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1年が終わりを迎えると、誰もがそれまでの365日を振り返ることだろう。典型的な儀式としては、お気に入りの瞬間を思い出したり、次の年に持ち越したいものを考えたりすることかもしれない。だが、2020年に限っては、同じような思いで1年を振り返ることは難しいかもしれない。特に2020年は、多くの人が新しい年の幕開けを待ちきれず、1年を過去のものにして振り返らないようにしたいと思っているだろう。不幸の多い年であったとはいえ、その1年の中で幸せであった時間を思い出してみるのも良いだろう― たとえそれがどれほど些細だったとしても。
我々HODINKEEは、ヴィンテージウォッチの醸し出す美しいノスタルジーのように、些細でも感謝すべきことがたくさんあると感じている。皆さんのためにヴィンテージウォッチのセレクションを増やせたことは、2020年最大の喜びの1つだったが、同時に、それらのヴィンテージウォッチは我々HODINKEEチームにとっても同じくらいの興奮をもたらしてくれた。歴史的、文化的、個人的な意味合いを問わず、ヴィンテージウォッチを思い浮かべることに勝るものはない。今日は、リラックスしながらHODINKEE Shopが紹介する、2020年のお気に入りヴィンテージウォッチを振り返りながら、ノスタルジックな小さな道を一緒に旅して欲しい。
お気に入りのヴィンテージウォッチ 2020
1966年製 ロレックス コスモグラフ “ビッグ” デイトナ Ref.6239
ベンジャミン・クライマー, ホディンキー創設者
私のRef.6239への愛は十分に知られているが、その中でも2020年初めにヴィンテージショップが販売したこのモデルは特に際立っていた。Ref.6239の魅力は間違いなく、歴史を感じ取れることだ。スクリューダウン(ネジ込み式)デイトナは、Ref.6240とMK0プッシャーを搭載したごく初期のRef.6263を除いて、Ref.6239よりも現代的に感じる。それは、1968年までしか生産が続かなかったショートホイールベースのポルシェ911に少し似ている。ポンププッシャー(非ネジ込み式)デイトナと同様に、これらの初期モデルは、間違いなく手に入れるのが困難で、おそらく後期モデルほどの性能を備えていないかもしれないが、語るべきところが多くあり、私はそれをある意味でただただ敬愛しているのだ。
オリジナルオーナーから委託されたこのモデルは、好ましい300ベゼルと“ビッグ” デイトナダイヤルを備えていた ― これはRef.6240にも見られるものだ。本機はアメリカ市場からのもので、もちろんキャリバーには“ROW ”の刻印がある。このような時計は一般的と思われがちだが、少なくともありのままの状態のものはそう簡単には見つからない。 正直なところ、この時計が戻ってきてくれればいいのにと思っている。
1963年製 パテック フィリップ カラトラバ Ref.3483 ステンレススティール
サオリ・オオムラ, シニア ショップマネージャー
パティーナには個人差がある:あなたはどのくらいのパティーナが好みだろう? パティーナは指紋のようなものであり、同じものはない。ヴィンテージではそれはつきものだ。それは、ヴィンテージモデルとモダンな時計を明確に分ける不思議な要素であり、ヴィンテージをよりニュアンスのある個性的なものにしてくれる。
このパテック フィリップは、“良い”パティーナが時計を他のものよりも際立たせる理由がよくわかる説得力のある例だ。本機は一見すると、ゴージャスでミニマルな、35mmのSSケースをもったドレスウォッチだ。しかし、このシンプルさこそがパティーナを輝かせている。洗練されたデザインの中にパティーナの輝きが、時計に温かみと魅力を与えてくれる。サンバースト仕上げのシルバーダイヤルは、キラキラとした輝きの中に少し不完全さのあるシャンパンカラーを感じさせる。言葉では言い表せないタッチのこのパティーナは、私のお気に入りのタイプのダイヤルだ。特にこのタイプの大きな平面をもつダイヤルの場合は、パティーナが前面に出てきて時計の一部になっている。ヴィンテージのパテックフィリップならではの、微妙ながらもはっきりとした盛り上がったエナメルのシグネチャーも忘れてはならない。
手前味噌ながら、この時計とモスグリーンのカーフスキンストラップの組み合わせに満足している。柔らかな中間色のグリーンは、パティーナを生き生きとさせるための完璧な脇役だ。私はカラーセラピストではないけれど、グリーンのストラップがシャンパンとゴールドの色をよく引き立てていると思う。ストラップ選びは細部にまで気を配って、毎週じっくり時間をかけて検討している。
私にとってのパティーナの美しさとは、ひたすらそれが時計に与える個性である。50年以上の歳月を経て、いつの間にか独特の個性をもち、これからの50年も進化を続けていくことだろう。パティーナがどのようにして時計の個性として発展していくのかは誰にも分からないが、おそらくそれが、私たちがヴィンテージウォッチに心を惹かれる理由なのだろう。そんな風に静かに、しかし間違いなく私に語りかけてくるのだ。
1969年製 ロレックス “赤” サブマリーナー Ref. 1680 マークI ダイヤル
ブランドン・フラジン, ヴィンテージマネージャー
絶対にしたくはないが、もし1つだけ選ばなければならないなら、自分は “赤” サブマリーナー Ref.1680をお気に入り時計コレクションの1つとして選ぶだろう。私にとって、このRef.1680は、適切なものが然るべきところに全て収まったほぼ完璧な時計だ。ケースは大きすぎず小さすぎず、ちょうどいい。時刻表示と日付という(少なくとも私にとっては)必要な全ての機能が備わっている。そして、十分に満足できるヴィンテージの魅力と特別感もある。 あの小さな赤い文字の一行、盛り上がった風防、そして大きな夜光ポイントも、全てがきれいにまとまっている。以前にも言っていて何度も繰り返すが、私はサブマリーナー派なのだ。
2020年を振り返ってみると、ウチのショップにはたくさんの時計が入荷していることに気づいた。幸運にも、“レッド”や“オールホワイト”プリントの Ref.1680 サブマリーナーの素晴らしいモデルをいくつか提供することができたが、思い返してみると、この個体が際立っていたのだ。それは、我々がリストアップした最も新しい“赤” サブマリーナーの1つであり、全体的に素晴らしいコンディションの “マーク I” メーターファーストダイヤルを備えている。今年販売した全ての時計を振り返ってみると、いくつかの理由でこの時計が目立っていた。ケース、パティーナ、それを際立たせるディテール、さらに“マーク I” ダイヤルが、心を躍らせてくれる。私は“赤” サブマリーナーをたくさん見てきたが、このタイプのダイヤルは数少ない。正直に言って、再び現れる機会がいつ来るか分からない。この時計と一緒に時間を過ごし、ロレックスが水深表記に使った興味深いフォントの選択のような、細かなディテールをじっくり見ることができたのも幸いだった。このような素晴らしいものを扱っていると、毎日何か新しいことを発見できる。それがこの仕事の良いところだ。陳腐な言い回しに聞こえるかもしれないが、本当にその通りなのだ。
1950年代製 オーデマ ピゲ “オーバーサイズ” Ref.5072 スモールシグネチャー
イアン・コックス, デザイナー
様々な意味で、このオーデマ ピゲはシンプルなドレスウォッチの原型といえるだろう。すっきりとしたケースライン、均整のとれた針、完璧なサイズのリューズなど、このミニマルな傑作に込められた思慮深いディテールに感嘆せずにはいられない。
時計のデザインにかなりの時間を費やしている者として、私は時計を必要最小限の本質まで落とし込む力を高く評価する。これは決して楽な作業ではく、一般的に、視覚的に複雑なデザインはより配慮が必要だと思われがちだが、私はまさにその逆が事実であることをよく知っている。実際には、不完全な部分が多少あっても、精巧な装飾に囲まれていると気づかれなくなる傾向がある。下手なボーカリストがコーラスに隠れることができるのと同じ理由で、ソリストは全ての音を完璧にこなさないといけないのだ。
このRef.5072のダイヤルは比較的希薄なため、より慎重に精査する必要がある。幸いなことに、鮮明なプリントとポリッシュ仕上げのインデックスはそれに耐えることができ、全ての判断がAPによって慎重に行われていると感じられる。サインが小さすぎるという意見があるかもしれないが、そう思うのも無理はないだろう。しかし、個人的にはこのディテールに最も惹きつけられる。様々なブランドがいかにオーディエンスの注目を集めようと争っている中で、この時計は新鮮な息吹を与えてくれる。主張するのではなく、囁くように、この時計をもう一度見るよう促すのだ。
1960年代製 ホイヤー カレラ Ref.2447N 初期仕様
ローガン・ベイカー, ホディンキーショップ エディター
簡潔さは、現代の時計デザインの多くにおいて失われた芸術だ。過剰なブランディングが施されたダイヤルや、目盛りや開口部が過剰に備わった時計があふれており、簡潔ですっきりとしたデザインの新しい時計の選択肢は深刻なまでに不足している。だからこそ、自分の感覚をすっきりさせたいときは、毎週HODINKEE Shopのヴィンテージウォッチを眺めているのだ。
個人的に、ジャック・ホイヤーによるオリジナルの1960年代製カレラほど、目的をもって作られたデザインを象徴するヴィンテージウォッチはないと思う。2020年にはいくつかの初期モデルを販売したが、最も目立っていたのは、10月に入荷したこの後期 初期仕様のRef.2447Nだ。サブダイヤルとテンションリングの明確なラインの区切りから、ブラックダイヤルとホワイトアクセントのコントラストに至るまで(リファレンスナンバーの“N”はもちろん、ブラックダイヤル“N=ノワール”を示す)、初期のカレラに勝るものはない。そして、このモデルは私が今まで見た中で最も素晴らしいものの1つだ。シンガー社のダイヤル? もちろん良い。バルジュー72のムーブメント? これも良い。さらに、美しくダイヤモンドポリッシュされた長いラグをもつEPSA製ケース? 間違いない。そう、これ以上にきれいなものは到底ないのだ。
1974年製 ロレックス デイデイト Ref.1803 18Kホワイトゴールド、アラビアカレンダー
アラム・デイビッド, フォトグラファー
全てのヴィンテージロレックスと同様に、デイデイトもクラシックなモデルである。クラシックの全ては、独自性よりも時代を超越した簡潔さ、そして多様性に依存している。では、なぜHODINKEE Shopで撮影を任されたデイデイトに驚かされたのか? それは単なるデイデイトではないからだ。
HODINKEE でのヴィンテージウォッチの撮影は、良い意味で挑戦だ。トロピカルダイヤルの色合いとヴィンテージケースのカラー変化は、細心の注意と正確さをもって合わせる必要があるが、このデイデイトの場合、ホワイトゴールドは純粋なグレーではなく、時間の経過と共にわずかなシャンパンカラーに変化した。完全なグレーでもなく、黄色でもない、この中間の色をうまく撮影しないといけないと思っていた。
しかし、私がこの時計について最初に気付いたのはケースの色だけではなかった。日回し車(日付表示ディスク)にヨーロッパの言語が印刷されているのは珍しいことではないが、上部にアラビア文字で“Al Sabt(“土曜日”の意味)”という文字があることに気づいたのだ。有名な話だが、この言葉はアラビア語の“冬眠する”に由来するそうで、この時計はどこに埋もれていて、この瞬間まで生きていたのだろうかと頭の中が駆け巡っていた。私の頭の中は、中東やその時計の前の持ち主、そして、その時計が旅した様々な場所についての空想や物語でいっぱいになっていた。
私の父はイラクで生まれたため、彼の興味をそそる時計であることは分かっていたが、私の興味もすぐにそそられた。そして、煌めくダイヤル、美しいアラビア文字、シャンパン色に輝くブレスレットを撮影するという作業が、フォトグラファーとしての仕事の一部であるだけでなく、私の義務であり、責任でもあると考えた。そして、今までこの時計がしてきた旅を夢見ていたように、この時計の新しい住まいを思い描くこともできた。
1980年製 ヴァシュロン・コンスタンタン “ジャンボ” 222 Ref.44018-411
ケイト・ベイズモア, ホディンキーショップ エディター
象徴的な時計のデザインといえば、特定のブランドを連想してしまう人が多いのではないだろうか。その時計を手掛けたデザイナーを知ることは珍しく ― これは時計業界の不思議なところである。有名な芸術作品を想像してみて欲しい。その芸術家を知らないなんてことはないだろう。稀ではあるが、時計業界ではブランドの裏、あるいはモデルの裏にいるデザイナーについて深く知ることができる機会もある。その一例が、ヨルグ・イゼックがデザインしたヴァシュロン・コンスタンタンの222がある。
ヴァシュロンの222は、時計業界でイゼックの名前が知られるようになった最初の時計であるが、その後彼は、ブレゲのマリーン、タグ・ホイヤーのキリウム、ティファニーのストリーメリカなどのモデルをデザインした。222と名付けられたこのモデルは、1977年に発表されたヴァシュロン・コンスタンタンの222周年を記念したものである。222のデザインは、ラグジュアリースポーツウォッチやジェラルド・ジェンタが手掛けた、オーデマ ピゲのロイヤル オークのような時計の時代を反映しているが、ヴァシュロンにとって222とは、ブランドのカタログに掲載されている他のモデルとは一線を画すものであった。
オリジナルは、ショップで販売したこのモデルのように、SS製で、細部にまでこだわった独特のディテールをもつベゼル、一体型ブレスレットを特徴としている。最終的には、222は当時のユーザーが全般的に求めていたラグジュアリースポーツウォッチであり、ヴァシュロンがクォーツの流行の最中、市場とのつながりを保つために世に送り出したものであった。7年という短い生産期間ではあったが、222はブランドにおける現在のオーヴァーシーズコレクションの基礎を築いた。しかし、デザイナーが元々意図したデザインと初期コンセプトの具現化されたものに勝るものはない。
1970年代製 オメガ フライトマスター “トロピカル” Ref.145.026
コール・ペニントン, エディター
フライトマスター。“f”は確かに小文字だが、それは文法上の誤りではない。ダイヤルとケースの裏側を見れば何を言っているか分かるだろう。これが、少し風変わりな時計だという第2のヒントである ― 第1のヒントは巨大なUFO型のケースだ。しかし、ここに “フラッティ”の興味深い点がある。人気の高いスピードマスターのようなクロノグラフと同等の性能をもち、シーマスター120のように、当時のオメガの多くのダイバーズモデルと同等のスペックを備えているのだ。フライトマスターの最終モデルは、極めて印象的な120m防水を記録している。確かに、この時計の目的は元々パイロットウォッチとしての役割を果たすことだったが、それを超えて当時最も有能な時計として作られたのだ。第2時間帯表示は? 確認してくれ。ベゼルはインナー回転式? その通り。クロノグラフは? もちろん装備されている。優れた視認性は? 一目瞭然だ。そして、プッシャーは時計の機能に合わせて色分けされている。
個人的には、使いやすいデザインの中にこれだけのものを詰め込むという意味では、これ以上に考え抜かれた時計はないと思っている。正直、俺だけのものにしたいというわがままな気持ちがあることを認めよう。