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先日行われた、スイス・ジュネーブの秋のオークションシーズンは、ヴィンテージ時計愛好家にとっては一年で最もワクワクする季節だ。この1週間、カタログにじっくり目をとおしながらいくつかのことに気付いた。詳細は今後数週間以内にお知らせしていくことになるが、その下準備として知っておきたい点をいくつか紹介しよう。
1) 今シーズン全体で最も高価な時計の予想落札価格は常軌を逸しており、ジュネーブのカタログにも掲載されていない。
オークションシーズン全体で最高の予想落札価格が付けられたRef. 2523。
クリスティーズは、2019年秋シーズンの最も高価な時計2点の詳細を記したプレスリリースを出した。1点目はヘンリー・グレイブス(HENRY GRAVES)のミニッツ リピーター。私のお気に入りの時計の1つだ。アメリカ人パテック愛好家にとっては心に響くお気に入りに違いない。落札予想価格は約3億3000万円〜5億5000万円。最後の落札価格をかなり上回るが、法外な額ではない。2点目の腕時計は、イタリアのリテーラー、ゴッビによって販売されたパテック フィリップのダブルクラウン ワールドタイム。ピンクゴールド仕様で文字盤は半透明のブルーエナメル製。落札予想価格は約7億7000万〜15億4000万円で、全く別次元の逸品だ。7億7000万円なら、史上5番目に高価な時計となる。15億4000万円なら、ポール・ニューマン(PAUL NEWMAN)のデイトナとヘンリー・グレイブスのスーパーコンプリケーションに続く史上3番目の高価格となる。
しかし、この落札予想価格は、私も含めた大方の見方では常軌を逸している。この時計を決して過小評価しているのではない。実際、その全く逆だ。この時計は、わずか5本しか存在しない18KPGのダブルクラウンのうちの1つ、ブルーエナメルのディスクを備えた2本のうちの1つ、そして、唯一のゴッビの署名入りという真の聖杯である。間違いなく極上の時計であり、私は心から所有したいと思う。しかし、今までこの落札予想価格のような価格レベルに達したRef. 2523は存在しない。実際、2010年秋にジュネーブで、この時計は約2億8500万円で落札された。このような時計の市場価格は確かに上昇したが、他のカテゴリのような指数関数的な上昇ではない。
ヘンリー・グレイブス Jr.と彼が所有した有名なミニッツ リピーター
さらに、クリスティーズのジュネーブのカタログを見ると、この時計が明らかに掲載されていない。つまり、この時計はジュネーブのオークションの後で同月に開催される香港の時計オークションで出品されると考えられる。最も高価なロットはジュネーブの最高ロットになる傾向があるので、これは非常に興味深い動きだ。これには何かある。並外れて高い落札予想価格とジュネーブでの未出品というこの奇妙な動きは、今後も注目に値する。
2) ステンレススティール仕様のパテック フィリップ グランドマスター・チャイムは、10億円を超えられるか?
SS仕様グランドマスター・チャイム。
10億円を超えると言っているわけではないが、考えてみる価値のある問いだ。パテックは(これまでで)最も複雑な腕時計をSS仕様で作っており、収益はすべて慈善団体に寄付された。パテックの一点物は、オンリー ウォッチ オークションでかなりの高値がつく傾向がある。前回の同オークションでは、チタン仕様Ref. 5208の落札価格が6億6000万円を超えた。クリスティーズのこの時計の落札予想価格は約2億7500万円〜3億3000万円で、これは標準仕様のグランドマスター・チャイムの小売価格だ。この時計が10億円に達する、達しないに関しては議論の余地がある。
一点物のパテック フィリップ Ref. 5016A。
「長所」を挙げると、前述のように、これまでに作られた中で最も複雑なパテック フィリップで、SS仕様、しかもオンリー ウォッチ(一点物)だ。短所は、グランドマスター・チャイムはまだ愛好家の心を捉えていない。Ti製のRef. 5208は、2年前にスティール製の5016Aを下回った。この5016は5208よりもややクラシカルなパテックと見なされ、両方ともグランドマスター・チャイムよりも上回ると考えられている。また、SSのグランドマスター・チャイムが世界で最も高価な腕時計になりえるという話も持ち上がっている。私はその価値はないと思うが、もしそうなったとしても、それほど驚かないだろう。繰り返しになるが、考えてみる価値があるというだけだ。ここですべての詳細を確認できる。
3) さまざまなオークションハウスに登場する最も高額な時計はすべて初出品ではない
スティールのRef. 8171およびピンクゴールドのRef. 6062スターダイヤルは共に、過去にオークションで落札されたことがある。
これは必ずしも悪いことではないが、注目に値する。落札予想価格の上位5点はすべて初出品ではない。グレイブスのミニッツリピーターは2012年に3億3000万円をやや下回る価格で落札された。パテックのワールドタイムはここで確認できる。毎年、シーズン上位の時計に選ばれる(そして選ばれて当然)のオークションハウス、フィリップスには、とびきり素晴らしい時計が数点ある。しかし、ここでも、上位3点すべてが過去10年以内にオークションで落札されたものだ。繰り返しになるが、これにはさまざまな見方ができる。以前、フィリップスの時計部門を率いるオーレル・バックスにこの件について質問したが、その答えはシンプルで納得できるものだったのを思い出す。バックスは「私たちが望むのは、可能な限り最高の時計を提供することです」と語った。そして彼はそれを実行した。実際、上位3点はまとめ買いすれば夢のコレクションを完成できる可能性がある。落札予想価格が最も高い時計は、ロレックスのスプリットセコンド クロノグラフだ。存在する12個のうち1個(確認されている9個のうちの1個)で、落札予想価格は約1億6500万円〜3億3000万円だ。前回の落札は2011年のクリスティーズで1億1000万円を超えた。初めて1億円超えを記録したロレックスとなった時計だ。私はその日をよく覚えている。
写真のロレックス Ref. 4113(市場で知られている9本のうちの1つ)が最後に落札されたのは2012年のサザビーズのオークション。
次の時計は、18KPG製のロレックス Ref. 6062のスターダイヤル。2012年にニューヨークで約6500万円で落札された。現在の落札予想価格は約1億1000万円〜2億2000万円。最後に、SS製のロレックス Ref. 8171。1960年代にさかのぼる奇数のケース番号がついているが、私がこれまで目にした中で最も保存状態が良いものだ。落札予想価格は約5500万円〜1億1000万円。2012年5月に約6000万円で落札された。繰り返すが、フィリップスはクラス最高の時計を市場にもたらす称賛に値する仕事をし、売却記録を包み隠さず明らかにしてきた。ただ、上位5点(サザビーズはまだカタログをリリースしていないので、推測だが)が市場にすでに出回っている時計というのは興味深い。
またすぐに、スタッフが選んだ面白い隠れた逸品など、時計オークションの詳細情報をお届けする。
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