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Hands-On ロジャー・スミスのシリーズ6は英国のクラフトマンシップと実用性を美しく融合する

スミス氏の最新作を実際に手に取って見る、貴重な機会を得た。


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以前にも述べたとおり、私の仕事における真の喜びのひとつは、現代を代表する偉大な時計師たちの何人かと、ほかの人々よりも頻繁に話す機会を得られることにある。1ヶ月ほど前に開催されたドバイウォッチウィークのようなイベントの利点は、来場した4万9000人の誰もが同じ体験をできた点にある。マルチブランドの展示スペースのなかでも特ににぎわっていたブースのいくつかには、フランソワ-ポール・ジュルヌ氏、カリ・ヴティライネン氏、レジェップ・レジェピ氏、さらにはロジャー・スミス氏といった、現代の偉大な時計師たちがその場に姿を見せていた。

Roger Smith Series 6

 私が所有したいと思う時計は、間違いなくその多くがウォッチメイキングそのものに由来している。だが今日では、堅実なウォッチメイキングをする人が多い。となると、私が所有したい時計というのは時計づくりだけでなく、時計師本人たちとの交流によっても、あるいはそれ以上に形づくられているのかもしれない。時計師という存在はしばしば風変わりな人物であり、その特異でありながら卓越した思考が、同じく興味深い仕事へとつながっていく。彼らは必ずしも優れたビジネスマンであるとは限らず、顧客対応に長けているとも言いがたい。多くの場合、機械そのものに強い関心を寄せており、創造から注意をそらすものだと彼らが見るような、いわばナンセンスにはあまり興味を示さないのである。

 ただ、私がロジャー・スミス氏(そして上に挙げたほかの名前の多く)について楽しんでいるのは、彼らがいかに気さくで、自分の情熱を分かち合うことを喜んでいるかという点である。スミス氏は私に、工房で数年を過ごし、対外的な場に出る機会が少なかったあと、新しいものを生み出すことだけでなく、自分と同じように時計を愛する人々と交流するために外へ出ていくことにも、強い思いを抱いていたのだと語った。時計について言えば、彼は以前“あまりにも長いあいだ、静かにしていた”とも語っていた。

Roger Smith and Jean Arnault

ドバイウォッチウィークで対談するジャン・アルノー(Jean Arnault)氏とロジャー・スミス(Roger Smith)氏。その様子をフレッド・サベージ(Fred Savage、右)氏が見守っている。アルノー氏は顧客対応で多忙な1週間を過ごしていたが、初日の夜のさなかにふらりと立ち寄り、スミス氏としばらく語り合い時計を交換していた。

Roger Smith Series 6

(ロジャー・スミスの)シリーズ6を着用するフレッド・サベージ氏。

Roger Smith Series 6

新作時計のムーブメント。

 スミス氏はまた、私と腰を落ち着けて自身の仕事について語る時間を割いてくれるだけでなく、現在大きな注目を集めているナチュラル脱進機の継続的な発展についても、率直かつ見識ある意見を惜しみなく示してくれる。上記のとおり、彼の情熱は非常に深い。(ジョージ・)ダニエルズのアニバーサリーウォッチにコーアクシャル脱進機を実装し、さらにその後、自身の時計でも改良を重ねながら採用してきたことがその証左である。彼はまた、最新作であるシリーズ6を、カシオを着けていようとシンプリシティを着けていようと(私はその両方を目にした)、立ち寄ったすべての人に熱心に紹介していた。シリーズ6は彼にとって6年ぶりの新作であり、来年にはシリーズ7の発表も控えていることからこれが最後になることはない。

 私はシリーズ6の技術的要素と歴史をIntroducing記事で取り上げた。要するに、少なくとも見た目はシリーズ4をそぎ落としたようなモデルである。だが中身はまったく新しいキャリバーで、彼が“ほかのブランドが関心を示しているのを誇りに思う”と私に語った、トラベリングデイト アパーチャーを採用している。デイト表示を外周に、しかし中央のフローティングダイヤルの下に実装することで、この時計はそれ以外をシンプルな3針表示のまま保てるのだ。実に見事であり、繰り返しになるが技術的な詳細は別の記事に譲るとして、実物での見た目と装着感について語る価値があると感じた。

Roger Smith Series 6
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 ダイヤルの造形は実にスミス氏らしい。ドバイで彼が披露していたプロトタイプは、漂白したシルバーのセンターダイヤルを備え、2種類のギヨシェが施されていた。ダイヤル中央全体はバスケットウィーブ、スモールセコンドはダイヤモンド調のパターンで、いずれも彼のマン島の工房でローズエンジンマシンによって仕上げられたものだ。スミス氏の仕事は、時計が英国由来でその系譜も英国に連なるにもかかわらず、ダイヤル側を見せるエンパイアケースのブレゲを思い起こさせる。太いローマ数字と、素材のカラー処理だけでなく職人技そのものが生み出すコントラストのあるトーンがその理由である。

 スモールセコンドと時・分トラックは、ケースの色に合わせたローズゴールドのトラックで縁取られており、時と分はエングレービングのパターンで区切られている。両方のRG部分のインデックスはエングレービングされ、ラッカーで埋められているほか、RGのネームプレートも同様の仕上げだ。中央のダイヤル構造は2本のブルースティール製スクリューで固定され、色味はスミス氏が好む、わずかに紫がかったトーンになっている。私はIntroducing記事で、この伝統的な構造がほかの部分のクリーンなデザインに水を差しているように感じると書いた。しかし実物では、着用中にスクリューが気になることはほとんどなかった。傾斜のついたスペード形状を持つゴールド針は、信じがたいほど美しいだけでなく視認性も高い。そうした美点は、現代の市場では置き去りにされがちに思える。

 シリーズ6をオーダーするなら、ゴールドダイヤルや針のエングレービングも選べる。ただこの仕様のほうがスミス氏の美学をよりよく体現しているように感じる。もちろん、時計を徹底的にカスタマイズして唯一無二にすることもできるが、私はいつも作り手のビジョンに沿って選ぶという考え方が好きだ。2次市場でもっと価値がつくかもしれない、より希少なものに寄せようとして予防線を張るよりも、そのほうがいいと思う。

 そして日付のフレームである。おそらく、私自身がそれについて多くを書き、その仕組みを学び、トラベリングウィンドウという発想を考え続けてきたからか、もっと強く主張してくるものだと思っていた。しかし実際には単なる実用的なコンプリケーションにとどまらず、ダイヤルにバランスと奥行きを与えている存在なのである。

 それに比べると、シリーズ1はダイヤル中央にかなり余白があるように感じられる。アウタートラックはダイヤル中央のように漂白されておらずやや温かみのある色調で、エングレービングされラッカーで埋められたデイト表示のまわりを、紫がかったブルーのトラベリングデイトが取り囲んでいる。ふたつのダイヤルのあいだの段差は、たとえ角度をつけて見たとしても、もっと目立つものだと思っていたが、その公差は10分の1ミリにも満たない。手仕事の感触を見事に保ちながら、どこにも粗さを感じさせないバランスをこの時計は実現している。

Roger Smith Series 6

 ダイヤルはフランス的なブレゲのスタイリングを思わせるかもしれないが、ムーブメントはそれとはまったく異なる。スミス氏は、表から裏まで全体をできるだけ簡潔に見せるように造形を整えている。あらゆる機会に素材を削り取り、仕上げの妙を際立たせていくデュフォー氏やレジェピ氏のような作り手とはそこが対照的である。その結果、フロスト仕上げの4分の3プレート、手彫りの香箱カバー、そして直線的なフィンガーコックを備えた、英国製懐中時計やマリンクロノメーターの様式が保たれている。プレートのエッジは90°の鏡面仕上げが施され、カウンターシンクも同様で、これには並外れた技量が求められる。そこにルビーとブルースクリューが、最後のコントラストを添えている。スイス的なより大胆なスタイルと比べると、この種の仕上げが持つ繊細さや難しさは、多くの人にとって理解しづらいままであり続けるだろう。しかしここには抑制の効いたエレガンスがあり、それが心地よい変化をもたらしている。

 グルーベル・フォルセイのハンドメイド シリーズや(フェルディナント・ベルトゥーの)ネソンス ドゥンヌ モントルプロジェクトとは異なり、スミス氏は時計を組み上げて仕上げるための、より精密な基盤を作る手段としてCNCを用いることを決してためらってこなかった。しかしこれは工業製品とはほど遠く、手仕事の量は明らかであり、そこから着想を得た源泉よりもむしろ精密である。

Roger Smith Series 6
Roger Smith Series 6
Roger Smith Series 6

 よく見ると、ここにはダニエルズの2輪式ではなく、改良された1輪式のコーアクシャル脱進機が採用されていることが分かる。この脱進機の形状はマン島の三脚巴(トリスケリオン。マン島の紋章にも使われる3本脚が回転する形のシンボル)をどこか思わせるが、これはまったくの偶然だが興味深い。スミス氏は長年にわたり、ダニエルズオリジナルのコーアクシャル設計を発展させ、軽量化とより簡潔な構造によって効率を高めてきた。そうした性能向上を求める顧客のために、彼は過去のモデルに搭載されていた旧来の脱進機を新しいものへと置き換えている。コレクションという観点から見ると、ここにはオリジナリティを取るか、それともユニークさを取るかという選択が生まれる。というのも、新しい“仕掛け”を備えた旧作を持つ、数少ないひとりになる可能性があるからだ。この時計は計時精度の面でもきわめて優れているが、スミスが何より誇りに思っているのは、その機械的効率性なのである。

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Roger Smith Series 6

 価格についてはのちほど触れるとして、この時計で最大の論点になるのはサイズかもしれない。40mm×13mmという寸法は、このモデルに先立ち、かつ着想源にもなったムーンフェイズ&デイトのシリーズ4より小さい。また、より機能が少ないシリーズ1と同じ厚みでもある。ケースは非常にクリーンだが、実物では厚みが目につくようにも感じられた。ベゼルとミドルケースに多くの凸面が与えられていることもあり、視覚的な存在感がかなり強いからだ。さらに、現代の優れた独立系の同時代作のいくつかと比べても、手首のうえでわずかに高く収まる。

Roger Smith Series 6
Roger Smith Series 6
Roger Smith Series 6

 それでもなお、私はシリーズ6を本当に気に入っている。ここにはひとつの逆説がある。なぜスミス氏はより複雑なバージョンから始め、数年を経てこのモデルへとそぎ落としていったのか、という問いだ。スミス氏のウェイティングリスト(現在は約5年)に名を連ねる数人の顧客からは、このモデルの登場によって、自分が何をオーダーしていたのか、そして本当は何を望んでいるのかを改めて考え直すきっかけになったと聞いた。私にとっては、現行ラインナップのなかでこれがいちばんのお気に入りかもしれない。

Roger Smith Series 6

 しかし価格については、正直なところ受け入れがたい。定価は32万ポンド、日本円換算でおよそ6750万円に達し、これは現在の市場において多くの人にとってベンチマークとなっているレジェップ・レジェピ氏のクロノメーター・コンテンポラン IIのおよそ3倍にあたる。こうした年々の価格上昇は、デュフォー氏と同様の軌跡を描いており、2次市場での価格高騰と歩調を合わせるかのように進んできた。

 スミス氏は新作の価格と2次市場での価格とのあいだに、ほぼ均衡点を見いだすことができている。それは私の想定よりは高い水準ではあるものの、妥当だと感じられる。一方で、彼をスイスの同時代の作り手たちと比較すること自体がそもそも的外れとも言える。スミス氏の仕事のあり方や規模はまったく異なり、しかもウォッチメイキングのインフラが存在しない環境で行われている。それでもなお、彼は驚くべき仕事を成し遂げてきたのである。

Roger Smith Series 6

ロジャー・スミス シリーズ6の詳細については、公式ウェブサイトをご覧ください。

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