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Hands-On この1930年代のパリデザインは、ヴィンテージのカルティエよりも現代のオーデマ ピゲに通じるものがある

なぜ今、ヴァン クリーフ&アーペルのカデナについて語るべきなのか。

女性用の時計といえば、カルティエやロレックス、そして少し範囲を広げると、オーデマ ピゲが主役として注目されることが多い。ただこうした“伝統的”なラグジュアリーウォッチの世界の奥には、個人的にはジュエリーに近いけれど、それだけじゃない時計と呼びたいカテゴリーがある。これらの時計はデザイン重視で、宝石が散りばめられていたり装飾にしっかりとした意図が込められていたりするものだ。そんな時計たちが、ほかでは少し退屈に感じられる市場に一筋の希望を与えてくれる。

VCA CADENAS WATCH ON WRIST

 このジャンルで最も代表的なのは、間違いなくブルガリのセルペンティだ。これは異論の余地なし。もう(大好きで仕方がないので)何時間も(そして何本もの記事を)費やしてセルペンティについて語り尽くしてきた。あの妖艶な曲線やセクシーなフィット感に完全に魅了されてしまい、ジュエリーに近いけれどそれだけじゃないほかの素晴らしい時計たちのことをつい忘れてしまうくらいだ。でも、華やかな人々のための価値観を変えるようなハイジュエリーウォッチには、セルペンティだけでなくもっと多彩で多様な選択肢があってもいいはずだ。

 数カ月前に話を戻そう。

 「カデナについて話さなきゃ!」と、ジュエリーの専門家であり『タウンアンドカントリー』の寄稿編集者でもあるウィル・カーン(Will Kahn)氏が、ギリシャの山道を走るガタガタ揺れる車内で叫んだ。「あれは象徴的で美しいのに、どうしてもっと注目されないんだ?」 その言葉に私も同感し、興奮気味に同じような気持ちを彼にぶつけた。そしてニューヨークに戻ったらもっと話をしようと約束した。そのあと、私は自分の考えを整理し始めた。

VCA Cadenas Watch

 ヴァン クリーフ&アーペルのカデナは本当に美しい時計だ。特に私が好きなのは、ダイヤモンドなしのシンプルなイエローゴールドモデル。ケースのデザインは直線的で洗練されていて、斜めに配置された文字盤は、さりげなく時間を確認できる工夫がされている。現行モデルは26mm×14mm、ヴィンテージモデルは25mm×17mmとサイズに少し違いがあるが、どちらもダブルスネークチェーンのブレスレットが特徴的で、南京錠のような丸みのある留め具がしっかりと存在感を放っている。しなやかかつセクシーで、この時計はエレガントな女性の装いにぴったりの1本だ。

 トルーマン・カポーティ(Truman Capote)と彼の白鳥たちを思い浮かべてほしい。カデナは端正で上品だが、どこか自然体な雰囲気がある。もし歴史的なスタイルアイコンと時計を一致させるなら、カデナはジャッキー・オナシス(Jackie Onassis)そのものだろう。彼女の洗練されたクールさにぴったりだ。華やかで自由奔放なスタイルのビアンカ・ジャガー(Bianca Jagger)氏はセルペンティがぴったりだろう。どちらの時計も、おしゃれが好きな女性のためにあるというのがこの話のポイントだ。

VCA CADENAS WATCH
vintage VCA Cadenas watches

1936年と1935年製のヴァン クリーフ&アーペル カデナ ウォッチ。それぞれサファイアとダイヤモンドをあしらっている。Photos: Van Cleef & Arpels by Sylvie Raulet

 カデナは1935年に初めて登場し、2015年にコレクションとして復活した。今回のリバイバルでは、視認性を高めるために文字盤が大きくなり、ムーブメントもクォーツに変更されている。しかし再登場から10年経った今でも、カデナはまだあまり知られていない存在だ。「セルペンティやタンクみたいに、長いあいだ我々の記憶に刻まれてきた象徴的な時計とは違って、カデナはどこか控えめで目立たない存在だ」とカーン氏は話す。それでも、カデナも女性のための優れたデザインのひとつとして確かな価値を持っているのは間違いない。セルペンティと比べるともっと幾何学的なデザインだが、そのぶん清潔感がありながらもセクシーさを漂わせている。セルペンティがしっかりと手首に絡みつく感覚を持っているとしたら、カデナはどこか余裕のある、誘惑的で緩やかなドレープのような時計だと言えるだろう。

 カデナは間違いなく、歴史に残る名作の仲間入りをするべき時計だ。スポーツウォッチにありがちなピンクの文字盤や、ベゼルに散りばめられたダイヤモンドのような、どこか使い古された無難なパターンから抜け出す新鮮な存在である。ただ、腕時計には男女問わず理想的な形という固定観念があるのも事実。この少しニッチな斜めのデザインは、そのイメージからちょっと離れすぎているのかもしれない。セルペンティもデザイン性は強いけれど、それでも文字盤はしっかり上を向いている。

 もしかすると、カデナはジュエリー好きのための時計なのかもしれない。サザビーズ・ジュエリーアメリカ部門の副会長であるフランク・エヴァレット(Frank Everett)氏も同じ考えのようだ。電話で彼は「私はカデナにちょっと夢中なんです」と語り、「その時代にはとてもモダンだったものが、今振り返るとレトロや時代を象徴するものに見えるんです。本当に興味深いですよね」と話していた。私もその意見に賛成だ。カデナを知らなければ、デザイン重視のウォッチメイキングが輝いていた時代に生まれたものだと思ってしまうだろう。その雰囲気は1930年代というより、むしろ1970年代に近い。カルティエのクーリッサンよりも、最近のAP リマスター02に共通するものを感じる。カデナはアール・デコ調のレディスウォッチだが、素材の重厚感が際立っていて、当時主流だった繊細で華奢なカクテルウォッチとは一線を画している。当時としては非常に前衛的なデザインだった。「1920~30年代に、女性がドライビングウォッチをつけてクルマを運転していたなんて、考えただけでもワクワクしますよね。あのタマラ・ド・レンピッカ(Tamara de Lempicka)がブガッティを運転している有名なセルフポートレートを思い出します。彼女こそカデナをつけているのがふさわしい女性だったと思います。型破りで、自立したそんな女性がこの時計を選んだに違いありません」

VCA CADENAS WATCH

 それからレザーストラップのカデナもある。ゴールドとレザーのコントラストが生む雰囲気はどこか力強くて、クールさが際立つ。まるで1985年のアンジェリカ・ヒューストン(Angelica Houston)が、白いタンクトップにジョッパーズ、黒のライディングブーツを合わせて煙草を吸っている姿を思い起こさせるようなスタイルだ。南京錠とレザーの組み合わせにはエルメスらしい雰囲気もあって、ヴィンテージ感がありつつも、ただのレトロに終わらないのが魅力だ。正直こういう表現はありきたりかもしれないが、カデナは本当にシックなのだ。

VCA Cadenas on leather

Image courtesy of Sotheby's.

 『ワシントン・ポスト』のファッション批評家、レイチェル・タシジャン(Rachel Tashjian)氏はこう言っている。「今の時代、シックという言葉は簡単でブルジョワ的なものを指して使われるが、本来のシックはアンチブルジョワだった」。このファッションの価値観の逆転という考えが、頭から離れなかった。2024年、私たちは個人のスタイルという捉えどころのない概念に夢中になり、ザ・ロウやロロ・ピアーナ、そしてエルメスに浸っていた。どれもあえて言うなら、伝統的な憧れや高価さを象徴するものばかり。それがシックだと言われても…正直、なんだか退屈ではないだろうか。

 もしかしたら、2025年には壮大で大胆でちょっと危険なアイデアが、ロロ・ピアーナのベージュ一色に支配された今の価値観を覆そうとしているのかもしれない。たとえばカルティエがずらりと並ぶなかにカデナのような時計が現れて、よりエネルギッシュで先進的、そして表現力豊かな世界のシックを象徴する存在になれるんじゃないかと思う。とはいえ、現実的に考えるとどの時計ブランドも美しさやスタイル、自己表現に対する私たちの考え方を根本的に変えるのは難しいのかもしれない。創造性が本当に輝くのは人を遠ざけるものではなく、喜びを与えるものとして存在するときだ、と以前どこかで読んだことがある。結局のところ、私にとってジュエリーや時計を求める理由の多くはただシンプルに、装いに新しいダイナミズムを加えるという美的な楽しさにある。

VCA Cadenas watch on wrist
VCA Cadenas on wrist

 「ベニュワールのバングルを誰もが口にして、どの店舗でも売り切れのような状況なら、カデナだって同じくらい注目されるべきだと思う」カーン氏はそう語る。カデナはその個性的なデザインゆえに、多くの人に愛され模倣されているベニュワールと同じ立ち位置に立つのは少し難しいかもしれない。ただしヴァン クリーフ&アーペルのウォッチ部門が、広く支持を得るきっかけになる可能性は十分あると彼は考えている。「ヴァン クリーフは、きわめて限定的で超複雑な時計では大きな成功を収めている。でもそれらは特定の顧客向けのものだ。カデナにはもっと広い層にアピールできる可能性がある。これは本当にグローバルヒットになれるポテンシャルを持った時計だと思いますよ」と彼は言う。

Photos by Mark Kauzlarich

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