腕時計の世界全体でも、ロレックスという枠に限ったとしても、エクスプローラーという時計の知名度を疑う余地は無い。それは、長年培われてきた実直な時計であり、世界中から愛される姉妹モデルの中でもそのアイコニックさを失わない。エクスプローラーという時計は、ロレックスの生粋のスポーツウォッチである。エクスプローラーの歴史が、このモデルそのものを一つのカテゴリーの代名詞として確立させたといえる。
日常使いへの適応性、熟考されたシンプルさ、そして不動の信頼性をその構成要素の中核に据え、実に半世紀以上もの間、進化を続けてきたのである。エベレスト初登頂というルーツから、これまでに登場した多くのレアなリファレンスまで、その根本は全く変わっていない。現行のロレックス エクスプローラーの正式名称はM214270−0003だが、はるかヒマラヤ山脈の頂上からミッドタウンの会議室まで、僕らはその時計を、エクスプローラーと呼ぶ。
さて、今回取り上げるモデルは2016年に登場している。ではなぜ今、掘り下げるのか。スティール製ロレックス市場がこれまでにない盛り上がりを見せている今、ロレックスのデザインランゲージの中核を担いつつ、現行モデルとしては最も手の届きやすい価格帯に位置する本機を取り上げることは意義深いとと感じたのだ。僕の日常使いの時計は前世代のエクスプローラー II 16570であり、そのオリジン、そしてスティール製ロレックスに狂うこの業界における、エクスプローラーの今を探ってみたかった。
現行の214270エクスプローラーを読み解くには、この時計がどこから来たのか、その歴史を辿る必要がある。「エクスプローラー」(探検家)という呼び名は伊達ではなく、このモデルの起源は、戦後の探検時代、そして現代スポーツウォッチの最初期に遡る。
エポックメイキング
今日のエクスプローラーの起源は、人類が前代未聞の世界最高峰を目指した、1953年まで遡る。まだ3針時計が主流の時代である。これら最初期のエクスプローラーは、エドモンド・ヒラリー(Sir Edmund Hillary)とテンジン・ノルゲイ(Tenzing Norgay)が1953年5月29日にエベレスト登頂を果たすことになる遠征のため、実用試験としてロレックスが提供したものであった。「エクスプローラー」という名称は同年の早い時期にジュネーブで登録されており、この登頂に向けた時計のプロトタイプ開発が進められていた。
偉業の達成を共にしたこの特別な個体は、50年代初期のリファレンス6098である。ノルゲイが着用した(ヒラリーは登頂に際してスミス製の時計を着用していたとされ、ロレックスとスミスは共にこの登頂のスポンサーだった)この超重要な時計は、現在、スイス・チューリッヒのベイヤー時計博物館で見ることができる(そしてレネ・ベイヤー氏 【Réne Beyer】を迎えたTalking Watchesエピソードも参照してほしい)。
戦後最大級の探検業績という旗の下、ロレックスは、ドレッシーでありながら超頑丈なエクスプローラーを、この時代を代表するスポーツウォッチとして位置付ける大義名分を手に入れたといえる。
1953年から継続して製造されてきたエクスプローラーだが、現在我々が知るベースデザインへとロレックスがたどり着くには数年を要した。最初期のモデルは、同社のバブルバックモデルをベースにしており、その後登場する数種の初期型オイスターモデルの文字盤には“Explorer”銘が入っていた(お気づきのように、エベレスト登頂に同行した6098にはこの表記が無い)。エクスプローラーというモデルの起源がこの6098にあることは疑いようが無いが、我々が今日認識できるエクスプローラーのフォーマットが、6610の発表と共に確立されるまでに数年の時間といくつかのリファレンスが存在した(6150、6350、そして変わり種ともいえるエクスプローラーボーイズこと5500などを含む)。
では、簡単に歴史を見ていこう。
1952年/1953年 — Ref. 6150
後にエクスプローラーと呼ばれることになる時計の、実用プロトタイプ的な立ち位置である36mmの6150は、6350よりわずかに先立って登場したが(両者共にノルゲイの6098にも使われたA296ムーブメントを搭載する)、エクスプローラーが6610へと成熟していく過程で、このリファレンスが6350に完全に取って代わることになる。1959年まで製造が続けられた6150は当初、“Precision”表記を文字盤に配し、“Explorer”の文字は見当たらなかった。
ロレックス初期のスティール製スポーツウォッチであると同時に、エクスプローラーの系譜の根幹に位置するリファレンスの一つであり、その収集価値は非常に高い。近代アドベンチャーのための道具として時計を認識するとき、6150は真のオリジナルな存在なのである。
1953年 — Ref.6350
これが、“Explorer”表記を文字盤に配した最初のリファレンスであり、ヒラリーとノルゲイによるエベレスト登頂成功を受け、アドベンチャー用途(ヒマラヤ登頂など)に特化して製作された。その名に恥じず、気温-20ºC〜40ºCという幅広い環境下でムーブメントの駆動を可能にする、特殊オイル仕様の6350のオーダーを受けることができた。すべての6350の収集価値は高いが、その中でも「ハニカム6350」と呼ばれるギヨシェ文字盤仕様(初期のミルガウスに見られるものに近い)のバリエーションはその他と一線を画し、初期型エクスプローラーモデルの中でも非常に高い人気を誇る。6350の製造期間は短く、一説には1954年時点で既に廃盤となっており、ロレックスは同時期に製造されていたRef.6150を未来のエクスプローラーへの布石として選んだことになる。
1955年 — Ref.6610
黒文字盤、ギルト仕様のマーキング、36mmケース、そして50mの耐水仕様を持つこのリファレンスが、エクスプローラーとしての恒久的な基本デザインを確立した。先行した6150と多くの仕様を共有するものの、ロレックスの新型 Ref.1030を採用した6610はより薄型となった。
もしも真の超激レア6610を見たければ、我々がクリスティーズオークションからピックアップし、2013年に紹介した白文字盤バージョンをご覧あれ。予想落札価格1万ドル〜1万6000ドル(約109~175万円)で出品されたこのレア中のレアな個体は、17万1750スイスフラン(約1913万円)の落札価格を叩き出すことになる。
1963年 — Ref.1016
これが、エクスプローラーの真骨頂とも呼べるリファレンスである。100m防水、36mmのスティール製ケースに伸縮式ブレスレットを持つ1016は1961年に発売され、その製造は1989年まで継続されることになる。1975年にはブレスレットがソリッドリンク仕様となり(ソリッドエンドリンクではない)、ハック機能付きのキャリバー1570ムーブメントに(それまでのcal 1560から)アップデートされた。ロレックスがエクスプローラーという時計を一つの完成形にまで昇華させた地点であり、それは同時期の他のスポーツモデルについてもいえることである。
また、1016はいくつかの貴重なバリエーションも世に送り出した。その一つが、超絶激レアといえる「スペースドゥエラー」だろう。日本市場向けに作られたとされるこのバリエーションの詳細はあまり知られておらず、文字盤に“Space-Dweller”と銘打たれた信じられない程レアなエクスプローラーは、もしかするとロレックス史上最もレアな時計のひとつかもしれない。1965年および1966年製が確認されているこの時計について、ベン(Ben Clymer)は、HODINKEE Magazine Vol.3に掲載された自身のコレクションに関する特集において、以下のようにコメントしている。「この時計は信じられないほどシンプルでありながら、それと同じくらい特別かつレアな代物だ。最少で5例、最多でも30例ほどの本物と思われる個体が存在するとされ、そのほんのひと握りがこれまでに公開されている。究極の隠れヒット作であり、僕にとって、ロレックス史上最もクールな時計のひとつだ」
これまた収集家の間で愛されているエクスプローラーの1つが「アルビノ」こと、白文字盤仕様の1016だろう。ノルゲイの6098をはじめとする、正式にエクスプローラーと呼ばれる以前の初期モデルは白文字盤だった。量産された痕跡はないものの、6610(上記のリンク参照)および1016の白文字盤個体がこれまでに少数確認されている。
長期にわたって製造された1016には、特別な経年変化を見せた個体や(トロピカル文字盤など)、初期型のミラーダイヤル仕様のもの、はたまたミラーダイヤル6時位置のテキストに下線が入った、いわゆる「ギルト・アンダーバー」など、多くのレアなバリエーションも存在している。
1989年 —Ref.14270
これが、実質的に見て最初の現代版エクスプローラーであり、そのフォーマットには多くの類似点を持つものの、ケース形状と文字盤の仕様は、1016からの明確な離脱を図っている。36mmサイズを維持しつつも、このモデル初となるサファイア製風防を採用し、トリチウム夜光塗料とホワイトゴールド製アプライド・インデックスの組み合わせに(1016はマット文字盤にペイントのインデックス)、当時最新のCal.3000が搭載されている。
もし珍しい14270を探したければ、「ブラックアウト」仕様の個体に目を向けてみよう。3・6・9時インデックスに黒のエナメル塗装が施されていることからそう呼ばれるこのバリエーションは、14270の最初期ロットに相当する1990年および1991年製の個体が確認されている。細かい仕様変化がその醍醐味でもあるロレックス収集において、この暗色数字仕様のエクスプローラーは、Ref.14270における最も珍しいバリエーションだといえるだろう。
2001年 — Ref.114270
Cal.3130へのアップデートを除き、このリファレンスは14270と瓜二つだ。また、ロレックスは1016のムーブメントをアップデートした際にはリファレンスの変更を行っていない。これらの事実を踏まえると、実は1961年から2010年の間に、明確に異なるエクスプローラーというモデルはたったの二つしか存在しないのである。これは実はすごいことである。そして、後述する6桁リファレンスの214270へのアップデート時には、そのリファレンスを変更しない道を選ぶのである。ロレックスというブランドは本当に謎である。
2010 — Ref.214270
これが、ロレックスの現行ラインナップに存在するエクスプローラーの初期型といえるバージョンである。2010年に登場した214270は、ケースサイズを36mmから39mmへと引き上げ、オイスターブレスレットにはソリッドエンドリンクを採用し、そのムーブメントはモダンなCal.3132へとアップデートされた。短めの針(分針がミニッツマーカーに届かない)とメタリックで夜光塗料無しの3・6・9インデックスを持つこのリファレンスを前世代モデルと区別するのは容易である。36mmケースのモデルから針を流用しただけだとする人もいれば、視覚的にもライトな針はよりエレガントであり、ドレッシーさを併せ持つエクスプローラーに合っていると考える人もいる。どちらにしても、このバリエーションの製造期間はわずか5年程度なわけで、注目すべきリファレンスであることは間違いなく、将来その収集価値が上がるかもしれない。
2016 — Ref.214270 “マークII”
今回の記事でレビューする、現行スペックの214270はバーゼルワールド2016にてアップデートされ、全体のプロポーションに見合った大きめの針と、夜光塗料付きの3・6・9インデックスが搭載された。これにより、実に1989年以来(1016の廃盤時から)初めて、全インデックス夜光仕様のエクスプローラーが復活したことになる。
モダン・エクスプローラー
ここまで、この時計のルーツを追ってきたわけだが、その現行モデルを掘り下げていこう。2016年にアップデートされた現代の214270エクスプローラーは、39mmのオイスタースティールケースに黒文字盤を搭載し、おなじみの3・6・9インデックス(今回は夜光塗料付き)と、これまでよりも長めかつ太めの針が新採用されている。すべての夜光パーツはロレックス独自のクロマライト仕様で、暗闇では青色に発光する。
これらのアップデートにより、214270エクスプローラー “マークII”は(ロレックスがその番号を変更せずにリファレンスのアップデートを行ったためこう呼ばれる)よりバランスが良く、スポーティさが増し、全体的にみて39mmというサイズにより馴染む仕上がりになっている。
2010年時点で(114270の36mmから)39mmへと大型化されたわけだが、その大きさがエクスプローラーにとって本当に必要なものだったのか、僕は複雑な意見を持っている。39mmがスポーツウォッチとして丁度良い(そしてまだ抑え気味の)サイズなのは間違いない。ただ、もしあなたが旧型の1016や14270など、36mmのエクスプローラーを試したことがあるならば、その絶妙なサイズ感の素晴らしさをご存知だろう。
36mmというサイズは、たとえそれが新品同様の114270であったとしても、まるで昔の時計を着けているようで、そのフォーマットはこのモデルの系譜に直結していると感じる。39mmというサイズはしっくりはくるのだが、36mmでこそこの感覚がより強力なものになるのだ。
その多少大型のサイズ(決して巨大なわけではない)を考慮しても、エクスプローラーはロレックス最後の40mmを下回るクラシックスティール製スポーツウォッチといえるだろう。カタログ上、低価格かつ最もミニマルな仕様のモデルの一つであるにも関わらず、エクスプローラーはツインロックリューズ による100m防水と、素晴らしい夜光性能を備えていると同時に、現行のサブマリーナー、GMTマスター II、もしくは直系の姉妹機である42mmの216570エクスプローラー IIの大型ケースなどと比べると、そのケースのスレンダーさが際立つ。
僕の目には、この39mmエクスプローラーと現行デイトナのケースが、現在のロレックスのラインナップで一番ハンサムに映る。どちらも、その他のスポーツモデルに広く採用されている、いわゆる「マキシケース」にアップデートされていないのだ。この観点で見れば、エクスプローラーが歴代使用してきたスリムなラグを持つケースは、贅肉をそぎ落としたこの時計の質実剛健な気質を体現しているともいえるだろう。
ケースサイズや形状の変化、文字盤の進化を経てなお、6150などの初期型リファレンスから現行の214270まで続くエクスプローラーのテーマは明らかだ。ディープブラックの文字盤、シンプルで視認性の高いレイアウト、そしてエクスプローラーの象徴ともいえる、3・6・9インデックスは、実に60年以上も存続しているのだ。
これまで僕は、「シンプル」や「ミニマル」という言葉を用いてエクスプローラーを説明してきたが、それは決して入門機という意味でも、ローテクというわけでもない。比較的シンプルな時間表示のみのムーブメントではあるが、そこはロレックスの真髄ともいうべきエクスプローラーである。いかなる酷使にも耐えうるだけの堅牢性を持っている。214270エクスプローラーは振動数4Hzの自動巻きCal.3132を搭載し、パラクロムヒゲゼンマイ、パラフレックス耐震装置、そして48時間のパワーリザーブを備えている。3132はCOSC認定されており、その精度にも抜かりはない。
ロレックスの高精度クロノメーター検査をパスするためには、COSCスペックでは不十分である。Cal.3132がエクスプローラーのケースに収められた後、時計全体で日差-2/+2秒をクリアしなければならないのだ(通常のCOSC規格よりも格段に厳しい)。より高められた精度に加え、高精度クロノメーター検査をパスした時計には5年間の保証が与えられ、そのオーバーホール周期は10年ごととなっている。ムーブメントに関していえば、僕がエクスプローラーに欲しいものはすべて揃っている。強固でタフ、全く飾り気が無くメンテナンスも容易、そしてこの時計の存在意義を邪魔するような複雑さは皆無である。
ブレスレットは定番のオイスターデザインである。日常使いのブレスレットとしてのゴールデンスタンダードといえるオイスターブレスレットは、3連リンクデザイン、ソリッドエンドリンク、そして堅牢なフォールディングタイプの安全機構とマイクロアジャスト機構付きのクラスプを装備している。僕は個人的にブレスレット派ではないが、エクスプローラーには(その他のロレックスと同じく)やはりオイスターブレスレットがよく似合う。
ブレスレットの厚みと重量感は時計とマッチし、その質感と仕上げはエキサイティングでありつつ実用時計然としている。僕を含め、すぐにシンプルなレザーやNATOストラップに走る輩もいるが、オイスターブレスレットのファンが多いのには「究極の機能美」という確固たる理由がある。
使用感
いろんな意味で、機能美こそがエクスプローラーの「性格」である。回転式ベゼルが本当に必要ならば他へどうぞ。日付も無しだ。代わりに、時・分・秒で満足してみるのはどうだろう? リファレンスに関わらず、エクスプローラーという時計は、本質的な機能を必要とした時代に創造されたクラシックな代物なのだ。さらに言うならば、214270は「壊れていないものは、直すな」というコンセプトの現代におけるケーススタディのようなものだ。確かに現行モデルは、1016のような逸品と比べて大型化し、ラグジュアリーさも付加されてはいるが、それはロレックスの時計全体にいえることであり、だからこそヴィンテージ時計愛好家が存在するのである。
もしもそのデザインに不変の魅力がなければ、サブマリーナーのような時計が、どこかの時点でエクスプローラーに取って代わっていただろう。だからこそ、ロレックスは洞窟探検家のニーズに応えるためにエクスプローラーのデザインを改変するのではなく、エクスプローラー IIを作る道を選んだのであろう(1971年の出来事だが、それはまた別の機会に取り上げよう)。各用途に特化したモデル達と比べて汎用機ともいえる役割を果たしてきた、エクスプローラーの歩みは静かに続くのだ。
着用してみると、そこに不必要な要素は全く感じられない。僕は前世代の36mmサイズが大好きだが、214270の39mmというサイズは非常にバランスが取れていると感じる。そこにデリケートさはなく、現代的かつ思慮深い雰囲気で、18cm弱の僕の腕によく馴染む。ブレスレット込みでは少し重く感じたが(僕が普段、ブレスレットをあまり使わないためだろう)、装着時に時計そのものを圧倒しないバランスを持ったオイスターブレスレットは、定番のチョイスといえる。
文字盤はリッチブラックで、アップデートされた針は、大型化したケースによりフィットする。どんな環境下においてもその視認性は非常に高く、夜光塗料付きになった3・6・9インデックスのおかげで文字盤全体の夜光性能も申し分ない(上のビデオで確認できる)。エクスプローラーは必要最低限な要素を具現化したような存在だ。
例えばベースキャンプを出発し、地図上の道が途切れるようなとき、腕に巻いていたい時計だ。もちろん、現代にはGPSとシンクロされたシステムが時間だけでなくありとあらゆるデータを提供してくれるだろう。しかし、エクスプローラーはその腕に光る完璧な(そしてクールな)バックアップなのだ。
日常使いにおいては(冒険してない日には・笑)、スタイリッシュかつリラックスした雰囲気で、ダイバーやクロノグラフにありがちな、気取った雰囲気や大袈裟さは皆無だ。生活の中で、エクスプローラーという時計を誰かに説明する必要はない。そのデザインには、ロレックス哲学の真骨頂ともいえる、歴史と完成度に裏打ちされた自信が感じられる。ロレックスの黄金時代を体現するスポーツウォッチのデザインを、ロレックスの美的価値とブランドそのものが持つ魅力の根底まで煮詰めた存在なのだ。エクスプローラーという時計には、見栄も、厚かましさも、虚栄も必要ない。ただひたすら、素晴らしい時計なのだ。
僕が愛用するエクスプローラー IIが持つセカンド・タイムゾーン機能は、個人的には常に欲しいが、オリジナルのエクスプローラーの方がより洗練されたデザインであることは間違いない。もし実用時計としてのロレックスが好きで複雑さを嫌うなら、あなたがこの214270という時計に辿り着く可能性は高いだろう。
競合モデル
62万5000円の214270エクスプローラーが属する価格帯は、競合モデルがひしめく激戦区である。今回は、時間表示のみの自動巻きで、全体的なデザインが控えめかつタフな(ドレッシーな用途にも使えればより良い)時計だけに的を絞った。すべての候補を網羅しているわけではなく、あくまでもこの時計の購買層が比較対象にする可能性のある同価格帯のモデル、もしくは愛好家のテイストという面で(価格帯やクオリティではなく、哲学的な側面から)共通性のあるモデルからの抜粋だと考えて欲しい。
オメガ シーマスター レイルマスター
アクアテラを候補に挙げる人も多いと思うが、日付無し・時間表示のみのレイルマスターの方が、物静かでカジュアルな優雅さを持つエクスプローラーと共通したデザインを持つ好敵手だろう。40mmケースにスティール製ブレスレット仕様で推奨小売価格56万円のレイルマスターは、ハイテクなコーアクシャル マスター クロノメーター ムーブメント搭載で、エクスプローラーと同等の5年保証が付く。レイルマスターの価格設定はかなり魅力的だが、ロレックスが長年培ってきた不変のデザインとその伝統には敵わないだろう。とはいえ、同系統の魅力を持った良質な選択肢の一つであることは間違いない。
56万円(税抜)omegawatches.com
ジャガー・ルクルト ポラリス・オートマティック
この41mmのスティール製JLCはかなりゴージャスだ(ブルー文字盤バージョンは特に!)。ポラリス・オートマティックはJLCを代表する伝統的なデザインというわけではないかもしれないが、スポーティさとエレガントさという難しい融合を成功させており、ブレスレット仕様ではその魅力がより明確である。エクスプローラーをわずかに上回る79万8000円のポラリス。パワーリザーブは多少短めだが、JLC自社製キャリバー898E/1をそのシースルーケースバックから拝むことができる。類似する公式を違った形で具現化した、ジャガー・ルクルトによる完成度の高いデザインだ。
79万8000円(税抜)jaeger-lecoultre.com
チューダー ブラックベイ 36
少々小ぶりで普及機向けのムーブメント搭載ではあるが、ブラックベイ 36には独自の魅力がある。エクスプローラーが飾り気を取り払ったロレックスのデザイン・ランゲージの要であるのに対し、ブラックベイ 36は、ネオレトロなダイブウォッチのデザインからスタートしたうえで、その「ダイバー要素」を取り払っている。上記のJLCと同じく、ブルーの文字盤が抜群に良いが、どのバージョンの文字盤とインデックスのプロポーションも奇抜かつ魅力的で、BB36はどんな腕にもしっくりくる。現行エクスプローラーの39mmというサイズに不満があれば、BB36を試着して、その部分的なブラックベイの雰囲気を気に入るか、試してみることをお勧めする。
28万5000円(税抜) tudorwatch.com
グランドセイコー SBGR301
日付無し&スポーティという組み合わせは、グランドセイコーにはあまり見られないフォーマットだが、42mmケースのSBGR301は、その異端児的な存在であり、エクスプローラーというコンセプトに対する面白い刺客であるともいえる。多少大柄ではあるが、SBGR301はスポーティな三針モデルであり、グランドセイコーの長い歴史に裏打ちされたデザイン要素をキープしている。特徴的な針とシンプルかつエレガントな文字盤の組み合わせに100m防水、そして72時間のパワーリザーブ付きの高品位なグランドセイコー自社製ムーブメントという構成だ。間違いなく魅力的なデザインだし、ロレックスに対するお値打ち感は非常に高いが、夜光塗料無しで研磨処理を多用した仕上げを考えると、この48万円のGSをエクスプローラーと直接比べるには、少々ドレッシー過ぎるかもしれない。
48万円(税抜) grandseiko.com
ノモス・グラスヒュッテ クラブ オートマティック
黒文字盤バリエーションやブレスレットオプションが無いのが残念だが、ノモス クラブ オートマティックは、高い視認性、自社製ムーブメント、そして個性的な雰囲気を持つ3針のみのスポーティなパッケージを28万5000円で提供する。実にエクスプローラーの3分の1という価格設定だ。クラブという時計は、エクスプローラーとは大きく異なる美学を持つ一方で、ノモスを代表するデザインという訳ではない(タンジェントがそれに当たるだろう)。僕はクラブ、そしてより個性的なクラブ キャンパスのファンだが、それらがエクスプローラーに真っ向勝負できる要素は少ない。もしもあなたが、エクスプローラーと類似性のあるコンセプトを異質なデザインで表現した一本を探しているのなら、検討してみる価値はあるだろう。
28万5000円(税抜)nomos-glashuette.com
ハミルトン カーキ フィールド メカ
このモデルに関しては、対比というよりも、考察エクササイズのようなものだ。7万円を切る価格設定のハミルトン カーキ フィールド メカをエクスプローラーと比べるのは無理があるが(そして今回の選考基準である自動巻きという条件も満たしていない)、もしもあなたがその文字盤に光る王冠の先にある魅力をエクスプローラーに感じているなら、このハミルトン製の手巻き時計の魅力も理解できるはずだ。クオリティ面で直接比較できるわけではないし、ハイエンドムーブメントも搭載していない。自動巻きでもないし、ブレスレットオプションも無い。しかし、シンプルで研ぎ澄まされたデザインがこの時計にはある。そして38mmのスティール製でどんなストラップにもマッチする一本が、6万円を下回る価格で手に入るのだ。もしもあなたがエクスプローラーレベルの出費をする準備が出来ていなければ(もしくはウェイトリスト上で待機中なら)、このスイートなハミーは低価格かつ独自の魅力を持った選択肢だ。
5万8000円(税抜)hamiltonwatch.com
最後に
「レス イズ モア」というコンセプトを、僕らの現代生活に取り入れることは簡単ではない。オープンアクセス、複雑かつ多目的仕様の工業製品、そして限りないオプション群の名の下に、僕らは本質を覆い尽くす「多機能」という大海をかき分けていかなければならない(最近、歯磨き粉を選ぼうとしたことある?)。別に「簡素な古き良き時代」を盲目的に欲するというわけではないが、用途を選ばず、一つのことを高次元で完遂しようとする製品の魅力というのは、間違いなく存在すると思う。
マルチツールやApp Storeに溢れたこの世の中で、よく出来たポケットナイフ、シンプルな財布、カラビナ、ベースボールキャップ、はたまた1本の鉛筆が持つエレガントさを考えてみて欲しい。これらのアイテムは決して多機能ではないが、余分な機能を省くことで、真の汎用性を手に入れているのだ。考え尽くされたデザインはどんな状況でも機能し、そこに特別な説明は必要ない。僕らがサブマリーナーやGMTマスターの高い機能性を賞賛するとき、実はそれらはロレックス エクスプローラーが作り上げた愛すべき中核に、特定の機能を付加したものであることを覚えておきたい。
現行の214270エクスプローラーは、文字通りこの世界の頂へと到達した最もピュアなロレックスデザインの、現代における進化形だ。前世代と比べて大きく、強く、高品質でよりラグジュアリーな時計になった。ロレックスは長い時間をかけてエクスプローラーを実用面から改善する一方で、その根幹にあるチャーミングな魅力を守る努力を怠らなかったと僕は思う。「アイコニック 」という言葉を持ち出すならば、エクスプローラーは間違いなくそのカテゴリーに入る権利を勝ち取っており、ロレックスというブランドを今日の地位へと押し上げたその性能、デザイン、そして時計技巧の底力を体現した好例である。
平穏とスリルを求めるあなたが、見栄を張らず、どんな状況にも対応できる堅実な一本を求めるなら、ロレックス エクスプローラーは史上最も実直かつ洗練されたスポーツウォッチのひとつである。
より詳しい情報は、ロレックスのオンラインサイトへ。