情とこの時計を照らし合わせ、それが何を意味するか答えを出す。おそらく「お金」だと言うだろう。マーベル・ユニバース以上に安定した収益性を持ち、幅広い層にアピールするエンターテイメントの巨人がいるだろうか? いないだろう。APもまた(法外に高価ではあるが)、一貫して収益性が高く、幅広い層に魅力的な事業体だろうか? そうだ。もしかしたら、この2社はそれほど奇妙な組み合わせではないかもしれない。

 この時計に必要なのは、文化的なパティーナだ。本来の姿に落ち着くまでに、我々の仮説にいくつかの凹みを与え、我々の膝を打つような反応に挑戦し、再考させる時間が必要なのだ。時計の世界(そしてある意味、他の世界も)は、APが現在進行中のマーベルとのコラボレーションで次に何をするかをいずれ見ることになる。一方で、クリスティーズの時計を購入する人も出てくるだろう。そして、メリーゴーランドは回り続ける。誰がこの時計を集め、身につけるのかを見続けることで、うつろいやすい文化的サイクルのどこにこの時計を位置づけるべきか、よりよいアイデアが得られるだろう。それまでのあいだ、私はここでコメントを見ながらドラマを楽しむことにする。

Photos by Tiffany Wade. 

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オーデマ ピゲの詳細については、こちらをご覧ください。