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Photos by Mark Kauzlarich
我々が知っていること
トレダノ&チャン(Toledano & Chan)が手がけたB/1は、控えめに言っても衝撃的なデザインである。1970年代を思わせる彫塑的なデザインであり、ブルータリズム建築の一部でもあるようなこの時計は、ドレスウォッチとスポーツウォッチのハイブリッドとも言える。その特異なスタイルと4000ドル(日本円で約62万3000円)という非常に良心的な価格設定から、この時計は現在の(著しく盛り上がっている)独立時計フォーラムの枠外に存在することを目指して作られたように思える。
アーティストであり、時計コレクターであり、Talking Watchesの出演者でもあるフィル・トレダノ(Phil Toledano)は、70年代の独創的な時計デザインの申し子である。私たちは過去に、このテーマについて大いに語り合った。彼はパテックを、デザインルールが欠如していたこの10年間において、独創性を示した明確な勝者だと捉えている。トレダノの70年代に対する愛は、力強く彫刻的な当時のデザインへの賛美からくるものだ。ケースの構造、ブレスレットの素材、そして色彩の調和を高く評価している。トレダノの1970年代デザインへの傾倒は、ヴィンテージロレックス愛好家がひしめいているなかで行われているただの逆張りではない。彼は本当に、独創的な発想の発露に敬意を払っているだけだ。結局のところ、彼はアーティストなのだ!
トレダノ自身の時計コレクションについて尋ねれば間違いなく、一風変わったケースシェイプの時計や複雑な細工のメタルブレスレットについて饒舌に語るだろう。この時代らしい角ばったデザインや質感のあるブレスレットを、私たちふたりはともに好ましく思っている。これらの要素はそれぞれが調和し、まるでひとつの彫刻のような美しさを醸し出す。トレダノはどんな時計に対しても、ひとつの作品、ひとつの造形物として見ることがいかに重要かを説いている。
過去10年間中国で時計のデザインをしてきたビジネスパートナー、アルフレッド・チャン(Alfred Chan)と一緒に作った彼自身の時計にも同じことが言える。彼らはソーシャルメディア上で出会い、ブルータリズム建築への愛を時計の形に昇華させながら広く世界に発信することを決めた。「最初に彼と話し合ったときは特定の時計についてではなく、ブルータリズム建築の側面について、特にニューヨークのメット・ブロイヤービル(現在は旧メット・ブロイヤー)の非対称な形の窓について話をした。我々はそれを時計という形に置き換えたかったんだ」
B/1はステンレススティール製で、直径は33.5mm、厚さは9.1~10.4mm(ケースが傾斜しているため)、クローズドケースバックを採用。デストロウォッチ(リューズが左側にある)であり、42時間のパワーリザーブを有するスイス製の自動巻きムーブメント、セリタSW100を搭載している。この時計はまさに、ブロイヤービルの窓のミニチュアレプリカであるかのような実に珍しい形状をしている。不規則かつ角ばったケースでその特徴的なデザインを模し、そこにラピスラズリ製の文字盤と小さく角ばった時分針が取り付けられている。この極めて幾何学的なデザインには明快な狙いが感じられ、最近SNSのフィードを賑わせているピアジェやパテックのワイルドで大胆なデザインのヴィンテージウォッチの多くと似ていなくもない。いずれにしても、ディスコ的なノスタルジアを現代的にアップデートしたもののように見える。それはスローバックというより、シェイプとフォルムに対する粋な頌歌なのだ。
私はトレダノに、ブルータリズムというものについて詳しく尋ねた。B/1のデザインとブルータリズムの関係性を、より正確に知りたかったからだ。「硬質なラインと、光と影の演出、その両方が幾何学的なフォルムを生み出すために使われている」と彼は語る。「ブルータリズム建築とはその本質において、重厚かつ極限まで削ぎ落とされた彫刻的なフォルムを指す。ロンドンのバービカン・センターやボストン市庁舎を見てほしい。それらは巨大なコンクリート造形でありながら、面と影の使い方によって信じられないほど見事な彫刻的造形を実現している」
「リューズ以外はすべて直線的だ」と、チャンが言う。「ブレスのリンクはたくさんの陰影を作り出す。屋外や室内で着用してみると、光の加減で微妙に違う影ができるんだ。それは日光との戯れを見せる多くのブルータリズム建築にも共通することだろう」。ケースとブレスレットの構造、そしてスティールに交互に施されたポリッシュ仕上げとサテン仕上げが硬質かつ幾何学的なフォルムを生み出し、それが有機的なラピス文字盤と見事なコントラストを成している。
時計製造におけるラピスとは、非常に鮮やかで均一なブルーであるのが通例だが、これは70年代にスイスのメーカーが確立した“美の基準”によるものだ。トレダノはB/1のラピスダイヤルを、ギャラクシーダイヤルと呼んでいる。「まったくもってチープだよ。だが、私にとっては不完全なほうがずっと美しく見えるんだ」と彼は語る。有機的な不完全さは、この時計の彫刻的な造形とはまるで対照的だ。ブレスレットからケース、針に至るまで、その形状には連続性がある。また、リューズを左側に配置することで、ケース最外周のスムースなフォルムを確保している。
トレダノもチャンも、ロレックス マイダスのブレスレット、リューズの配置などからインスピレーションを受けたモデルであることを認めている。しかし、直線的なデザインはマイダスの専売特許ではない。ピアジェのポロもまた、その爬虫類のようなブレスレットで1970年代らしい華やかなデザインを表現している。
我々の考え
昨今のコレクターコミュニティでは、誰もがユニークな形状の時計に引かれているようだ。「この時計を作るきっかけとなった大きな要因は、我々を取り巻くもの、時計に向けられている反応だった」とトレダノは説明する。「マーケットはまるで、無限に続く復刻モデルの狂宴によって分断されているように見えた。40年代、50年代、60年代、クロノグラフにパテック……、それがなんであれ、あらゆる時計に価値が見出されていた。そして独立系ブランドにおいては、ロココ調の高揚感あふれるデザインの時計がとんでもない価格帯で販売されていた」
B/1を何度か試着してみて、その極めて角ばったデザインに感銘を受けた。巧妙に隠されたリューズのほかに、曲面がまったく見当たらないのだ。「我々は一切の芸術的妥協を許さず、真にブルータリズム的な表現をしている」とトレダノとチャンが声高に主張しているかのような雰囲気である。今日の時計デザインは病的なまでに想像力が欠如していると言わざるを得ないなか、大胆かつ勇敢で、エキサイティングなモデルだと感じた。その値段がいくらであろうと、既成概念にとらわれない挑戦(時計とは身につけられるものでなければならないため、常識の範疇で)をする人々に拍手を送りたい。
B/1は、20万ドルの値札を付けずともモダンな感性を得られることを証明している。もちろん70年代のデザインに影響を受けているし、ロレックスのマイダスからインスピレーションを得ていることは間違いないが、非常に巧みに作られたケースにラピスダイヤルの時計だ。このような時計は、4000ドルの価格帯には存在しない。
芸術と手ごろな価格の時計作りを結びつけようと、ふたりの友人が一緒に時計を作るという物語……、これだけ聞いても涙が出そうだ。「ちょっと単純な考えかも知れないが、何か特別なことの始まりを予感させるような時計をを作れないだろうかと思ったんだ」とトレダノは言う。「本当に価値のある時計について考えてみると、それらはすべてシェイプが基盤になっている。きっと大多数の人にとって、理想とはアイコンになるような作品を作ることなのだろう」
トレダノもチャンも、製品を作り上げるという経験は天からのギフトのようなものだと説明した。「誰もが、ゼロから何かを作るチャンスを与えられるわけではない」とトレダノは言う。「アーティストとして重要なのは、何か新しいことを表現しようとすることだと思う。そのためには、時計の世界における概念をできる限り、ほんの少しでも外側に広げてみることがとても重要だった」。これは、いわゆる過去の時計の焼き直しではない。時計デザインのあり方に改めて焦点を当てた、新しい、そして今まさに必要とされているモダンウォッチの一種であるように感じられた。
基本情報
ブランド: トレダノ&チャン(Toledano & Chan)
モデル名: B/1
直径: 33.5mm
厚さ: 9.1〜10.40mm(ケースが傾斜しているため)
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: ラピス
インデックス: なし
夜光: なし
防水性能: 5気圧
ストラップ/ブレスレット: 一体型
ムーブメント情報
キャリバー: セリタ SW100
機能: 時・分表示
パワーリザーブ: 42時間
巻き上げ方式: 自動巻き
価格 & 発売時期
価格: 4000ドル(日本円で約62万3000円)
発売時期: 5月16日(木)
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