ADVERTISEMENT
ウルべルクは5月、遮蔽空間を備えたクラシックなデザインのUR-105 CTに12本限定モデルを発表した。しかし、これはよくある限定モデルのリリースとは違う。ひとつには、このモデルを持って105コレクションは完全に終了すること。またひとつには、このモデルにはタンタルという非常に加工が難しい素材が使われていることだ。タンタルは、CNCマシンやドリルビットを貫通してしまうことで知られている。
タンタルは、希少で硬く光沢のある遷移金属だ。その特徴の一つとして、酸に対して高い耐性をもつことがある。加工する際には、はんだ付けができないことに注意が必要だ。また、タンタルは加工中に硬化する傾向があるため、研磨や穴あけが難しく、あらゆる機械を壊してしまう可能性がある。
ウルべルクは以前にもこの素材を使用したことがあるが、UR-110 TTHのあと、二度と使用しないことにしていた。しかし、あきらめきれなかったようだ。そこで、タンタルを使うのはこれが最後だという約束のもと、これらの時計が発表された。
この素材に心底引かれている人物が社内にいることは間違いない。それはほかでもない、ウルべルクの創業者であるマーティン・フレイ氏だ。そして、それは引かれているというよりも、むしろ憑りつかれているようなものだった。機械を操作するスタッフが悔しがるほど、彼はこの素材が好きでたまらないのだ。
私はフレイ氏に、最新のリリースについて、そしてなぜ彼が最後にタンタルを使おうと思ったのかについて、話を聞いた。
HODINKEE:タンタルを使うことの何がそれほどエキサイティングなのでしょうか?
フレイ:タンタルは元素の一つで、純粋なものです。周期表に載っているような自然界の純粋な元素を使うことができれば、それは素晴らしいことだと思います。これまであまり使われてこなかったのは、当然ながらドリルビットを壊す素材だからです。特別に硬いことが原因というより、何というか……粘着性があるため、機械加工が非常に難しいのです。
そしてこれが問題なのです。しかし、これは純粋で美しいダークメタルです。タンタルは非常にダークな色の金属で、非常に濃いバイオレットブルーの色をしています。美しさの点では、どんなコーティングにも負けません。やめた方がいいとわかっていても、なぜかまた使いたくなってしまう理由がこの素材の美しさなのです。
では、時計の素材の色は、コーティングされていない自然な色なのですね。
そうなのです。私たちの世界を構成する鉱石の一つとして、自然が与えてくれたものなのです。タンタルはそのなかでも希少な金属です。最近では、携帯電話などにも使われています。しかし、タンタルは難加工金属であり、大変興味深い特殊な性質をもっています。非常に腐食しにくいため、最強の酸のなかに入れることもできます。ほかのものは溶けてしまうのに、この金属は溶けません。名前の由来は古代ギリシャの神話にあります。タンタラスは悪役で、罰としてひどい拷問を受けましたが、彼はそれに耐えたのです。
あなたは挑戦的なプロジェクトにとても魅力を感じているようですね。難しそうなものは、それだけでやってみたいと。
その通りです! それが軋轢にもなっています。というのも、CNCマシンを動かしている人たちは私のことを知っているからです。時々、私が来ると、彼らは「ああ、マズい……」となります。
もし私が特殊な金属をもってきて「ここに穴を開けてどうなるか見てくれないか?」と頼むと、彼らは私を「気は確かか」という顔で見ます。同時に、彼らのなかに光が見えてくるのです。彼らもまたやってみたいのです。それは錬金術のようなもので、異なる材料から何かを生み出すという夢があるのです。もちろん、錬金術師の場合は、永遠の命を与える材料を見つけようとしますが。 私はそこまでは行かずに、その少し前でやめています。
では、タンタルと出会うと、文字通り機械はどうなるのでしょうか。
タンタルはかなり硬くて重いです。ドリルに巻き付いて、ドリルビットを疲弊させてしまうのです。文字通り、ドリルを“食べて”しまうのです。
1つの時計を作るのに、通常の3倍のドリルを使っていると思います。ドリルを交換して、そのたびに新しく作業をしなおすので、精度が落ちる可能性が高くなってしまうのが問題です。
タンタルは、ウルベルクを代表する素材のようなものです。私たちのチームがこの素材を使って経験を積み、将来的には新しい作品の可能性につなげられればと思っています。
タンタル製の本体やダイヤルを覆うカバーは、どのような発想から生まれたのでしょうか? 実際にはどのような形でデザインされたのでしょうか?
その主な目的は、中に入っているものを守ることです。形状は盾のようなもので、中世の鎧からインスピレーションを得ました。
今回の105の最終バージョンでは、より強力なシールドになり、サイバーパンクのシールドと呼ぶ人もいるほどです。
あなたは通常、非常に少数しか製作しませんね。12本という数は、タンタルを扱う難しさから生まれたものなのでしょうか?
これは今ではウルベルクの伝統のようなものになっています。これは110の時に始めたもので、木を使った時計を作りました。これは5本前後の少量生産でした。
古い部品はもうありませんから、ある意味では生産を再開しなければなりません。しかし、私たちは新しいものを作りたかったので、それは実行しませんでした。1つの新しいモデルを投入するために、1つの既存モデルの生産を中止しなければなりません。私たちは品質を向上させ、今の状態を維持できるようにする、というやり方を選択しています。
ある意味、小規模でいるためにエネルギーを使っているようなものです。105の最後の時計は、この限定モデルです。もちろんこの素材についても、「数本しか作らないなら、もう一回タンタルで作ってもいいか 」ということかもしれません。それが許された理由だと思います。
このインタビューは、わかりやすく簡潔に編集されています。
Photos, Tiffany Wade