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2019年11月に開催された、クリスティーズのRare Watchesオークションには、パテックの興味深いモデルの数々が出品されたが、中でも際立っているのはステンレススティールのRef.2509である。SSのパテックというだけで相当興奮するひと品だが、この時計は耐磁性キャリバーを採用しダイヤルに耐磁性を意味する"Amagnetic"というマークが入っているもので、通常の2509とは全く異なる希少品なのだ。
もう1つの時計は、パテック フィリップ Ref.3417 Amagneticである。1958年に発売されたもので、主要なスイスメーカーが耐磁性を謳ったモデルを相次いで発表していた時期からほんの少しだけ遅れて市場に登場したものである。ロレックス ミルガウス、IWC マークII、オメガ レイルマスターのすべてが、一般に使用されている軟鉄製ケージの磁気による悪影響を指摘していたが、パテック3417は軟鉄ケージを使いながらも、ムーブメントの部品に金を導電アンカーとして使用することで帯電を防ぎ、最高の耐磁性を確保したものである。パテックは決して実用時計を作らないとは誰が言ったのだろうか?
この希少な2509は、我らのベン・クライマーの関心を引いたようだ。というのも、この時計の見た目は3417とそっくりだったからだ。彼が過去に3417を本サイトで取り上げていたため、今回私たちはもう少し掘り下げようと試みた。クリーンな見た目以外でこの3417の特徴を挙げるとすると、採用されているキャリバーにある。この3417と同じCal. 27-AM 400が2509にも採用されている。この時計の素晴らしいところは、ジュネーブシール、18石(人工ルビー)、5ポジション調整済、そして前述の耐磁性のための金製部品である。パテック フィリップ公式の歴史資料によれば、この2509は1968年にムーブメント番号734. 519のキャリバー27-AM 400として生産されたことが記されている。そして1969年に販売されたものである。
まだまだ続きがある。この2509の外観は余りにも3417そっくりで、これが珍しい理由は、このダイヤルをつけて出荷された2509は存在しないからである。スティールケースの2509には20種類のモデルが存在することが知られているが、純正文字盤に"Amagnetic"と刻印されたものは存在しないのだ。
私たちは今回この2509の文字盤を調査する機会を得て、これが正に3417用の補修ダイヤルであることを確認できたのである。この2509は、今付いている"Amagnetic"ダイヤルで生産されたのではないのだ。クリスティーズのコンディション・レポートをよく読むと実はこの情報が書かれており、包み隠さずこの珍品に関する情報を開示している点は称賛に値する。
この2509に起こったであろうことを善意で解釈すると、1969年に販売されて間もなく、この時計はメンテナンスでパテックに戻り、パテックが3417の文字盤に交換したものと考えられる。このようなことは時計メーカーにおいて全くあり得ないことではないし、パテック フィリップの工房であっても起こりうることだ。
きちんと修理するためなら、他モデルの文字盤に交換することは十分考えられることである。ましてや、使用しているムーブメントに耐磁性のあることを考慮すれば、この文字盤を転用しても全く不思議ではない。
性善説を信じなければ、もちろん他のシナリオも否定できない。どこかで誰かがこの2509に3417の文字盤が偶然にも適合することに気付き、単純に交換してしまったというシナリオだ。耐磁性の時計に偶然"Amagnetic"という文字盤が付けられただけという考え方であり、決してパテックが意図したわけではないというものである。
SSケースの2509には20種類のモデルしかないからこそ、背景はどうあれこの時計が本当に珍しいことに変わりはない。だからこそ、この時計はRare Watchesオークションに入っているのである。これまでのところ、"Amagnetic"モデルは2個しか確認されておらず、これがその内のひとつである。この時計のウリは次の2点。SSケースである点とこのレファレンス番号では稀なムーブメントを使用している点である。この時計が元々このムーブメントを使って生産されたことは歴史資料で確認されている。ある時点でこの文字盤に交換されただけ。工場から出荷されたときはどんなものだったかについては知る由もないが、クリスティーズのRare Watchesでの落札価格はまもなくお知らせできるだろう。
編集者追記: 本モデルは、4万スイスフラン(約446万円)で落札された。
全出品リストはこちらで確認できる。
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