オーデマ ピゲ ロイヤル オーク フライング トゥールビヨン エクストラ シン(RD#3)、Ref.26670ST.OO.1240ST.01(20文字の英数字によるリファレンスナンバーを短期および長期記憶できる人は祝福する。私はできない。)は、4月に発売されたとき、おそらくそれに値するよりも少しインパクト不足でローンチした。その理由はいくつかあると思う。まず第一にRef.16202 ジャンボが1月に発表され、ほかのいくつかのモデル(ジャンボ以外のフライングトゥールビヨンを含む)とともに発表されたことで、我々の多くはまだロイヤル オークの過剰負担に悩まされていたのだと思う。第二に、ジャンボ トゥールビヨン RD#3は、ブルガリが超薄型自動巻きトゥールビヨンのコミュニティにおけるマインドシェアをほぼ独占しているという大きな背景のなかで登場したことだ。
30年以上にわたり、超薄型自動巻きトゥールビヨンの新記録を打ち立てたいのなら、この時計を越えなければならなかった。
数十年前ならともかく、2022年現在、超薄型トゥールビヨンで注目を集めるには、ブルガリを追い越さない限り難しいことは間違いない。そして、どのブランドもブルガリに挑戦していないばかりか、挑戦しようともしていないようだ。しかし、ブルガリがその記録を打ち立てるにはオーデマ ピゲを、しかも1986年に発売されたAPの腕時計を打ち負かす必要があったことは言うまでもないことだ。AP Cal.2870 自動巻きトゥールビヨンは、ブルガリが2018年にオクト フィニッシモ トゥールビヨン オートマティックを発表するまで、30年以上にわたり超薄型自動巻きトゥールビヨンの無敵のチャンピオンとして君臨していたのだ。ブルガリの技術的な功績を否定するものではないが、APの新しいロイヤル オーク トゥールビヨンは、おそらく時計学における自動巻きトゥールビヨンウォッチで唯一最も長い系譜を代表するものだ。
オーデマ ピゲは長年にわたり、基本的に同じトゥールビヨン、つまり同じケージ、テンプ、脱進機、そして同じ上部トゥールビヨンブリッジをすべてのトゥールビヨンウォッチに使用している。ブリッジは特徴的な逆V字型、ケージは3本のアームを持ち、その外縁にはポイズンネジとタイミングネジが取り付けられたフリースプラングテンプが搭載されている。上部ブリッジを除けば、今年1月に発表されたロイヤル オーク フライングトゥールビヨン 26730と同じトゥールビヨンが使われている。また、CODE 11.59コレクションの自動巻きフライングトゥールビヨン クロノグラフに使用されているトゥールビヨンでもある。
オーデマ ピゲの新作、ロイヤル オーク フライング トゥールビヨン エクストラ シン(RD#3)は、トゥールビヨンに新しい機構を採用し、さらにフライングトゥールビヨンを初めてジャンボケースに収めた。RD#3は39mm×8.1mmと、ジャンボとまったく同じサイズだ。
ジャンボケースにフライングトゥールビヨンを搭載するために、APは新しいトゥールビヨンムーブメントを開発する必要があった。今年初めに発表されたロイヤル オーク フライング トゥールビヨンは、31.5mm×6.24mmのAP Cal.2950を使用しており、RD#3よりも41mm×10.6mmと大きなケースになっている。一方、RD#3はCal.2968を採用しており、29.6mm×3.4mmとCal.2950よりもかなりフラットな小型ムーブメントとなっている。ちなみにブルガリのCal.BVL288はオクト フィニッシモ トゥールビヨン オートマティックに搭載されており、厚さは1.95mmだが、直径はAPのCal.2968よりも大きく、36.6mmとポケットウォッチのキャリバーよりも小さい領域に入っている。それはゼリードーナツをつぶすようなもので、平らにすることはできても、同時に広がってしまうのだ。つまり、ブルガリのオクト フィニッシモ トゥールビヨン オートマティックは、41mmと少し大きめの直径にならざるを得ない。
AP Cal.2968は、世界で最もフラットな自動巻きトゥールビヨンではないが、BVL288とは異なり、ペリフェラルローターキャリバーでないことを念頭に置く必要がある。その代わり、フルローターのムーブメントで、新型の16202 ロイヤル オークに採用されているCal.7121とほぼ同じサイズ(29.6mm×3.2mm)なのである。実際、Cal.2968は、自動巻きの輪列の配置や主ゼンマイの香箱の位置や構成など、Cal.7121をリエンジニアリングしたものにかなり似ている。
ジャンボケースにトゥールビヨンケージを収めるために、APはトゥールビヨンケージのいくつかの要素を、標準的なロイヤル オーク 自動巻きトゥールビヨンのCal.2950に使用されているクラシックバージョンから変更する必要があった。Cal.2950はブレゲヒゲゼンマイを採用しているが、新しいCal.2968は平ヒゲゼンマイを採用している(ほとんどの超薄型時計は、ブレゲヒゲによって高さが増すため、ブレゲヒゲヒゲゼンマイを採用していない)。Cal.2968のテンプは、テンプのリムの内側にタイミングウェイトがあり(Cal.2950ではリムの外側にある従来のウェイト)、リムと同じ高さにセットされている。また、テンプのアームには段差があり、これが一種の凹みとなってヒゲゼンマイをテンプに近づけ、これも高さを抑える工夫となっている。
もうひとつの目につく違いは、Cal.2950ではトゥールビヨンケージ上部の固定に従来のネジを使用しているが、Cal.2968では通常ネジよりも場所を取らないスプラインボルトを使用していることだ(ボルトとネジの寸法がわからないので、これが目的かどうかはわからないが)。また、トゥールビヨンケージのピラーには切り込みがあり、テンプのリムとのクリアランスがより確保されているため、APはさらに大きなテンプを使用できる(これは内部フラットリムウエイトの利点のひとつでもある)。最後に、トゥールビヨンケージはその外周にある歯車の歯によって駆動される。これはいわゆるペリフェラル・ドリブン・トゥールビヨンである。従来のトゥールビヨンキャリッジは、ケージの下側にあるピニオンを介して駆動される。ケージの端から直接駆動させることで、高さを低く抑えることができるのだ。
Cal.2968は世界で最も薄い自動巻きトゥールビヨンではないが、厚さ3.4mmと、フルローターの自動巻きトゥールビヨンとしてはかなり薄い部類に入る。これ以上薄くするには、マイクロローターかペリフェラルローターを使用しなければならない。ブルガリのオクト フィニッシモ オートマティック トゥールビヨンが登場する以前、(APのCal.2870の次に)薄い自動巻きトゥールビヨンは、ブレゲのクラシック トゥールビヨン エクストラシン オートマティック 5377で、このムーブメントはペリフェラルローターを備えており、厚さは3mmだった(そしてまた、幅も36.1mmと非常に広い)。APのフルローター自動巻きフライングトゥールビヨンは、ペリフェラルローターを搭載したはるかに幅広い最近の記録保持者よりわずか0.4mm厚いだけだ。このことでAPの能力はより興味深く見えるようになった。
そして外観は? これはジャンボなのだ。39mm×8.1mmのサイズに、美しいブルー ニュイ ニュアージュ 50のダイヤルを備えている時計だ。RD#3 ジャンボ トゥールビヨンに欠けている唯一のクラシックなジャンボの要素は、6時位置のAPロゴだが、オープンダイヤルのフライングトゥールビヨンを持つのであれば、それは妥当なことだと思う。ジャンボが好きなら、ロイヤル オーク フライング トゥールビヨン エクストラ シン(RD#3)も気に入るはずだ。オープンダイヤルのフライングトゥールビヨンという発想が好みでないなら別だが。超薄型自動巻きトゥールビヨンウォッチを比較するのは、少しトリッキーかもしれない。複雑機構の歴史を知るのに役立つし、フルローターのムーブメントとペリフェラルローターのムーブメントを比較するのは一方では公平だが、他方では少しばかりアップルとオレンジを比較するようなことでもあるのだ。そのような観点から見ると、RD#3は美しく、非常によく考え抜かれた現代的なウォッチメイキングにおける作品であると言えるだろう。
RD#3 ジャンボ フライングトゥールビヨンの価格は、オーデマ ピゲの公式サイトでご確認ください。
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