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過去数年にわたってF.P.ジュルヌを取り巻くコレクション市場は、ジュネーヴを拠点とするこのブランドによる個性的で古風なデザイン、そして驚くべき時計製造技術の英知との自由な融合が、リッチな時計マニアたちに知れわたるにつれて過熱を極めてきた。この熱狂は最近のオークションの結果にも表れており、フィリップス(もちろんバックス&ルッソと共に)は、このブランドのスースクリプション(Souscriptionとは仏語で“予約販売”の意)ウォッチのコンプリートセットでその熱をかき立てている。さらに注目すべきは、5本それぞれが製造ナンバー001であることだ。
もしジュルヌに全てを捧げたいならば、最初のオーナーから初めて市場に出品されるこのセットは、まさにうってつけだ。そうは言っても、このセットは11月のオークションで個別に出品されるため、1つではなく5つのロットを競り落とす必要がある。
HODINKEEのコントリビューターでもあるフィリップス社の上級副社長、ポール・ブトロス氏に話を聞くと、彼はこのお宝の出品の背景を少し教えてくれた。オーナーは現在90歳近く、彼の息子たちは時計のコレクションに興味がないため、息子や孫のために時計を売りたがっていたそうだ(なんて素敵なおじいちゃんだろう!)。彼が一番良い売り方についてF.P.ジュルヌ氏に相談したところ、ジュルヌ氏は彼にフィリップスに話を持ちかけるようすすめた。そんなわけで、このような状況に至ったのだ。
「ジュルヌは、正確な時間を刻むことへの崇高なこだわり、猛烈な独立心、ユニークな美学、そして自社によるデザインと製造への情熱によって、最も厳しい時計愛好家たちからも尊敬を得ています」とブトロス氏は述べている。「1999年に自身のブランドを立ち上げた彼は、独立時計師の中でも早くから自分自身で自分のブランドを立ち上げた1人で、現在では最も尊敬される独立系ブランドのひとつとなっています。今回のセットは彼のブランドを確立した最初の5つのモデルにおける最初の1本を集めたもので、全てF.P.ジュルヌの長年の支援者である1人のオーナーが購入したものです。シリアルナンバーが一致する5つの“スースクリプション”ピースのフルセットは、現存する唯一のものであり、なんと全てがシリアルナンバー1であることも忘れてはなりません」
トゥールビヨン・ルモントワール・デガリテ《時計の詳細は記事「F.P.ジュルヌ トゥールビヨン全史(ジュルヌ本人による動画解説付き)を参照」》からスタートし、20人ほどの顧客がブランド立ち上げのための資金調達を目的とした時計の注文販売であるスースプリクションに加わった。ジュルヌが続いて翌年にクロノメーター・レゾナンスを作った時、この顧客たちには最初のトゥールビヨン・ルモントワール・デガリテのスースクリプションウォッチと同じ製造番号のものが提供された。
その後、オクタコレクションが発表されると、最初の2つのモデルを購入したパトロンたちは、“スースクリプション”形式のもと、また同様の申し出を受け、そろいのナンバーが振られた各モデルの最初の20本を提供された。その3つのモデルはオクタ・リザーブ・ド・マルシェ、オクタ・クロノグラフ、オクタ・カレンダーだ。どれ1つをとってもオークションにおいて注目に値する出品だが、5本全てが揃っていて、その5本全てが各シリーズのシリアルナンバー1となったなら、事態は飲み込めただろう。では数字の話に移ろう。
ダイヤルに誇らしげに1/20と記されたプラチナ製トゥールビヨン・ルモントワール・デガリテの予想落札価格は30~60万スイスフラン(約3670~7340万円)。次に、プラチナとピンクゴールドのクロノメーター・レゾナンスは予想落札価格20~40万スイスフラン(約2450~4900万円)だ。オクタ・リザーブ・ド・マルシェは5~10万スイスフラン(約610~1220万円)。そして5本のうち僕が最も気に入っている驚くべきオクタ・クロノグラフは10~20万スイスフラン(約1220~2450万円)での落札が予想されている。最後のゴージャスなオクタ・カレンダーは8~16万スイスフラン(約980~1960万円)という予想だ。
流行に基づく値付けと需要の急増により多くの予測が、ここ最近は馬鹿げたものとなっているように思えるが、それでも5本全ての時計が本気で欲しいなら、その予想落札価格は(手数料抜きでも)73~146万スイスフラン(約8940~1億7870万円)ということになる。そして、このチームをばらばらにするのはちょっと残念に思えるのだが、みなさんも同感ではないだろうか。
興味のある方々(もしくは僕のようなただの礼儀正しい野次馬)は、全セットをマイアミにあるF.P.ジュルヌのブティックで、6月11日の午前11時から午後5時まで、コレクターたちから貸し出された別のスペシャルなジュルヌの作品の数々と共に見ることができる。興味本位の人にとってもコレクターにとっても、これは間違いなく見ものとなる出品である。残念なことに、元のオーナーに対する、僕からの「代理の孫」になろうという親切な申し出の伝言は、ブトロス氏に丁重に断られてしまった。秋に木々の葉が色を変える頃には、また詳しい情報が入るだろう。