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パテック フィリップのスターキャリバー 2000はあまり語られることはないものの、ミレニアム初頭を象徴するきわめて重要な懐中時計である。21の複雑機構と1118点もの精緻なパーツを備え、限られた数だけ製造された当時、世界で4番目に複雑な時計であった(上位3つはパテック フィリップ Cal.89、L.ルロワ 01、そしてパテック フィリップ ヘンリー・グレーブスのスーパーコンプリケーションだ)。
このような高額な懐中時計や複雑時計によくあるように、スターキャリバー 2000のうち20本はすべて重要なプライベートコレクションに収められ、その後市場に現れたのは1点のみであった。今回、12月にアブダビで開催されるサザビーズのオークションは特に注目に値する。パテック フィリップの最高傑作のひとつを、4種類すべての金属仕様でそろって入手できる前代未聞の機会であり、その推定落札価格は1000万ドル(日本円で約15億円)を超えているからだ。
時計収集には、たとえ最高峰の個体を手に取る機会に恵まれている者であっても生涯心に残る瞬間というものがある。スティール(SS)製のパテック フィリップ Ref.1518を着けたこと、そして数か月後にCal.89を手にしたこと。私の短いキャリアのなかでの至高と呼べる体験の多くは、パテック フィリップと結びついてきた。しかしガラス越しを除けば、これまで1度も目にしたことがないものがある。それは驚異的なパテック フィリップのスターキャリバー 2000だ。この事実は世界中を飛び回るようなコレクターにとっても同じであろう。
複雑機構を見てみよう。この時計には、いわゆる“スーパーコンプリケーション”を成立させる数々の“壮大な(グランドな)”機能が組み込まれている。まず6つの特許機能、チャイム、均時差表示、日の出・日の入りの表示、天空と月の運行表示、瞬時にカレンダーを修正する機構、そしてボウ部分に配されたカラトラバ十字を押して回すことで操作する両面スプリングカバーがある。
さらに“ウェストミンスター・チャイム”、永久カレンダー、パワーリザーブインジケーター、星座図、月軌道とムーンフェイズ、地平線表示なども搭載。スターキャリバー 2000のチャイムは、ロンドンの“ビッグ・ベン”で鳴り響くあの有名な鐘の音を見事に再現しており、その実現にはパテックの時計師たちによる多大な労力が注がれた。この点について詳細を知りたい方はCollectabilityの記事を読むことをおすすめする。
ケースにも注目すべき点がある。伝説的なジャン-ピエール・ハグマン(Jean-Pierre Hagmann)が手がけたもので、ハーフハンターケースは丸みを帯びて厚みがあり、チャイムの音がよく響くよう特別な配慮がなされている。ダイヤルの前面には時刻を示す開口部が設けられ、その周囲にはエングレーブとエナメルで仕上げられたブレゲ数字が配されている。前面の装飾は、彫刻の巨匠であるクリスチャン・ティベール(Christian Thibert)によるもので、裏面を開くとアカンサスのリーフ模様やルネサンス風のロートアイアンといった細かな装飾が、彫刻と彫金技法で施されている。
スターキャリバー 2000は5セット製作され、各セットは4本の時計で構成された。金の彫刻があしらわれたエボニー(黒檀)ボックスに収められ、定価は1320万スイスフラン(当時のレートで約7億3000万円)であった。そのうちの1セットは分割され、2012年にジュネーブで開催されたクリスティーズのオークションで、1本が330万ドル(当時のレートで約2億7000万円)で落札された。時計1本の価格だけでも、歴代で最も高額な時計のひとつに数えられる。4セットはそれぞれ4種類の金属(イエローゴールド、ローズゴールド、ホワイトゴールド、プラチナ)で構成され、5番目のセットは4本すべてプラチナ製で、1本ごとに手彫りが施されていた。この特別なセットには魅力的な物語があり、詳しくはCollectabilityで読むことができる。
アブダビ・コレクターズ・ウィーク(編注;2025年12月3日から5日まで開催)ではスターキャリバー 2000のセットに加え、新たに市場に登場するロレックス コスモグラフ デイトナ Ref.6263、通称“アルビノデイトナ”も出品される。推定落札価格は50万〜100万ドル(日本円で約7350万~1億5000万円)とされている。私は今回のスターキャリバー 2000のオークションを特に注視している。1000万ドル(日本円で約15億円)超とされる推定落札価格は、ヘンリー・グレーブスのスーパーコンプリケーション、そして(為替次第では)この秋、フィリップスで出品予定であるSS製のパテック フィリップ Ref.1518に次いで、史上2番目か3番目の高額落札に位置することになる。いずれにせよ、この結果はハイエンド市場の健全性を測る大きな指標となり、ほかの特異ながら希少な個体が市場に現れるきっかけになる可能性があるかもしれない。
アブダビ・コレクターズ・ウィークの詳細についてはこちらをご覧ください。
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