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ブレゲ マリーン トゥールビヨン エクアシオン マルシャント 5887は、2017年に初めて登場し話題をさらった時計です。当初は、ブルーダイヤルを備えたプラチナケースとシルバーダイヤルを備えたローズゴールドモデルの2種類がラインナップ。ブレゲは、今年の新作としてローズゴールドケースにスレートグレーダイヤルを配した本モデルをリリースしました。マリーンコレクションは、その名の通り海洋とのつながりを感じさせる意匠が数多く盛り込まれたモデルがあり、本機はその中でも最も複雑な機構をもった時計です。直径43.9mmと比較的大きなケースには、トゥールビヨンに加え、パーペチュアルカレンダーとイクエーション・オブ・タイム(均時差)の表示を併せ持っています。また、ペリフェラルローターによる自動巻き方式が採用されています。
文字盤は、現行のマリーンコレクションでお馴染みである海の波をモチーフとしたギヨシェが目を引きます。文字盤をさらに詳しく見てみるとチャプターリングがわずかに中心から外れていることが分かります。創業者のアブラアン–ルイ・ブレゲの作品でも、こうして中心軸から外れた部分に文字盤を配置する時計はいくつもありましたが、マリーン トゥールビヨン エクアシオン マルシャント 5887はそれらよりも控えめな配置となっています。5時位置には、トゥールビヨンがあり、開口部にはイクエーション・オブ・タイムのためのソラマメ型のカムも確認できます。
先端に船の錨のモチーフをもったレトログラード式の針で日付を表示し、均時差を表示するためのランニング・イクエーション・オブ・タイムの針は太陽のモチーフが付いています。なお、スーパールミノバは、時針と分針にのみ塗布されています。インデックスは、ローマ数字とスーパールミノバがのった小さな三角形で、チャプターリングと組み合わさった外観は、船の操舵輪を連想させます。海の意匠を数多く盛り込みつつもやりすぎず、ブレゲらしいエレガントさはしっかりと維持されている印象です。
本機の最も特徴的な機能はイクエーション・オブ・タイム、すなわち均時差を表示することができる点です。
均時差とは、平均太陽時(1年を通し1日を24時間で区切った時間)と真太陽時(地球が太陽のまわりを回る軌道が完全な円ではなく楕円のため、太陽の南中から次の南中までの時間は一定ではない)の差です。
– ブレゲ公式サイトはるか昔から太陽は、時間計測の基準でした(日本でも江戸時代には、不定時法と呼ばれる時間制度が導入されていた)。しかし、通常我々が使っている平均太陽時とは違い、見かけの太陽の動きは常に一定ではありません。マリーン トゥールビヨン エクアシオン マルシャント 5887は、均時差表示を、5時位置のトゥールビヨンの開口部に見られるソラマメ型をした均時差カムによって実現しているのです。
今となっては、抽象的でどちらかといえば視覚的に面白い機能に感じられますが、かつては航法などで必要とされる重要なものでした(イクエーション・オブ・タイムの計算については、ジャック・フォースターによる「ブレゲ マリーン トゥールビヨン エクアシオン マルシャント 5887」をご参照ください)。また、航法の他にも日時計と均時差を活用して時計の平均太陽時を設定するといったことにも用いられました。
ブレゲと均時差表示機能
ブレゲは、1815年にフランス海軍御用達クロノメーター製造者に任命されました。アブラアン-ルイ・ブレゲと彼の息子は、当時最も精巧な均時差表示を備えたモデルの数々を生み出しており、機構そのものも同社の歴史に紐づくもの。上の画像は、均時差表示機能を持つブレゲの懐中時計No.3862のムーブメント(写真出典: ブレゲ公式サイト)
均時差を表示する機構は、実際にはそこまで複雑なものではありません。プラスまたはマイナス何分と平均太陽時に対する差分を表示するものであり、それをもとに自身で計算をする必要があるものなのです。しかし、5887に搭載されているのは2本の分針で、平均太陽時と太陽の南中を基準とした真太陽時を同時に表示するという、さらに複雑なランニング・イクエーション(フランス語ではエクアシオン・マルシャント)と呼ばれる機構が搭載されているのです。
ケースを裏返すとサファイアクリスタルのケースバックから複雑機構を動かすムーブメントCal.581DPEを鑑賞することができます。これは、2014年のクラシック トゥールビヨン エクストラフラット オートマティック 5337に搭載されるCal.581DRをベースに永久カレンダー、そして均時差表示を加えたものです。
通常これらの複雑機構を自動巻きトゥールビヨンとあわせると、ケースにかなり厚みが出ますが、巻き上げにプラチナ製のペリフェラル・ローターを採用することで、わずか11.5mmのケース厚にとどめています。100mの防水性能を持っているという点も注目です。ムーブメントには、かつてのフランス海軍の旗艦「ロワイヤル・ルイ」が手彫りで刻まれています。香箱には羅針盤のモチーフがあり、同様に手彫されており、見た目の美しさも際立ちます。
僕は、前代のマリーン 5817STのブルーダイヤルを所有してます。この文字盤色を選んだのは、そのモデル名からもやはりブルーが最適だと考えていたからです。ですが、新しいマリーン トゥールビヨン エクアシオン マルシャント 5887のスレートグレーとローズゴールドの組み合わせは、ブルーダイヤルとプラチナケースの組み合わせを上回る魅力を感じました。僕がそう感じた理由は、ギヨシェ模様に関係しています。
前代のマリーン 5817シリーズでは、渦を巻いたような波模様のギヨシェでしたが、マルシャントを含む現行のマリーンコレクション(チタンモデルを除く)になってから、波と聞いて誰もが連想する「波頭」がモチーフになりました。特に文字盤上の構成要素が多いマルシャントでは、より直接的で目立つギヨシェと鮮やかなブルーの文字盤に、白く光るプラチナのケースが合わさると少し主張が強すぎる印象を感じたのです。
一方で、同じローズゴールドケースでシルバーダイヤルのバリエーションは、よりクラシックでドレススタイルに近い印象です。新たに登場したこのスレートグレーとローズゴールドの組み合わせは、様々な複雑機構を表示しながらも全体をエレガントにまとめあげ、さらにスポーティさも兼ね備えており、個人的に実に丁度良いバランスであると感じるのです。
マリーン トゥールビヨン エクアシオン マルシャント 5887は、2328万円(税抜)とかなり高価です。しかし、同社の卓越した技術と、文字盤のギヨシェやケースバックのエングレービングといった美しい芸術性との両方を存分に発揮した、壮大な時計なのです。これを手に入れることのできる極小数の幸運な人たちにとっては、かつて海上での現在地を知るために作られた複雑な機構を備えた正真正銘のツールウォッチとして、そして控えめにオフセットされたギヨシェ文字盤やコインエッジといったブレゲの伝統のデザインに則った時計として、両方を存分に楽しむことのできる究極の一本といえるでしょう。
スペック等の詳細は、「ブレゲ マリーン トゥールビヨン エクアシオン マルシャント 5887」の記事をご覧ください。
そのほか詳細は、ブレゲ公式サイトへ。
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