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先月、私の同僚であるマークが、サザビーズがこの冬にアメリカで開催するオークションの一部である“Olmsted Complications Collection”のなかから、歴史的に見てとてつもなく重要なモデルをいくつか紹介した。しかし、私の目を引いたのはオークションカタログの別のセクションだった。A.ランゲ&ゾーネの近年の限定モデルがずらりと並んでおり、そのどれもがそれぞれの分野で究極の逸品と言えるものばかりだ。サザビーズがどうやってこれらの時計をオークションに出品するに至ったのかは知る由もないが、なかには今回がオークション初出品となるモデルも含まれている。発表からまだ間もないこれらの時計の多くが、市場でどのような評価を受けるのか、興味深く見守りたいと思う。HODINKEE創業者であるベン・クライマーが2023年に行ったランゲCEOのヴィルヘルム・シュミット(Wilhelm Schmid)氏へのインタビューで明らかになったように、このドイツブランドは2次流通市場に注目している。それは市場での評価だけでなく、誰がこれらの限定モデルを手放したのかを把握するためでもあるのだ。
ロット74、ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン・ハニーゴールド “ルーメン”。シリアルナンバーは、19/50。
個人的には、このオークションの目玉はダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン・ハニーゴールド “ルーメン” Ref.740.055FEだと考えている。これは昨年のWatches & Wondersで発表され、ダトグラフ誕生25周年とブランド再興30周年を記念する、度肝を抜くような新作だった。このモデルはブランド独自のハニーゴールド®合金、傑出したCal.L952.4、そしてもちろん、多層構造のサファイア風防と夜光塗料による象徴的なルーメン仕様といった、ブランドの代表的な要素の多くを1本の時計に凝縮している。しかしその仕様は素晴らしいものだったが、目のくらむような62万ドル(当時のレートで約9130万円、なお日本での定価は要問い合わせ)という価格が原因で、ブランド史上最も物議を醸したモデルのひとつとなったかもしれない。この価格は、ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン “ルーメン”を、ランゲ史上もっとも高価な通常生産モデルとしての地位を確固たるものにした。
ハニーゴールドのテーマは続き、3つのロットが2020年登場の、グラスヒュッテの時計製造175周年を記念した1815 ラトラパント・ハニーゴールド“F. A.ランゲへのオマージュ”のモデルに焦点を当てている。3つのなかで最もシンプルで、個人的にもお気に入りのモデルが、175本限定のハニーゴールド製1815 フラッハだ。38mm径の1815 フラッハ唯一のモデルであり、通常はサクソニア・フラッハに搭載される薄型の2針キャリバーを採用し、1815コレクションのシグネチャーであるアラビア数字インデックスと、レイルウェイのミニッツトラックで豊かに装飾されている。これらはすべて2層構造のホワイトグラン・フー エナメルダイヤルに描かれている。対照的に1815 ラトラパント・ハニーゴールドは、ダークカラーのダイヤル、温かみのあるレタリング、そしてランゲ初の純粋なラトラパント用に作られたキャリバーを組み合わせている。のちにプラチナモデルが登場したものの、今日でもブランドのラインナップにおいて唯一無二の存在感を放っている。
ロット69、1815 フラッハ・ハニーゴールド“F. A.ランゲへのオマージュ”。シリアルナンバーは、20/175。
ロット68、1815 ラトラパント・ハニーゴールド “F.A.ランゲへのオマージュ”。シリアルナンバーは、20/100。
ロット67、トゥールボグラフ・パーペチュアル・ハニーゴールド “F. A.ランゲへのオマージュ” ハニーゴールド®750。シリアルナンバーは、20/50。
この3部作の最後を飾るが決して見劣りしないのが、50本限定のトゥールボグラフ・パーペチュアル・ハニーゴールド “F. A.ランゲへのオマージュ” ハニーゴールド®750だ。ランゲの最も複雑な時計のひとつであるトゥールボグラフ・パーペチュアルは、43mmのハニーゴールド®ケースに、フュゼ・チェーン機構、トゥールビヨン、クロノグラフ・ラトラパント、ムーンフェイズ、そしてパーペチュアルカレンダーといった数多くの複雑機構を搭載している。トゥールボグラフ・パーペチュアルは2017年に初めて発表されたが、このバージョンはダイヤルもハニーゴールド製で、ブラックロジウム仕上げが施されている。
このロットコレクション全体で、トゥールボグラフが最も複雑でありながら最も話題に上らなかったモデルだとすれば、フルチタン製のオデュッセウスはその対極にあるかもしれない。2022年に発表されたこのモデルで、ランゲは当初物議を醸したステンレススティール製スポーツウォッチのデザインを取り入れ、きわめてモダンなメディアブラスト加工を施し、ブランド史上初のチタン製ケースを持つ時計として世に送り出した。突如として、ランゲ流のブレスレット一体型スポーツウォッチは、より現代的でスポーティ、そしてより魅力的に感じられるようになった。特に、これまでブランドを見過ごしてきた人々にとってはそうだっただろう。ランゲの感触を貴金属の確かな重みと結びつける人々にとっては、意見が分かれるかもしれないが、2次流通市場でほとんど見かけることのない、信じられないほど希少な時計であることは間違いない。
ロット73、チタン製オデュッセウス。シリアルナンバーは、46/250。
ロット76、オニキスダイヤルを備えたリトル・ランゲ1とランゲ1 “シークレットセット”。シリアルナンバーは、14/30。
最後に、これらのなかで最も新しいモデルは、昨秋に発表されたランゲ1の30周年記念モデルだ。オニキスダイヤルはプラチナケースのランゲ1とリトル・ランゲ1の両方で展開された。しかしカタログ外の特別セットとして、おそろいのバゲットカットダイヤモンドをあしらったベゼルを持つリトル・ランゲ1 Ref.181.862Gとランゲ1 Ref.191.862G“シークレットセット”が、VIP顧客限定で提供された。
これらすべての注目モデルがひとつのオークションに出品され、しかもトゥールボグラフやダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン・ハニーゴールド “ルーメン”、そしてセットのランゲ1といったモデルの多くが初めて市場に出てくるとなれば、ランゲの2次流通市場における評価を決定づける瞬間となるだろう。コレクターたちは、毎年約5000本という限られた本数で製造される時計1本1本に込められたクラフトマンシップを理由に、常にランゲを愛してきた。しかしランゲ1からダトグラフに至るまで、通常モデルが2次流通市場で定価を大幅に下回って取引されていることは、依然として悩ましい点だ。数少ない例外は限定モデルの世界にあり、特にルーメンやダトグラフ・ハンドヴェルクスクンストシリーズ、そして一般的にハニーゴールド製のモデルのほとんどがそれに該当する。
2024年発表のダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨン・ハニーゴールドのプロトタイプの写真。Photo by Mark Kauzlarich
このような入手困難なモデルがオークションに出品されることは、サザビーズにとって並大抵のことではない。そしてそれは興味深い疑問を投げかける。“これほどの大物モデルを、手に入れてからこれほど早く手放すのは誰なのだろうか”と。オニキスダイヤルを備えたランゲ1とリトル・ランゲ1の“シークレットセット”を見てみると、保証書の日付は2025年4月18日となっている。つまり、前の所有者は7ヵ月弱しか所有していなかったことになる(これらの時計の委託プロセスを考えると、実際にはもっと短いだろう)。私が特に注目しているのは、ダトグラフ・パーペチュアル・トゥールビヨンだ。昨年のWatches & Wondersでこのモデルが発表された際、その定価に度肝を抜かれたものの、会期中にすべてが割り当て済みだと聞かされて驚いたことを覚えている人も多いだろう。そして今、50人のオーナーのひとりが、ランゲの最もハイエンドで希少な現行モデルのひとつを手放そうとしている。このロットがどのような結果をもたらすか、すべての目が注がれることになるだろう。
サザビーズの時計部門が今後開催するオークションに関する詳細は、同社の公式サイトから。
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