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もし“ティファニーブルー”が2021年後半から2022年前半に活躍していたとして、あえて言うと、最近ではより鮮やかなブルーがティファニーを勢いづかせていると思っている。
ブルーセラミックでできたオーデマ ピゲのロイヤル オーク パーペチュアルカレンダーが話題になったのを見たし、最近ではレボリューションが似たような色のウニマティックをリリースしている。しかし、現代のウォッチメイキングにおける鮮やかな青い“OG”(エアジョーダン)は、私のなかではドゥ・ベトゥーンのものだと思っている。その“ドゥ・ベトゥーン”ブルーは、デニス・フラジョレ(Denis Flageollet)氏が偶然見つけたものである。彼はチタン製テンワの不安定性を軽減するべく熱処理を行おうと、700℃以上に加熱したところ、チタンがコズミックカラーに変化することを発見したのだ。その色は何度も形や文字盤を変えて再現されてきたが、真に際立っているのは“カインド オブ ブルー”コレクションであり、実際に見るとほぼ360°、これまで見たなかで最も印象的な青い時計のひとつだ。そのためドゥ・ベトゥーンは時折、カインド オブ ブルーをつくり、誰がキングであるかを知らしめているようだ。
私の時計へのこだわりには波がある。そんな些細なこだわりのひとつがドゥ・ベトゥーンだ。たとえ長いあいだブランドがいかに大胆であったかという理由で、自身のコンフォートゾーン(心地のいい領域)から外れていたとしても、非常に近未来的な時計デザインと驚異的な冶金技術により無視できない存在となっている。にもかかわらず、私はいつも目の端で時計を見ていてそれを温かく見守ると同時に、いつか思い切って大きなブルーのチタン製ウォッチを腕につけたいとも密かに願っていた。
私のこだわりのようにブランド自体にも波があった。CEOのピエール・ジャック(Pierre Jacques)氏は、このブランドでの12年の在任期間中、何度か倒産の危機からブランドを守るために戦ってきた。彼はその危機を、若いブランドが市場で長期的な足がかりを得ようとするときは当然不安定になるものであると考えており、その過程でミスを犯したことは認めている。
2021年にブランドの株式の過半数を購入したWatchBoxによる最近の資金流入により、ドゥ・ベトゥーン(それとWatchBoxを通じたセカンダリーマーケットのコントロールもある)は安定した基盤を築いた。2社はドゥ・ベトゥーンの生産をゆっくりと“オーガニック”(自助努力で成長・発展させる)に増やすと約束したが、それでも年間生産数は意図的に300本未満に抑えている。ジャック氏によると、需要は高いが平均価格が8桁を超えているため、ほかの小規模な独立系メーカーが抱えるようなキャンセル待ちには直面しない(したくない)のだという。
「ウェイティングリストについてはあまり話したくありません」とジャック氏。「見栄を張りすぎていると思うのです。質の高いものを手に入れるには、待たなければいけないこともあります。でもそれは人生も同じです。完璧な妻を見つけるため、私は威厳を持つために20年ほど待ちました。キャンセル待ちはしなかったけれど。でもドゥ・ベトゥーンなら1年後、いや、確実に2年後には時計を手にすることができるでしょう」
私の夢である“大きな”青い時計だが、大きいというのは相対的なものだ。42mm径のDB28XPB(これは正式名称だ)は、サファイアクリスタルのケースバック越しから見えるパワーリザーブインジケーターを備えているため、以前のDB28XPモデルよりも若干厚みのある8.5mmとなっている。つまり約6日間のパワーリザーブを確保した手巻きムーブメント、DB2115V12の前面と背面を見ることができるのだ。しかしパーティは真正面で行われており、そこからはホワイトゴールドのインサートが施されたチタン製テンプ、フラットな終端曲線を描くヒゲゼンマイ、シリコン製ガンギ車、トリプルパラシュートショックアブソーバーを見ることができる。
近頃、私はドゥ・ベトゥーンのデザインの核となっている衝撃吸収性に魅了されている。最近プロテニス選手のトミー・ポール(Tommy Paul)選手やジェシカ・ペグラ(Jessica Pegula)選手がドゥ・ベトゥーンを手首につけてプレイしているのを見たかもしれない(もちろん、ブランドアンバサダーとして)。しかしこの時計が長期間のプレーの衝撃に耐えられるとは、まだあまり信じていなかった。でもドゥ・ベトゥーンにその心配はない。ジャック氏によると、これらの腕時計は “耐久テスト”済みだと言う。ドゥ・ベトゥーンの生産量の少なさを考えると理にかなっているような気もするし、ゾッとするような気もする。その生産量のなかで、決して少なくない割合をどれだけテストしたいと思うだろうか? どうやら5G(重力加速度)以上の力がかかっても、時計にまったく支障がないことが知れれば十分だ。
また腐食する可能性のある汗が、ケースや仕上げに与える影響についても心配していたが、どうやらそれも心配はないようだ。ジャック氏によれば、もし万が一ケースに穴が開くようなことがあっても、いつでもドゥ・ベトゥーンに持ち混んでチューンナップしてもらえると言っていた(もちろん自己負担で)。
“カインド オブ ブルー”の時計とそのケースを製造するには、十分な時間と手間がかかるため、生産数は限られる。今回、私が撮影したプロトタイプを除いて、同モデルはわずか25本しかつくられていない。12万5000ドル(日本円で約1855万円)という価格は信じられないほど高価であり、しかもニッチな時計ではあるが、同時に最も象徴的(かつ印象的)なドゥ・ベトゥーン製品のひとつでもある。しかし、注目に値するもうひとつの選択肢がある。
今年5月に発表された、新しいDB28XS スターリーシーズは、ドゥ・ベトゥーンがブランド全体のラインナップで行ってきたことから大きく逸脱しているわけではない。文字盤はDB25 スターリーバリアスをほうふつとさせる、中央のブルーパターンと外側のホワイトチャプターリングを配している。このケースにはDB28の特徴であるヒンジ付き(フローティング)ラグを採用している。
DB25 スターリーバリアスは、同ブランドの傑出したヒット作であり、同社が製造する最も需要の高い腕時計のひとつだ。これにはいつも驚かされる。もし誰かがドゥ・ベトゥーンを欲しがっていたら、ジャック氏との雑談のなかで私が言ったように、彼らは“完璧なドゥ・ベトゥーン”を選ぶだろうと思っていた。私のなかではDB28のバリエーションである“カインド オブ ブルー”ほど、象徴的なものはなかったからだ。しかしジャック氏は、より“伝統的な”コレクションからこのブランドを知る人々にとって、スターリーバリアスはクラシックなスタイリングでありながらドゥ・ベトゥーンのデザインタッチを備えた、完璧な架け橋であると指摘した。
今、DB28XSもその架け橋となり得るが、ブランドが過去21年間築いてきた極端なデザインが、最も伝統的なコレクターにとってさえそれほどワイルドに映るとは思えない。2010年にDB28がリリースされた時点では、信じられないほど未来的なデザインだと感じていたものが、次第に突飛なものではなくなってきている。時代を先取りしたデザインとはそういうもので、デザインが静止しているあいだにも時間は常に前進している。しかし、その未来的なタッチ(そして“スタートレック”のコミュニケーター通信バッジを連想させるブリッジの形状)にもかかわらず、ドゥ・ベトゥーンは全体的にサイズが大きいため、時計は少なくとも少し過去にとらわれたままになっていた。
そのため、DB28XSではケースサイズが大きなセールスポイントとなっているのだ。直径39mm、厚さ7.4mmというサイズはドゥ・ベトゥーンが製造したなかで最小のケースである。確かに“大振りな時計”が全盛期を迎えていたが、現在中間サイズに傾いている市場に対して、より現代的な印象を与えるものである。フローティングラグはより手首へのフィット感を高めてくれるが、これについては後ほど説明する。それからダイヤルだ。
文字盤には、ブランドと切っても切り離せない“ドゥ・ベトゥーンブルー”を採用。DB28XSの中央はブルーチタン製で、これを世界初の“ランダムギヨシェ”で仕上げている。このパターンは波のようなテクスチャーを与え、水に映る光の反射を模したWGのドットをあしらっている。チャプターリングはシルバーメッキで、その上にアラビア数字をプリント。またミニッツトラックには青いドットが描かれているほか、特注のチタン製時分針をセットしている。
この新しい“スターリーシー”ダイヤルにフォーカスを当てることで、従来のDB28が重視していた“デザインとしてのムーブメント”という焦点をややひっくり返している。手巻きCal.DB2005の“デルタブリッジ”がケースバックを通して鑑賞でき、テンプは毎時2万8800回で刻み、自動調整式のツインバレル式パワーリザーブにより約6日間のパワーリザーブを確保している。さらに、終端が平坦なカーブを描くヒゲゼンマイとシリコン製のガンギ車により、このような小さな時計としては信じられないほど、効率的なムーブメントとなっている。
ハイポリッシュ仕上げのデルタブリッジは、“伝統的な”スイスの仕上げの規範に従っていないとして、過去にいくつかコメントが来たことがある。ただフラジョレ氏がそれを目指していたとは、誰が信じただろうか? その代わり、DB28XSが一般消費者とブランド愛好家の両者の観点から両方の長所を組み合わせたDB28XSが大ヒットになり得ることをすぐに理解した。
着用感について少し触れよう。これらは人目を引く時計であり、確かに片方が他方よりも派手なのは確かだが、それでもいい。DB28は業界全体で見ても、最も快適につけられる腕時計のひとつであるだけでなく、ひとつ、あるいはふたつのサイズが時計の腕へのフィット感の全体像といかに一致しないかを示す好例も示している。DB28の“フローティングラグ”はそのスプリングのおかげで、9時から3時までの中心軸を中心にラグが(無理のない範囲で)回転するため、どのバリエーションも快適に手首にフィットしてくれる。スペックシート上のDB28XP “カインド オブ ブルー”の、ラグからラグまでのサイズは54.5mmである。上下部のラグを絞るとラグ同士の距離が短くなり、時計が手首にぴったり収まる。そうすることで、不格好になる長いラグが張り出してしまうのを防ぐことができる。
先に述べたように、DB28の既存ラインナップ、そして今回のDB28XP “カインド オブ ブルー”のような42mm径のケースサイズでは細い手首に乗せると上から下までが長すぎてしまうかもしれない。私が撮影した直後に、DB28XPを試着した数人の友人もそうだった。しかし厚さ8.5mmのDB28XPは、わずか7.4mmのDB28XSよりも手首が太く見えるはずだ。下の2枚の写真を見て欲しい。
私の7.25インチ(約18cm)の手首の太さと、フローティングラグの構造上、薄いほうの時計はラグの感覚が短いため、私の手首だと高い位置にあるように見える。この場合、ラグはすぐに下がり、ミドルケースがより多く見えるようになる。これは視覚的なトリックではあるが、装着性に影響を与えるものではない。どちらもグレード5チタンでできており、驚くほど軽量だ。しかし、より伝統的で小振りなケースが好きな私としてはDB28XSのケースにカインド オブ ブルーのデザインが採用されれば天にも昇る気持ちになる。
実際のところ、次に何が出てくるかについて、実はそれほど無理な推測ではないと思う。ドゥ・ベトゥーンがアバンギャルドであるのと同様に、このブランドは特定の製品ラインについてはある程度の快適な予測可能性を持っている(ダイナモ式ライトを搭載したDB28GS “グラン ブルー”はその一例だ)。勝利のデザインを持っている場合、多くの場合、過去の成功から派生した多くのバリエーションを期待することができるのだ。“スターリー スカイ”や“カインド オブ ブルー”がその例だ。DB28XSのムーブメントレイアウトであれば、“デルタブリッジ”は時計の裏側に配置されているため、文字盤を交換するほど簡単ではないが不可能ではなさそうだ。実際、ジャック氏にこの話をしたところ、返ってきたのは小さな笑みだった。そのおかげで、近いうちに夢のドゥ・ベトゥーンに会えるという希望が湧いてきた。
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