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Business News ジュネーブ・ウォッチ・デイズでスイスの時計メーカーの新作が注目を集めるなか、関税価格論争が激化

米国との関税交渉が改善されなければ、パテック フリップ、MB&F、H.モーザーを含む経営陣はさらなる価格改定が控えていると語る。 

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スイス人であり、H.モーザーのCEOであるエドゥアルド・メイラン(Edouard Meylan)氏は、時計業界およびスイス政府がこれまでに行ってきた対米通商交渉における外交努力の成果について評価を求められると、言葉を濁すことなく、率直にこう語った。

 「ひどいものです」と彼は言う。「彼らは非常にナイーブでした。私たちの政府があのようなやり方で臨んだとは信じ難いですね」

Eduoard Meylan

H.モーザーのエドゥアルド・メイラン氏。Photo by Mark Kauzlarich

 スイス時計にとって最大の市場である米国で、スイス製品に対して課された39%の関税は、業界に対応を迫るものとなった。H.モーザーはほかの多くのブランドと同様、8月7日に高関税が施行される前に、できるだけ多くの在庫を米国の小売店に出荷する措置をとった。クリストファー・ウォードを含む一部ブランドは、移転価格の活用による関税軽減を狙い、米国内法人の利用した計画を加速、または新たに開始している。ブランパンなどスウォッチ グループの一部ブランドは再び価格を引き上げており、IWC、パネライ、カルティエを含むリシュモン傘下のブランドも、近く価格調整に踏み切ると見られている。一方、サードパーティ製造を活用する小規模ブランドのなかには、関税の影響を抑えるため時計の組み立てを米国で行い始めている例もある。パテック フィリップのようなレジェンドブランドさえも対応を迫られている。事情に詳しい関係者によれば、ジュネーブに本拠を構えるパテックは9月15日から価格を15%引き上げる予定であるという。これに対して、ジュネーブにある同ブランドの広報担当者はコメントを控えた。

 メイラン氏によれば、ストリームライナーやパイオニアといったモデルを含むH.モーザーの製品に対する需要は堅調に推移しているという。これらのモデルはブランドのモダンなデザイン美学を体現し、ユニークで印象的なダイヤル、そして高度に仕上げられた自社製の複雑なスイス製ムーブメントを備えている。市場が混乱するなかにあっても彼は、今年の売上が“わずかに”成長すると見込んでいる。同ブランドは6月に約8%の価格引き上げを行っており、その背景には関税への対応に加え、スイスフランの対ドル高、そして金価格の高騰がある。米国における在庫は数カ月以内に尽きる見通しであり、関税状況が現状のまま続く場合、さらに約10%の価格改定を実施するかどうかまもなく決断を迫られるという。米国市場はあまりにも大きく、そして重要すぎるため、ほかの市場への出荷増で埋め合わせることはできないのだ。

H.モーザー フライングアワーズ。Photo by Mark Kauzlarich

 「メキシコ、インド、日本を合わせたとしても、米国市場の代わりにはなりません。米国は依然としてきわめて重要なのです」とメイラン氏は語る。ジュネーブのイベントにおいて、同ブランドはパーペチュアルカレンダーと、2本の複雑機構“フライングアワーズ”を搭載したモデル含む、新たな3本のパイオニアコレクションを発表した。「仮に価格を10%引き上げれば確実にしばらくのあいだ、売上の減少はあるでしょう。しかし同時に、株式市場はきわめて堅調で、経済も順調に見えます。そのため、一部の人々は引き続き時計を購入し続けるでしょう。短期的に多少の落ち込みはあるかもしれませんが、それが新たな通常になると思います」と彼は述べた。

 年間約4000本の時計を製造するモーザーに対し、創業20周年を迎えるMB&F(マキシミリアン・ブッサー&フレンズ)の年間生産数はわずか400本にすぎない。ジュネーブを拠点とする同ブランドは米国法人を設立する規模がないため、関税の影響をより直接的に受けている。MB&Fは20周年を記念し、クリエイティブなデザインを特徴とする同ブランドのファンから長らく望まれてきた新作、EVO仕様のレガシー・マシン LM101を発表した。チタンケースに、グリーンまたはサーモンカラーのダイヤルを備えた各色年30本の限定モデルで、スイス国内での価格は6万2000スイスフラン(日本円で約1150万円)となっている。では米国の顧客に対してはどうか? ブッサー氏によれば、MB&Fは米国向けに約15%の価格引き上げを検討しているという。また関税の影響により、MB&Fとその小売パートナーは、米国での販売においてマージンを削られることにもなると述べている。

MB&F LM101 Evo

EVO仕様のレガシー・マシン LM101。Photo by Mark Kauzlarich

 「39%の関税が続く限り、米国とスイスの税抜価格のあいだには約15%の価格差を設けざるを得ません。MB&F、小売店、そして顧客がその負担を分かち合うことになるからです」とブッサー氏は語った。

 生産量の多いブランドとは異なり、MB&Fは8月7日の高関税発効前に小売店へ出荷するための余剰在庫を持っていなかった。ロレックス、オメガ、オーデマ ピゲを含む大手ブランドのいくつかは、初期段階の関税措置を受けて3〜10%の価格引き上げを行ったが、高関税発効前に米国の小売店に多くの在庫を出荷できたため、現在の高関税にもかかわらずさらなる値上げを回避できている。かつてハリー・ウィンストンの時計部門でマネージングディレクターを務めた業界のベテランであるブッサー氏は、このまま関税が39%の水準で維持されれば、大手スイスブランドも近く圧力を感じ始めるだろうと語る。また彼は、ダイヤルの色を変えただけのような新作モデルに対して、Watches & Wondersでの大幅な値上げを正当化するのに苦慮するブランドも出てくるだろうと述べている。

マキシミリアン・ブッサー氏(右)と、ルイ・エラールおよびコロキウム(Kollokium)のマニュエル・エムシュ氏(左)。Photo courtesy Geneva Watch Days

 LVMHのウォッチ部門の責任者であり、ブルガリのCEOでもあるジャン-クリストフ・ババン(Jean-Christophe Babin)氏は、ジュネーブ・ウォッチ・デイズの創設者であり、同イベントの会長も務めている。今年のイベントは過去最多となる1万7000人の来場者を集め、参加ブランド数も2024年の54社から66社へと増加した。ババン氏は、関税交渉や業界が直面する課題が多くの来場者、そして参加費として5000ユーロから30万ユーロ(日本円で約87万〜5200万円)を支払うブランドにとって最大の関心事となっていたことを認めた。しかし彼は、ジュネーブ・ウォッチ・デイズがCOVID-19危機のさなかに創設されたイベントであることに触れ、今後もこのイベントが困難に耐える強さを持ち続けるだろうと述べた。

 「今回は少し事情が異なります。地政学的および経済的な要因に加えて、軍事的衝突や戦争も関係しているからです」と彼は語る。「不確実性のレベルは、第2次世界大戦の終結以降でもっとも高い部類に入るでしょう」

Bulgari Bronzo

ブルガリ ブロンゾ クロノグラフと、ブロンゾ GMT。Photo by Mark Kauzlarich

 ババン氏によれば、タグ・ホイヤーやゼニスを含むLVMH傘下のほとんどのブランドは、数カ月分の在庫を小売店に供給することができており、現時点で緊急に価格を動かす必要はないという。

 「アメリカの皆さんにひとつだけ助言するとすれば、もし時計を買うつもりなら、6カ月後ではなく今買ったほうがいいということです」と彼は語る。「6カ月後には、今より少し高くなっているかもしれませんから」