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時計には製造段階で正式な名称が付けられている - 少なくともリファレンスナンバーは付与されているはずだ。だが、ニックネームは? 時計にはニックネームがあっていい。まず、時計愛好家のコミュニティならば愛称をつけて然るべきだし、次に、その愛称は十分に通用するものでなければならない。最高のものは、会社が考えていたものに取って代わることだってある。スポーツ界がアールヴィン・ジョンソンとして生まれた若者を"マジック・ジョンソン"と呼ぶのと同様に。
ニックネームは楽しいものだ。ニックネームはクールだし、実用的でもある。時計を覚えやすいものにするからだ。ケースの形やベゼルの色、それを身に着けていた重要人物の名前などを思い浮かべることができる。時が経てば経つほど、「なぜ」は重要ではなくなる。愛称とは長く続くものなのだ。
我々自身の楽しみのために、また、これが我々の仕事とも言えるので、最近、現存する全ての重要な時計のニックネーム・リストを作成してみた(いくらでも長くできたが、我々は60でストップした)。そして、それぞれの名前の独創性、時計の精神をどれだけよく捉えているか、また、どれだけ広く使われているか、に基づいて議論を重ね、好きな名前のランク付けをした。そして今、我々の選んだ12のお気に入りを、皆さんに披露しよう。
読者にもお気に入りの時計のニックネームを投票してほしい。ここでは我々が選んだニックネームと選ばれなかったニックネームを知ることになると思う。来週、結果を発表し、HODINKEEコミュニティのチャンピオンを決定したい。
12. パデローネ
"パデローネ"はイタリア語で"フライパン"を意味し、私の知る限りでは、少なくとも2つの時計にこの名前がつけられた。
最初の、そしておそらくより知られているのは、ロレックスのRef.8171トリプルカレンダームーンフェイズだろう。これは熱心なロレックスのコレクターにとってはユニコーンのような時計であり、昨年フィリップスのジュネーブオークションに出品された際には、98万スイスフランで落札された。理由は明確だ。とてつもなく個性的な時計で、盛り沢山の魅力が詰まった堅牢なケースは、(ロレックスにしては)非常に複雑な文字盤と美しいコントラストをなしているのだ。
もう一つはパテック フィリップのRef. 3448で、1962年(『007ドクター・ノオ』の公開とキューバ・ミサイル危機が起こった年)に発売された。ロレックスと同様に、ムーンフェイズ搭載の複雑機構のカレンダーだが、Cal.27-460パーペチュアルカレンダーの中には時計づくりの情熱が込められている。
時計としての洗練という点では全く異なるが、共通しているのはフライパンのような雰囲気だ。どちらも当時としては大きめのケースを持ち、スラブサイドのケース側面と、大きくシャープな角度をとったベゼルを備えている。この2本があれば、素敵な時計2本コレクションになるだろう。敢えてフライパンから飛び出して火の中に入る覚悟の財力があれば。
– ジャック・フォースター
11. ディスコ ボランテ
"ディスコ ボランテ"とは空飛ぶ円盤を意味し、長年にわたり愛好家たちの間で有機的に、あるいはオークション業者の間で楽観的に、多くの時計につけられてきた(多くの場合、目立った段差のついたステップベゼルになっているか、あるいは珍しい形のベゼルを備えている)。
最も古典的な例の一つは、約6年間(1954年~1960年)だけ生産されたパテック フィリップRef.2552であり、第二次世界大戦の直後に、高級時計ブランドの間で行われた、珍しいケースデザインを使った多くの興味深い試みを体現したものだ。
Ref.2552は、かなり幅広で段差のあるベゼルを持ち、パテック フィリップ初の自動巻きムーブメントであるCal.12-600を、ねじ込み式の裏蓋と共に採用した。今日では控えめな時計のように見えるが、1955年当時のパテックとしては、非常に異色な時計に見えたに違いない。空に現れる円盤のような形は、人々の想像力をかきたてたことだろう。
- ジャック・フォースター
10. ダークロード
ダース・ベイダーが時計を身に着けていたとしたら一体どんなものだっただろうか? ホイヤー のモナコ Ref. 74033N、別名"ダークロード"は、権力に邁進する悪魔のようなファンタジーキャラクターにちなんで名付けられた。ロード・オブ・ザ・リングのサウロンやハリー・ポッターのヴォルデモート卿を思い浮かべてほしい。ダークロードは、スティーブ・マックイーンが有名にしたモナコをベースに、不気味な漆黒のマットPVDケースで提供されている。ダイヤルは単色で、クロノグラフ機能に付随する針の1970年代風の夜光のオレンジ色が、唯一ポップな味付けだ。ルーク・スカイウォーカーがダークサイドに屈し、オレンジ色のライトセーバーを振り回していたとしたら身につけていたかもしれない時計だ。
- コール・ぺニントン
9. ニナ・リント
永続的なアイコンを生み出すには、完璧なタイミング、忘れがたい魅力、そして少なからずの個性が必要だ。時計も同様で、おそらくユニバーサル・ジュネーブのコンパックス"ニナ・リント"は、2重の意味でそうなのだ。この見事なパンダダイヤルのモータースポーツ・クロノグラフは、1960年代半ばから後半にかけて活躍したオーストリアのF1ドライバー、ヨッヘン・リントの妻であり、モデルでもあるニナ・リントの手首に常に装着されていたことからその名が付けられた。
ニナと彼女が愛用したユニバーサル・ジュネーブの時計はサーキットの外でもしばしば目撃され、黒地に白のバージョンのモデルは、すぐに"エヴィル・ニナ"として知られるようになった。モータースポーツの黄金時代と深く結びついた非常に収集性の高いニナは、コンパックスの影響力をさらに強めた。彼女が愛用のクロノグラフを使ってピットでタイムを計測し、ヨッヘンがポールポジションを獲得した姿を想像すると、今でもワクワクしてくる。
- ジェームズ・ステイシー
8. エド・ホワイト
オメガ スピードマスター Ref. 105.003が"エド・ホワイト"と呼ばれるのには、それなりの理由がある。宇宙飛行士のエド・ホワイトが1964年のジェミニ4号ミッションでアメリカ人初の船外活動を行った時に着用していたものなのだ。ホワイトは、1967年1月のアポロ1号システムの発射台テスト中に亡くなったが、この時計は有人宇宙飛行における彼の先駆的な役割を記念して生き続けている。
これはいろいろな理由で私のお気に入りのニックネームの一つだ。私はテレビの生放送で月面を歩く男性を見たのを覚えているくらいの年齢だが、スピードマスターは私が最初に欲しかった時計だった(広告キャンペーンのおかげで、当時、宇宙飛行士志望でジェミニやアポロの飛行士がスピードマスターを着用していたことを知らない人はどこにもいなかったと思う)。第2に、この時計とその名は、巨大な宇宙ステーションや月面基地、そしてもしかしたら刺激的なエイリアンの侵略がすぐそこまで来ているかもしれないという、有人宇宙飛行の初期の熱気に満ちた時代を体現しているからだ。第3に、この時計自体が古典的なリファレンスであり、そのディテールは今でもスピードマスターの愛好家たちの心を揺さぶる力を持っている。
私がこのニックネームについて最も気に入っている点は、時計以上のものを表しているということだ。それは、人類の知識を広げ、より大きな宇宙への最初の一歩を踏み出すために、あまりにも若くして命を落とした勇敢な人物の名前なのだ。
スピードマスター エド・ホワイトは、月面でのニール・アームストロングの最初の言葉よりも、もっと強烈で記憶に残る言葉を言った男のことを、いつも思い出させてくれる。ホワイトは宇宙遊泳中の体験に夢中になり、地上管制官にカプセルに戻るよう命令された際にこう言った 。「(帰還命令を受け)戻っているよ...これは私の生涯で最も悲しい瞬間だ」
- ジャック・フォースター
7. ハルク
ロレックスの"ハルク"サブマリーナーに欠けているものがあるとすれば、紫色のショートパンツだけだ。これはサブに与えられた最初のニックネームではないが、我々は最高だと思っている。他にも"カーミット"(緑色のベゼルと...まあ、それだけが理由なんだけど)や、ホワイトゴールドとブルーベゼルの"スマーフ"などが候補に挙がった。しかし最終的には、どちらもハルクほどのインパクトが無かったのだ。
カーミットとは異なり、話題のハルクはサンレイダイヤルも含め、全てがグリーン。そして、そのニックネームは色だけから得たのではない。この緑の時計は2010年に発表され、より広く、より大きくなったプロポーションと、傷のつきにくいセラミックベゼルが、当時の新しいロレックスのマキシケースに搭載されたのだ。全てのサブマリーナーのニックネームの中でも、このモデルは本当にその名前に相応しい。見て、名前を聞いて、「ああ、なるほど 」と納得できる時計だ。
- ダニー・ミルトン
6. プッシー・ガロア
Ref. 6542には多くの特徴がある。第1に、ロレックス初のGMTモデルであること。第2に、ベークライトベゼルを採用しており、その壊れやすさと微量の放射性物質で知られていること。最後に、忘れられないニックネームの"プッシー・ガロア"は、個人的に好きなジェームズ・ボンド映画の一つである『007ゴールドフィンガー』の悪役を演じた故オナー・ブラックマンが着用していた有名な時計であること(シャーリー・イートンが金色のボディペイントで殺される映画)。ガロアはゴールドフィンガーのパーソナルパイロット(それゆえ6542)だ。彼女はボンドと出会い、彼の誘いを拒絶するが、最終的には誘惑されてしまう。その間ずっとこの悪名高い時計を着けていた。
プッシー・ガロアは、女性の名前を冠した数少ない時計の一つ。他の例としては、ニナ・リントしか思いつかないわ...「カーラ」が登場するようになるまではね。
– カーラ・バレット
5. スノーフレーク
このニックネームをもつ時計は一つではないので、どちらのスノーフレークにしようか悩む人もいるだろう。でも、実は我々はスイスと日本の双方のスノーフレークが好きなのだ。
オリジナルは第二世代のチューダー サブマリーナーで、初期のモデルは1969年にまで遡る。これらのチューダーサブマリーナーは、それ以前のモデルや有名なロレックスのサブマリーナーに採用されているベンツハンドとは対照的な、珍しいスノーフレーク型の時針によってこの名前を獲得した(日本語では“イカサブ”とも呼ばれる)。コレクターたちはこれらの時計を愛し、ヴィンテージを探せば、チューダー"スノーフレーク"サブのブラックとブルーダイヤルのモデルを見つけることができる。後者は、今年初めにチューダーがブラックベイ フィフティ-エイト“ネイビーブルー”を発表し、それがフランス海軍に採用されるという栄誉に与かった。スノーフレークのような風変わりなニックネームのインスピレーションを与えたデザインがあれば、それを復活させなければならないのだ。チューダーのブラックベイとペラゴスコレクションは、スノーフレーク型の針を採用している。
もう一つのスノーフレークは、もちろんグランドセイコーのものだ(日本語では“雪白”の愛称で親しまれている)。しかし、このブランドのRef. SBGA211の場合は、ソフトホワイトの文字盤の、雪を連想させるような繊細な質感がその愛称の由来となっている。降ったばかりの雪のイメージが頭に思い浮かぶのだ。10年前に発売されて以来、カルト的な支持を得ているこの時計の真髄を表現したファンの造語であり、グランドセイコーを代表する愛称となっている。同社には、スノーフレークをテーマにした他の時計もある。水色のテクスチャードダイヤルを持つブルースノーフレークSBGA407は、スカイフレークとも呼ばれている。また、白のテクスチャードダイヤルに赤のアクセントが付いたものもある。お察しの通り、それはレッドスノーフレークと呼ばれている。妹ブランドのセイコーは、グランドセイコーに全てのスノーフレークを独占させたくなかったようで、プレザージュSARX055というよく似た時計をリリースしたとき、コレクターたちはそれを"ベイビーGS スノーフレーク"と呼んだ。
- ジョン・ビューズ
4. セイコー ツナ
セイコーのもつニックネームから、ただ一つを選ぶのは困難だ。チョイスはいくらでもあり(それぞれ相応しい)、セイコーの無限のリファレンスナンバーの中から、愛称によってファンは時計を探し出すのだ。僕たちは"タートル"から"モンスター"に至るまで、それら全てが好きだが、お気に入りは、独特の頑強なつくりで完璧なまでに魅力的なセイコー"ツナ"だ(日本語では“ツナ缶”とも呼ばれる)。
1975年に発売された初代ツナ缶は、厚く堅牢なケースに覆われた完璧なまでにダイビング用のRef.6159-7110で、当時としては信じられないほど最先端のデザインであった。それ以来、クォーツムーブメントを搭載したものも含め、セイコーの、特別に大きくてがっしりしたこのダイバーズウォッチは、大人気のSBDX005やSBDX011、セイコーアーニー、"ベイビーツナ"など、さまざまなバージョンに愛称が付けられている。愛称はセイコー愛好家たちにとって重要な略語として機能するが、これは特別だ。手首で誇らしげに存在をアピールする、タフでごつい、堂々としたダイバーズウォッチに相応しい名前は、"ツナ缶"以外に見当たりそうもない。
- ジェームズ・ステイシー
3. プレジデント
不倫を隠そうとするならば、一般的には、ゴールドに刻まれた愛の記録を欲しがらないものだ。しかし、マリリン・モンローがジョン・F・ケネディにロレックスのデイデイトをプレゼントしたとき、裏蓋には次のように刻まれていた。
JACK
With love as always
from
MARILYN
May 29th, 1962
日本語にするならば、
ジャックへ
いつものように愛をこめて
マリリン
1962年5月29日
ケネディは、モンローが高級時計という形で自分の立場を吹き飛ばすのではないかと危惧し、その時計を身につけないことを選んだ。しかし、彼は1956年に発表されたエキサイティングな新作ロレックス デイデイトを所有した初の大統領となり、後任のリンドン・ジョンソンは、そのモデルを腕に着けてホワイトハウスを闊歩した初の大統領となった。それ以来、この時計は「プレジデント」と呼ばれるようになったが、JFKのものは「マレット」という愛称で呼ばれてもおかしくないだろう。仕事もするがパーティも好きなのだ。
- ニック・マリノ
2. ポール・ニューマン
ポール・ニューマンという名前は、今では時計収集家の間では当たり前のように使われていて、それが他の何かで呼ばれていたとは思えないほどだ。しかし、1960年代に最初にリリースされた時、サブダイヤルの珍しいスクエアエンドマーカーのために、"エキゾチックダイヤル"デイトナと呼ばれていた。そして話によると、誰もそれを欲しがらなかったという。
1990年代初頭、イタリアとアメリカの時計ディーラーは、このエキゾチックなダイヤルのデイトナを、何百と買い始め(冗談ではない)、青い目をした俳優の有名な写真から「ポール・ニューマン」デイトナという新しい称号を与えた。この名前は定着した。今や最も有名な(少なくとも知られている)ヴィンテージウォッチは、特定の男性の特定のイメージからそのアイデンティティを得、ヴィンテージウォッチについての考え方や収集の仕方全体を変えてしまった。
- カーラ・バレット
1.ペプシ
ロレックスのGMTマスターとGMTマスターIIの赤と青の配色を見れば、なぜ"ペプシ"と呼ばれているのかがわかるだろう。 しかし、本来のインスピレーションは、パンアメリカン航空という別の会社から来ていることを覚えておきたい。元々はパンナムのパイロットのために作られた時計だったのだ。同社は1991年に倒産したが、ペプシは1950年代から赤と青のロゴを使用していたため、自然にニックネームが取って代わったということだ。
この時計は、非公式とはいえ、面白い意味で2つのメガブランドがコラボレートした初期の例かもしれない。ペプシは現在、フォーブスの「最も価値あるブランド」ランキングで36位、ロレックスは80位にランクインしている。この2つのブランドが存在することで、このニックネームの認知度が高まり、ニッチな時計収集の世界を超えて、広く世界に浸透しているのだ。見たままのニックネームだが、それが爽快でもある。
そしてそこが好きなのだ。
- コール・ペニントン
編集後記: アメリカ版で投票が行われすでに結果も出ています。それについては、記事「みんなが好きなニックネームのついた腕時計」をご覧ください。