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最近のオークションでは、独立時計師ブランドが人気を集めており、先週、5月8日から9日に開催されたジュネーブウォッチオークションXIIIでも多数のロットが出品されました。そのオークションのハイライトのひとつとして、ハリー・ウィンストンのオーパスシリーズ最初のモデル、オーパス 1が販売され、15万スイスフランでスタートしたビッディングはあっと言う間にエスティメートを超え36万スイスフラン(日本円で約4330万円)で落札されました。バイヤーズプレミアムを含めると45万3600スイスフラン(約5460万円)と勢いを感じさせる結果となりました。
オーパスシリーズは、ジュエラーの最高峰であるハリー・ウィンストンと独立時計師がコラボレーションし独自の時計作りを行う企画として、当時、ハリー・ウィンストンの時計部門の最高責任者であったマキシミリアン・ブッサー氏が発案。その最初のコラボレーション相手として選ばれたのが、独立時計師フランソワ-ポール・ジュルヌ氏で、その後もハリー・ウィンストンからは、様々な独立時計師たちとコラボレーションが続いて登場しています。
オーパス 1は、当時、F.P.ジュルヌで展開されていた「クロノメーター・レゾナンス」、「トゥールビヨン・スヴラン」、そして「オクタ・パワーリザーブ」の3モデルをベースに、それぞれ6本、計18本がそれぞれユニークピースとして作られました。
中でもオーパス 1トゥールビヨンに関しては、118個のダイヤモンドがセットされたブルーダイヤル、同じく118個のダイヤモンドがセットされたブラックダイヤル、シルバーダイヤル、グレーダイヤル、ピンクダイヤル、そして先日のオークションで販売されたターコイズダイヤルで提供されました。本記事では、日本で発見されたピンクダイヤルをご紹介します。
直径38mmのプラチナ製ケースを備えたこのオーパス 1 トゥールビヨンの最大の特徴は、やはり文字盤でしょう。印象的なピンクのダイヤルはエナメル製で、この色を作り上げるために数百枚のエナメルの焼成が必要となりかなりの時間を要したとのこと。とても深みのある色合いで、光を当てる角度を変えて見てみると、光沢が強く明るく反射したり、逆に落ち着いた雰囲気になったりと豊かな表情を見せます。ピンクダイヤルは、オーパス 1トゥールビヨンの中でも、ターコイズと並んでとても独特かつ美しいダイヤルだと思います。
ベースとなったトゥールビヨン・スヴランとオーパス 1トゥールビヨンのケースサイズはどちらも直径38mmですが、前者の厚さは9.9mmであるのに対して、後者は10.2mm厚。数値としての差はわずかですが、ケース形状、特に可動式の角度がついた短めのラグによって、着け心地は全く異なります。文字盤上のレイアウトや内部の複雑機構は、F.P.ジュルヌそのものですが、デザイン、装飾、パッケージは全て、ハリー・ウィンストンのスタイル(マキシミリアン・ブッサー氏のスタイルと言ってもいいかもしれません)で、同社の時計として作られた印象が強く感じられました。
内部に搭載されるムーブメントは、モントル・ジュルヌによるCal. 1498。主ゼンマイの巻き上げ量に関係なく同量のエネルギーをトゥールビヨンに供給する定力装置「ルモントワール・デガリテ」を備えたトゥールビヨンムーブメントで、より優れた精度を実現しています。さらに詳しくF.P.ジュルヌのトゥールビヨンについて知りたい人は、ぜひ「リファレンス・ポイント: F.P.ジュルヌ トゥールビヨン全史(ジュルヌ本人による動画解説付き)」記事もあわせてご覧ください。
フランソワ-ポール・ジュルヌ氏は、自身の著書「偏屈のすすめ。」(幻冬舎刊)の中で、ハリー・ウィンストンとのコラボレーションについてこう記しています。
わたしは、大きな資本と組んだり、誰かの指示で仕事をすることが、どうしても性に合わない。自分自身が作りたい時計を作り、それを良いと評価してくれる顧客だけを相手に仕事がしたいのである。
– フランソワ-ポール・ジュルヌ著、「偏屈のすすめ。」より実際にオーパス1の後、様々なブランドからコラボレーションの依頼があったそうですが、全て断り、またこれからも行うことはないといいます。オーパス 1 トゥールビヨンは、ジュルヌ氏の初期の作品であり、今後は二度と実現されることはないコラボレーションモデルで、後のMB&Fにも通ずるようなマキシミリアン・ブッサー氏らしいデザイン・意匠をも有した希少な作品です。今回のオークションで良い結果を残すことは間違いないでしょう。
また、このピンクダイヤルを配した個体が最後に公の場に登場したのは、2006年に日本で開催されたローカルオークション。それから長らくは、日本の時計愛好家によって愛用されてきました。ターコイズダイヤルに比べてピンクダイヤルは、着けこなしやすさという観点では、劣るかもしれませんが(異論は認めます)、日本で使われた時計は、ユーズド・イン・ジャパンとオークションカタログにも明記されることがあるほど、プライスにも影響があるため、その点も気になるところです。
このハリー・ウィンストン オーパス 1の落札予想価格は、80万〜160万香港ドル(約1120万円〜2240万円)。ロット808として、6月5日から6日に開催されるフィリップス香港ウォッチオークション XIIに出品されます。詳しくは、フィリップス公式サイトへ。
編集者追記: 本モデルは、365万4000香港ドル(約5160万円)で落札された。