今日の夕方、カリフォルニアの時計コレクター、ザック・ルー氏が自身のインスタグラム(@zachattack__25)に、入手したばかりの品を開封する動画を投稿した。それ自体は、彼をフォローしている約3万5000人にとって驚くべきことではないだろう。彼は頻繁に最新の入手品を世界にむけてアップデートしていたから。
しかし、動画の続きには意外なゲストたちが登場した。フィリップス 時計部門のアメリカ地区責任者兼上級副社長であるポール・ブトロス氏(元HODINKEEの寄稿者でもある)と、今世界で最も悪名高い時計、ティファニーブルーのパテック フィリップ ノーチラス5711だ。12月に行われたフィリップス2021ニューヨーク・ウォッチ・オークションで売りに出されたもので、その収益はすべてチャリティに使われることになっている。
そのオークションが、ルー氏とこの特別な5711の両方を見た最後だった。この時計は、最終的にニューヨーク在住の身元不明のオンライン入札者に650万ドル(約7億3800万円)で落札され、ルー氏は会場での記念すべき入札敗者となった。少なくとも我々はそう思っていた。
この時計について、ブトロス氏は「本来の落札者には渡せない」と謎めいたことを言った。なぜそうなったかは、お好きなように推測して欲しい。いずれにせよ、「オークションに積極的に参加したルー氏が、オークション終了後ほどなく購入した」とブトロス氏は言ったのだ。
今日、ルー氏は正式に所有権を取得し、彼はそれを世界中に明らかにした。そして今、彼は我々HODINKEEとの独占インタビューでそのストーリーを共有してくれる。
オークション終了後の出来事
ティファニーブルー5711(ロット1T)がハンマーにかけられた14分間、ルー氏はその存在をアピールしていた。この日、彼は朝から遅れてしまい、入札開始直前に会場に入った。そのため、電話入札を担当する専門家のそばに立ったまま、次々と高値を更新するビッドの声を盛んに叫ぶことになったのだ。
やがて、入札額が500万ドルを超えたところでルー氏は脱落した。もうだめだと思い、再びオークションの続きを見る前に、タバコを吸いに外に出た。会場の外で、ルー氏はティファニーの将来を担う人物に出会った。プロダクト&コミュニケーション担当の新副社長であるアレクサンドル・アルノー(Alexandre Arnault)氏だ。彼から個人的にお礼を言われたのだ。この出会いは、幸運を呼んだ。
ジュネーブのパテック フィリップ サロンの長年の顧客であるルー氏は、パテック フィリップのCEOティエリー・スターン氏に直接連絡を取り、残り169本のうちの1本を譲ってもらえないかと尋ねた。この時計は発表された瞬間から熱望されており、そのうちの2本はジェイ-Zとレブロン・ジェームズがそれぞれ着用していたものだ。
「ティエリーと話して、一生懸命入札したのだから"割り当てがあってもいいんじゃないかな”と聞いたんです」 とルー氏は言った。「でも彼は、"いや、これは本当にティファニーが決めることなんです。私たちは何も言えません”と言うんです。だから、ちょっとがっかりしました」
このとき、ルー氏はもう一回チャンスがくることを知らなかった。
ザック・ルー氏が選ばれた理由
ここから先は、オークション終了から6週間後の話だ。落札者が最初の取引手続きを完了できないことが明らかになったとき、アルノー氏とスターン氏は、入札者のうち誰がその時計を購入するのに十分な購買履歴を持っているか調べ始めたという。そして、ある愛煙家が頭に浮かんだ。
「ティエリーとは16年の付き合いになります」とルー氏は語った。「私は31歳ですが、15歳から収集しているので、ティエリーは私のことをよく知っているのです」
ジュネーブからの祝福を受け、アルノー氏はルー氏にメールを送り、面談を設定した。ティファニーの象徴的な5番街の本社で話をしたのち、彼はルー氏に、最終的な入札額と手数料、およそ合計620万ドル(約7億1320万円)でこの時計を購入したいかどうか週末中に考えるように言った。しかしフィリップスは、当初の販売価格である650万3000ドル(約7億4806万円)が当初の目的通り、自然保護団体のネイチャー・コンサーバンシーに寄付されることを確認している。
ルー氏の決断にそれほど時間はかからなかった。1時間後、ルーはアルノー氏にその答えをメールした。
「Oui.(はい)」
そう、チャリティの要素は重要だ
オークション終了後、さまざまな憶測が飛び交った。落札者は慈善家で、たまたまいい時計が好きなのだろうか? それとも、環境を大切にする時計コレクターなのだろうか? 答えは「イエス」だった。
「チャリティオークションに参加するのは初めてではないんです」とルー氏は語った。「オンリーウォッチに参加したことがありますし、チルドレン・アクションにも参加したことがあります。今回、ふたつの超一流ブランドが環境保護のために手を組んだことは、歴史的な出来事だと思います。素晴らしいことだと思っています」
しかし、彼にとってティファニーとのダブルネームのパテックを購入するのは初めてのことで、それは大物コレクターにとってご褒美のようなものだった。また、ルー氏はアレックス・アルノー氏から、ティファニー×シュプリームのブレスレットとシャツというボーナスプレゼントも手に入れた。「私はジュネーブからフェアにいいものをいただいたので、欲張らないようにしたいです」とルー氏は言う。「あまりアグレッシブになりたくありませんが、これでアメリカのティファニーやティファニー・パテックへの扉が開かれました。これは、アレックスや(パテックUSA社長の)リサ・ジョーンズ氏との長いお付き合いと冒険の始まりになると思います。チャリティ、フィリップス、パテック、ティファニー、すべてがひとつになりました。これは素晴らしいことです」
もしあなたが今これを読んでほんの少しでも嫉妬を感じるのなら、究極の入手困難時計を手に入れたばかりのルー氏でさえ、水平線の向こうの手に入らない作品を見つめていることを知っておくべきだ。例えば、同じ色合いのもうひとつのパテック、これまで知られていなかったティファニー刻印でティファニーブルーダイヤルのパテック フィリップ ノーチラス5740ユニークピースが、先週末、時計界のインターネットをにぎわせた。その持ち主? LVMHの会長兼CEOであるベルナール・アルノー氏である。彼らがHODINKEEの少数株主であることは、読者の皆様もご存知だろう。
「あの時計は、この世のものとは思えません」とルー氏は言った。「アレックスにメールして、"この時計にふさわしいのは、君のお父さんだよ”と言いました。嫉妬などではなく、ただ純粋に尊敬の念で、彼は完全にそれに値すると思うのです。私が買ったこの時計はティファニーブルーで、フィリップス経由、ジュネーブのユニークな証明書が付くということで、希少さという点では、あの時計に最も近いものです」。
ルー氏は、自分が手に入れたばかりの5711が、それなりの論争を巻き起こしていることを承知している。独占と扇動広告の象徴と声を上げる懐疑論者たちがいるのだ。しかし、彼は気にしない。
「他人がどう言おうが、本当に何の感想もないんです」と彼は言った。「これは、最もアイコニックな時計ブランドが、現在LVMHの傘下に入っている最もアイコニックなジュエラーと組んだ、最もアイコニックな時計モデルなのです。これ以上、何を求めるのでしょう。ファッション、時計、ジュエリー、すべてをひとつの時計で体現しているのですから。サファイアクリスタルのリシャール・ミルが500万ドルや600万ドルで売られているのなら、この時計がそうならない理由はないでしょう」
All images by James K./@waitlisted.
フィリップスについて詳しくはオンラインをご覧ください。
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