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サザビーズは、今秋アメリカで開催予定のオークションで目玉として出品される特別なタイムピースコレクションを発表した。“Exceptional Discoveries: The Olmsted Complications Collection(特別な発見: オルムステッドの複雑機構コレクション)”と題されたこのコレクションは、故ロバート・M・オルムステッド(Robert M. Olmsted)が60年をかけて収集した時計の集大成である。彼は、情熱的でありながら表舞台にはほとんど姿を見せないコレクターで、卓越した複雑機構と品質、そして確かな来歴を持つタイムピースを数多く収集してきた。そのなかにはヘンリー・グレーブス Jr.(Henry Graves Jr.)のような、産業界やコレクター界の巨人が所有していた時計やクロックも含まれているという。サザビーズはすでに数点の時計を公開しており、それらは時計史を愛する者たちが目にすることさえ夢に描くような、まさに垂涎の品々である。
ダブルムーブメント スプリットセコンド・ミニッツリピーターウォッチ、1924年製、推定落札価格: 50万〜100万ドル(日本円で約7570万~1億5100万円)
オルムステッドは、まさにコレクターのなかのコレクターであり、その情熱は1960年代、プリンストン大学在学中にすでに芽生えていた。コレクションを始めて間もない1965年、彼はジョン・モトリー・モアヘッド(John Motley Morehead)の所有していた、1924年製“ダブルムーブメント スプリットセコンド・ミニッツリピーターウォッチ”(推定落札価格: 50万〜100万ドル、日本円で約7570万~1億5100万円)を手に入れている。
オルムステッドの残した記録によれば、この時計の取引はニューヨークの伝説的ディーラーであるエフライム・グリーンバーグ(Ephraim Greenberg)が仲介したことが判明している。そしてオルムステッドはこの時計の2代目オーナーだった。最初のオーナーでありこの時計を特別に製作させた人物こそ、アメリカの実業家・科学者・政治家・慈善家で、かつてスウェーデン駐在米国大使を務めたジョン・モトリー・モアヘッド三世である。
ダブルムーブメント スプリットセコンド・ミニッツリピーターウォッチ、1924年製、推定落札価格: 50万〜100万ドル(日本円で約7570万~1億5100万円)
この個体はパテック フィリップによって製作された(あるいはサザビーズの説明によれば、現時点でほかのいかなるメーカーも製作していない)わずか2本のうちの1本である。特徴は、ふたつの独立したムーブメントを搭載し、それらが共通の巻き上げ機構のみで接続されているという極めて珍しい構造にある。リューズは時計回りに回すと一方のムーブメントを、反時計回りに回すともう一方のムーブメントを巻き上げる仕組みになっており、両方が完全に巻き上がると、リューズがロックされてそれ以上回転しないように設計されている。
ムーブメントの構造は驚異的であり、同様に“ドレ”(シャンパンカラー)仕上げのダイヤルもまた、単なるエレガンスというより実用性と機能性を重視した印象を与える。そのため、この時計のふたつのムーブメントは、単に独立したタイムゾーンを表示するためのものではなく、天体の動きを追跡する機能を備えている可能性もあるという推測に、一定の説得力を与えている(モアヘッドが天文学への強い情熱で知られていたことを思えばそれも不思議ではない)。
パテック フィリップ オープンフェイス・ミニッツリピーター・ダブルムーブメント、1921年製、推定落札価格: 30万〜50万ドル(日本円で約4540万~7570万円)
2本目の時計はクロノグラフ機能こそ備えていないものの、1921年製のパテック フィリップ ダブルムーブメントで、こちらもモアヘッドのために製作されたものである(推定落札価格: 30万〜50万ドル、日本円で約4540万~7570万円)。先の個体とは異なり、この時計ではリューズを同一方向に回すことで両方のムーブメントを巻き上げる仕組みになっている。針は通常の時刻(恒常時)を示すものと、恒星時を示すものの2組を完備。またダイヤルは再びドレ仕上げで、当時の仕様に忠実なロングサインとローマ数字のインデックスを特徴としている。
パテック フィリップ オープンフェイス・ミニッツリピーター・ダブルムーブメント、1921年製、推定落札価格: 30万〜50万ドル(日本円で約4540万~7570万円)
パテック フィリップ オープンフェイス・ミニッツリピーター・ダブルムーブメント、1921年製、推定落札価格: 30万〜50万ドル(日本円で約4540万~7570万円)
1976年、ついにオルムステッドはこのシルバー製パテック フィリップ ペーパーウェイト・クロックを購入した。ムーブメントナンバーは198.159、ケースナンバーは292.119で、製作年代は1927年ごろとされる(推定落札価格: 50万〜100万ドル、日本円で約7570万~1億5100万円)。この種のクロックは、現存が確認されているものがわずか3点のみである。そのうちの2点は伝説的コレクターであるジェームズ・ワード・パッカード(James Ward Packard)とヘンリー・グレーブス Jr.のために製作されたもので、現在はいずれもジュネーブのパテック フィリップ・ミュージアムが所蔵している。今回の出品は、これまで一般には知られていなかった歴史的に重要なクロックを入手できるきわめて貴重な機会となる。
パテック フィリップ ペーパーウェイト・クロック、1928年製、推定落札価格: 50万〜100万ドル(日本円で約7570万~1億5100万円)
今回サザビーズが公開した3本の時計はいずれも目玉だが、オルムステッドのコレクションにはこれら以外にも、オーデマ ピゲ、アブラアン-ルイ・ブレゲ、デント、チャールズ・フロッシャム、S. スミス&サンズ、ヘンリー・キャプト、A.ランゲ&ゾーネ、ロレックスなど、名門ブランドによる長らく世に出ることのなかった約80点のタイムピースが含まれている。多くのロットにとって、今回が初めて公の市場に姿を現す機会となる。時計史に残る夢のようなコレクションだけに、今後どのような時計が登場するのか注視していくつもりだ。
The Olmsted Complications Collectionがサザビーズに託されたのは偶然ではないが、そこには幸運なタイミングもあった。サザビーズ・インターナショナル・ウォッチ部門、名誉会長のダリン・シュニッパー(Daryn Schnipper)氏は長らくオルムステッドの親友であり、今回その遺族が彼女にコレクションの取り扱いを託したのである。一方で、オークション市場はいまだに米国によるスイス製品への関税の影響に直面しており、その余波はジュネーブの主要オークションの結果を押し下げる可能性もある。こうした状況のなかでオークションハウス各社は米国内で出品できる時計を確保するため奔走してきた。今回のように、オルムステッドのような歴史的に重要なコレクションを確保できたことは、年末に向けたサザビーズの競争力を大きく高める要因となるだろう。
今後開催されるサザビーズ ウォッチ部門のオークションに関する詳細は、サザビーズ公式サイトをご覧ください。
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