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The Value Proposition ハミルトン イントラマティック 38mm “ドレスウォッチ”

ミニマリズムの美しさ。


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編集部注:この記事では、現在HODINKEE Shopで販売中の時計を紹介しています。

ドレスウォッチという概念は興味深い。しかし、着こなしというもの自体が、今では忘れ去られた美学となってはいる。少なくとも、従来のビジネスウェアという意味においては(少なくともアメリカでは、海外企業との業務で私が会う人々は、会社にもよるが、スーツとネクタイを常用していたりする)。この用語はおそらく、人によって少しずつ異なるものを意味する。ドレスウォッチは、フォーマル(ホワイトタイ)やセミフォーマル(タキシード)のドレスコードで必須というわけではなく、フォーマルドレスコードの場合、通常は不要だ。タキシードの場合の一般的なルールとしては、腕時計を着けないか、着けるとしても小さなラウンド型で、ケースはホワイトメタル、複雑機構は付いておらず、できれば秒針のないものが望ましい。 

 したがって“ドレスウォッチ”は、おそらく最も一般的かつ幅広く理解されている、ビジネスにおけるフォーマルドレスコードに相応しい腕時計として考えられている。そして、ここでも一般的な概念として、クラシックなビジネスフォーマルコードが象徴する、真面目さ、堅実さ、信頼性という印象の延長線上にくるものでもある(これは設定にもよる。何年も前に、ブルックス ブラザーズの店内エレベーターで、190cm弱はありそうな1人の紳士と乗り合わせたときのことを思い出す。その御仁は、紫の大柄なウィンドウペーンチェックパターンのスーツ、クラブカラーでゴールドのスティックピン付きのシャツ、そしてペットのテリア犬の肖像画を手描きで入れた幅7、8cmはありそうなネクタイという出で立ちであった。支離滅裂に聞こえるだろうが、実際に生で見れば、仕立て屋の勝利といえる服装であった…(そこに居合わせなければ分からないだろう)。
 時計の場合は通常、そういったコードにおいては小さめものを意味する。つまり、40mm以下といったところだろうか。しかしながらサイズというものは、小柄な人には収まりよく見えても、背の高い人や大柄な人にはバランスが悪く見えたり、その逆も然りで、おそらく様々な変化に最も左右されるものではある。形は長方形、正方形、ラウンド型のいずれでも構わないが、一般的にラウンド型のものがややクラシカルな印象となり、ダイヤルは比較的シンプルであることが望ましい。アプライド型インデックスは小さいものか、もしくは全くないのがよく、秒針はあっても構わないが必須ではなく、デイトウィンドウはあったにしても、過度な注意をひかないよう、小さくて全体のデザインに溶け込んだものでなければならない。 

 服装のルール全般に言えることだが、もちろんこれらはどれも、状況や個人の好みによって大きく左右されるものではある。しかし、セミフォーマルやフォーマルのドレスコードのあるイベントに参加する際の楽しみの1つは、実際、ルールを知ってそれに細心の注意を払って従うところにある(それに向き合ってみよう。タキシードを着用する際には、誰もが場をわきまえるという感覚が生じるものだ)。もしお望みなら、ハミルトン イントラマティック 38mmのドレスウォッチは、厳密にはドレスウォッチとは言えないとすることもできるが、しかしそう主張するにはかなり頑張らなければならないだろう。この時計は比較的薄く、厚さは10mm、直径が38mmで、サイズ的には確かにドレスウォッチとして十分な範囲に収まるからだ。

 ダイヤルの装飾は完全に削ぎ落されてはいないが、ロゴマーク、ブランドネーム、“automatic”の文字、そして6時位置に慎ましく全て小文字のサンセリフ体で入れた“intra-matic”の文字が、非常にすっきりと収まっている。デイトウィンドウは、段差のついた枠で囲まれ、ブラックの縁取りがあることで、全体のダイヤルデザインと非常にしっくりと溶け合っている。そしてデイト表示の白いディスクが、もしこれがダイヤルと同色であれば失われていたであろう奥行き感と多様性を、かすかに添えている。

 ダイヤルにあるマーカーは、アプライドでもペイントでもなく、ダイヤルの金属に直接切り込みを入れ、そこに、SS製ケースや白いデイトウィンドウとマッチする、いくぶん反射のあるシルバー塗料を入れている。それらは本機の最も素晴らしい点の1つで、デイトウィンドウが作り出す質感と奥行き感を一層深めている。針はダイヤルと同系色だが、ダイヤルはざらつき感のあるグレインマット仕上げであるのに対して、針は非常に光沢のある仕上げとなっている。実際、それらは光が当たると黒光りするほど磨き上げられており、白く浮き上がって時刻がすこぶる判読しやすい。ただ、暗い場所では、針とダイヤルの色が似通っているために読みやすさは若干落ちる。しかし、暗い場所で失われる判読性は、エレガントさで相殺されていると私は思う。 

 名目上、ダイヤルカラーは“シャンパン”だが、少し銅色を帯びていて、サーモンとまではいかなくても、わずかな温かみを感じさせるには十分な色味だ。それがなければ少し硬い印象になっていただろう。例えるなら、ブリュットのロゼシャンパーニュのような色だといえる。そして、もう1つ素晴らしいディテールがある。分針の先が非常に緩やかなアール状になっており、他の部分にもみられる細部へのこだわりが、ここでも発揮されている。 

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 ショップリストにも記載されているように、“イントラマティック”という言葉は、元々ムーブメントを指していた。ハミルトン‐ビューレン イントラマティックは、マイクロローター式のキャリバーで、オリジナルデザインは、ビューレン時計工場株式会社が1954年に特許を取得し、1957年までに生産が開始された(イントラマティックキャリバーについては、2001年にジョン・デイビスとテリー・ラッセルがTimezon.com上で公開した、非常に細部にわたる優れた歴史解説があり、完全分解と技術分析も付いている)。このムーブメントは、ハミルトンのシノマティックシリーズに使われた。
 皆さんがラッセルとデイビスの解説を読まれるのであれば、薄い腕時計は男らしさに欠けると考える男性顧客への説得を意図した広告が掲載されている。シノマティックを装着したモデルがカメラを睨みつけながら、どうしたわけか、事もあろうに9mmのルガー パラベラム弾を誇示しているのだ。私もその広告キャンペーンの戦略会議にはぜひ加わりたかった。私が歴史に言及したのは、イントラマティックがドレスウォッチであるということに対する最初の反応の1つとして、手巻きにすべきであったという意見が出てくると思ったからだが、そうすると、もちろんイントラマティックはそうではない。イントラマティックのムーブメントは、ETAの2892-A2だが、これは1975年に2892として世に出てから、いくつかのバージョンを経ている。ETAが発表した当時、工業規模の生産品として世界最薄で、3.6㎜の薄さであったことは、おそらくもっと世に知られていてもいいはずの事実である。その普及率の高さから愛好家たちは見過ごしがちだが、何十年にもわたり数々のバリエーションの中で広く使われてきたことが、その信頼性と性能の高さを物語っている。これは精密製造の偉業といえるもので、歴史そのものも興味深く、現代の時計づくりの根幹を成すものでもある。 

 ストラップとバックルについては、時計を腕に留める働きはしているものの、少なくともこれを入手した人の中には、もう少し繊細な感覚のものに付け替えてみたくなる方も出てくることだろうと思う。最初から付いているストラップは、本機にはやや重く感じられるのだ。ピンバックルも、少し重い気がする。もちろん、デプロイヤントバックルよりは、はるかに良い選択ではあるのだが。全面クロコダイルのストラップが必須かどうかは何とも言えないが、この腕時計は、もう少し素朴でないものを必要としているように感じられるのだ。

 ヴィンテージ風の外観が好みの方には、本機はまさにおすすめだ。美しいコッパー調のダイヤル、見るからに質の高い針、デイトウィンドウの気の利いた演出、そして、これをデザインしたのが誰であれ、ドレスウォッチの本質は細部にこそあると熟知しているように思われる全ての要素が、本機を非常に魅力的にしている。手首に着けると、それは確かにシャープな外観をした小さな腕時計なのだが、実際にはそれほど小さくもない。38mmというサイズが自分には小さ過ぎると心配されるのであれば、イントラマティックは、数字だけで思い浮かべるよりもしっくりくることに気づかれるかも知れない。ベゼルについてはほとんど話すべきことがないという事実は、本機を着けたとき、決して大きいとは言わないが、ダイヤルがもっと大きな時計のような視覚的インパクトをもっているということだ。

 また、この時計は非常にエレガントな印象を醸しており、はるかに高価な腕時計と比較しても遜色ない。実際のところ、本機についてはヴァシュロン・コンスタンタンのヒストリーク・エクストラ フラット 1955を彷彿させるものが多々ある。そしてドレスウォッチのジャンルに分類される腕時計として、個人的にはこれ以上の成功例を思い浮かべることのできないほどの一品だ。価格は845ドル(税抜9万1000円、日本未入荷品)。ヴィンテージもののハミルトン-ビューレン シノマティックの精神を宿しながらも、ムーブメントの部品探しに苦労しないで済む腕時計をお探しの方には、これこそ非常に魅力的な価値提案となることだろう。

ハミルトン イントラマティック 38mm ドレスウォッチ。ケースはSS製、50m防水、38mm×10mm(ドーム型サファイヤガラスを含む)、トランスパレントバック。光沢仕上げの針が付き、インデックスを彫り入れたシャンパンカラーのダイヤル。ムーブメントはETA Cal.2892-A2、クイック設定のデイト表示、25.6mm×3.6mm、21石、2万8800振動/時、48時間パワーリザーブ。ラグ幅20㎜、ブラウンのレザーストラップ、ピンバックル。

Photographs:ティファニー・ウェイド