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In-Depth A.ランゲ&ゾーネ 1815 クロノグラフを再考する

真のピュリストによる時計が、真のピュリストの目で再評価される。

本稿は2015年10月に執筆された本国版の翻訳です。

ここ数カ月行った比較において、とくに興味深かったもののひとつが自社製クロノグラフのThree On Threeであった。いずれも手巻きのクロノグラフ機能を備え、かつ自社製ムーブメントを搭載した、とても優れた3本の時計だった。そのとき述べたように、ヨーロッパのウォッチメイキングにおける自社製の手巻きクロノグラフムーブメントを搭載した腕時計は、実際には極めて希少な存在であった。クロノグラフの設計は驚くほど複雑であり、カルティエ(当時)のキャロル・フォレスティエ-カザピ(Carole Forestier-Kasapi)氏が、“優れたクロノグラフムーブメントをつくることは、トゥールビヨンの製造よりもはるかに難しい”と語っていたことを思い出す。一般的に、クロノグラフウォッチを作る際にはヌーベル・レマニア社のような専門サプライヤーからムーブメントを調達するのが通例であった。それゆえ1999年にA.ランゲ&ゾーネが“ダトグラフ”を発表したことは多くの時計愛好家を驚かせた。この時計は瞬く間に世界中で注目を集める。自社製クロノグラフであるだけでなく、自社製フライバッククロノグラフ機能を持ち、さらにきわめて精巧に設計されたアウトサイズデイト表示も備えていたのだ。

Lange 1815 chronograph

 ダトグラフは現在も健在であり、Three On Threeで比較したヴァシュロンやパテックのクロノグラフとも非常にいい対比を見せた。その際、とくにその卓越した構造と仕上げ、そしてムーブメントの驚くべき美しさに多くの賞賛が寄せられた。

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 しかしながら、ダトグラフに対する批判のひとつはその厚みであった。とくにパテックの5170Gと比較した際、その点が指摘された。確かにダトグラフは厚みがあるが、ダトグラフと5170Gがほぼ同じ価格帯に位置しているにもかかわらず、ダトグラフはまったく異なる時計であるという点に多くの読者がすぐに気づき言及していた。フライバッククロノグラフであることに加えて、アウトサイズデイト表示とパワーリザーブ表示の複雑機構も搭載しているためである。したがって、ダトグラフと5170Gを比較することは、A.ランゲ&ゾーネにとって不公平な“異なるもの同士の比較”であり、実際にはむしろ1815 クロノグラフのほうがふさわしい比較対象であったという批判が生じた。そこで今回は1815 クロノグラフに注目し、その競合モデルとの比較だけでなく時計そのものの評価も行うことにした。

lange 1815 chronograph

 1815 クロノグラフは、A.ランゲ&ゾーネが製造するクロノグラフモデルのなかで最もシンプルなモデルであり、その本質はアウトサイズデイト機能とパワーリザーブ表示を省略したダトグラフといえる。初代1815 クロノグラフは2004年に発表され、その時点で一定の注目を集めたが、もちろんダトグラフほどの関心は得られなかった。しかしより簡素でありながらもきわめて高品質なクロノグラフを求める顧客にとって、このモデルは非常に適した選択肢であった。ダトグラフよりもやや薄型なのは主にアウトサイズデイト表示が省かれたことによるものだが、裏蓋越しに見えるムーブメントの美しさは変わらず卓越しており、ダトグラフと同様に見事な仕上げが施されている(アウトサイズデイト機構はダイヤル下に配置されている)。初代モデルにはパルスメータースケールが備わっており、これは古風な機能ではあるものの、そのヴィンテージ的な魅力ゆえにとても人気が高い(まさにかつての時代、一般の医師が高級腕時計を手にすることが可能であったころの優雅な時代を思い起こさせる)。パルスメータースケールは患者の脈拍を測定する際に使用されるもので、多くの場合30拍に対して目盛が刻まれている。計測は、脈拍を数え始めたと同時にクロノグラフを作動させ、30拍に達した時点でクロノグラフを停止させる。秒針が指し示す数値が、その患者の心拍数を示す。

lange 1815 chronograph

 2010年にデビューした新バージョンのダトグラフではパルスメータースケールを撤廃。それによりクロノグラフのインダイヤルが大きくなった。しかしながらダイヤル全体の印象はやや平坦になっている。それでもパルスメータースケールはコレクターに非常に人気があり、A.ランゲ&ゾーネは先月香港で開催されたWatches & Wondersで発表したブルー&ホワイトダイヤルの1815 クロノグラフ ブティック限定モデルに、このスケールを再導入した。これまで耳にした1815 クロノグラフに対する批判はインダイヤルの配置に関するものであり、アウトサイズデイト窓との左右対称を保つため、ダイヤルの中央線よりも下に配置されていることが明らかである。

lange 1815 chronograph
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 しかし、私はこの批判が時計に対する重大な問題だとは思わない。実際、2004年から断続的にこの時計を見てきたにもかかわらず、最近までその点に気づくことも意識することもまったくなかった。新旧モデルの唯一の違いはケースの直径で、新バージョンは39.5mm、オリジナルは39mmである。だが実際には両者を並べて比較しない限りその違いに気づくのはほとんど不可能であり、たとえ並べたとしても特に目立つわけではない。

 もしどちらかを選べと言われたら、個人的にはこのストーリーのために撮影した旧モデル、つまりローズゴールドにブラックダイヤルの組み合わせを選ぶだろう。ただどちらの時計もきわめて美しく、好みの違いに過ぎないとも思う。並べて比較すれば、新モデルのほうが視認性が高く、全体的によりクラシックで調和の取れたデザインであることが明らかだが旧モデルには独特の魅力もある。新たに発表された1815ブティック限定のよい点は選択肢が広がったことだ。パルスメータースケールを望むならブティックエディションを、必要としないならスタンダードモデルを選べるのである。

lange 1815 chronograph

 では、1815と5170Gについて話を戻そう。意外に思うかもしれないが、これらふたつの時計はサイズにおいてほぼ同じである。5170Gのケース厚は10.9mmで直径は39.4mm、ムーブメントはパテックのCal.CH 29-533で、そのサイズは29.6mm径×5.35mm厚だ(ちなみにパテックがCal.27-70として使用したレマニア2310の厚さは5.57mm)。この時計はかなり薄く、とても快適なつけ心地を提供するが、決してエクストラフラットなクロノグラフというわけではない。たとえばピアジェのアルティプラノ クロノグラフには883Pというムーブメントが搭載されており、それはフライバック機能付きのコラムホイール式キャリバーであったが、その厚さは4.65mmである。

lange 1815 chronograph
lange 1815 chronograph

 1815 クロノグラフは直径39.5mmで、実はパテックの5170よりわずかに薄く、厚さは10.8mmである。ムーブメントはランゲのCal.L951.5であり、直径30.6mm、厚さ6.1mmだ。このムーブメントはダトグラフが持つ視覚的効果を持ちながらも、やや控えめで洗練された手巻きのフライバッククロノグラフムーブメントである。A.ランゲ&ゾーネが時折“分厚い時計メーカー”として語られる理由は、正直言ってよく分からない。確かに同社の一部の時計、とくに複雑機構を備えたモデルは比較的厚みがあるが、それはほかのメーカーも同様である。

 正直なところ、問題の一因は聞こえのいいストーリーが時として現実をあいまいにしてしまうことだと思う。“大げさにつくり込まれたドイツ時計の製造”というイメージがA.ランゲ&ゾーネに強く結びついているが、同社はスリムかつエレガントでシンプルな時計も多く製造している。サクソニアはその代表的な例であり、1815も実際には、技術的に類似したパテックよりもわずかに薄い(ダトグラフとの比較対象としてより適切なのは、パテック 年次カレンダー・クロノグラフ 5905P である。このモデルのムーブメントは直径33mm、厚さ7.68mmで、31mm径×7.9mm厚というダトグラフのムーブメントとほぼ同等のサイズである)。

lange 1815 chronograph
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 そして忘れてはならないのは、パテック 5170Gの価格が8万1000ドル(当時の定価は税抜きで856万円)であるのに対し、1815 クロノグラフは5万1500ドル(当時の定価は税抜きで565万円)であるという点だ。つまり実際の数字を見てみると、A.ランゲ&ゾーネでクロノグラフを選ぶと、ドイツ的で堅固すぎる厚ぼったい時計に縛られてしまうという一見もっともらしい主張は、あっという間に消え去ってしまう。結果的に、世界で最も美しいクロノグラフのひとつを手にすることができる。しかもその価格は最も近い競合モデルよりも3万ドルも安い。もちろんこのレベルの価格帯と仕上げにおいて、単なる価格比較や値段を追求することは主な考慮事項ではないが、それでも3万ドルという金額は今日の高級時計の非合理的な価格基準においてさえ無視できない大金である。

lange 1815 chronograph

 A.ランゲ&ゾーネの1815 クロノグラフは、現代の時計業界においてはある種のお買い得品といえる(5万ドルの腕時計を“お買い得”と呼ぶことが、社会的な反発や社会主義者の情熱を煽らない限り)。A.ランゲ&ゾーネが美学よりもエンジニアリングを重視するドイツの伝統にのっとり、分厚い時計ばかりつくっているという誤った考え(あるいは何かそれに類するもの)からこの時計を検討しないことは、非常にエレガントで見事な時計製造技術の粋を見逃してしまうことになる。

 もちろんダトグラフ、パテック 5170G、ヴァシュロンのハーモニー・クロノグラフを価格の観点で比較することは依然として有効である。だが読者のなかにはA.ランゲ&ゾーネに関してもう少し繊細な視点を持つべきだと示唆した人もおり、その意見も一理ある。確かにA.ランゲ&ゾーネの自社製クロノグラフの物語は、1999年にダトグラフで華々しく幕を開けたが、それ以来そのラインナップは著しく成長し、多様なモデルを取り揃えるようになった。中でも、美しく完成された、そして美しく身につけられるランゲ 1815 クロノグラフもその一例である。

A.ランゲ&ゾーネ 1815 クロノグラフの詳細はこちらをご覧ください。