TOP画像は、おそらく唯一のロレックス デイデイト Ref. 18058 “レインボー”
11月5日と7日の両日、フィリップスはジュネーブでおなじみのホテル・ラ・レゼルブ(ロビーには世界最大のプラスチック製の象がいる)で、ジュネーブ・ウォッチ・オークション XIVを開催し、250本の時計を出品した。フィリップスのジュネーブオークションは、新品ではなく委託品の販売であるにもかかわらず、時計業界の状況を示す指標だ。また、入札者がどれだけ熱心に入札しているかは市場が魅力的な商品にどれだけ資金の準備ができているか、喜んでいるか、そして大きな金額を使っているかの指標にもなっている。
これだけ多くのロットがあると、ハイライトを選ぶのは少々愚かな企みで、何を選んでも何かを逃す可能性がある。しかし、我々はベストを尽くして、ここに注目すべき16のロットを紹介したい。それらはコレクションとしての時計やブランドの価値を示す結果、あるいは高級時計製造の観点から見た結果、あるいはその両方である。
最近のリシャール・ミルは、かつてのような驚きを与えてくれるブランドではないが、それは最上級の言葉で構成された作品のように、彼の最もすばらしい作品のいくつかを当たり前のように受け取ってしまっているからではないだろうか。例えば、テニス界の巨人とのパートナーシップ10周年を記念して50本限定で製作されたRM 27-04がその例だ。ムーブメントの重さはわずか3.4gと信じられないほど軽い時計で、エスティメートは87万1000~174万ドル(約9900万円~1億9800万円)だ。仮にハイエスティメートで支払う場合、1gあたり51万1764ドルと70セントという計算になる。
※落札結果は172万4000スイスフラン(約2億1340万円)。
私のようにハイコンプリケーションに興味がある方には、これは最高の一品だと思う。フィリップ・デュフォーは、エナメルダイヤルの最も高度なチャイミングウォッチを4本しか製造しておらず、ここにあるのはイエローゴールドケースに収められたムーブメントNo.1だ(ほかの3本は、ピンクゴールド、ホワイトゴールド、プラチナ)。8月にA Collected Manがブルネイのサルタンのために作られた時計を763万ドル(約8億7000万円)で出品したが、その時計はその後売却されてしまったため、フィリップスの現在のエスティメートである109万〜218万ドル(約1億2300万円〜2億4600万円)は、実際には低くないにしても十分に納得のいく額だと思う。この時計が実際にどのくらいの価格になるのか、定義された正確な概念を持つことは困難だ。なぜなら、この時計は十分に希少で魅力的なため、ハンマーが振り下ろされるたびに、ある種のユニークな出来事になるからだ。いくらになるか見ものだ。
※落札結果は474万9000スイスフラン(約5億8780万円)。
ジュネーブ・ウォッチ・オークションXIVでは、デュフォーはこれだけではなく、デュアリティやグラン・プチ・ソヌリ 懐中時計など計4点が出品し、合計で245万ドル(約2億8000万円)の低額査定となっている。なかなかのスターターコレクションと言えるだろう。
※落札結果の合計は1149万4000スイスフラン(約14億2262万円)。
今、カルティエのヴィンテージが盛り上がっているのは周知の事実だが、現時点では盛り上がっているというよりも正真正銘のトレンドとなっている。フィリップス・ジュネーブ XIIIでペブルが40万スイスフランで取引されているのを見れば、何かが起きていることがわかる。カルティエのヴィンテージを集めることは常に真剣な研究と勤勉さが要求される勝負だ。特に1960年代以前のものは全体的に非常に珍しい。しかし、この時計は2006年に製造されたもので、少なくとも製造年からするとかなり現代的なタンク ア ギシェだ。このモデルは私のお気に入りのタンクで、通常のカタログに戻ってくることを喜んで歓迎したいと思う。この作品のエスティメートは1万6000~2万7000ドル(約180万円〜305万円)とかなり控えめだが、これは俗に言う“リアルな金額”であり、ヴィンテージカルティエが現在、異常に高い価格で取引されているようなこととは違う。この時計は美しさだけでなく、ハイエンドな中古のレアカルティエ市場がどのように進化しているのか、あるいは進化していないのか、という点でも注目すべき一品だ。
※落札結果は10万800スイスフラン(約1250万円)。
さて、上に挙げたデュフォーのグラン・プチ・ソヌリが鳴りモノの高嶺の花だと言ったのは覚えているが、このパテックのRef.3939は、3部作の最後にアラゴルンが指輪を持つ者に言った言葉を借りれば、誰にも屈する必要はない。私が何年も(いや、何十年も)にわたって夢中になり、一貫して愛しつづけている時計は数少ないが、この時計はそのうちのひとつだ。私のなかではパテックの真骨頂である33mmで、派手さや貴族らしさを明らかに示すものは一切ないが、内部にはこれまで作られたなかで最も美しいリピーター・トゥールビヨンムーブメントが搭載されているのだ。
この時計は、パテックがスイスで生まれた最高級時計を慎重に製造するメーカーとして、その力を最大限に発揮していたことを示している。この失われつつある世界への切符は、17万3000〜27万ドル(約1970万~約3080万円)と見積もられているが、私に言わせれば、昨今の数百ドルの安物買いに比べれば、究極のお買い得である。
※落札結果は38万4300スイスフラン(約4760万円)。
このオークションでは、ヨットを所有していないと参加できないような超高額品のロットもたくさんあるが、なかには金額に惑わされずにその美しさを実感できるような素敵な時計もある。これはそのひとつだ。これは2016年製のハニーゴールドのランゲ1で、その淡い光沢は、日の出の時に低い雲から差し込む太陽の光をいつも思い出させてくれる。そしてもちろん機械式ルネッサンスと現代時計製造の優れたクラシックデザインのひとつに数えられている。予想価格は2万1600~4万3200ドル(約246万~492万円)で、イエローゴールドのランゲ1を購入する際の価格(記事執筆時は3万9900ドル)とほぼ同額だという。ハニーゴールドの"DOPPELFEDERHAUS"(ツインバレル)を、今すぐあなたの腕に。
※落札結果は18万9000スイスフラン(約2340万円)。
この時計は、1981年から25年間にわたり、さまざまな種類の金属を使用して製造されたモデルの一部だ。今回フィリップスが出品しているYGモデルは、当初はホワイトダイヤルだったが、運命のいたずらか、ダイヤルが非常に魅力的なレモンイエローに変化しており、ケースの金属やブレスレットと非常によくマッチしている。通常、私はトロピカルダイヤルにはあまり興味がない。それは私の覆し難い古い偏見であり、覆したいとも思っていないが、この時計には非常に合っている。パテックは意識的にそうしたのかもしれない。この美味しそうなレモンドロップ色の推定価格は2万1800~4万3500ドル(約245万~496万円)だ。
※落札結果は10万800スイスフラン(約1250万円)。
レインボー ロレックスを好きじゃない人は誰だろう(おそらく多くの人がそうだろうが、この時計にはファンがいて、おそらく今日ではかつてないほどの数だろう)。レインボー ロレックスといえばレインボー デイトナを思い浮かべる人が多いと思うが、ほかにもレインボーの宝石がセットされたモデルがある。このモデルは希少性が高いだけでなく、検証不能だが確実に信憑性のある言葉で言えば、“おそらく唯一無二”のモデルなのだ。宝石の色合わせはロレックスに期待するとおりの出来だが(ロレックスは色合わせに関してもほかのことと同様に完璧主義だ)、1987年に製造されたこのモデルの魅力は唯一知られているレインボー デイデイト Ref.18058であるということだ。フィリップスによれば、レインボー デイデイトはほかに3本あり、それらはRef.18059だという。エスティメートは16万3000~32万7000ドル(約1858万~3728万円)。このモデルを手に入れるには、虹の先にある金の壺が必要になるだろう。
※落札結果は79万2300スイスフラン(約9810万円)。
パテックの永久カレンダーのコレクターにとって、このモデルはたまらないものになるだろう。Ref.2497はパテック初のセンターセコンド付き永久カレンダーで、12年間で179本が製造されたが、そのうちWG製はこのモデルを含めて3本しか知られていない。カタログには、パテックが製造初期の数十年間に永久カレンダーをWGで製作するのは非常に珍しかったと記されている。「現在までに、スティール製のRef.1526が1本、Ref.1518が4本、プラチナ製のRef.2497が2本、そしてWG製のRef.2497が3本知られています。パテック フィリップがWG製の永久カレンダーを“定期的”に製造するようになったのは、Ref.3448が登場してからのことです」 この時計の希少性、品質、保存状態、そして時計学的な美しさを考えれば162万~325万ドル(約1億8400万~3億7000万円)という高額な見積もりを聞いても驚くことはないだろう。フィリップスは2017年にこの同じ時計を292万500スイスフランで落札しているので、今回も多分とは言えないまでも、高額査定を上回る可能性は十分にある。
※落札結果は281万3000スイスフラン(約3億4825万円)。
この時計も非常に珍しいもので、フィリップスのコメントにもあるように、これまで知られていなかったRef.4737 "Cioccolatone" ヴァシュロンは、ケースがチョコレート菓子に似ていることからその名が付けられた。非常にスタイリッシュなケースデザインはコレクター間で人気が高く、街に繰り出すにはこれ以上ないほど洗練された時計だが、このモデルの特徴は知られているRef.4737のなかで唯一のプラチナモデルであることだ。“ホワイトチョコ”と呼ぶべきかもしれない。WGモデルが4本(335本中)あることを考えると不公平かもしれないが、この特別な手首のキャンディのユニークな性質を考えると、そのように呼んでもいいと思う。エスティメートは21万6000~43万3000ドル(約2460万~4930万円)。
※落札結果は70万5600スイスフラン(約8735万円)。
ロレックス ステッリーネ トリプルカレンダー ムーンフェイズは、裕福なロレックスコレクター(最近残っているロレックスコレクターはほとんどこういう人)にとっては有名なユニコーン(聖杯?)のようなものだ。理由もよくわかる。現在のロレックスのカタログにはこうした時計はまったくなく、何年も前からもなかった。また7桁台のハンマー価格は普通のことで、オークションに出れば高騰することは確実だ。この時計は“唯一のものである可能性がある”とのことだが、ここでのポイントはダイヤル上にある小売業者だ。ロットノートによると、K.W.Co.はアメリカのニッカーボッカー・ウォッチ・カンパニーか、フィリップスによるとインドの今は亡きリテーラーのようだ。また、フィリップスによるとケース内にサービスマークがないことから、1953年に販売されて以来、一度も時計メーカーに触られていない可能性があるという。予想価格は64万9000-130万ドル(7400万~1億4800万円)。
※落札結果は136万1000スイスフラン(約1億6850万円)。
パテックのRef.1518。あなたも私も時計の歴史に少しでも興味を持っている人なら誰でも知っている。しかし、時計としての重要性やコレクターにとっての魅力は何ら損なわれてはいない。このモデルにはオリジナルの生産証明書という珍しいおまけが付いている(Ref.1518は特に注目を集める努力は必要ないが)。オークションノートによると全シリーズ(281本)のうち、オリジナルの証明書が残っているものは10数本しかないという。推定価格は32万5000~64万9000ドル(約3700万~7400万円)で、この時計は1947年にサバス氏に納品されたが、彼の身元は歴史のなかでわからなくなってしまった。
※落札結果は54万1800スイスフラン(約6710万円)。
1954年に完成し、1962年に販売されたこのRef.2499は、59年間同じ家族のもとにあり、初代オーナーがスイスのルガーノで購入したものだ。このモデルには美しく作られたオリジナルではないYG製ブレスレットが付いている。このブレスレットはGobbi Milano社のオーダーメイドで、ラグに穴を開ける必要があった。結果はかなりゴージャスなものになったが、市場では買ったままのオリジナルの状態にこだわる傾向がある。オリジナル状態のRef.2499は、出所によっては簡単に7桁に達することもある。私が知る限りの最高記録は、2019年にスティーブン・プルビレント(Stephen Pulvirent)が報告したサザビーズで388万ドル(約4億4200万円)のアスプレイのサイン入りRef.2499だった。
※落札結果は148万2000スイスフラン(約1億8340万円)。
私はあなたについて知らないが、もし私がもうノーチラスやアクアノートを見ないなら、早すぎることはないだろう。しかし、市場にはシロナガスクジラがオキアミを吸収するのと同じような食欲と吸収力があるようだ。たとえパテックのSSスポーツウォッチが時計界の一部で飽きられたとしても、この時計を吸収するだけの十分な数の時計クジラがいることは疑わない。誇大広告から離れてもクールな時計であることに変わりはないし、世界で最も尊敬されている高級時計メーカーのひとつであるパテックのSSモデルが、再び楽しく、比較的手ごろな価格で手に入る時代が来るかもしれない。期待はしていないが。このモデルのエスティメートは2万7200~4万9000ドル(約310万~558万円)だ。
※落札結果は11万9700スイスフラン(約1485万円)。
このモデルは1943年に発表された。当時、大人のための時計は31mmから32mmの大きさしかなかった。このモデルは36mmで、現代の基準ではギリギリ着用可能なサイズであり、もちろんSS製であればさらにプレミアムがつく。しかし、もしあなたが時計に興味があり、コレクションにも興味があるならば、この時計の素晴らしい外観とともにスイスで生まれた最も優れたムーブメントのひとつを手に入れることができる。Cal.12''120は、パテックの手巻きムーブメントの設計において最高の水準にある。エスティメートは21万6000-43万2000ドル(約2460万~4920万円)。
※落札結果は31万5000スイスフラン(約3900万円)。
ロレックスの大ヒット商品のなかでも最も大ヒットしたであろうディープシー・スペシャルがなければ、大ヒット商品のオークションとは言えないだろう。この時計はもともと極限の水深と圧力に耐えるための実験台として開発されたもので、ある試作品はマリアナ海溝の底まで潜り、調査用潜水艇トリエステ号の外側に取り付けられて、1万1000mの水深に耐えた。ロレックスはこの時計を少量生産したが、そのほとんどが研究機関や博物館に納められた。ここで紹介するのは、かつてヴッパータラー・ウーレン博物館にあったNo. 35だ。
このモデルはトリエステ号での深海潜水には参加しなかったが、ダイバーズウォッチのデザインが初めて限界まで試された瞬間の興味深い例だ。予想価格は131万~261万ドル(約1億5000万~2億9700万円)。カタログに掲載されているエッセイも興味深いもので、プロトタイプと記念モデルの両方と現在保管されている場所が記載されている。
※落札結果は105万8500スイスフラン(約1億3100万円)。
デュフォーと同様に、フィリップスではF.P.ジュルヌの時計が多数出品される。全部で9本の時計が出品され、9本の最低予想価格は96万ドルだ。もちろん、全体的にそれ以上の結果になる可能性も大いにあるが、フィリップス・ジュネーブ・ウォッチ・オークション XIVでのF.P.ジュルヌのハンマー結果を大きく左右する可能性がある時計のひとつが、このルモントワールのトゥールビヨンだ。このモデルはF.P.ジュルヌが独立系時計の愛好家の間で有名になった理由のすべて。薄くエレガントで、非常に複雑ということを備えたモデルだ。フィリップスが言うように、このモデルは1999年にオリジナルのオーナーから委託されたもので、世界でたった一人だけが最初のモデルを持っていると言うことができる。見積もりは32万5000~64万9000ドル(約3700万~7400万円)。
※落札結果は353万9000スイスフラン(約4億3795万円)。
ロジャー・スミスの作品に関しては、私が同じことを繰り返すのに少しうんざりしていると思うが、私は彼の時計が細部に至るまで完全に魅力的であるだけでなく、全体が部分の合計よりもはるかに大きい時計として魅力的であると感じている。シリーズ2は、スミスにとって大きな節目となるモデルだ。カタログから引用すると、スミスはシリーズ2をこう言っている。「...おそらく会社の歴史のなかで最も重要な時計です。オリジナルのシリーズ2は、完全に自社で製造された最初の時計でした。シリーズ1からの大きな前進であり、イギリスの時計メーカーが近代において初めて生産した時計でもあります。個人的な見解を述べれば、シリーズ2はビジネスにとって非常に困難な時期に作られました。その発端は単に時計を作るだけではなく、会社を再生し、私たちの未来を確かなものにしたのです」
このロットはPGケースを持つ5本のうちの1本で、ムーブメントはこの100年の間にイギリスで生まれたなかで最も芸術的に満足できるもののひとつだ。13万~26万ドル(約1480万~2960万円)の見積もりに見合う価値があると思う。
※落札結果は65万5200スイスフラン(約8110万円)。
終わりに:これらは、多くのコレクターにとって手の届かないエスティメートの時計のほんのひと握りであることは事実だが、1万スイスフラン以下の手頃な見積額(もちろん、それが落札価格になるという意味ではないが)のロットが合計59個あることも特筆すべきことだ。実はオーデマ ピゲの“ディスコ・ヴォランテ” Ref.5131BAというとてもおいしいモデルが出ていて、予想価格は3200~5400ドル程度だ。Ref.5131BAは1959年製で極薄のAP Cal.2003(JLCのCal.849として知られる)を搭載している。このムーブメントの現代版は例えばヴァシュロン(Cal.1003として知られている)から新品で買えばかなりの金額になるだろうし、ほかにも価値のあるものがたくさんある。パテックのベータ21とか。どなたかいかが?
Photos, Zeph Colombatto except where indicated.