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Bring A Loupeへようこそ、そしておかえりなさい。今月初め、eBayは“入札のしくみ(How bidding works)”というヘルプページを更新し、トレーディングカードのカテゴリー内でテスト中の新しい仕様を反映させた。それはオークション終了2分前に入札があった場合、さらに2分間タイマーが延長されるというもの。この入札が延長されるスタイルは、2021年の設立以来、LoupeThisで採用されており、今回のテストがeBay全体に拡大されればいわゆるスナイプ入札が事実上なくなる可能性がある。スナイプ入札とはオークション終了の数秒前に入札し、他者に応札させる間を与えないことで競り合いを回避し、できるだけ安く落札する方法のことであり、これはある種の戦術として多くの利用者に浸透してきた。トレカ収集家たちの反応は今のところ賛否が分かれているが、もしこの仕様が時計カテゴリーにも適用されれば、eBayの時計文化にとっては大きな転換となるだろう。なにしろ、市場価値より安く時計を“スナイプ”するというのは、eBayで時計取引をする際の醍醐味のひとつなのだから。
eBayの時計オークションにはまだ延長入札が導入されていないこともあり、今週のおすすめ商品は引き続きそのカテゴリーに絞って、掘り出し物を紹介していこう。ただその前に、前回の結果を振り返る。まず1941年製パテック フィリップ Ref.96は(アメリカ版の)Bring A Loupe掲載からわずか5分で売約され、希望価格は3万3000ドル(日本円で約490万円)だった。買い手は非常によい取引をしたと思う。というのも特に、販売後にディーラーがダイヤルがエベラールとのダブルネームであることに気づいたからだ。また、聖クリストファーダイヤルを備えたモバードは、eBayでベストオファーによって1500ドル(日本円で約22万2000円)未満で落札。先週紹介したフランスのオークション2件については掲載先からすでに消えているが、おそらく売れたのであろう。もし最終落札価格をご存じの方がいれば、ぜひコメント欄で教えていただきたい。
それでは今週のフレッシュなセレクションをご紹介していこう。
1980年代製 ショパール スケルトン仕様のドレスウォッチ Ref.161092/18Kイエローゴールド製
この時計にはショパールのブランド名がしっかりと記されているが、その背景にはアーミン・シュトローム(Armin Strom)氏の存在が色濃く関わっている。同氏は、現在ブランドとして知られるアーミン・シュトロームを始動させる前に個人として活動し、スケルトン仕様の時計のパイオニアとしてキャリアをスタートさせた。彼は1967年にスイス・ブルクドルフに工房を構え、時計の美しさはムーブメントにあるという信念を持っていた。1984年にはアーミン・シュトローム名義でスケルトンモデルの製作を開始したが、この事業の核心は大手ブランドにオープンワークや手彫りの装飾を施したムーブメントを供給することだった。今回紹介するショパールは1980年代半ばから後半にかけて製造されたものであるが、1992年にはシュトロームはオメガと契約し、スケルトン仕様のスピードマスター 27 CHRO C12 ジュビリー Ref.3696.50.81の製作に携わるなどしていた。
この頃のショパールは、同ブランドの歴史においてサードパーティ製造を特徴とした時代だった。現カール-フリードリッヒ・ショイフレ(Karl-Friedrich Scheufele)共同社長が、ブランドを“真の”時計メーカーへと変革するよう要求するはるか以前の1996年に、名機となるCal.1.96の開発が実現した。時計業界が“自社製”にこだわるようになる前から、アーミン・シュトローム氏は、まるで世界でもっとも美しいスケルトンムーブメントを製作するために存在しているかのような職人だった。だからこそ、彼に外注するのは極めて最適な判断だったのである。
ケースは直径わずか30mmと、1980年代製という点から想像されるよりも“ヴィンテージ”寄りのプロポーションだがその点で躊躇する必要はない。前回紹介したパテック フィリップ カラトラバ Ref.96のファンなら、このモデルも同様の着け心地だろう。むしろ私の目には、このサイズこそが、本モデルの職人技の高さを引き立てる要素であるように思われる。このサイズのムーブメントに手彫りのスケルトン加工を施すことは、例えばオメガのスピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナルと比べても、想像を絶するほど困難な作業だ。ゴールドケースがクラシックな印象を保ちつつ、ダイヤル、いや、むしろダイヤルがないことによって、ムーブメントの繊細な構造を余すところなく見せてくれる。よく目を凝らせば、風防の裏側に浮かぶインデックスや、非常に小さなスモールセコンド表示がまるで隠れるようにして存在しているのがわかるだろう。
アーミン・シュトローム氏はこの分野の先駆者であったが、コラボレーションしたブランドは多くない。ショパールは当時、彼と協力する数少ない慧眼を持ったブランドのひとつであり、その結果生まれた時計には現代の工業的なオープンワークとは一線を画す、まさに伝統的な職人技による仕上げが施されている。個人的に目を引かれたのは香箱の上に配された“地板”に彫り込まれた“C”の文字で、これはおそらくショパールを表すものだと思われる。
販売者はカナダ・トロントに拠点を置くDiscreet Peacockのドゥーサン(Dusan)氏で、6999ドル(日本円で約104万円)で販売中。詳細はこちらから。
1950年代製 ウィットナー クロノグラフ/バルジュー71搭載
このヴィンテージクロノグラフのように実用性を重視し、夜光塗料をたっぷりと施し、そして1940年代から50年代のバルジュー製のムーブメントを搭載したモデルというのは、現在ではややトレンドから外れている。多くのコレクターが前述のショパールのようなドレス寄りのモデルに傾倒するなか、このウィットナーは大きな価値を秘めた1本だと言える。ヴィンテージ愛好家の視点では、過酷な使用を想定して設計されたこの時代の時計が、未改修のまま自然な経年を感じさせる状態で残っていること、そしてそれに出合えることに何か特別なものを感じる。一見すると、ヴィンテージのウィットナー クロノグラフに際立った特徴はないかもしれないが、このコンディションこそがこの時計を希少な存在にしているのだ。
私も前文のような同じ過ち犯したが、ウィットナーが本来受けるべき適切な評価を受けていないことは認めざるを得ない。だがこれは、ヴィンテージクロノグラフのムーブメントに精通しているコレクターにとっては隠れた名作となり得る。“防水仕様”のステンレススティールケースのなかにはバルジュー71が搭載されているが、これはコラムホイール機構を備え、のちにより有名になる兄弟機、バルジュー72の前身である。手巻き式で、美しい仕上げが施され、操作する喜びを感じさせるムーブメントだ。なお、バルジュー71の小型版であるバルジュー23は、かつてパテック フィリップ、オーデマ ピゲ、ロレックス、ヴァシュロンといった名門ブランドでもエボーシュとして採用されていた。
ケースサイズは直径36mmときわめて着けやすく、使用感はあるものの、ノンポリッシュと思われるオリジナルの状態を保っており、ラグのエッジは厚みがあり鋭いままだ。そしてこの時計の魅力を決定づけるのはダイヤルであり、全体にわたってクリーミーな色味に経年変化し、ラジウム夜光を施したアラビア数字があしらわれている。シリンジ型の針には同じ夜光塗料が充填されており、その状態も良好だ。パティーナは見られるがそれはいい味としてのもので、加工されていない、自然な経年変化を示す状態だ。ダイヤル上に見える線やぼやけは、オリジナルの風防に生じたクレイジング(細かなひび模様)によるものだ。こうした風合いを好むコレクターもいるが、信頼できる時計技師を通じて交換用の風防は入手できる。また商品説明にもあるとおり、この時計はオーバーホールが必要なため時計技師のもとを訪れる必要がある。
このウィットナーはアメリカ・バージニア州フロントロイヤルのeBayセラーが出品している(編注;現在は終了している)。詳細はこちらから。
1960年代製 ラルコ エレクトリック/ランデロン4750搭載
個人的にこっそり推したいヴィンテージブランド、それがこのラルコ(Ralco)である。お察しのとおりラルコはモバードのサブブランドであり、創業家ディテシェイム家(Ditesheim、モバードの創業家)のロジェ(Roger)、アルマン(Armand)、リュシアン(Lucien)の3名に由来してその名が付けられた。わかりやすく言えば、ラルコはモバードにとってのチューダー的存在であったのだ。仕上げの品質や美観の点では“王冠”のロゴを掲げる兄弟ブランドにはやや及ばなかったが、ラルコは外部製のムーブメントを採用していたものの、モバード水準のケースやダイヤルを備えていた。
まず、正直に難点から伝えておこう。この時計は手入れ前提のものであり、搭載されているスイス製の電池式ムーブメントは整備が必要な状態だ。ただし、忘れられたこの分野の機構に特化した時計師は、ネットを探せば世界中にまだ存在する。とはいえ、このムーブメントは歴史的な意義を持つものである。搭載されているのはランデロン4750で、1961年に登場したスイス初の電池式ムーブメントであり、ハミルトンのモデル500ムーブメントに対抗するべく開発されたものだ。完全なクォーツや音叉式ではなく、電気パルスによって機械式のテンプを制御するという、電気と機械のハイブリッド構造を採用していた。
歴史的な価値もさることながら、この時計が持つ外観の魅力も見逃せない。まず目を奪われるのが、稲妻のような意匠のインデックス(まるでベンジャミン・フランクリン[Benjamin Franklin]へのオマージュのようだ)、そして35.5mmのスーパーコンプレッサーケースだ。外観の全体的な状態はなかなか良好で、夜光には味のあるパティーナが現れ、ダイヤルにはわずかなラジウム焼けが見られるものの、ケースは厚みを保ちつつにていねい維持されている。この1本を救い出してくれる人が現れることを願いたい。
このラルコはイギリス・シュルーズベリーのeBayセラーが199.99ユーロで出品している。詳細はこちらから。
1960年代製のギャレ マルチクロノ45M デシマル
この“デシマル・クロノグラフ”は、1940年代に科学、研究所、医療、時間研究などの分野での使用を目的として設計されたもので、なかでもガレ マルチクロノ45Mは特に人気のあるモデルのひとつである。外周の大型スケールは赤いプリントで仕上げられており、100単位であらゆる計測が可能だ。クロノグラフが専門家の必需品とされていた時代に生まれたこれらのモデルは、今日ではそう簡単に出合えるものではない。とりわけ今回の個体はギャレによる後年のバージョンであり、防水仕様の37mmスティールケースを備えている点でさらに希少性が高い。
このデシマル・クロノグラフを駆動するのは、EP 4として知られる、エクセルシオールパークのCal.4だ。これは、バルジューほど頻繁に使われたエボーシュではないが、コレクターのあいだではその信頼性、プッシャーの操作感、そして特徴的なブリッジの構造によって高く評価されている。ギャレのクロノグラフはネット上でも見つけることができるが、この個体はデシマルスケール(編注;100進法の目盛り)を備えていることに加え、より大型で厚みのあるケースを採用している点でも希少である。1940年代に本モデルの製造が開始した当初、ケース直径は36mmで、プッシャーも標準的なポンプ型でないタイプだった。
今回の個体も手入れ前提ではあるが、再び言っておくと、これは救うに値する1本だ。出品者によれば時刻合わせと動作は可能だが、おそらくオーバーホールが必要だという。明らかにプッシャーキャップの補填も必要だが、それも対応可能な範囲だ。重要なのは、ダイヤルやケースといったコンディションの要となる部分がシャープに保たれていることだ。そのほかの部分はすべて修復できるのだから。
このガレはオハイオ州グランビルのeBayセラーが出品している(編注;現在は終了している)。詳細はこちらから。
ご注意を:1960年代製 ホイヤー カレラ 45 Ref. 3647N
率直に言って、これは手巻きのヴィンテージホイヤー カレラを探しているときに避けたい1本だ。ダイヤルは、よく見積もってもリプリント(再印刷)であり、3時位置の45分積算計の目盛りなどに妙なディテールがいくつか見られるし、夜光プロットも異様に大きすぎる。言い出せばきりがない。驚いたことに、このオークションには入札がいくつか入っている。現在の入札者たちがこの記事を読んでくれるか、あるいは残された正規部品に何らかの価値を見出していることを願うばかりだが、仮に使えるパーツがあったとしても3000ドル(日本円で約44万円)超えはさすがに高すぎると感じる。
ムーブメントのブリッジにあるホイヤーの刻印も、ケースバック内側のマーキングも、正直なところあまり好ましくない。慎重に見れば、この時計には“本物”と呼べる要素がほとんど残っていないかもしれない。とはいえ、最塗装したポール・ニューマン デイトナのダイヤルを売りさばいているeBayセラーによる出品と考えれば、こうした状況にも驚きはない。少なくともそちらには、その旨が明示されていたのだが。
これが本来あるべきRef. 3647Nの姿だ。 Image courtesy of Shuck The Oyster (左)、 S.Song Watches(右)
この一件はスルー推奨。よい出合いがあるよう祈っている。
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