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Introducing ロジャー・スミス シリーズ6を発表。そしてスミスのカレンダー機能の歴史と新作を徹底解説

新作はある意味で、瞬間切り替え式カレンダーとムーンフェイズを備えたモデル、シリーズ4を簡素化したバージョンとも言える。しかしながら、その完成度は少しも劣ることなく、21世紀において英国ウォッチメイキングの最高峰であることを体現する1本だ。

ロジャー・W・スミス(Roger W. Smith)氏は、インディペンデントウォッチメイキングの黄金期と呼べる時代にあって、史上最高の時計師のひとりとして歴史に名を刻むことになるだろう。コレクターが“作り手の顔が見える”時計を求める熱狂がまだ収まっていない現状を踏まえても、彼は21世紀ウォッチメイキングの“ラシュモア山”に刻まれる存在だ。先週スミス氏は、“あまりに長いあいだ、自分は静かにしすぎていたと感じている”と語ってくれた。これは、過去10年間で5つのモデルを発表しながら、年間15〜20本という、きわめて少ない本数を製造する人物から聞くには実に興味深い言葉だ。今回、彼は自身6作目となるシリーズ6を発表する。2019年にシリーズ5 ”オープンダイヤル”を発表して以来、初の新作となる。

Roger Smith Series 6

 シリーズ6は、本質的にスミスのカレンダーウォッチであるシリーズ4のコンセプトを簡素化したものであり、新たに設計されたキャリバーによって“トラベリングデイト アパーチャー”表示を実現している。これは“ポインターデイト”に似ているがより複雑な仕組みで、中央の針を用いず、代わりに窓で現在の日付を示すことで、ダイヤル上の視認性を妨げないようにしているのだ。このトラベリングデイト アパーチャーの機構はフローティング式のセンターダイヤルの下に隠されており、その中央ダイヤル上には時・分・スモールセコンドが表示される。

Roger Smith Series 6

 シリーズ6は、直径40mmのゴールドまたはプラチナ製ケースで登場し、シースルーバックからは完璧に仕上げられた新ムーブメントを鑑賞できる。このムーブメントには(もちろん)ロジャー・W・スミス氏によるダニエルズ式コーアクシャル脱進機のシングルホイール(Mk2)仕様が搭載されている。ダイヤルは漂白したシルバーまたはゴールド製で、ハンドエンジンターンもしくはハンドエングレーブによる装飾デザインが選択可能という、数多くのカスタマイズが用意されている。これらすべてはスミスらしい英国的スタイルで製作されており、CNCマシンで“荒削りした”部品に対し、チームの作業時間の約80%を仕上げに費やすという手法でつくられている。発売時の価格は32万ポンド(日本円で約6400万円)だ。

 スミスによる技術的なウォッチメイキング、仕上げ、そしてシリーズ6の総合的なデザインについて、このあとさらに掘り下げていくが、まずはスミス氏とカレンダーウォッチとの関わりの歴史を振り返ってみたい。


スミスとカレンダー機能の歴史

 ロジャー・スミスらしい時計とは、カレンダー機能を備えているべきだという主張も成り立つだろう。現行コレクションではシリーズ1やシリーズ2(およびシリーズ2 オープンダイヤル)、そしてシリーズ5に高い需要がある一方で、シリーズ3、シリーズ4、そして(今回の)シリーズ6といった時計は、彼の師であるジョージ・ダニエルズ(George Daniels)の信頼と尊敬を勝ち取るためのスミス氏にとって最初の成功作と、より深いつながりを持っている。その意味で、カレンダー機能そのものがダニエルズ(自身もカレンダーウォッチを製作していた)から受け継がれた時計学的な系譜を体現しており、両者の美学的な結びつきをも映し出しているのだ。

R.W. スミス ポケットウォッチ No.2。 Photos courtesy of Phillips

 私たちはこれまでに何度もスミス氏とその経歴を取り上げ、マン島(アイリッシュ海に浮かぶイギリス王室属領で、自治権を持つ)の工房も訪問してきた。したがって、ここで彼の経歴のすべてを繰り返して紹介することはしない。時計界全体(私たちも含めて)がすでに詳しく書いているように、ダニエルズを満足させられなかった最初の時計のあとに製作された2番目の時計こそが師による拒絶と挑戦を経て生まれ、シリーズ6のような時計へとつながる舞台を整えたのである。

R.W. スミス ポケットウォッチ No.2。 Photos courtesy of Phillips

 “手づくり感のある”時計ではなく、無から“創造された”時計に見えるようデザインを改良するだけでなく、スミス氏はムーブメント設計もさらに進化させた。最初の試みではトゥールビヨンを搭載していたが、2作目は4年式パーペチュアルカレンダー、ムーンフェイズ、スプリングデテント脱進機を備えた1分間トゥールビヨンを組み合わせていた。ムーブメントは英国ウォッチメイキングの伝統的なスタイルで仕上げられており、金めっきとフロスト加工が施されたプレート、紫がかった手焼きのブルースクリュー、そしてゴールドシャトンが特徴的であった。ダイヤルも、インデックスの立体的な円形装飾と、彫り込みによるベースデザインの組み合わせという点で、シリーズ6との共通点が見て取れる。“ポケットウォッチ No.2”として知られるこの作品は2001年に完成し、コレクターの手に渡った。そのコレクターは21年間にわたって所有したのち、2023年にフィリップスで出品し、490万ドル(当時のレートで約6億8600万円)で落札された。この驚異的な価格は、時計そのものの卓越した品質(それは疑いようがない)を示すだけでなく、2000年代初頭というまだインディペンデントウォッチメイキング市場が黎明期にあった時代において、スミスの存在感を強く裏付けるものでもあった。

 一方で、見落とされがちなのが(あるいは一部のコレクターには忘れ去られている)、スミスのオリジナルであるシリーズ1のデザインだ。2015年にコレクション全体をリニューアルし(ラウンドケースを基調とする現在のデザイン言語によるシリーズ1から4を発表し、それを発展させたシリーズ5、そして今回のシリーズ6へとつながる)、そこでデザイン言語を確立する以前、オリジナルのシリーズ1にはまったく異なるコンセプトが存在していた。

Roger Smith Drawing

ロジャー・スミス氏による、レトログラードデイトを備えたオリジナルシリーズ1の表示機構と部分輪列の自筆図面。

 オリジナルのシリーズ1は2001年にデザインされ、レクタンギュラーケースに収められ、中央のピニオンに沿って8時から4時にかけて扇状に伸びるレトログラードデイトを備えていた。スミス氏はこれを“ダニエルズメソッド”の習熟の証と呼び、ユニークピースとしてすべてを手作業で製作した。しかし彼のウェブサイトによれば、これを量産モデルにすることには圧倒されていたという。というのもスイスから持ち込んだ部品を使用し、また彼の代名詞であるコーアクシャル脱進機ではなくレバー脱進機に依存していたからだ。その後、2013年にグレートブリテンを製作したことで注目を浴び、タイムオンリーウォッチへの需要が高まり、最終的に新たに刷新されたシリーズ1を発表するに至ったのである。

Series 1 "Onely Theo Fennell"

シリーズ1 “オンリー テオ・フェネル”はフィリップスで2021年に出品され、推定落札価格4万〜8万スイスフラン(当時のレートで約480万~960万円)に対して、54万1800スイスフラン(当時のレートで約6500万円)という驚異的な価格で落札された。 Photo courtesy Phillips

Series 1 "Onely Theo Fennell"

ムーブメント側。 Photo courtesy Phillips.

 次にスミスの工房から登場したデイト表示付きの複雑機構(少なくとも着想の年代順で言えば)は、この下の写真で示すようなユニークピース、グランドデイト フライングトゥールビヨン No.1である。2003年に製作が始められ、かつてA Collected Manにて販売された作品だ。これは英国で設計から製作まで行われた唯一のフライングトゥールビヨンであり、スミス氏が手がけたわずか4本のトゥールビヨンウォッチのひとつでもある。この“グランドデイト”コンプリケーションの配置はきわめて独特で、デザイン上の均整よりも実用性を優先していた1700〜1800年代初期の時計設計を彷彿とさせるものとなっている。

Roger Smith Tourbillon Grande Date

ユニークピースであるロジャー・スミス グランドデイト フライングトゥールビヨン No.1。Photo courtesy A Collected Man

 2015年、ロジャー・スミスは現行ラインナップを刷新し、そのなかにシリーズ3を加えた。このモデルはダイヤル上10時30分から1時30分にかけて走るレトログラードデイトを備えていた。前述のモデルが示すとおり、2015年以前はユニークピースが多く製作されていた時期だ(もっとも、その手仕事感はまったく失われていない)。当時の新作に関する記事のなかで、スミス氏はオリジナルのシリーズ1で初めて採用されたレトログラードデイトについて、次のように語っている。

 「オリジナルのシリーズ1にはレトログラードデイトを搭載していました。そしてそのシリーズを完成させて以降、2001年のオリジナルデザインを発展させたユニークピースを2本製作しました。そうした時計を振り返った結果、この魅力的な複雑機構を進化させた新しいシリーズ3を構想することにしたのです」

Roger Smith Series 3

ロジャー・スミス シリーズ3 ローズゴールド製。Photo courtesy A Collected Man

Roger Smith Series 3

ロジャー・スミス シリーズ3 ローズゴールド製。Photo courtesy A Collected Man

 しかし、今回の新作を比較するうえで最も実用的なのはシリーズ4である。このモデルは瞬間切り替え式のトリプルカレンダーとムーンフェイズ表示を備え、視認性を重視した表示方法としてエレガントな工夫が凝らされていた。スミス氏は、師のダニエルズの教えである“ダイヤルは常に明確で読みやすくなければならない”という考えを引き継いでいる。多くのヴィンテージウォッチ(そして現代の多くの時計)では、中央に取り付けられた針で、外周に配された日付を指し示すポインターデイト方式が一般的であり、今回も日付は外周に表示されている。ただし、一部のヴィンテージウォッチでも日付を強調する“窓”を使った例はあったが、その実装方法は今回のものとは異なる。

Series 4

スミス初の“トラベリング アパーチャーデイト”カレンダー搭載モデル、シリーズ4。Photo courtesy A Collected Man

 中央の針を単にフローティング式センターダイヤルの下に隠すのではなく、日付はムーブメント外周に設けられた周辺機構を通じて“移動”する仕組みになっている。この仕組みについてはのちほど詳述するが、スミス氏はこの瞬間切り替え式のデイト機構が、シリーズ4を発表してからの10年間で広く採用されるようになったことを誇らしげに語っている(それは当然だ)。

Series 4

“トラベリング アパーチャーデイト”カレンダー搭載モデル、シリーズ4。Photo courtesy A Collected Man

Series 4

シリーズ4のムーブメント。Photo courtesy A Collected Man


シリーズ6

 シリーズ6には、これまでのシリーズすべての土台となってきた基本設計に基づきながらも、新たに設計されたキャリバーが搭載されている。このムーブメントは48時間のパワーリザーブを備え、振動数は1万8000振動/時、そしてフリースプラングテンプを採用している。41mm径のシリーズ4に搭載されていたカレンダー機能とムーンフェイズ駆動機構の一部を単に取り除いただけではなく、スミス氏は、40mmの小振りなケース内で、瞬間切り替え式の日付表示を維持しながら、ムーブメント背面から見た際の立体感と奥行きのある構造を強調したキャリバーを新たに設計した。

Roger Smith Series 6

 この日付瞬間切り替え機構は、24時間をかけて力を蓄え、真夜中にそれを一気に放出して日付を進めるカムシステムに基づいている。通常のポインターデイトでは、日付用の針は中央から駆動するが、シリーズ6では日付表示窓が、内向きの歯を持つ外周ギアに固定されている。ギアの歯と歯の谷間にはフラットな面があり、そこに取り付けられたレバーシステムのくちばし部分が噛み合い、輪列と連動する仕組みになっている。日付リングはこのギアの上に配置されており、ギアがその下を滑らかに動けるよう、わずかな隙間が確保されている。日付窓はそのさらに上で浮かぶように設置されている。ケース厚13mmという寸法を維持するため、これらの構造には驚異的なまでの高精度な公差が求められている。

Roger Smith Illustration

 一部の人にとっては、輪列を通じて動力の流れを追い、日付表示機構がどのように作動するのかを理解するのが理にかなっているように思えるかもしれない。ただし、それがすぐに理解できなくとも(それは当然であり、非常に複雑なのだ)不思議ではない。そのためスミス氏は、図(以下に示す図には、各部品にアルファベットでラベルが振られている)と解説を共有してくれている(私によって少し補足済み)。

 このシステムは、まず“A”と示されたカレンダー駆動輪から始まる。この駆動輪は24時間で1回転し、その回転により“B”と示されたローディングカムを駆動する。“B”カムにはピンが取り付けられており、それが“A”駆動輪のスロット内に配置されていることで、連動して動く。Bカムが回転を進めると、それが“C”と示されたレバー(これは“G”とラベル付けされた“くちばし”と連結している)に力を加え、これにより“C”レバーは反時計回りの方向に押される。“C”レバーの反対側では、 “D”と示されたくちばし部分が動かされ、日付リング“E”の歯の縁をなぞるように、水平に反時計回りでスライドしていく。

 このプロセスは24時間かけてゆっくりと進む。“B”カムは真夜中に向けて回転を続け、徐々に“C”レバーおよび“G”の関節部に対する力が増していく。最終的に、カムの頂点が“G”の関節部と“C”レバーに完全に接触することで、カム下にある“H”バネに圧力が蓄積される。(日付が切り替わる直前の)“テンションがかかった状態”のCレバーと、静止時の状態との違いを確認するには、上の図(テンションが完全にかかった状態)と下の図を見比べて欲しい。“B”カムがその頂点を過ぎると急速に回転し、逆方向の反動によってDの“歯”が日付リングに食い込み、それと同時に日付リング“E”の歯を1日分スライドさせて日付が進む。その際、“I”とラベル付けされたジャンパーが日付リングの動きすぎを防ぎ、これも“J”バネによって適度なテンションがかかっている。一方、“D”のくちばし部分は、“F”バネによって元の位置に戻される。さらに、“K”と示されたレバーを用いることでクイックデイトチェンジも可能となっており、これはケースに埋め込まれたプッシャーを操作することで機能する。

Roger Smith

 もちろん、本作にはロジャー・W・スミス氏によるシングルホイール(Mk2)仕様のダニエルズ式コーアクシャル脱進機が搭載されている。この脱進機は効率性を高め、業界標準をはるかに超える長期のメンテナンス間隔を実現するよう設計されており、潤滑油を必要としない。オイルの劣化はムーブメントが長期的に不調をきたす主要因のひとつだ。コーアクシャル脱進機(およびその前史や競合技術)について詳しく知りたければ、2020年に公開された特集記事を参照するのがよい。また、スミスが現行バージョンのコーアクシャル脱進機をどのように発展させたかについては、2015年のコレクション発表時の記事に掲載された技術的分析、図面、解説を振り返るとよいだろう。

Daniels Anniversary Watch

ロジャー・スミス氏がジョージ・ダニエルズの設計に基づいて製作したアニバーサリーウォッチに搭載されたコーアクシャル脱進機のクローズアップ。上部と下部に配置された脱進車の歯列に注目。

Simplified schematic animation of the co-axial escapement; animation, Adithyamc Gaming, Wikipedia.

コーアクシャル脱進機の簡略化された模式図アニメーション。Adithyamc Gaming, Wikipedia

 手作業による時計製造(オメガのような量産規模ではなく)という観点でいえば、スミス氏は、現代環境においてコーアクシャル脱進機をできる限り発展させてきた。前掲の設計図にも示されているとおり、スミス氏は脱進車を軽量化すればするほど機能性が向上し、精度も高まることを見出している。この“マーク2”シングルホイール脱進機については、2015年のシリーズ発表時にニコラス・マヌーソス(Nicolas Manousos)氏が執筆した解説記事を参照して欲しい。

 過去の審美性との結びつきについては後で述べるが、英国ウォッチメイキングの歴史における中心的テーマのひとつは、精度の追求である。ジョン・ハリソン(John Harrison)がマリンクロノメーターによって文字どおり世界を変えたことを考えれば、スミス氏の精度追求が、仕上げ同様にその系譜を示す存在でもあることは疑いようがない。

 「精度について言えば、市場にあるどんな機械式時計にも引けを取りません。日差は数秒以内に収めることができます」とスミス氏は語ってくれた。「コーアクシャルの本当の価値は、その精度をどれだけ長期間維持できるかという点にあります。レバー脱進機では動力伝達にスライド動作が伴うため潤滑が必要ですが、コーアクシャルでは押す動作によって動力を伝える仕組みなので潤滑を必要としません。そのため、我々はオーバーホールまでの期間を延ばすことができているのです。」

Design progression of the co-axial escape wheel, beginning with the 2006 version which was Smith's first interpretation of George Daniels' escapement. The 2006 version was fitted to the first Series 2 wristwatches that left Smith's studio.

コーアクシャル脱進車の設計進化図。2006年のバージョンに始まり、これはロジャー・スミス氏によるジョージ・ダニエルズの脱進機の最初の解釈であった。この2006年版は、スミスの工房から送り出された最初のシリーズ2の腕時計に搭載された。

Side view of the difference between the two piece and single wheel co-axial escape wheel.

ツーピース式とシングルホイール式のコーアクシャル脱進車の違いを示す側面図。

 では、どのようにしてそれを実現したのか。スミス氏がムーブメントを改良するなか、たとえば少ない動力で動作するシングルホイール仕様の小型コーアクシャル脱進機を採用したことで、使用するゼンマイの強度を抑えることができるようになったのだ。実際、彼によればこの20年のあいだにゼンマイの“強度”を8段階も落としてきたという。その結果、効率を維持したままムーブメント全体への負荷を軽減でき、オーバーホールの間隔は10年を超え、今や15年、さらには20年近くまで延びつつある。

 「ジョージ(・ダニエルズ)はコーアクシャルを設計したとき、その効率性を理解していました。しかし、彼がこの脱進機を搭載して製作した時計はわずか8本にすぎません」とスミス氏は私に語った。「私たちがこの20年で成し遂げてきたのは、一貫した時計づくりです。すべての時計にベースとなる同一キャリバーを搭載しており、事実上、ひとつのモデルを継続的に製作してきたことになります。その過程で効率性を長期にわたってモニタリングでき、その結果、この時計はほかの高級機械式時計と同等の精度を誇ります。しかし本当の美点はその機械的効率にあり、これこそ、ほかのどんな機械式時計と比べても群を抜いている点なのです。」

 ムーブメントの仕上げは伝統的な英国式だ。グレイン仕上げの地板はハイポリッシュ仕上げが施された90°のエッジを備え、香箱蓋やテンプ受けには繊細なハンドエングレービングが施されている。とりわけダイヤル側や巻き上げ機構には、ブラックポリッシュ仕上げの、大きく平らな鏡面が広がり、歯車や(直角に磨かれたエッジのある)ギアにはサーキュラーグレイン加工が施されている。また、人工ルビーを支えるゴールドシャトンは手磨きで仕上げられ、ビスは炎で焼き入れされた美しいブルーに変色させている。ムーブメントには“R.W. Smith”の署名と、マン島のシンボルであるトリスケリオンが刻まれている。

Roger Smith Series 6

 大きく平らな面にグレイン仕上げを施し、波打つことなく完璧に磨き上げ、さらに地板の側面に正確な直角をつくり出すことが、どれほど困難な作業であるかを理解していない人も多い。おそらく現代では“ルーペ”を使ってムーブメントを覗き込み、幅広く華やかなジュネーブストライプや、ブラックポリッシュのアングラージュの輝き、あるいは内部角の数を数えることが、仕上げの質を簡易に評価する方法として一般化してしまったからだろう。一方で英国式の仕上げはまったく異なるアプローチを取る。私自身、その見た目の簡素さゆえに理解して評価できるようになるまでには時間がかかった(私は多くの時計を見る機会がある)。しかし、それは深い郷愁を呼び起こす。あまりにも高度で、100年以上前の最上級時計と比べてもほとんど見分けがつかないほどのスイスの“伝統的”な仕上げだ。英国式の仕上げは、その伝統を明らかに美しく昇華させてはいるが極限まで推し進められているがゆえに、それが現代の仕上げであることは一目瞭然なのだ。

 一方で、このような英国式の優れた仕上げには紛れもない系譜がある。だからこそ、時代を超越し、先人のものよりさらに美しいと感じられるのだ。ひと目で最も印象的なのはエングレービングであり、それはジョン・ハリソンが世界を変えたH4マリンクロノメーター時代、さらにはその後のバージフュージー懐中時計の時代に見られる、英国製時計の装飾を格上げしたものだ。

 ダイヤルもまた魅力的だ。外周の日付表示と中央のフローティングダイヤルとのサイズ比率はわずか0.1mm、あるいは0.01mm単位の調整が求められるが、このバランスはまったく崩れていない。フローティングダイヤルは漂白したシルバーまたはゴールドのベースに、ハンドエンジンターン、もしくはハンドエングレービングのいずれかを選択できる。これまでのスミスの作例を踏まえると、大半(といってもごく少数)は時・分リングにエングレービングを施しラッカーを流し込んだ仕様で、ケース素材に合わせた色調で仕上げられたR.W. Smithのネームプレートが採用されている。また、表情豊かなスペード型の針とトラベリングデイト表示窓は、ゴールドまたは焼き入れによって紫がかったブルースティールが用意されており、このブルーパープルの色合いはスミス氏本人が特に好むものである。

Roger Smith Series 6

 ここでは写真をもとに判断するしかない。実際にシリーズ6を目にする機会がいつ訪れるのか、あるいは訪れることがあるのかどうかはわからないが、スミスの作品はゴールドケースでこそ真価を発揮しているように思える。クリーミーホワイトのシルバーダイヤルにゴールドのアクセントが映え、まるで歌っているかのようだ。時刻表示リングの外周に施された軽い彫り込みも、ダイヤルにさらなる奥行きを与えている。個人的に唯一気になるのは、フローティングダイヤルを固定するために使われた2本のマイナスねじで、それがなければ美しいローズエンジンターンの中央ダイヤルがより引き立つと思うが、一方でこれによって手作業によるクラフツマンシップを強調する効果があると感じる人もいるだろう。

 ケースは直径40mmで厚さ約13mm(シリーズ1やシリーズ2と同じ)。ゴールドまたはプラチナから選択でき、バックルもケースと同素材で揃えられており、ロンドンのホールマークが刻まれている。ラグ幅は20mmでバックル部は18mmに絞られている。

Roger Smith Workshop

 すでに触れたとおり価格は32万ポンド(日本円で約6400万円)であり、当然ながらごく限られた顧客層のみが手にすることのできる時計だ。スミスは全6シリーズを合わせても年間15〜20本しか製作していないが、彼によれば拡張された工房には現在15人のスタッフが在籍しており、待ち時間を最小限に抑えるべく尽力しているという(それは数年程度であり、かつて言及されていた最大10年の待ち時間よりはるかに短い)。スミスウォッチの需要が高まる一方で、彼はその待ち時間が耐え難いほど長くなるのをよしとせず、改善に努めていると言う。心強い限りだ。

Roger Smith

 購入希望者の選定方法について、スミス氏自身が(プレスリリースで)次のように述べている。チームは各注文を慎重に検討し、“クラフツマンシップ、誠実さ、そして長期的な継承という私たちの価値観に沿っているかを確認します。優先されるのは、ロジャー・W・スミス、あるいはジョージ・ダニエルズのタイムピースをすでに所有されている方々、また現オーナーから強く推薦された方々です。しかし、将来の保有者すべてが必ずしもこの枠組みから現れるわけではないことも理解しています。もし私たちの伝統的な英国ウォッチメイキングへの情熱を共有し、その根底にある哲学に共鳴していただけるなら、ぜひご連絡いただきたいと思います”。

 ロジャー・W・スミス シリーズ6の詳細はこちらから。また、スミスのこれまでの歩みを振り返るにあたり、画像提供をしてくれたA Collected Manに感謝を伝えておきたい。