ADVERTISEMENT
2023年度のGPHG(Grand Prix d'Horlogerie de Genève、ジュネーブ・ウォッチメイキング・グランプリ)が、11月9日にジュネーブにて開催される。今年は時計84点、時計6点の計90点が全15部門にノミネートされ、そのうちひとつの時計が最高賞であるエギュイユ・ドール(Aiguille d'Or、金の針賞)を受賞する。
GPHGは2001年に創設され、現在は公益財団として運営している。選考プロセスは、そのプロセスに参加する数百人のGPHGアカデミーメンバー(数名のHODINKEEエディターを含む)のグループ、および本番を迎える11月のGPHG授賞式前に、最終ノミネート作品を直々に評価する30人の審査員が参加して決定される。
メジャーブランドの多くは参加しないものの、GPHGは依然として時計業界では最大の年間アワードショーである。各部門には6本のファイナリストが揃い、最優秀賞はこれらのカテゴリーのいずれかの時計に授与される。なお昨年は、MB&Fのレガシー・マシン シーケンシャル EVOが選ばれた。
では今年の主要部門のノミネート作品を見ていこう。
レディス部門
時・分・秒、日付、パワーリザーブまたはクラシックなムーンフェイズ(もしくは両方)といったシンプルな機能のみを備えた、女性用腕時計部門(ジェムセッティングは最大9カラットまで)。
アーノルド&サン パーペチュアルムーン 38 ミントナイト (HODINKEEがその時計を紹介したりレビューしている際、そのリンクを貼っている。そうでない場合はGPHGのページにリンクしている)
コメント: ピアジェのヒドゥン トレジャーズは、1960年代から70年代にかけて誕生した、ピアジェのカフウォッチとジュエリーウォッチを現代的に再解釈したように感じる(私は70年代のピアジェが大好きなので、偏見に満ちているのは理解している)。ピアジェはこれらをWatches & Wondersで展示していたが、実際の金細工はとても壮観だった。ブレスレットに刻まれた細かく細い線は手作業によるもののため、エングレービングは決して均一ではなく、自然に美しく見える効果をゴールドに与えている。しかしもっと広い意味で捉えると、この6本の時計のコレクションが現代の女性が身につけている時計であると、正確に表しているとは思えない。
レディスコンプリケーション部門
機械的な創造性と複雑さが際立つ女性用腕時計部門。古典的、または革新的な複雑機構(アニュアルカレンダー、パーペチュアルカレンダー、イクエーション オブ タイム/均時差、複雑なムーンフェイズ、トゥールビヨン、デジタルまたはレトログラード式の時刻表示、ワールドタイム、デュアルタイムなど)を搭載していること。またレディス部門およびメカニカルエクセプション部門の定義に当てはまらないことが前提。
コメント: このカテゴリーをどう扱うべきか、悩ましいところだ。ケース径40mm、厚さ12.7mのIWC ポートフィノ・パーペチュアル・カレンダーは、本当に“レディスコンプリケーション部門”でいいのだろうか? ただそれ以上に、ラ・ファブリク・デュ・タンの工房で製造されたルイ・ヴィトンのオートマタが印象に残る。タンブール ファイアリー ハート オートマタは、8時位置のボタンを押すことで花が咲き誇り、よく見るとフライングトゥールビヨンも備えている。さらにLFdT(ラ・ファブリク・デュ・タン)初となる、自社製オートマタと自社製エナメルダイヤルを備えるなど、2つの素晴らしい成果も上げている(この種の時計に搭載さていること自体素晴らしい)。LVの美学はあなたのスタイルに合わないかもしれないが、その時計製造技術は無視できないものだ。
メンズ部門
時・分・秒、日付、パワーリザーブまたはクラシックなムーンフェイズ(もしくは両方)といったシンプルな機能のみを備えた、男性用腕時計部門(ジェムセッティングは最大9カラットまで)。
コメント: オーデマ ピゲのような大手メーカーとサイモン・ブレットのような若いインディーズメーカーを比較するのも難しいが、私たちはおそらくこれらの時計のうち、5本については主張することができる。スターホイールは、これまで見てきたCODE 11.59のプラットフォームを最大限に活用しているようだ。DB28xsは、ドゥ・ベトゥーンのDB28を合理的に小型化したバージョンであり、時計製造とデザインに対するブランドの特異なアプローチを最もよく表しているモデルだ。そして私が今年、時計を扱ったなかで最もびっくりした瞬間が、フェルディナント・ベルトゥー クロノメーター FB3 SPCを手に取って、ミドルケースの小さな窓から円筒形のヒゲゼンマイを覗き込んだときだ。パルミジャーニ・フルリエ トンダ PFは、このモデルラインにとって大き1歩を示すものではなかったかもしれないが、ブレスレット一体型のスポーツウォッチのなかで最もエレガントであることは事実だ。最後にサイモン・ブレットのクロノメーター アルティザンは、素晴らしい血統を持つ若き時計師による強烈なデビュー作であった。
昨年のメンズ部門は、レジェップ・レジェピのクロノメーター コンテンポラン II(RRCCII)が制した。2023年は、同じく若いインディーズブランドであるブレットが優勝候補だと願いたい(彼のクロノメーター アルティザンに関する、Hands-Onレビューはこちらから)。
メンズコンプリケーション部門
機械的な創造性と複雑さが際立つ男性用腕時計部門。古典的、または革新的な複雑機構(ワールドタイム、デュアルタイムなど)を搭載していること。またメンズ部門およびメカニカルエクセプション部門の定義に当てはまらないことが前提。
コメント: この部門はほぼふたつのカテゴリーに分けられているように感じる。まず上段にはコンプリケーションのためのコンプリケーション、つまり誰の目にも美しく映るサファイアやスケルトンと複雑機構を組み合わせた時計が3本並んでいる。多くのコンプリケーションがサファイアと組み合わされ、一方、後者の3つは(ほとんど)クラシカルなコンプリケーションをよりエレガントにアレンジしたものだ。昨年は後者に当てはまるエルメスが、その前の年には前者に属するMB&Fが受賞したため、今年、複雑時計製造のどの見解が勝利を収めるのか、予想するのは難しい。
(このなかでも)最も複雑なモデルとは言い難いが、私はトンダ PF ミニッツ ラトラパンテがお気に入りだ。このコンプリケーションは、昨年の同部門にノミネートされながらも受賞を逃したGMT ラトラパンテにそっくりだ。
アイコニック部門
20年以上にわたり、時計製造の歴史と時計市場に恒久的な影響を与えてきた象徴的なコレクション・モデルに由来する腕時計部門。
コメント: 昨年、ローガンが書いたように、“このカテゴリーが実際に何を意味するのか誰も知らないが、不滅のウィル・フェレル(Will Ferrell)の言葉を借りれば、“挑発的”である。それは人々を興奮させる”。それは今年も同様で、6つの主要ブランドのアイコンが競い合っている。ハンデを負うのは難しいが、例えばロイヤル オーク オフショアとタグ・ホイヤーのカレラの歴史全体の影響について評価するのだろうか? それとも最新のリリースだけ? 唯一確実なのは、このように6つのアイコンを並べると、どのアイコンが最もふさわしいか、またその理由について、多くの異なる意見が得られるということだ。ショパール L.U.C 1860は、今春のWatches & Wondersで発表されて以来、何度かその魅力について語ってきたほど、今年いちばんのお気に入りだ。
クロノグラフ部門
少なくともひとつのクロノグラフ表示を含む機械式腕時計。その他の表示や複雑機構も認められる。
コメント: 昨年の金の針賞(MB&Fのレガシー・マシン シーケンシャル EVO)はこの部門から選出された。今年は25万ドル(日本円で約3635万円)するペテルマン・ベダ ラトラパンテクロノグラフと、タグ・ホイヤー スキッパーのような大衆市場向け製品を比較することはほぼ不可能に近い。私はスキッパーをそれなりに評価している(前カテゴリーのカレラ同様、ここ数年で最高のタグだ!)が、ペテルマン・ベダの時計は、今年見た独立系時計のなかでも特に印象的なものだったため、私が選んだのはこれだ。
スポーツ部門
スポーツの世界と結びついた腕時計で、その機能、素材、デザインがフィジカルエクササイズ(身体の運動)に適したもの。
コメント: これは2023年に改定された部門だ。以前はダイバーズ部門があったのだが、私はすべてのスポーツウォッチをひとつの賞にまとめるのはいいことだと思っている。興味深く、そしてよく争われるカテゴリーになった。インヂュニアのブレスレット一体型の復刻モデルか、アルパイン イーグルやモンツァ フライバックの技術的に印象的な時計か、それかドクサやチューダーのようなアイコニックなダイバーズの新しいバージョンか、はたまたインディーズの表現が強いグローネフェルドか。アカデミーはどれを支持するだろう? 昨年はチューダー FXDが旧ダイバーズ部門を制したが、このようにそれぞれ異なる時計を並べた新しいカテゴリーを審査員がどのように評価するのか、とても興味深い。
プチエギュイユ部門
小売価格が2000スイスフランから8000スイスフラン(日本円で約33万~132万円)の腕時計(スマートウォッチはこのカテゴリーに含まれる)。
コメント: ここからは参加者の価格に完全に基づいた、楽しいカテゴリーに移ろう。プチエギュイユ部門は、2000スイスフランから8000スイスフラン(日本円で約35万~135万円)のあいだで、最も優れた時計が選ばれる。これらの時計はいずれも、それぞれの価格帯において印象的な価値提案を示しているが、私にとってダントツの勝者は、クリストファー・ウォードのベル カントである。この英国ブランドは、時計製造の素晴らしい価値と偉業を達成しながらも、それを4000ドル(日本円で約60万円)以下という驚くべき価格で発表して以来、愛好家のあいだで(当然ながら)話題になっている。
チャレンジ部門
小売価格が2000スイスフラン(日本円で約35万円)以下の腕時計(スマートウォッチはこのカテゴリーに含まれる)。
コメント: 最後は2000スイスフラン(日本円で約35万円)以下のカテゴリーだ。これは個人の好みの問題によるので、選ぶのは難しい。ジェームズがセイコーの新しいダイバーズ GMTを1週間レビューしたおかげで、その魅力を私に納得させてくれた。ただほかの候補者であるスタジオ・アンダードッグが、とても楽しい時計を作り続けているのも際立っている。一方、クロノ トウキョウは独立時計製造のコンセプトを、より低価格帯で提供することに成功したようだ。
アカデミーにはお礼をいいたい
今回は主要9部門のノミネートのプレビューに過ぎない。全15部門すべてのノミネートリストについては、GPHGの公式ウェブサイトから確認できる。
どの時計ブランドであっても、800スイスフラン(日本円で約15万円)の参加フィーを支払えば、GPHGアワードの審査対象となる時計を申請できる。抜け目のない読者は、ロレックス、パテック・フィリップ、リシャール・ミル、カルティエ、そのほか多くのリシュモンブランド、そしてスウォッチグループといった多くの大手ブランドが参加していないことに気づいただろう。GPHG自身も2022年の受賞者を発表するプレスリリースでは、“決して完璧なもの(結果)ではない”と述べている。GPHGは、その年の“最高の”腕時計を表彰するアワードではなく、特に独立系ブランドや新進気鋭の若手メーカーによる技術革新にスポットライトを当てる舞台となることが多い。
GPHGにノミネートされた作品は、今年の残りの期間中、世界各地でエキシビションを行う予定だ。エキシビションのスケジュールはこちらから、ニューヨークでは、ウオッチズ・オブ・スイス ソーホー店にて、10月18日から22日まで展示される。