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HODINKEEのライターたちは常に世界を旅しています。この新連載では、私たちの目を通して世界をご紹介。私たち(そして時計を愛する地元の人々)が、世界中のお気に入りの都市をどのように体験しているのか。GMTベゼルをセットして、私たちの旅にお付き合いください。
私の大好きな祖父・モンティは生まれも育ちもロンドンっ子で、自分が正しいと思うことを繰り返す人柄だった。“ロンドンに飽きた者は人生に飽きた者だ(When a man is tired of London, he is tired of life )”というサミュエル・ジョンソンの有名な一節を引用するのが癖だった。おじいちゃんのロンドンへの愛は、それはそれは揺るぎのないものだった。ご近所さんとも顔なじみで、地元の店主やレストランにも足繁く通い、孫たちを連れてショーや博物館へ出かけるのも大好きだった。私は、キングスロードからすぐのところにある彼のお気に入りの本屋さん、ジョン・サンドー(John Sandoe Books)に黒タクシーで行ったことをいつも思い出す。タクシー運転手に冗談を言うとき、彼はイーストロンドン訛りに戻るのが癖だった。出かけると毎度、私たちは新しい本の束と新聞販売店のチョコレートを持てるだけ持って帰ってきたものだ。
このシティガイドの執筆は、ノスタルジアを抜きにしては語れない。私はニューヨークに9年近く住んでいるが、ロンドンは私の生まれ故郷であり、よくロンドンを思い浮かべる。帰省すると、懐かしの場所を訪ねては、親近感を覚えるものだ。石畳の道に並ぶ蔦に覆われた家々、生まれ育った地域の曲がりくねった道、ホランドパークに並ぶ立派な背の高い木々などだ。私にとってのロンドンは、庭園の広場、金曜日の朝に出かけるポートベローマーケット、薄暗いパブ、そして愛する友人や家族のいる場所なのだ。もちろん、ロンドンは私の故郷であるだけでなく、世界的な首都でもあり、時計に関する楽しみもたくさんあることも付け加えよう。
しかし、私のお気に入りのスポットを紹介し、皆さんを楽しい旅にお連れする前に、重大な免責事項をお伝えしないわけにはいかない。ロンドンは時計絡みの犯罪が多発している街であるということだ。新しい時計を購入する際に犯罪に巻き込まれないように予防線を張るのはもちろん、この事実を知っておくことも重要である。また、本来であれば、ウォッチスポッティングできる名所を紹介したいところだが、最近は価値の高いものは、こっそり隠しておいた方がいいだろう。
最近、以下の広告がソーシャルメディアやRedditのサブスレッドで話題になっている。オンラインオークションハウスWatch Collectingが作成したこのデジタル広告は、多くの人にロンドン警視庁が作成した公共広告であると誤解させ、騒動となったが、メッセージ自体は間違っていなかった。この統計は、実際、ロンドン警視庁が集計したもので、事実上正しいものだ。もちろん、時計の盗難は世界中の都市で多発しているが、ロンドンの発生率は特に気になるところだ。皆さんも気をつけて!
時計を買うには
アレックス・スティーブンスは、自称“電話を持つ男”だ。彼は自分のビジネスモデルを “ステーションワゴンを持つアンティークディーラーの現代版”と呼んでいる。YGのタンク ルイ カルティエを日常使いするスティーブンスは、10代の頃から時計の売買に慣れ親しみ、ロンドンのヴィンテージ界隈では定番の存在だ。彼が扱うのは、ロレックス、カルティエ、オーデマ ピゲなどの有名どころと、英国軍放出品の数々である。優秀なディーラーなので、特別なリクエストがある場合は尋ねてみて。おそらく手に入ることだろう。私は彼のInstagramに多くの時間を費やしているし、彼はかなり質の高い情報を提供するTikTokも運営している。私が今、夢中になっているピエール・カルダンのヴィンテージウォッチを教えてくれたのもスティーブンスだった。
スティーブンスに、ロンドンの中古・ヴィンテージシーンについて教えてもらった。「ハットンガーデンは、おそらく誰もが最初に思い浮かべる場所だと思いますが、とてもトレード色が強く、個人で買うにはかなり敷居が高いですね」と、彼は不安そうに話してくれた。必ずしも最初に訪れる場所として薦めることはなかったものの、「ボンドストリートやバーリントン・アーケードにある店より、確実に手頃な価格で入手できるでしょう」と付け加えた。1819年にオープンした歴史あるバーリントン・アーケードに、ただ景色を見るだけでも行ってみたいという人には、高級店ならMaunderが鉄板、ウィンドウショッピングならThe Vintage Watch Companyを勧めるそうだ。「オーナーは決してフレンドリーではありません」と彼は警告する。“しかしショーウィンドウは素晴らしく、9Kゴールドのつまらないロレックスから30万ポンドのポール・ニューマン デイトナやステラダイヤルのデイデイトまで何でも見ることができますよ」
バーリントン・アーケードにあるSomlo Londonは、スティーブンス氏をはじめ、時計業界のベテランであるジェームズ・バタリー(James Buttery)氏、時計コレクターでThe Armouryのオーナーでもあるマーク・チョー(Mark Cho)氏に推薦されて訪れた。Somloは、世界で唯一のオメガの正規ヴィンテージディーラーである。「父子で経営しているSomloは、街で最も刺激的なウィンドウディスプレイを通して、オメガ(およびその他)のヴィンテージへの入り口を提供しています。もし行くならダニエルを尋ねてみてください。ウィンドウにある60年代のピアジェのカフリンクスを見るだけでも価値がありますよ」
冒険したい、もう少し“ホコリっぽい”ものがいいという人には、バタリー氏はクラーケンウェルにあるAntique Watch Co.がおすすめだ。スティーブンスはポートベローの101 Antique Arcade(別名Red Teapot)をガラクタ集めに勧めているが、当たり外れがあるということだ。私の愛するポートベロー・マーケットについては、以下で詳しく説明する。
Mann About Timeの創設者であるロビン・マン(Robin Mann)氏もまた、ロンドンを拠点とする注目すべきヴィンテージウォッチのスペシャリストだ。彼はミッドセンチュリーのオメガ、ロレックス、ユニバーサル・ジュネーブに焦点を当て、その他ごく小数の他ブランドの時計を扱っている。また、サヴィル・ロウのドレイクスやピカデリーのフォートナム&メイソンでは、3000ポンドまでの腕時計を購入することができ、特に後者は、ジュエリーやマン氏の腕時計をじっくり見た後、4階で伝統的なアフタヌーンティーを楽しみたくなる場所だ。
マン氏はスティーブンスに推薦されたのだが、これはロンドンの時計コミュニティーの仲間意識の表れだ。「この街の独立系ディーラーは、互いに敵対することなく、本当に協力し合っています」とマン氏は言う。「アート界から転身してきた身としては、嬉しい変化です」
お次は、私とスティーブンスが愛する宝の山、ロンドンのオークションハウス、ボナムズだ。彼はボナムズ・ナイトブリッジを薦め、「他のオークションハウスのようなセクシーさはありませんが、10年、15年前は時計業界では最大手のひとつでした」。ロットを掘り下げれば、実際にオークションで落札できる可能性のある、クールで変わった逸品が見つかるかもしれない。
スティーブンスは、ブリグジット(英国のEU離脱)以来、ロンドンは時計の取引にとって厄介な場所になっていると指摘する。「地理的にも為替にも違いがありますし、離脱の影響でイギリスのディーラーが海外の在庫にアクセスするのがさらに難しくなり、扱えるものが少なくなっています。イギリスはアメリカに比べれば小さな国だということを忘れてはいけません。とはいえ、これだけ小さな場所で多くの制約がある割には、国内の時計業界はかなり好調です」
伝統的な小売業を体験したい人は、ボンド・ストリートに行けば、数多いなかから好きなものを選ぶことができる。ジェームズ・バタリー氏は、まずWatches of Switzerland (リージェント通り155番地)に行くべきだと言う。「Chrono 24は、ハートフォードシャーにある巨大な納屋を改装して、ロンドンのお客さんをシャトルバスで連れて行ってくれます」と、久々に英国語らしい表現でバタリー氏は教えてくれた。そこで調べてみると、高級中古時計の専門店であるXupesは、以前はこの先のThe Wheat Barn(冗談抜きで小麦納屋だった)に拠点を置いていたが、昨年、世界的な時計取引市場に買収されたことが判明したのだ。現在はThe Barn by Chrono24として、オフィス、取引所、工房、そして「The Watch Atelier」という新たな事業が展開されている。
時計メンテナンスを受けるなら
公正で信頼できるサービスや電池交換をお求めなら、ハットンガーデンのTic Toc Manへどうぞ。より複雑な修復作業が必要な場合は、Steven Hale Watch Restorationが値は張るが、信頼できる店だ。
時計ショッピング以外の行き先
これを絞り込むのは大変なので、ウェストロンドンをベースとした場所を紹介する。なぜなら、私は生まれも育ちもウェストロンドンで土地勘があるからだ!
まず、前述のJohn Sandoe Booksから。1957年創業のこの小さな名店は、チェルシーのブラックランズ・テラス10番地にあり、情報や文学の引用の宝庫として努力するタイプの人なら、訪れる価値があるはずだ。Webサイトを検索していたら、Googleのレビューに行き当たった。「きしむ床、狭い階段、散らかった山、そしてツイードを着た客たち」。思い入れのある場所なので、偏見もある。祖父がベッドの横に積んでいた本や雑誌がどんどん増えていくのをこの店が補充していたのだ。彼は、その店の常連で他で買うことはなかった。しかし、ここは独立系書店のメッカなのだ。店員は特に親切で、その気になれば、自分だけのホームライブラリーを作る手助けもしてくれるだろう。
私はポートベロー・マーケットに通って育った。隠れた名所というわけではないが、金曜日の朝の散歩は最高だ。ただし、土曜日の午後は避けるようにしよう。地下鉄のノッティング・ヒル・ゲート駅からポートベロー・ロードを歩くといいだろう。ここには何でも揃っている。果物や野菜、アンティーク、宝石、古着、小物、そしてロンドンで一番おいしいバゲット(ロンドンに63年住んでいる私のフランス人の祖母のお墨付き)、Maison Pugetがある。
このまま歩き続けてゴルボーン・ロードを右折すると、いいものがある。ポルトガル風カスタードタルトを扱うLisboa Patisserie、コーヒーを扱うGolborne Deli、そして私の世界一好きなヴィンテージショップでショッピングを楽しんでいただきたい。Rellik。
私のとても大切な友人であるジョナサン・クラウス氏は、2018年にビジネスパートナーと共に人気スポットのゴルボーン・ロードにLaylowをオープンさせた。それ以来、若くて魅力的な有名人やセレブの温床となっている。レストラン、クラブ、メンバーズバーの3つのフロアがあり、さらにシークレットルームまである。ベルベットの張り地や散りばめられたクッションなど、豪華絢爛なインテリアは、ロンドン在住のルシアン・フロイトの娘であるベラ・フロイトのデザインによるもの。レストランでの日曜日のランチや、地下のクラブで行われるライブミュージック・イベントがおすすめだ。
さて、本格的なショッピングの話題に。ウィグモアストリート34番地にあるマーガレット・ハウエル(Margaret Howell)の店舗は、非常に高い天井を持つ、光にあふれた風通しのよい禅の精神に溢れた空間だ。完璧に演出されたミッドセンチュリーの家具やオブジェで溢れており、個人的なセンスを捨て、まったく同じミニマリズムの美学を取り入れたくなるような場所だ。しかし、ここでの主な魅力は、カッコよく、手触りがよく、しばしばアンドロジナス(異性装)的な雰囲気を持つ衣料である。ハウエルは、ファッション哲学の“Less Is More(少ないほど優れている)”層の伝道者であり、国宝である。彼女は控えめな実用的な贅沢の基準を示すようになった。ジョージアン様式の大きなサッシ窓の下にはハウエルのデスクがあり、本や写真、生地の切り抜きなどに囲まれたデザインスタジオが店の奥にある。
リストの最後は、ディディエ・ギャラリー(Didier ltd)への旅だ。ここは、アートとジュエリーの両方の愛好家にとって、並外れた品々でいっぱいの特別な場所だ。ケンジントン教会通りにあるこのギャラリーは、20世紀後半に活躍した近代を代表する巨匠やデザイナーがデザインした芸術的なジュエリーを専門に扱っている。ディディエと妻のマルティーヌ・ハスプスラグは、現存するアーティストのジュエリーのなかで最も素晴らしいコレクションのひとつを手に入れた。彼は自分の仕事について何でも知っていて、私がこれまで一緒に時間を過ごしたなかで最も洞察力のあるスペシャリストの一人である。カルダー、ピカソ、ダリ、ブラックのジュエリーを扱っている。デルフィナ・デレトレ(Delfina Delettrez)のようなジュエリーデザイナーは、この聖域を参考資料館として利用しているそうだ。特に時計があるわけではないのだが、ディディエの紹介で、私はダリのスプーン時計や、ダリの親指をかたどった18Kゴールドの時計「ラ・セザール」を発見した。
グルメ情報
Norman's Cafeは、伝統的なイギリス料理を楽しむのに最適だ。フライ料理やバンガーズ・アンド・マッシュ(ソーセージとマッシュポテトを和えた料理)など、懐かしい家庭の味が楽しめる(完璧な人間などいない-イーストロンドンのおすすめはこれだ)。Nopiは、イタリア料理とOttolenghi(オットレンギ-Nopiを含めロンドンに6店舗のレストランを運営する)の粋な料理が楽しめるレストランだ。そして、クラーケンウェルに新しくオープンしたセッションズ・アート・クラブ(また東ロンドンを案内してしまった!)はまさに天国だ。グレードIIに指定された元裁判所を改装した、巨大で威厳のあるオープンスペースには、丁寧に手直しされたアートで覆われた壁と高くそびえるアーチのある巨大な窓がある。まるでおとぎ話のようだ。表向き料理はイタリアンだが、値段はそれなりにする。しかし、訪れる価値は十分にあるだろう。
さて、パブで一杯やらないなんて、ロンドンらしくない。エドワーズ・スクエアのスカースデール・タバーン(Scarsdale Tavern)か、サウスケンジントンのセルウッドテラスのアングルシー・アームズ(Anglesea Arms)で、ちょっと高級な、しかし本物の体験をしてみてはいかがだろうか?
持っていくといい時計
安全のため、腕時計は控えめなものを選ぶことをお勧めする。バンフォード チタニウムB347“パンダ”は、クリーンでモダンな美しさを持ち、旅先での日常のお供として最適だ。英国人のジョージ・バンフォード氏は、私がこれまで出会った時計業界のなかで最も純粋で親切な人物のひとりだ。また、彼はとても楽しいポッドキャストを配信しており、飛行機内で聞くにはもってこいだろう。
もし、あなたが何かわかるものを身につけて外出するのであれば、ロンドンのホールマーク(ケースサイド、裏蓋、オリジナルのデプロイアントクラスプにある)刻印の入ったヴィンテージカルティエのロンドン タンクはどうだろうか? この時計は、アレックス・スティーブン氏が金庫に保管している大切なものだ。残念ながら非売品(泣)。
私のドレッサーには、祖父の写真が飾ってある。スーツにダブルブレストのオーバーコートを着て、ニューヨークの通りを颯爽と歩く写真で、1953年と記されている。ニューヨークの騒々しさに疲れたとき、故郷はいつも自分のなかにあるのだと、私は毎日この写真を眺めている。
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