ADVERTISEMENT
スイス時計の輸出はこの2月に大きく減少した。主力市場である米国への出荷が減少し、最高級モデルに対する需要も後退したことが背景にある。
スイス時計協会によると2月の輸出額(卸売ベース)は19億8000万スイスフラン(日本円で約3350億円)で、前年同月比で8.2%の減少となった。
スイス時計の海外市場への出荷が大幅に減少したことは、業界全体で需要の減速が続いていることを示唆しており、底堅いとされてきた米国の消費者の購買力に対する新たな懸念も浮上している。価値ベースで見た場合、2024年の輸出は2020年以来初めて減少に転じ、過去3年続いた記録的な水準に終止符が打たれた形だ。
スイス時計の輸出は下降トレンドに。
出典: Federation of the Swiss Watch Industry
今年2月、スイス時計にとって最大の単一市場である米国向けの出荷額は、前年同月比で約7%減少した。2024年に入り、観光ブームと円安を背景に好調だった日本向けの輸出も19%の大幅減となった。業界全体の減速を主導している中国本土および香港向けの需要も低調で、それぞれ25%減、12%減となった。
そのなかで唯一成長を示したのは、スウォッチグループのオメガ×スウォッチによるムーンスウォッチコレクションなど、卸売価格が200スイスフラン(日本円で約3万4000円)未満の時計であった。これに対し、3000スイスフラン以上の高価格帯モデルは金額ベースで7%、数量ベースで16%の減少を記録。500~3000スイスフラン(日本円で約8万5000円〜50万円)の中価格帯モデルはさらに悪く、金額ベースで15%の下落となった。
輸出の低迷は、すべての価格帯に広がっている。
出典: Federation of the Swiss Watch Industry
一部の業界関係者は、米国市場における消費者心理の悪化を懸念している。新政権による数々の通商政策やそれに伴う経済的不透明感が、その背景にあるとされる。
「30年のキャリアのなかで、これほど長期的かつ問題のあるトレンドを見たことがありません。業界全体が、この問題に直面しています」と、ブライトリングのCEOであるジョージ・カーン(Georges Kern)氏は2月の輸出統計が発表される前のインタビューで語っている。
カーン氏によれば高級品の購入は先送りされているが、米国消費者の購買意欲は、通商および経済政策の明確化とともに回復するだろうと予測している。
「非常に不安定ですが、いずれ回復します。この輸出入をめぐる対立は無駄であり、誰の得にもなりません」とも述べた。
カーン氏は米国における規制緩和が消費を刺激すると見ており、むしろ欧州の消費者動向のほうに強い懸念を示している。
スウォッチ グループ CEO、ニック・ハイエック氏。
スウォッチ グループ AGの最高経営責任者であるニック・ハイエック(Nick Hayek)氏は、香港やマカオを含む大中華圏での需要が依然として低調であると述べている。同地域はロンジン、ティソ、ブレゲといったブランドを擁する同グループの売上のおよそ27%を占めていたが、2024年には30%の減少となった。
「中国は巨大な存在です」と、ハイエック氏は今週スイス・ビエンヌでの記者会見で語った。「消費が落ち込んでいるようですね」
スウォッチ グループの各ブランドは生産を抑制しているものの、大半の従業員はそのまま生産拠点にとどめており、ハイエック氏によれば年央にも需要が回復する可能性があるという。
「小売業者に無理に在庫を増やして欲しくはありません」と、ハイエック氏は言う。
「消費者は消費したいと思っているでしょう。ただ、それが“いつ”かというだけの話です」
記事の全文はこちらから