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The Value Proposition A.ランゲ&ゾーネ サクソニア・フラッハについて

よろしく、ランゲの新しいエントリーモデル。

本稿は2016年7月に執筆された本国版の翻訳です。

ウォッチメイキングには、基本的かつ根本的な事実がひとつある。それはお金を払えば払っただけのものが手に入るということだ。もしあなたが手作業による仕上げ、ポジション調整、構造など、高いレベルの伝統的な職人技が表れた時計を望むなら、それなりの費用がかかる。

 今では、いい時計が高価であることに驚く人はいない(いや、誰も驚くべきでない)が、多くの人が驚くのは(特にオートオルロジュリーの代表となるような時計を初めて見たとき)、オートオルロジュリーを実践するブランドが、特にこの15年間でいかに高価になったかということだ。この背景には多くの理由があり、そのなかには我々消費者が納得できるものもあるのだが、結局のところ、10年前や15年前に達成できなかった多くの人々にとって、オートオルロジュリーが達成可能な目標としてさらに遠ざかってしまったということである。

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 手仕上げされた最高級の自動巻きムーブメントや手巻きムーブメントを搭載した金無垢のラウンドウォッチは、かつてはホームドクター(家庭医)が少し節約すれば買えるようなものだった。現在、その時計は一般的に2万ドルから5万ドル(当時の相場で約220万~540万円)以上する。フォーブスによると、ホームドクターの基本給は年間20万ドル(当時の相場で約2175万円)未満である。考えてみて欲しい。我々が生きている時代、アメリカには(そしておそらくほかの多くの国でも)、真に素晴らしい金無垢時計を手に入れるという発想が恐ろしいと感じる医師がいるのだ。それが、A.ランゲ&ゾーネ サクソニア・フラッハがこのような比較的小さな会社の小さな時計にとって、予想外に大きなニュースだった理由のひとつかもしれない。

 サクソニア・フラッハはランゲのエントリーモデルだ(そのようなものがある程度だが)。2針、白文字盤、秒針なし、日付なし、手巻きという、伝統的な時計である。厚さは5.9mm(40mmモデルと同じ)とかなり薄く、ムーブメント(Cal.L093.1)は28mm×2.9mmサイズ。ちなみに、超薄型時計に関する3部構成のシリーズで紹介した、ジャガー・ルクルトのCal.849の厚さは1.85mmのため、ランゲの厚さとは1.05mmの差がある。ランゲは、記録を競うことが目的でなかったのは明らかであり、それよりもシンプルでありながら中身のある高級時計をつくることに重きを置いていた。薄型で見た目もエレガントでありながら、高級品にとって最も難しいサブリミナルメッセージである、“私にはそれだけの価値がある”というメッセージを発信するのに十分な重厚感がある。サクソニアがそのメッセージをどれだけうまく伝えているかについては、2002年にウォルト・オデッツが自身のサクソニアを所有することになった感想のなかで、(またもや)最高の言葉を残している。“大きさは34mm、厚さは8.5mmほどと、まるで見た目はビスケットのよう。同サイズのほかの金無垢時計より倍の重量があった。バックルも本来の2倍の重さだった。サファイア製の裏蓋でさえ、ほかのソリッドバックよりも多くのゴールドが使われていた”。

 その時計は、スモールセコンドとアウトサイズデイトを備えたサクソニアだった。後者はおそらく、新しいフラッハを上回る厚さの大部分を占めている。ただどちらの時計も、ムーブメントの構成は完全にクラシカルだ。2002年のオデッツのランゲ サクソニアと新しいフラッハのシースルーバックを見ると、どちらも非常によく似た光景になる。しかし、2002年のモデルは、丸穴車と角穴車を含むすべての輪列要素がプレートの下に完全に隠された、真の4分の3プレートムーブメントを備えている(具体的な構成要素については、Watch 101のムーブメントモデルを参照)。しかし、フラッハは丸穴車と角穴車が4分の3プレートのトップと同じ高さにある。

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 機械式時計がどのような種類のものであれ、時代遅れも甚だしいという事実を差し引いても、このムーブメントの大半が、ほぼアナクロニズムと言えるほど伝統的なものである。腕時計のケースに入っていなければ、これは19世紀後半の懐中時計用ムーブメントだと思うだろう。輪列は、4番車が秒針の位置にくるようレイアウトされ、角穴車と丸穴車に施された螺旋状のサンレイブラシ仕上げを除いて、すべてのスティールの表面はブラックポリッシュされている。もちろん、それらの美しい仕上げと同じくらい不必要なゴールドシャトンもある。意図的に古典的で、しかもかなり古風なムーブメント構成は、常にランゲの魅力の大部分を占めてきた。ただ魅力的ではあるものの、実際にはより近代的な技術的解決策(例えば軸受に使われている石には何の問題もない)よりも、成功率の低い技術的要素を導入することは、ほとんど意味がないと考える一部の人々を憤慨させている。しかし、これは美的または質的な判断ではなく、哲学的な位置付けである。もちろん、自分自身の美的哲学または質的に劣っていると相反する哲学を見つける場合は別だ。

 これは決して安い時計ではない。実際、1万4800ドル(編集注記:当時約161万円だったが、現在は税込336万6000円)と非常に高価な時計である。しかし、40mmバージョンのサクソニア・フラッハ(編集注記:現在はディスコン)よりも1万ドルほど安く推移し、貴金属ケースでこのクオリティの時計としては圧倒的に手ごろだ。実際、この価格帯に限らず、このクオリティを超える時計は思い浮かばない。通常、このような大幅な低価格化には、貴金属ケース、仕上げの精巧さなど何かを犠牲にする必要がある。しかしこの時計より手に入れやすい価格と引き換えに、ワンランクダウンした品質のものを見つけるほうが苦労する。2002年にオデッツがスモールセコンドとアウトサイズデイトのサクソニアのために、約1万3000ドル(当時の相場で約163万円)を支払ったことは興味深い。ブティックから出たばかりで、しかも2002年の相場に近い価格で今すぐ手に入るという、世界で一番素敵な時計だと思う。これはとても重要な考え方だ。オデッツの言葉を借りれば(彼は少し違うテーマについて書いていた)、1万5000ドルの時計を、普段は考えないような形で考えさせられる。お買い得だと思わせてくれるのだ。

A.ランゲ&ゾーネについてはこちらをご覧ください。