私の時計趣味の来歴は、皆さんがHODINKEEで慣れ親しんでいるものとは少し異なる。写真撮影のスタイリング、雑誌の仕事、レッドカーペットやミュージックビデオのセレブリティとの仕事を通じて、時計に興味を持つようになった私。だから、当然ながら私は美学というレンズを通して時計の世界を見ている。
もちろん、時計コレクターが時計の外観よりもヒゲゼンマイやパワーリザーブ、ラグ幅を気にするような時計の世界に長く身を置いていればいるほど、その周辺に留まることは難しくなっていく。ときには、外部の人間の視点は、このおかしな小さなバブルのなかでは貴重なもののはずだ(たとえそれが特定の人々を非常に怒らせたとしても)。けれども、私はHODINKEEで働いて初めてよそ者であることを知った。
最近私は、特に素材や工芸品、貴金属合金、手作業による仕上げなど、時計学的に深く掘り下げることに夢中になっている。エンジニアリング、さり気なさ、歴史、そしてコミュニティにも興味を持つようになった。しかし、私は私で、いまだに腕時計の外観に引かれている。私は今でも時計と身につける衣服とのバランスを考える(こうできたとか、こうであるべきだったとか)。そして、時計そのものをアートオブジェとしても楽しんでいる。
そういうわけで、今日はファッション業界の友人たちの力を借りて、ちょっとした知恵を授けたいと思う。1980年代に私が愛読していたスタイルガイド『The Preppy Handbook』へのオマージュとして、時計の世界ではおなじみの典型的タイプを、主観的なスタイリングのガイドラインとともにご紹介しよう。もしかしたら、自分自身がそのタイプに当てはまるかもしれない。あるいは自分のスタイルが多面的で、枠にはまらないという人もいるかもしれない。しかし私たちは皆、このようなキャラクターを見たことがあるはずだ。
このガイドラインに従うかどうかはあなた次第だ。例えば、私の編集者はデイデイトにレザーストラップを合わせて一生過ごすだろう。しかし、これらのガイドラインを無視したとしても、少なくとも知っておくべきだ。ルールを知らないよりは、故意に破るほうがはるかにましだからだ。
ヴィンテージ(Vintage)愛好家
レトロな腕時計を1〜2本持っているような、単なる好事家たちではない。時代錯誤の贅沢なライフスタイルを送る、時計通のことだ。本格的なヴィンテージ愛好家は、万年筆で自分の考えを書き留めることを好み、イニシャル入りのビスポークシャツを必ずといっていいほど仕立てている。雨の日には柄の長い傘を持ち歩き、ダブルブレストのブレザーやジャケットの上にスカーフを注意深く下げる(決して巻いたりしない!)。彼らは外見上、美的感覚を持ち、Instagramを使いこなすが、ファッションの面ではパーカを着た人々に眉をひそめている。代表格:ジョン・ゴールドバーガー
もしあなたがヴィンテージ愛好家なら…
ヴィンテージとモダンをミックスした腕時計や洋服が着用するべきだ。それは究極の相乗効果をもたらすスタイルだ。例えば、パテック フィリップのRef.2499にバレンシアガのスウェットパンツを合わせれば、その雰囲気は最高だ。同じ時計をサヴィル・ロゥのシャツとシルクのポケットスクエアなど、ありきたりなオールドマネー系のアイテムと合わせるよりもずっとおもしろいだろう。私は、ヴィンテージウォッチを身につけたストリートカルチャーのアイコンに憧れる。バッド・バニー(Bad Bunny)のレディス用ヴィンテージパテック、キム・ジョーンズ(Kim Jones)のヴィンテージデイトナ、そしてもちろん故ヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)のゴールドノーチラスなどだ。また、その逆もまたクールだ。例えばゴールドバーガーがリシャール・ミルを着用するのを想像してみよう。ここで重要なのは並べてみることだ。そうでなければ、コスプレっぽくなってしまう。あなたは『ダウントン・アビー』のエキストラではないのだから。
時計のストラップを靴やベルトに合わせないこと。このせせこましさは、もう説明不要だろう。ただ、やらないこと。
ヴィンテージ“ファッションウォッチ”を取り入れてみよう。1970年代のグッチとピエール・カルダンは、デザイン的にとても素晴らしいものだった。そして、そのような時計は、あなたの次のミートアップでは誰も見向きもしないだろう。
ロレックスのデイデイトをレザーストラップに合わせないようにしよう。ブレスレットにふさわしい時計というのがあるからだ。
ハーパーズ バザーのアクセサリーディレクター、ミゲル・エナモラード(Miguel Enamorado)氏は、フレンチカフ(ダブルカフ)の下に大きな腕時計をつけるのはやめようと提言している。スリムな時計を選ぼう。時計はテーラードスーツのように自分に合うものであるべきだ。
一流ブランドの衣服、靴、アクセサリーなどを買い集めるハイプビーストタイプ(HYPE)
この種の時計コレクターたちは、今流行しているものを求めてやってくる。そして信じられないくらい大胆なのは、明日の流行のために今持っているものを売ることに躊躇はしないことである。ハイプビーストの目的はただひとつ。ステンレススティールか、狂騒かだ。また、クロムハーツのジュエリーや、カーハート(Carhartt)のワークウェアを身に着けていることも多い。彼らはたいていカフェで9ドルのラテを待つあいだ、StockXをスクロールしたり、エメレオンドール/ニューバランス 550sウェブストア抽選会に参加したりする。代表格:ドレイク
もし、あなたがハイプビーストタイプなら…
パテックのノーチラス 5711やデイトナにはもう飽き飽きという人の話を聞いてはいけない。これらの時計は素晴らしい時計だが、ちゃんと着用する責任を持って楽しんでほしい。時計がスニーカーと同じように、将来の博物館級になることを期待して、保管しておくべきではない。ただ、身につけるだけでいいのだ。
たまにはキッチュに装うのもいい。ザッカリー・ワイス(Zachary Weiss)氏のおすすめは、ジラール・ペルゴのキャスケットだ。このような奇天烈な時計は、二度見され、スタイルポイントを獲得するのに十分な珍しさを備えている。また、ほかの誰もが欲しがるような時計を買うために貯蓄を使い果たした、背伸びしている人のように見えることもない。
たかが時計だということを肝に銘じること。グレイルド(Grailed)で見つかるパテック フィリップのベースボールキャップはたしかにクールだが、それは置いておこう。ロレックスの偽物のウェストポーチと一緒に見かける必要などないからだ。
裏蓋にエングレービングしてみよう。自分の名前、モットー、何でも。これは私の元上司で、現在はエッセンス(SSENSE)のクリエイティブコンテンツ部門の責任者であるトム・ベットリッジ(Thom Bettridge)氏が教えてくれたシンプルで直感的なアドバイスだが、私も共感している。誰もが転売目的でないかのように大口を叩くが、真のレジェンドだけが自分の時計にイニシャルを入れるのだ。以前より入れたがる人が少なくなっている。
W.I.S.(時計狂い専門家)
W.I.S.とは、時計に精通したコレクターだ。W.I.S.は、ジュルヌの最新作のスペックが1mmでも間違っていたら、公然と非難してくるような時計コレクターを指す。彼らは服装だけでは簡単に見分けがつかない。時計は命のようなものだから、彼らは服装にはあまり気を使わない。スーツは1着だけ、それも新作発表会に参加するために持っている一張羅だ。代表格:アブラアン-ルイ・ブレゲ
もしあなたがW.I.S.なら…
ジュエリーをセットした時計をつけている人を非難してはいけない。これは私がいちばん嫌いなことだ。多くの人が、とても幸せを感じているはずのものをすぐに批判してしまう癖がある。また、“キラキラ”という言葉は、あまりにも簡単に蔑称として使われ、不快で微妙なニュアンスも含まれている。宝石細工は本物の工芸品だ。古くからあるものだ。そして、真剣そのものだ。ジュエリーをあしらった時計をすべて否定するのは、スポーツウォッチやドレスウォッチをすべて否定するのと同じくらい、見下した行為だ。輝くものを好きな人が、みな俗物というわけではない。機会があれば、一度着けてみてほしい。驚くかもしれない。
GQのファッション・ディレクターであり、ヴァニティ・フェア(Vanity Fair)誌のメンズウェアディレクターでもあるマイルス・ポープ(Miles Pope)氏は、時計を袖の上からつけてはいけないと提案している。その行為は気取ったものだ。しかしジャンニ・アニエッリのようなスタイルキングには例外を認める。あの人物ほどの威厳があれば、私やほかの人がどうこういう必要はないからだ。
時計をアクセサリーとして考えてみよう。あなたにとって腕時計はとても重要なものだと思うが、ほかの人があなたの服の中心的存在として腕時計を見るとは限らないことを考慮してみてほしい。誰も気づかなくても、問題ない。自分のために集めているのだろうだから。
アウトドア派(OUTDOORSY)
アウトドア派のコレクターは、主にハイキング、サイクリング、ロッククライミング、ダイビング、洞窟探検のお供として腕時計を身につけ、そのような身体的マイルストーンを達成したときにこの腕時計が一緒だったことを生涯忘れないようにしている。このようなコレクターはベゼルを回し、ヘリウムエスケープバルブを操作するために、ツールウォッチを愛用するのだ。ラバーストラップ付きのダイバーズウォッチにこだわるのは軽いフェティシズムといえるかもしれない。アウトドア派のコレクターは狼のように群れを成して集まる。彼らのクローゼットはフランネルシャツ、ウールセーター、レッドウィングのブーツ、ウェットスーツでいっぱいだ。代表格:ジミー・チン
もしあなたがアウトドア派なら…
腕時計は1本で十分だと思うようにしよう。ロレックス エクスプローラーがあれば完璧だ。あるいはチューダーを何本か。あなたがどんなに運動神経がよくても、個々のアウトドア活動に別々の時計は必要ないだろう(いい試みだが)。
ビーチで腕時計をしてはいけない、とグラツィア(Grazia)USAの編集長、J・エリッコ氏は言う。日焼けラインを避けるためだ。それに、せっかくリラックスしに来たのだから時間を気にする必要はないだろう。注文したマルガリータが出てくるまでの時間を計測しているのでなければ、気にする必要はない。
日中はガーミンやアップルウォッチを身につけよう。健康は財産だ。片方の腕にG-SHOCKなどをつけてダブルリスティングするのもいいだろう。ただし日没後のスマートウォッチはやめておこう。
NATOストラップは、ほかの人がネクタイをしている場では着用しないこと。あなたは軽装していると公言しているようなものだ。そしてフリースも着ないほうがいい。
この時点で、あなたはベストを尽くそうという気持ちになったか、あるいはコメントでモヤモヤした反論を書いている最中だと思う。もし後者なら、多くの時計コレクターが(私だけでなく!)ファッションを通して時計に辿り着いたことを思い出してほしい。前者であれば、さらに読み進めるためのストーリーをまとめたのでご覧いただきたい。アーカイブからスタイルに関連する名作を掘り起こそう。そして、これからも素敵でいてほしい。
特集記事
Dimepiece創設者であり、私の「Killing Time Podcast」の共同司会を務めるブリン・ウォルナー(Brynn Wallner)が、リアーナが妊娠発表の撮影時に身につけた、カスタマイズされたロレックスのキング・マイダスについて話してくれている。「時計愛好家たちは酷くウンザリしているに違いない」と彼女は書いている。まあ、カスタムウォッチは今や市民権を得ている。それに慣れるのもいいかもしれない。
ダニー・ミルトンは、ツートンカラーのタブーを打ち破り、2色使いのメタルトレンドの復権を解説している。この’80年代ルックは、マイアミ・バイスのようだとよくいわれるが、実は私は気に入っている。ダニー、パトリック・ベイトマン(映画『アメリカンサイコ』の主人公)、そして私の3人は、この点で一致団結している。
最近発表されたこのレインボーダイヤルは、反発を招いている。時計のデザインに関していえば、これはいい兆候だ。私がどちら側の味方かもうご存じだろう。
タイラー(Tyler),ザ・クリエイター( the Creator)やプシャ・T(Pusha T)のようなアーティストは、私が今日の時計収集の新しい波について愛するすべてを体現している。しかし、ヒップホップが始まった’70年代から時計とスタイルを取り入れてきたラッパーたちのことも忘れてはいけない。また、フレイヴァー・フレイヴ(Flava Flav)へのオマージュとして、彼のウォッチネックレスとテレビ番組『Flavor of Love』は、私がこれまで存在した文化の中で最も敬愛する2つの要素となっている。
この記事は紹介するまでもないだろう。私はこの記事を読み返し、再読し、何度も引用している。私が今でも擁護しなければならない点を、非常に雄弁に論じたカーラ・バレット(Cara Barrett)に敬意を表そう。彼女のエッセイは、ある意味、スタイルについてのものだ。しかし、それを超えたものでもある。
パブリック・エナミーの盛り上げ役で、かつてリアリティ番組のスターだったフレイヴァー・フレイヴは、巨大な時計を首から下げていたことで有名になった。それは、PEが今何時なのかを皆に思い出させるための、隠喩的なギャグだった。