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ここ数年、小振りな時計をコレクターコミュニティーのいたるところで見かけるようになった。豊富なソーシャルメディアコンテンツにより、コレクター(古参も新参も)のあいだで、小振りでデザイン性の高い時計に対する貪欲な欲求が高まっているのだ。セレブリティもこのトレンドを取り入れ(ティモシー・シャラメが女性用のクラッシュを身につけている)、それが世間に“男性が小さな時計を着用すること”への注目を集める原因となっている。さらにカルティエやオーデマ ピゲのようなブランドが新製品をリリースする際、もはやジェンダー概念を厳格な二元論として提示することはない。時計の世界が少し柔軟になってきていると言えるだろう。
新しいミニタンクは、まあ、かなり流行に乗っているのであまり驚きは感じない。とはいえ、その大きさが反響を呼んでいないわけではない。ベン・クライマーの手首にこれほど小さな時計が装着されているという視覚的なコントラストは、その場にいた同僚全員がプレゼンテーションを中断させ、個人のソーシャルメディアで更新するためにスマートフォンで写真を撮る結果となった。その理由を理解するのはそう難しくない。なぜ彼が「タンク」ミニ熱にうなされているように見えたのか、直接尋ねると“私はただ、いままでとは違う新しい時計体験をしたいだけだ”と簡単な答えが返ってきた。
ミニサイズの「タンク」はまさにアール・デコのプロポーションを持つ。ミニを試着したとき、バーグドルフ・グッドマン(Bergdorf Goodman)というヴィンテージジュエリーショップで販売されていた、1925年製のカルティエ ジオメトリックウォッチを思い出した。それが私には合わないことを知りつつも(ヴィンテージのカクテルウォッチよりも、あからさまなセルペンティのほうが好きなのだ)時計を試着したのは、それがエレガントであり、そのサイズ感が当時の産物だったからで、小振りすぎずクラシックに感じられた。新しい「タンク」ミニのサイズは24mm×16.5mmで、魅力的な光沢を放つブラックアリゲーターレザーストラップがセットされている。ラージモデルの現行「タンク ルイ カルティエ」との実質的な違いは、シュマンドフェール(chemin-de-fer)と呼ばれるミニッツトラックがない代わりに、その小さな文字盤を邪魔しないようかすかに線が描かれているところだ。この時計はまた、より大きな先代モデルのミニチュア版というより、クラシックな雰囲気を醸し出している。
小さな時計に憧れることはあっても、プレビューの予約で真っ先に手を伸ばすことはまずない。実際、私は小さな時計を見て目を丸くすることがよくある。Instagramの“小さい時計を再び偉大なものに”という動きに対するお決まりの反応だ。その点、「タンク」ミニに対する私の興奮は予想外のものだった。はっきりさせておくと、これは“レディス”ウォッチという意味でのミニではない。自分の好きなものを、好きなように身につけられるという意味での“ミニ”なのだ。ベン・クライマーのように、この時計を単独でつけて(トップの写真)その小ささのコントラストを楽しむこともできるし、あるいは私のようにジュエリーのなかに混ぜる(スタッキング)という手もある。何もつけていない左手首にクォーツウォッチを単独でつけると寂しく感じるからだ。「タンク」ミニのスタイリングの好みは人それぞれだ。
ミニは繊細だが、過度に高貴すぎない。確かにスタッキングは可能だが、「ベニュワール」のバングルがよりジュエリー的であったのとは異なり、これはミニサイズのエルメス ケリーやマイクロサイズのシャネル クラシックフラップのように、既存の実績を持つものが現在の嗜好に応じて縮小されたものである。まったく新しいものを生み出さなくても、複数のサイズをつくってトレンドの成功に乗じることができるのに、なぜひとつやふたつのサイズを作るだけで満足するのか? フラッグシップモデルをここまで極端に縮小するということは、市場動向に対する一定の自信を持つことを意味する。「タンク」ミニは実験ではない。それは明らかな要求に対する応答であるのだ。おそらく、小振りな時計の大きなトレンドのトップランナーであるバングルの「ベニュワール」の成功が、カルティエに「タンク」レンジ内で小振りなサイズを試みる十分な自信を与えたのだろうか?
「タンク」ミニには技術的に新しいものはない。80年代後半から90年代前半にかけて、カルティエは同じような成功の波が押し寄せ、その結果カタログが拡充された。理論的には、「タンク アメリカン」、「タンク マスト」、「タンク マスト」ソーラービート™️を含む過去数年間のタンクラインの刷新は、異なるスタイル、価格帯、サイズで誰もが望む「タンク」を提供しようという同じ試みである。
これは“レディスウォッチ”ではなく、“すべての人のための小さい「タンク」”なのだ。この時計は、対立を生むマーケティングの道具としてつくられているわけではない。カルティエはただ製品をつくり、それが誰に適しているかは私たちに委ねている。これはユニセックスな時計をすべての人に、というマーケティングトップの熱狂的な夢物語のようなキャンペーンではなく、ジェンダーの流動性に向けた静かな後押しだ。そして、「タンク ルイ カルティエ」の小さな派生型ではなく、ミニサイズの「タンク ルイ カルティエ」であるからこそ、真摯に感じられるのだ。
「タンク ルイ カルティエ 」ミニはイエローゴールドケース、サイズは24mm×16.5mm。クォーツムーブメント搭載。日常生活防水。価格は106万9200円(税込予価)で、2024年9月発売予定。カルティエについての詳細はこちらから。
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