ADVERTISEMENT
オークションカタログには圧倒されることがある。さまざまな時代、さまざまなメーカーの時計が、一度に何百個も出てくるのだ。それぞれの時計にはそれぞれの歴史があり、最終的に支払われる価格は、委託者、オークションハウス、そしてその場で最も重要な人物であるバイヤーが下す、小さな決断の積み重ねの結果なのだ。
今週はジュネーブで、オークションカレンダーの最初の大イベントが開催されている。フィリップス、アンティコルム、サザビーズ、そしてクリスティーズの4社が、特別で興味深い時計で埋め尽くされた、重厚なカタログを作成した。日曜日にはフィリップスのふたつの異なるオークションで私が最も魅力的だと感じた24ロットを紹介した。そして今回はカレンダー上の残りのみっつのオークションからトップロットとハイライトをいくつか紹介したいと思う。
サザビーズ・ジュネーブ「 Important Watches」 で見たもの、別名ロイヤル オークⅡ:エレクトリック・ブーガルー
サザビーズがジュネーブオークションを発表したのは2021年末、芸術家であり時計デザイナーでもあるジェラルド・ジェンタのパーソナルなロイヤル オークのオークションを筆頭に、一連のジェラルド・ジェンタ専用のオンラインセールを開催すると報じたときが初めてだった。そして今回、ついに実現したのだ。今週末にはジェンタの時計を詳しくご紹介する予定だが、その前に140本の出品物のなかから、2022年5月10日(火)のオークションで注目したい8本をご紹介したい。
Lot 35: ジュルヌのジュエル(ピアジェ グーヴェルヌール グランソヌリ 18Kピンクゴールド By F.P. ジュルヌ)
1990年代半ば、自身の名を冠した会社を立ち上げる数年前、F.P.ジュルヌはスイスでフリーのムーブメントデザイナーとして、最高額の入札者のために働いていた。1988年にヴァンドームグループ(リシュモングループの前身)に買収されたピアジェは、最も権威のあるタイプのストライキングウォッチ、グラン・ソヌリを発表して注目を集めようとしていたのだ。そこでジュルヌは、ダイヤルからゴングが見えるグーヴェルヌール グランソヌリを、37mm×12mmのピンクゴールドケースに収め、現在でも史上最小クラスのグランドソヌリウォッチとしてデザインしたのである。グーヴェルヌール グランソヌリの特徴はジュルヌが開発した消音機能で、チャイム音と消音のふたつのモードで時計を作動させることができる。
Lot 32: 時計界の究極のゴール!(ロレックス コスモグラフ デイトナ Ref. 116509H 'FIFA World Cup 2010, オランダモデル)
この時計を初めて見たのは、1ヵ月前、Watches & Wondersの期間中にジュネーブのサザビーズに立ち寄ったときだ。この特別なデイトナは、2010年ワールドカップ南アフリカ大会に出場し、スペインに敗れたオランダ代表チームのために製作されたものである。サザビーズによると、オランダ代表チームはアムステルダムのロレックス正規販売店であるガッサンジュエラーズを通じて、ロレックスに30本の記念ウォッチの製作を依頼したとのことだ。ロレックスはこれを承諾し、オレンジのアクセントが入ったユニークなブラックダイヤルを持つ特別なホワイトゴールド製デイトナ116509Hを製作したのだ。
W&Wで会ったサザビーズのスペシャリストは当時ロレックスに勤めていて、サザビーズに出品されるまでこの時計の存在を知らなかったというから、ロレックスのこの種の事柄に対する守秘がいかに厳しいかを物語っている。このダイヤルのデイトナはホワイトゴールドのブレスレットが15本、レザーストラップが15本の計30本が製作され、最終予選に出場したオランダの全選手と重要なスタッフ数名に贈られた。サザビーズが所有するモデルはチームの選手の一人が所有するもので、ケースバックにはその選手の名字と背番号が刻まれている。私が知る限り、これは30本のなかで、一般に入手できるようになった最初のものだ。サザビーズでは6万~10万スイスフラン(約792万~1320万円)の見積もりとなっている。
Lot 48: オメガのアルファ (1958年製 オメガ スピードマスター Ref.2915-1)
私が知る限り、この2915-1は昨年11月にフィリップス・ジュネーブで記録的な高値を付けて以来、初めてオークションに出品されるものだ。フィリップスで落札された時計は、予想外の驚くべき総額340万ドル(約4億4200万円)以上で落札され、オークションにおけるオメガの時計としては記録的なものだった。サザビーズで出品されるこの時計は、それに匹敵するのだろうか? それは無理かもしれない。
2915の初期のものとはいえ、フィリップスウォッチに出品された個体の1年後に製造されたものであり、昨年秋と同じように2人の入札者が狂喜乱舞することはないだろう。スピードマスターの2915-1への関心とそれに伴う価格は、過去10年間、着実に上昇している。なにしろ、15万ドル以下で売られていたのが、27万5000ドルになり、2018年には40万ドル超と本当に加熱したのは、それほど昔の話ではないのだから。フィリップスの2915-1がここまで高くなるとは誰も予想しておらず、Lot 48は潜在的にリファレンスの本当の現在価値をより反映しているはずであり、正確にどの価格に落ち着くのか見るのは興味深いことだ。
Lot 81: トロピカルへの旅(パテック フィリップ ノーチラス Ref.3700/1J、18Kイエローゴールド、トロピカルダイヤル)
これは純粋に個人的に選んだものだ。私はこれまでノーチラスよりもロイヤル オークのファンだったが、このトロピカルダイヤルの3700を初めて実物を手にしたとき、圧倒された。ダイヤルは全体的にわずかに変色したリッチなチョコレートブラウンの色合いにエイジングされており、イエローゴールドのケースとブレスレットの深い色調を見事に引き立てている。
フィリップスのジュネーブオークションでは、トロピカルダイヤルのスティール、1978年製の3700など、いくつかの3700が出品されているが、私はそのいずれをも取り上げないことにした。しかしこのノーチラスは別格で、実際に手にしてみると、本当にすばらしい。予想落札価格は20万〜40万スイスフラン(約2640万〜5280万円)。
Lot 143: サーモンとプラチナのクラシック(パテック フィリップ 5207P グランド・コンプリケーション、2013年頃)。
2008年に発表され、瞬く間にパテック フィリップの名作となった5207は、非常に複雑でありながら、驚くほどエレガントな腕時計だ。ミニッツリピーター、トゥールビヨン、瞬間式永久カレンダーをひとつの腕時計に収め、サーモンダイヤルとプラチナケースのクラシカルな組み合わせで提供されている。
5207Pは長年にわたり非常に少ない数しか生産されておらず、オークションに出ることはほとんどない。フィリップスは2020年にダブルシールのモデルを56万7000スイスフラン(約7485万円)で落札し、アンティコルムは2018年に1本を市場に出し、それは50万9000スイスフラン(約672万円)だった。時計の世界は、ほんの2年で異なる次元になったので、Lot 143がいくらになるかを推測するのは本当に難しい。サザビーズでは、50万〜80万スイスフラン(約6540万〜1億465万円)のあいだのどこかになると予想している。
一連のロイヤル オーク
サザビーズはこのオークションに46種類のロイヤル オークを出品し、今年50周年を迎えるこのモデルに販売全体の33%以上を捧げた。週末には、このオークションで最も重要なモデルであるジェラルド・ジェンタのパーソナルウォッチをHands-Onでご紹介する予定だが、そのほかにも、通常では見られないような注目すべきクールなロイヤルオークが何本かある。Lot 104の36mmプラチナ製ロイヤル オーク Ref.14790は、ミッドサイズの36mmケースにホワイトダイヤル、6時と9時位置にローマ数字が配されている。
正直言って変わった時計だが、ちょっと気に入ってしまったかな? ローマ数字とクリーンなホワイトラッカーダイヤルは、ロイヤル オークの特徴である厳格なラインとアングルに満ちた八角形のフォルムに、ちょっとしたクラシカルなタッチを加えている。しかし、この時計を特別なものにしているのは、ケースバックに記された数字なのだ。“No.001”。つまりヌメロ・ウーノ。推定価格5万~10万スイスフラン(約660万~1320万円)のこの時計の行方は、来週の発表を待つしかない。
今週のオークションで紹介されたほとんどのモデルよりもはるかにモダンなロイヤル オークのLot 112は、2015年頃に初めてリリースされた、25本と思われる限定生産の時計の一部だ。この時計は、オープンワークダイヤルから見えるトゥールビヨンとクロノグラフが特徴で、44mmのビーズブラスト仕上げのチタンケース内に配置されている。
私がこのモデルを気に入っているのは、ロイヤル オークコンセプトシリーズの未来的な美学に明らかに影響を受けていると感じる点だが、夜光塗料を塗布したバトン針やアプライドインデックスなど、オリジナルのロイヤル オークのデザイン言語にも明らかに忠実なのである。サザビーズでは、20万~40万スイスフラン(約2640万〜5280万円)の見積もりとなっている。
ここ数年、我々が公開したお気に入りのIn-Depth記事のひとつは、初期のオーデマ ピゲ ロイヤル オークパーペチュアルカレンダーへのジェームズの深い考察で、初期の25654モデルの重要性に明確な重点を置いている。日曜日にフィリップスが今週末に出品するいくつかの例を紹介したが、私が強調しなかったひとつのモデルは、ここに見られるイエローゴールドの25654BAだ。
そしてこちらがRef.25554BA ロイヤル オーク QPで、初代RO QPであるRef.5554に続く永久カレンダー搭載のロイヤル オークの第一世代に属する。Ref.25554 ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダーはそれだけでも希少な時計だが、今回紹介するLot 124は、イエローゴールドケースに、針やインデックス、アクセントにゴールドを使用したマットなブラックダイヤルの組み合わせが特筆すべき点である。その結果、ハイコントラストな効果が生まれ、希少であると同時に見事な魅力となっている。予想価格は15万〜30万スイスフラン(約1980万〜3960万円)。
サザビーズの「Important Watches」オークションは、2022年5月10日にジュネーブのマンダリン オリエンタルで開催されます。カタログの全文と入札の登録は、こちらからどうぞ。
クリスティーズ・ジュネーブ「Rare Watches」- クラプトン、カイロスコレクション、驚くべきパテック
パンデミックによって我々の生活と時計市場が一変して以来、フィリップスとサザビーズが時計の2大オークションハウスとして君臨してきたと言えるのではないだろうか。しかしクリスティーズは、一人のコレクターが35年かけて集めた128本のパテック フィリップの希少な「カイロスコレクション」を中心に、粛々とすばらしいオークションコレクションを築き上げていた。
クリスティーズはこの128本の時計を、春のオークションシーズンに向けて発信する。ジュネーブで月曜日に行われるRare Watchesセールから始まり、5月24日の香港、6月8日のニューヨークへと続く。5月9日、65本のパテックを含む158ロットのセールには、ほかの興味深い時計も多数出品される予定だ。
Lot 122: クラプトンの複雑なコレクション(パテック フィリップのパーペチュアルカレンダー Ref. 1526、ムーンフェイズ、かつてエリック・クラプトンが所有)
エリック・クラプトンは天才的なコレクターである。それはみんな知っている。先ほど伝説のギタリストがかつて所有していたロレックス デイトナ Ref.6239が今週末にフィリップスで販売されると言った。今回クリスティーズも、この伝説のギタリストがかつて所有していたスローハンドの実績を持つ、とてもクールなパテックを入手することができた。永久カレンダー Ref.1526は、クリスティーズの壇上に上がるのは初めてではない。2003年にニューヨークで開催されたクリスティーズのオークションで、クラプトン本人から直接委託された時計が多数出品されたのを覚えているだろうか。フィリップスでオークション予定のデイトナや、パテックのこの小さなイエローゴールドの34mm QPもそこで落札されたのだ。
さて、QPの歴史をご存知の方なら、スローハンドの名前がついているかどうかにかかわらず、1526がかなり重要な時計であることをご理解いただけると思う。1941年から1952年にかけて、210本(ほとんどがこのモデルのようなイエローゴールド製)しか製造されなかったとされる、世界初の永久カレンダーウォッチなのだ。ブリッグス・カニンガムが所有していたのは特にすばらしい例だが、クラプトンも負けず劣らず、サードシリーズのマーク1ダイヤルを備えている。この時計は、19年前に7万7675ドルで購入した本人から今日直接委託されたものだ(興味深いことに、これはカイロスコレクションに属さない数少ない有名なパテックのひとつ)。クリスティーズはこの数字より少し高い、8万から12万スイスフラン(約1056万〜1584万円)の予想価格を考えている。私もそう思う。
Lot 65: ピンクのパテック(パテック フィリップ スプリットセコンド・クロノグラフ Ref.5959R-001、ブラックダイヤル、18Kピンクゴールド、ティファニーで販売)
パテック フィリップの現代的なデザイン決定を批判するのは、よくあることだ 。パテック フィリップのヴィンテージウォッチは、最高級品でなければ規格外のように感じられるほどすばらしいものなのだ。 維持が難しいとはいえ、うらやましいポジションだ。しかしそのような話が出たとき、私はここにあるRef.5959のような時計を思い浮かべる。パテックには見た目も美しく、時計としての価値もあり、かつパテックの歴史にオマージュを捧げた時計を生み出す力がまだあるのだと思う。
パテック フィリップは、2016年から2017年の1年間で、5959R-001をわずか15本製作した。この特別なモデルは、多くの人が望む小売店のサインはないが、ニューヨークのティファニーによって販売され、実際にはカイロスコレクションからのものだ。この時計は一見すると、新品のような輝きとツヤを持ちながらも、ヴィンテージウォッチのように見える。それはパテックが1923年に発表した同社初のスプリットセコンド・クロノグラフ(こちらで確認できる)をモデルに、スクリューバーやオーバーサイズリューズなどのデザインを採用しているからだ。ただし3時位置のリューズによるモノプッシャー機構とヒンジ式ではなくスナップ式のケースバックが、主な例外として採用されている。ポリッシュ仕上げの18Kローズゴールド製ケースと、金色のブレゲ数字をプリントしたブラックオパーリンダイヤルの美しい組み合わせは、すぐに目に入るだろう。そして、直径わずか33mmというサイズに気づいただろうか。そう。これほど美しく、これほど伝統的な複雑時計がほかにあるだろうか。どこにもない、パテック以外には。
5959Rがオークションに出品されたのは、4年前にジュネーブのフィリップスで、35万2800スイスフラン(約4657万円)で落札されたのが最後にして唯一の機会だった(しかし我々は、このリファレンスのプラチナケースの兄弟、2005年の5959Pが、最近ではサザビーズ香港でより頻繁に表示されているのを見てきた)。クリスティーズは、これらの過去の結果を基に見積もりを行っているようで、Lot 65は14万から23万スイスフラン(約1848万〜3036万円)とされているようだ。
Lot 66: ロング・ゴング (パテック フィリップ パーペチュアルカレンダー ミニッツリピーター Ref. 5074R-001、ブラックダイヤル、18Kピンクゴールド、ティファニーで販売)
次のロットは、21世紀のパテックのストライキングウォッチのなかでも特に愛されている特別なモデル、Ref.5074だ。このモデルは永久カレンダーとミニッツリピーターのハイブリッドで、20年以上前の2001年に42mmのホワイトゴールドケースで発表され、2005年にはピンクゴールドのオプションがカタログに追加された。しかし、顧客に提供されたより一般的なオプションは(5074に関してそんなものがあるなら)、ピンクゴールドのケースにシルバーダイヤルだったということがわかっている。今回のブラックダイヤルは、よりエクスクルーシブなオプションであると考えられている。
しかしクリスティーズのロットノートによれば、ピンクゴールドのモデルは、両方の文字盤オプション合わせて50本以下しか製造されなかったと推定されている。ブラックダイヤルの5074Rは、昨年5月にジュネーブのアンティコルムで出品され、40万スイスフランで落札されたのが最後となった。クリスティーズはそのスイートスポットを狙って、ロット66の予想落札価格を33万~51万スイスフラン(約4356万〜6732万円)としている。
Lot 119: この Hausmannに注目 (パテック フィリップ 永久カレンダー Ref.3448, 18kイエローゴールド, Hausmann & Co.による販売)
今回Lot 199で紹介するのは、ジュネーブの偉大な時計メーカー、パテックの最も有名な歴史的腕時計のひとつであるパテック 3448だ。この時計はパテックが複雑カレンダーを得意とすることを証明する、連続生産された最初の自動巻きの永久カレンダーだ。3448は1962年から1985年のあいだにわずか568本しか製造されなかったことが知られており、その大半はこの例のようにイエローゴールドだ。
Lot 199が特にユニークなのは、ダイヤルにローマの小売業者Hausmann & Co.のセカンドサインがある、知られている3本のうちの1本であることだ。さらにこれは100%市場に出たばかりのものなのだ。そのため、クリスティーズはこの時計に15万から20万スイスフラン(約1980万〜2640万円)の予想価格をつけた。
Lot 40: かなりレア(ブレゲ トリプルカレンダークロノグラフ、ステンレススティール製、ムーンフェイズ)
オークションに出品されるヴィンテージのブレゲを見ることは滅多にない。しかしここにあるものがそうだ。ポインターデイト、6時位置のムーンフェイズ表示、ダイヤル外周のタキメータースケールを備え、内部には手巻きキャリバー Valjoux 88を搭載したSS製トリプルカレンダークロノグラフだ。
はっきり言って、これはまさにレアウォッチだ。クリスティーズによると、一般に知られているのは全部で10本以下だという。しかしブレゲがトリプルカレンダー ムーンフェイズ クロノグラフを20世紀半ばの30年間(50年代、60年代、70年代)に散発的に製造したことは明らかで、これは顧客の特別な要望によってのみ製造された可能性があることを示している。クリスティーズはLot 40に10万から20万スイスフラン(約1320万〜2640万円)の見積りを提示した。
Lot 133: クラッシュ イントゥ ミー(カルティエ ロンドン クラッシュ、年代:1990年)
我々はクラッシュのピークに達したのだろうか? それともクラッシュが(ダジャレ)クラッシュするのだろうか? 現在、カルティエ パリ(1991年製)とカルティエ ロンドン(1967年製)の2本のクラッシュがあるLoupe This(旧友エリック・クーが運営するオンラインオークション)のカルティエウィークの様子を楽しみに待ちながら、クリスティーズのLot 133でもうひとつのクラッシュを楽しみに待つことにする。
クラッシュは常に手作業による少量生産で、この1990年のカルティエ ロンドンの例もその例に漏れない。カルティエ ロンドンとクラッシュが一緒になると、私はすぐに1960年代後半から70年代前半のモデルを思い浮かべる。Loupe Thisのモデルや、昨年11月にジュネーブのサザビーズで80万6500スイスフランという破格の値段で売れたモデルも同様だ。しかしどこから見ても、この2000年代のモデルは正当なものだ。ダイヤルにはカルティエ ロンドンの筆記体のサインがあり、「クラッシュ」スタイルのデプロワイヤントクラスプには、1990年のカルティエ ロンドン製であることを示すホールマークが刻印されている。この作品とLoupe Thisに掲載されたペアがどのような結果になるのか、クラッシュ市場の興味深いテストとなるだろう。クリスティーズはこの作品が30万スイスフランを下回るだろうと見ており、18万から28万スイスフラン(約2376万〜3696万円)と予想している。
Lot 38: Jack Of All Trades (ロレックス コスモグラフ デイトナ Ref.6269 'Jack Of Diamonds'、パヴェダイヤル、フランス市場向け)
まだ楽しめてる? あなたの目を覚ますために、特別な(そしてキラキラした)ロレックスのデイトナをご紹介しよう。注目のRef.6269 “Jack Of Diamonds”は、手巻きデイトナの生産が終了した1980年代半ばに発表され、18Kイエローゴールドのケース、48個のブリリアントカットダイヤモンドをセットしたベゼル、248個のラウンドホワイトダイヤモンドと3個のクロノグラフのサブダイヤルに遮られない各アワーマーカーを表現するようにセットした9個のサファイアでパヴェセットされたダイヤルが目を引く組み合わせだ。
ご想像の通り、特にクリスティーズの推定価格は110万~200万スイスフラン(約1億4520万〜2億6400万円)で、“Jack Of Diamonds”デイトナは非常に希少だ。Lot 38のこのモデルは、市場に出たばかりで、ケースバックに印象的な“フクロウ”の形をしたフランスのゴールド輸入スタンプがあり、さらにケースバックとブレスレットクラスプにフランスロレックスのロゴ(「Sté*R」、Société Rolexの意)があるという点でユニークである。同じホールマークがある6269はほかに1本しか知られておらず、Lot 38は忘れることのできない真のコレクターズジェムだ。
Lot 129: レモン(ポンコツの意)では決してない(ロレックス 「ポール・ニューマン」コスモグラフ デイトナ Ref.6264、18Kイエローゴールド、「トロピカルレモン」ダイヤル)
ヴィンテージロレックスは、ミニュチュアによって定義される。小さなディテールが大きな違いを生むのだ。Lot 129を見てみよう。ただのデイトナではなく、“ポールニューマン”デイトナなのだ。しかもただのPNDではなく、イエローゴールドの6264 PNDだ。そして、“レモン”ダイヤルは、ダイヤルのイエローの淡いトーンの色合いを表している。しかしレモン色のポール・ニューマン デイトナで、Lot 129と同じ美的特性を持つものはほとんどないのだ。
この時計を含め、インダイヤルに伝統的な金色のデザインではなく白いプリントが施されているサンプルは、8例しか知られていない。そしてその8本のうち、トロピカルになったのはLot 129と1本だけで、どちらも1970年の製造だ。この時計では、ダイヤルの暗い部分、すなわち外側のミニッツトラックとみっつのインダイヤルが、時間の経過とともに元の黒色から茶色に変色していることを意味する。前回、2021年12月のニューヨークセール後、オークション市場全体を深堀りして、ヴィンテージロレックス市場は安定しており、やや弱含みになる可能性があることを述べた。重厚で極めて難解なヴィンテージデイトナは、まさにその立ち位置を確認するのに役立つはずだ。
Lot 149: トロピカルへの旅 その2 (オーデマ ピゲ ロイヤルオーク Ref.5402BC、18Kホワイトゴールド、トロピカルダイヤル)
フィリップスはロイヤル オーク50周年記念セールで多くの分野をカバーしているが、今週はすべてのいいロイヤル オークを提供できるわけではない。今回紹介するのは1977年製の5402BCだ。150本中あるのは29本だけだが、トロピカルなダイヤルとダイヤモンドインデックスを持つ唯一無二の1本だ。フィリップスは非常に良い5402BCを持ち、テーマ別オークションでチェックする価値があるが、今週注目すべきは、クリスティーズのLot 149だと思う。そしてその見積もりは、まさにそれを反映している。クリスティーズは20万~40万スイスフラン(約2640万~5280万円)と予想している。
Lot 155: ローマン・ロイヤル オーク(オーデマ ピゲ ロイヤル オーク パーペチュアルカレンダー Ref.25654SA、ツートーンカラー)
こちらもローマ数字とラッカーホワイトダイヤルを持つ、異色のロイヤル オークだ。先に紹介したサザビーズのRef.14790PTとは異なり、クリスティーズのLot 155はムーンフェイズ付きの複雑な永久カレンダーで、ダイヤル全体に8つの細長いローマ数字が見える。タペストリー模様は見当らない。
もちろん、これまで述べてきたようにロイヤル オーク パーペチュアルカレンダーはまさに80年代生まれのモデルであり、オーデマ ピゲがこの年代の時計で好まれていたツートンカラーのモデルを提供したことは理にかなっていると言える。25654はRO QPのオリジナルロットの一部で、1993年まで生産された。1984年の発売以来(25654の直接の前身である5645は1982年に“ソフトローンチ”された)、そのあいだにさまざまなメタルで合計800本が生産され、そのうち72本が25654にとって最も希少なメタルであるツートーンだった。その72本のうち、スムースラッカーダイヤルとローマ数字の組み合わせはさらに少ない。Lot 155の見積もり価格は8万~12万スイスフラン(約1056万~1584万円)だ。
Lot 138: ラッキーナンバー13(オーデマ ピゲ ロイヤル オーク オフショア Ref.25844BC、18Kホワイトゴールド、ケース、ベゼル、ブレスレットにダイヤモンドをセット)
クリスティーズは、「非常に印象的」、「おそらく唯一の」という、私が親に言わせたい4つの言葉を掲げている。このまばゆいばかりのホワイトゴールドのオフショアは、2000年頃に作られ、ケース、ベゼル、ブレスレットに合計584個のダイヤモンドが工場でセットされ、合計12.62カラットの大きさになった。クリスティーズのロットノートによると、この時計のユニークな点は、ホワイトゴールドであることに由来する。また、オリジナルオーナーの要望により、ケースバックには「13」の数字が刻まれている。Lot 138は市場に出たばかりで、予想価格は10万から20万スイスフラン(約1320万〜2640万円)とされている。
クリスティーズの「Rare Watches:Featuring The Kairos Collection, Part I」オークションは、2022年5月9日、ジュネーブのフォーシーズンズホテル・デ・ベルグで開催されます。カタログの詳細と入札のお申し込みは、こちらからどうぞ。
アンティコルム ジュネーブ「 Important Modern & Vintage Timepieces」 - 確率は高いが見る目は必要
1980年代から90年代にかけて、オズワルド・パトリッツィ氏の指揮のもと時計オークションの先駆者となったアンティコルム社は、ここ数十年「大きければ大きいほどいい」という戦略をとってきた。そのカタログは通常500以上のロットで構成され、あらゆる種類の時計があらゆる価格で掲載されている。
かなり民主的な運営なので(つまり自分で調べろってこと)、フィリップスやほかのところで値段が折り合わなかった、さまざまなバイヤーやディーラーを惹きつけることができるのだ。そのため、歴史的に重要なものやユニークなものは少ないが、それでも見るべき興味深い時計、見るべき人はたくさんいる。ここでは私の目を引いた3本を紹介する。
Lot 515: スターウォーズのファンへ (ロレックス コスモグラフ デイトナ Ref.16520 "ダース・ベイダー")
このLot 515に気づくまで、私の知るダース・ベイダーとは砂が嫌いな人と、A.ランゲ&ゾーネの2000年代初期のすばらしい、非常に切望されていたランゲ1 “ダース”だけだった。このニックネームを持つロレックスは知らなかったが、ここにあった。現代のRef.16520デイトナはダイヤルの欠陥により、時間とともに微妙に暗くなり、とてもクールで色あせた外観を呈しているのだ。
Lot 121: タイミングの良い時計(グルーベル フォルセイ GMT、プラチナ製)
今回は手短に説明する。このグルーベル フォルセイ GMTは、ほかのどのグルーベル フォルセイ GMTよりも特別ではないが(正直なところ、かなり特別)、興味深いタイミングでオークションに出品される。グルーベル フォルセイは昨年秋、最も知名度の高い時計であるGMTの製造中止を発表しており、オークションでこのモデルへの関心が高まる可能性がある。私も注目して待ちたいと思う。スペック的には、Lot 121はプラチナ製のフラッグシップモデルで、2011年から2021年までの10年間にわずか198本しか製造されなかったとアンティコルムは記している。見積もり額は25万から50万スイスフラン(約3300万〜6600万円)。
Lot 433: ためらう必要はない(オーデマ ピゲ ロイヤル オーク スケルトン トゥールビヨン Ref. 25902PT)
今週フィリップスで発表される、裏巻き方式のロイヤル オーク トゥールビヨン 25831はすでにご紹介したが、こちらはより重厚な金属(プラチナだからね)でスケルトン仕様の兄弟モデル、Ref.25902だ。ロットノートによると、オーデマ ピゲが確認したところ、この25902は11本しか製造されなかったようだ。ピンクゴールドが5本、このモデルのようなプラチナが6本。ムーブメントは25821と同じ自動巻きキャリバー2875を搭載し、ケースサイドにリューズがなく、代わりにケースバックにレバーを組み込んでいるのが特徴だ。
Lot 433の時計は、ケース両面のサファイアクリスタルを通して見えるムーブメントのブリッジに鮮やかなエングレーヴィングが施されているようだ。その点、SS製の25831ではクローズドケースバックであるのに対し、シースルーバックではリューズが目立つ位置にあり、やや邪魔に感じられるのが気になる。また、トゥールビヨンケージは25831と同じ三分割ブリッジだが、25902ではオープンワーク加工により、オリジナルのトゥールビヨンケージを際立たせていた八角形のフォルムが取り除かれていることにも気がついた。12時間計の表示にローマ数字が使われていることについては触れなかったが、控えめに言っても興味深い時計だ。アンティコルムは、40万から60万スイスフラン(約5280万〜7920万円)の見積もりを提示している。
アンティコルム「Important Modern & Vintage Timepieces」オークションは2022年5月7日、8日にジュネーブのホテル ボー リバージュで開催されます。カタログの全文と入札の登録はこちらからどうぞ。