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Photos by Mark Kauzlarich
チューダー ブラックベイ GMTは、何年も私をあざけってきた。
私はロレックスのペプシ、Ref.1675の現代版の発売をひそかにずっと待っていた。1675は、私が時計に興味を持ち始めたころにひと目惚れしたモデルで、何年も前から夢中だったのだ。ニューヨークにあるソーホー(SoHo)のRRLストアに入ったとき、ケースに陳列してあったその時計が目に飛び込んできたのを覚えている。試しにつけてみると、その瞬間、世界でいちばん価値のある時計を身につけたような気がした。それからずっと欲しかった時計である。
私はブラックベイ 58を購入し、ペプシロレックスの購入希望者として名前を記入してからしばらくして、待ち時間が長くなってきたからそろそろだといいなと思っていたら、ブラックベイ GMTが私の名前を呼んだのだ。
そこには、私のために用意されていたものがあった。“(購入するまで)待ち時間はありません”、そして、“あなたがずっと望んでいた、ペプシの象徴的なベゼルとフライヤー型GMTを手に入れることができます”とそこに書かれていた。私のように高値のロレックスを我慢するのがやっとの人たちのために、時計をもっと手頃な価格にする動きには賛同するし、かなり前からチューダーは十分な実力を持っていたとも思う。しかしブラックベイ GMTにはいつも、乗るか乗らないかの二者択一を迫られ、歯がゆい思いをしてきた。
ただ長年ロレックスを手に入れることを夢見てきた私にとって、手首に装着したブラックベイ GMTを見ると、欲しくても手に入れることができない時計を思い出す存在になってしまうのではないかと心配した。この時計は私が欲しいと思っていたものに似通っていて、しかも兄弟ブランドのものだったのになかなかうまくいかなかったからだ。
その思いが今日変わった。確かに文字盤が新しくなっただけに見えるが、今この文字盤を見た私の目には、チューダー ブラックベイ GMTがついに独自の時計になったと思えるようになった。
これもチューダーが得意とする、歴史とファンの両方に敬意を表しているものなのだ。トニーが紹介したように、この新しいオパラインダイヤルは、伝説的な(そして本物かどうかは定かではないが)“アルビノ”ロレックス GMTマスターのリファレンス6542を彷彿とさせるものだ。そのオリジナリティについての論争はまだ続いている。今日、私がジョン・ゴールドバーガーに尋ねたところ、彼でさえ“難しい質問だ”と言っていた。しかし、ロレックスのアーカイブには、このホワイトダイヤル GMTの記録が残っていると、確かな筋からの情報は入っている。チューダーは再び論争の火種を作ったのかもしれないが、歴史がどれだけ正確かなんて問題は、結局のところ重要ではないのかもしれない。
ハンス・ウィルスドルフがかつて経営していた会社からリリース(ロレックスのラインナップにあるメテオライト文字盤は省く)されたであろう、少なくともひとつの核となるホワイトダイヤルのGMTが本物であることは疑う余地はない。そしてこの飽きた決まり文句を使うのは本当は嫌なのだが、写真よりも実機のほうがいい。
まあ、普通の意味ではよくないかもしれない。でも違う印象を与えるのだ。
発表当日の朝、HODINKEEの“war room(作戦会議室)”内では、文字盤は意外だったが写真だけではちょっと平面的だという雰囲気があった。ある意味、それは完全に間違っているわけではない。フラットなホワイト文字盤を備えており、コントラストのほとんどは文字によるものだったが、ホワイト文字盤のデザインコードとしてはややユニークな試みである。実際に、私が好きな白文字盤の時計を考えてみると、どれも全面的に白のモチーフ(多くのグランドセイコーのように)に寄っていたり、コントラストで遊んだパンダダイヤルだったりした。チューダーやロレックスのラインナップのなかで、時代錯誤とはいわないまでも、業界のあらゆる時計のなかでもはっきりと独特の存在感を放っていた。思ったとおり、誰もが過信していたロレックスのポーラー エクスプローラーとは違うものだ(ロレックスはもっととっぴなものをリリースしてくれた)。でもハンス・ウィルスドルフの歴史のなかで、そういう幻が登場したというのは、大きくうなずける話だろう。
この時計の技術的なスペックについてとやかく言うつもりはない。ブラックベイ GMTの文脈からすれば、何も驚くようなことはないからだ。同じ41mmケース(人々が期待していた39mm径ではない)に、同じCOSC認定マニュファクチュールムーブメントであるCal.MT5652を手に入れることができる。そしてそれは、人によっては赤信号になるかもしれない。ブラックベイ GMTの話題で必ずと言っていいほど出てくるのが、デイトホイールがうまく機能しないという問題である。私はこれを所有していないためその問題がどれ程広範囲にわたって広まっているのかわからないため、問題を抱えている人のうち、それなりの数の人に起こったような話だと同情的には思う。しかし、チューダーはムーブメントが意図せず機能しないことを確認せずに、新しいブラックベイ GMTを発表することはないと信じている自分もいる。
そうそう、文字盤ひとつで全然違うという主張をしているんだった。だとしてもそれはそれで嫌なのだが。既存モデルのリダイヤルというのは、正直なところ、書いていてワクワクすることが少なくてつらいのだ。時計が自己を反映していることが原因かもしれない。歴史へのマニアの憧れだからだろうか。ただもしかしたら、それはあなたが探していたものの可能性もある。
ただ言えることは、チューダー ブラックベイ GMTは、兄弟モデルとの比較においても、これまで以上に個性的な存在になったということだ。そしてそれは必要なことだったのだ。