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クイック解説
シチズンが文字盤に太陽電池を配置し、光エネルギーによるクォーツムーブメントの駆動を実現したのは1976年のこと。クリストロン ソーラーセルと名付けられた“世界初”の太陽電池充電式アナログウォッチは、今現在シチズンの基幹技術に数えられるエコ・ドライブの原点として知られている。その歴史を紐解くと、開発のきっかけは1973年の第一次オイルショックによる新エネルギーの模索にあったという。また、当時はクォーツ時計が普及し始めてまもないころであったにも関わらず、シチズンでは電池交換の面倒さに加え、最終的に廃棄物となる電池そのものについても問題視していた。ここ数年、時計業界にもサステナブルの波が押し寄せており、各社ストラップにヴィーガンレザーを使用したり、海洋廃棄物を使用した再生素材を取り入れたりと各々の目線で対応を行っているが、シチズンはおよそ半世紀前から一貫した取り組みを続けてきたのだ。モノとして便利であることは大前提に、環境へも配慮を忘れない。まさに、永く、広く市民に愛されるべく生まれたブランドのあるべき姿だ。
話をいささか広げすぎてしまったが、今回はこれぐらいがちょうどいい。なぜなら、シチズンがこのたび新たに発表した新作エコ・ドライブウォッチは、エコ・ドライブを世界規模でスタンダードなものとするべく設計されたモデルだからだ。
その名は、エコ・ドライブ365(Eco-Drive 365)。ブラック、シルバーのレギュラーモデル2型と、限定モデル1型の計3型で展開される。モデル名の由来にもなっているCal.E365は、エコ・ドライブが追求してきた低消費電力、長時間駆動を強化したもので、パワーセーブ機能(発電が一定時間行われない状態になると針が止まり、節電状態となる機能)を搭載していないにも関わらず一度のフル充電で約1年365日動き続けることを売りにした新開発のムーブメントだ。ムーブメント自体の直径は27mm、厚みは3.18mmとやや小振りに設計されている。そのCal.E365を納めたSSケースは、面と曲線を組み合わせた特徴的な形状の42.5mm径。12時、6時位置に施されたエッジをなめらかに受けるオリジナルのブレスデザインもユニークで、文字盤に施されたラメの装飾とともに1970〜80年代ごろに見られたレトロフューチャーな空気を放っている。
しかし、それもそのはず。今回のシチズン エコ・ドライブ365にはデザインベースとなる1本が存在する。1973年にリリースされたシチズン初のクォーツウォッチ、シチズンクオーツの特別調整品となるシチズンクオーツE・F・Aだ。
ケースの上部、下部に3カ所ずつ山型のエッジが設けられたアイコニックなデザインを特徴としており、オリジナルの文字盤には紫金石を使用していた。紫金石とは、溶かしたガラスのなかに亜酸化銅の粉末を混ぜ込んで作った人工の砂金石のこと。今作で用いられたラメは、この紫金石に含まれる銅成分を表現したものだろう。その文字盤も光発電の搭載を受けてポリカーボネイトになるなどの変更は見られるが、見返しリング部にあしらわれた立体的なメタルインデックスなど、ディテールは忠実に再現されている。だが、エコ・ドライブ365はシチズンクオーツE・F・Aの復刻モデルとしては位置付けられていない。その誕生からちょうど半世紀。クォーツモデルからエコ・ドライブへ、その意匠を借りつつシンプルに進化を果たした姿だ。
また、限定モデル(BN1010-05E)のダイヤル上4カ所に施されたルビーには、人工のラボ・グロウンルビーを採用。ルビーのなかでも貴重とされるピジョン・ブラッドを思わせる色味と高い透明感が特徴で、ゴールドの見返しリングと合わせて本作をオリジナルにグッと近づけている。加えて、ストラップのレザーにはLWG(LEATHER WORKING GROUP)認証を受けたものを使用。LWG認証のレザー自体は以前から取り入れていたが、2023年4月からはシチズンも同団体に加盟し、積極的なサポートを行っていく。
限定モデルを含むエコ・ドライブ365の3型は、いずれも2023年秋冬の発売を予定。ブラックモデルが6万3800円(税込)、シルバーのモデルが5万8300円(税込)、限定モデルが11万円(税込)という価格設定になっている。
ファースト・インプレッション
ここまでの話を踏まえて、ふと疑問が湧き上がる。新型ムーブメントの恩恵を活かし、エコ・ドライブの普及を目的とするなら、もっと小型&ミニマルなデザインにすることもできたのではないか。例えば、アナログ式光発電時計として2021年に世界最薄を記録した、エコ・ドライブ ワンのような方向性のアプローチもできたはずだ(もちろん、Cal.E365の厚みからそこまで薄くはできないが)。だが、エコ・ドライブ365の目的はシチズンの技術力を時計愛好家に向けて改めて主張することではない。これまでエコ・ドライブを手に取ったことがない層に、光発電の便利さとサステナブル性を理解してもらうことこそが今作の狙いだ。
そういった意味では、ここ数年におけるトレンドのひとつ、70年代デザインの採用には確かな意図が感じられる。同じく1973年生まれの名品、“ツノクロノ”が2021年に復刻された際には、シチズンファンに限らずファッション的に時計を楽しむカジュアル層も広く取り込んでいた。さらに今回は、レギュラーモデルにおいてはモダンなブラック&シルバーカラーを採用することで、特殊なケース形状を飲み込みやすくしている。加えて、価格設定も巧みだ。レギュラー2型は日本円で税込5万円前後に抑えられており、1回の充電で365日稼働する、という売り文句と合わせて、キャッチーで手に取りやすいモデルになっている。
なお、実は、パワーセーブ機能に頼らずに1年以上の稼働をうたっているモデルはシチズンでも限られている。例を挙げるとエコ・ドライブ ワンやプロマスターの上位機種が該当しており、新キャリバーE365は数値のうえではこれらの高級機と並ぶことになる。だがもちろん、プロマスターのように多機能ではないし、エコ・ドライブ ワンのムーブメントほど薄くもない。搭載する機能を絞り、充電効率を上げつつも十分な蓄電量を確保できる厚みを持たせる。このように効率を重視したムーブメント開発の結果、エコ・ドライブ365は上記のスペックとプライスを両立することができたのだ。
ケースはデザインを際立たせるラグレス仕様で、42.5mmというケース径に対し非常に腕馴染みがよくなっている点も見逃せない。手首の上への収まりのよさは、上の写真を見てのとおりだ。また、レギュラー2型についてはマットなサテン仕上げの採用により、着こなしにも悪目立ちせず取り入れることができる。
もちろん、あなたが熱心な時計愛好家で、エコ・ドライブ365にノスタルジックな魅力を求めるなら、オリジナルに忠実なBN1010-05E(限定モデル)という選択肢もある。シチズン初のクォーツウォッチの流れをデザインで最も色濃く受け継いでいるのは、前述のとおり間違いなくこの1本だ。
僕は今回のエコ・ドライブ365について好意的に捉えている。貴重なアーカイブピースを踏襲した70年代デザインに、効率的かつパワフルな新型ムーブメントを搭載しつつ、デイリーユースの1本として幅広い層が手に取れるプライスにまとめた点は高く評価したい。
そのうえで気になるのが、シチズンによる“次の一手”だ。今作はシチズンにとって紫金石……、ではなく“試金石”的なモデルであると僕は考える。クリーンエネルギーに対しての理解が一般層にも広がっている海外で、エコ・ドライブという機構がどのように受け取られるのか。その問いかけとなるのがエコ・ドライブ365というモデルであり、それに対するアンサーは今後のシチズンのグローバル展開にも少なからず影響を与えるはずである。
……と、熱く語ってしまったが、まずは秋冬発売予定のエコ・ドライブ365を純粋に楽しみにしていて欲しい。ここまで語ってきたとおり、ユニークで、単純に実用的な時計なのだから。
基本情報
ブランド: シチズン(Citizen)
モデル名: エコ・ドライブ365(Eco-Drive365)
型番: BN1015-52E(ブラック)、BN1014-55E(シルバー)、BN1010-05E(限定モデル、レザーストラップ)
直径: 42.5mm
厚さ: 11.1mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: ブラック、ラメ
インデックス: 見返しリング上にメタルインデックス(ブラック、シルバー)、限定モデルはラボグロウン・ルビーを使用
夜光: なし
防水性能: 10気圧
ストラップ/ブレスレット: SS(ブラック、シルバー)、LWG認証タンナーによるレザーストラップ(限定モデル)
ムーブメント情報
キャリバー: E365
機能: 時・分表示、センターセコンド、デイト表示、エコ・ドライブ
直径: 27mm
厚み: 3.18mm
パワーリザーブ: フル充電時約1年可動
価格 & 発売時期
価格: ブラック6万3800円、シルバー5万8300円、限定モデル11万円(すべて税込)
発売時期: 2023年秋冬発売予定
限定: BN1010-05Eのみ世界限定1200本
シチズン エコ・ドライブ365の詳細はこちらをクリック。
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