ADVERTISEMENT
ラグジュアリーの本質を体現する言葉があるとすれば、それは“ビスポーク”だろう。適切なコネクションや手段、時には知名度さえあれば、サヴィル・ロウで仕立てたスーツ、ジョンロブの靴、オーバーフィンチが手がけたレンジローバー、そしてもちろん、ジュウ渓谷やグラスヒュッテで作られた時計を手にすることができる。自分のこだわり抜いた仕様と好みに合わせて作られた“ワン・オブ・ワン(世界に1点限り)”の製品以上に、エクスクルーシブなものがあるだろうか? それと同じものを市中で見かけることは2度とないのだ。それは密やかな愉しみでもあれば、顕示的なヴェブレン効果を狙ったシグナリングにもなり得る。もし“ビスポーク”という言葉の意味が判然としないなら、メリアム・ウェブスター(編注;米国の辞書)による解説を引用しよう。
“古きよき英語において、動詞のbespeakには「話す」「告発する」「不満を言う」といったさまざまな意味があった。16世紀になるとbespeakはもうひとつの意味、「注文する」を獲得した。その意味から派生したのが形容詞のbespokeであり、作られる前に注文された服やそのほかの品々を指すようになった。近年、ビスポークという言葉の使用が急増しているが、これは既製品(prefab)よりも職人技(artisanal)によるものを重んじる消費動向によるものかもしれない。”
いわゆる“一般的”な経済力を持つ時計愛好家にとって、真にビスポークな時計を注文するなどというのは、ジョン・メイヤー(John Mayer)氏やジェイ・Z(Jay-Z)、あるいはベン・クライマー(Ben Clymer)といった高額所得者たちだけの領域であり、到底手の届かない夢物語だ。しかし我々のような普通の人にとってより身近で、時計の外観や魅力、そして時には着け心地にまで影響を与えるビスポーク体験が存在する。それがストラップだ。ビスポークストラップ自体は決して珍しいものではない。私が時計収集を始めたばかりのころ、パネリスティのコミュニティ向けに、レザーやキャンバスの多彩な選択肢があったのを覚えている。長年にわたり、私はGasGasBonesやThe Strap Tailor、Roverhavenなどで、さまざまなサイズや素材のストラップを注文してきた。退役した軍用ランドローバーのキャンバスルーフから作らせたことさえある。これはOEM("original equipment manufacturer"/純正品)のストラップを交換して見た目をリフレッシュしたり、同じ時計を持つほかの誰とも違う、よりパーソナルな1本にするための手段だった。
一部の時計ブランドでは、時計購入時のパッケージの一部としてビスポークストラップを提供していることもあるが、その多くは同じくビスポークな時計に合わせるためのもので、真に仕立てられた選択肢はそれほど多くない。そんななか、職人技が光るエナメルやポーセリンのダイヤルで知られる、スコットランド・グラスゴーを拠点とするアンオーダインが、ウォッチメイキングと同じ情熱と審美眼を注ぎ込んだビスポークストラップサービスを開始した。これらのストラップは同ブランドの時計専用ではなく、また時計を注文する際につきまとうような長いウェイティングリストに並ぶ必要もない。
このビスポークストラップサービスは、アンオーダインのウォッチメイキングへのアプローチと同様、ムーブメント製造よりも審美的なクラフトに焦点を当てる。創業以来、ダイヤルこそが同ブランドの看板であったが、このサービスはその職人魂をさらに拡張したものと言える。私はこのストラップに強い関心を抱き、決して安くはない金額を投じて自分用の1本を注文してみることにした。プログラムはまだ試行期間にあり、詳細を詰めるためにかなりの時間と、インハウスのストラップメーカーとのやり取りを要した。これはプロジェクトが数カ月間足止めされる前の、昨年初めのことだった。おかげで私は注文プロセスを体験するだけでなく、自分のアンオーダイン モデル1に装着して、数シーズンにわたる長期の着用テストを行う機会を得ることができた。
プロセスの第1歩は、アンオーダインのウェブサイトにあるアンケートからレザーの候補を選ぶことだ。フランス産のゴートスキンやホーウィン社のコードバン、バイソン、カウハイドまで、色も質感も異なる22種類の個性的なレザーのなかから、顧客は候補を8つに絞り込む。これら小さな見本はサンプルボックスに収められ、ステッチやエッジ仕上げのサンプル(これも好きなものを選択できる)、さらに手首周りを測るためのメジャーと一緒に届けられる。サンプルキットはシンプルながらエレガントで、380ポンド(日本円で約8万円)という価格に見合った体験を提供する。レザーサンプルは小さいが、手触りや色味を確認するには十分なサイズだ。リベットで留められているため、扇のように広げて見ることができ、それぞれに名称がエンボス加工されている。
レザー、ステッチの色、好みのエッジ仕上げを選んだら、次は完璧なフィット感を得るために自分の手首を計測する。余計な剣先が余らず、気候や活動による手首のむくみや収縮を考慮して、正確に適切な位置に3つだけ穴が開けられたストラップほど、“ビスポーク”を感じさせるものはない。仕上げのディテールとして、剣先のストレート、ラウンド、アングルドといったさまざまな形状と、レザー内側へのカスタムエンボスを選択する。これらの詳細をアンオーダインのサイトにあるフォームに入力し、あとは完成を待つだけだ。
現在、アンオーダインではアビー(Abbie)という名の職人がひとりでビスポークストラップを製作している。製作中、私は彼女と連絡を取り合った。彼女は製作過程の写真を送ってくれたほか、私の手首の計測値や、選んだ剣先の角度について質問をくれた。また、ステッチの末端処理についての工程上の注意点も送ってくれた。
“通常、裏側の糸を固定するためにライターなどの直火を使って溶かしますが、カルロ ノフィン(Carlo Nofin/私が選んだレザーの種類)はとても繊細なため、損傷のリスクがあります。そのため理想の距離まで火を近づけることができず、期待する精度が得られません。現在この課題に取り組んでおり、来週には専用の道具が届く予定です。それを使えば、可能な限り磨き上げられ、整った外観に仕上げられるはずです。”
彼女はまた、私がエンボス加工に選んだ単語の綴りを優しく訂正してくれた。
“ご要望のアキュート・アクセントを付けたSláinteは、アイルランド版の綴りです。こちらのグレイブ・アクセントが付いたSlàinteは、スコットランド・ゲール語版です。どちらを使用するのがよろしいでしょうか?”
約1カ月後、完成したストラップがお手入れ方法の指示書、クロス、レザー用トリートメントバームとともに箱に収められて届いた。イタリアのバダラッシ・カルロ社の製革工場で作られたカルロ ノフィンレザーは、月並みな表現だがバターのように柔らかい。モデル1のブルースティール(SS)針にマッチするように、コントラストの効いたブルーのステッチを施した、ややオレンジがかった明るい色を選んだ。レザーは希望の厚さに漉(す)かれ、バネ棒が収まるように接着・縫製され、エッジがシールされている。ストラップには、アンオーダインのスタンダードなSS製ピンバックルが装着されていた。スリムで、上部にブランドロゴが刻印された独特の膨らみがあるのが特徴だ。
着用を始めてから1年のあいだに、レザーはかなり色が濃くなり、豊かで温かみのあるブラウンへと変化したが、耐久性もしっかり保たれている(自分へのメモ:トリートメントバームを使いなさい)。このストラップを装着しているモデル1は、私のコレクションのなかでも最もドレッシーな部類に入るが、典型的な時計愛好家なら乱暴だと言われるような過酷な環境でも使用されてきた。正直に言おう。この1年間、私よりもガールフレンドのほうが頻繁にこれを身につけていた。スコットランドでのハイキング、住宅リフォームでの石膏ボードの設置作業、さらにはジムでの激しいトレーニングまでこなしたのだ。ドレスウォッチやレザーストラップにとって推奨される使い方ではないが、これもフィールドテストの一環であり、“時計(やストラップ)は我々に仕えるものであり、その逆ではない”という信条に従った結果だと考えて欲しい。ラバーやナイロンストラップが登場する以前、兵士やパイロット、さらにはダイバーにとって、レザーストラップこそが唯一の選択肢だったことを忘れてはならない。質のよいレザーを適切にケアすれば、きわめて長く愛用できるはずだ。
数カ月着用したあとの私のストラップ。
そして、このストラップが長持ちすることを切に願っている。なぜなら、これは高価だったからだ。コメント欄で呆れ顔をされるのは目に見えているが、レザーストラップのために支払う380ポンド(日本円で約8万円)は決して軽視できない額だ。実際、モデル1の本体価格の3分の1に相当する。とはいえ、高度な専門技術と設備を持つ職人が3日間を費やして製作するハンドメイドのプレミアムな製品であることを考えれば、不当な金額ではないだろう。
アンオーダインのビスポークストラップサービスは、今月初めに正式に開始された。完成までの期間は、需要にもよるがおよそ6週間だ。詳細はこちらから。
話題の記事
Review アンオーダインの“ビスポーク”ストラップサービス
Introducing IWC ポルトギーゼ・クロノグラフ・セラタニウム®―名作に洗練されたひねりを加えたモデル
Business News ロレックスとカルティエは別格―モルガン・スタンレーの報告書“Swiss Watcher”から読み解く、時計業界の明暗