Illustration by Andy Gottschalk
マーベルの時代になって、映画はオリジナリティを失いつつある。既存の原作コンテンツがすべてのため、特に夏場はサプライズがほとんどない。しかし今年は少し希望が持てた。『Everything Everywhere All At Once(邦題未定)』から先週の『ブレット・トレイン(原題:Bullet Train)』まで、この種の映画製作は回復傾向にあるようだ。アカデミー賞候補の話ではなく、脳を遮断してひたすらポップコーンをむさぼるようなエンターテインメントの話だ。ヘンリー・ジュースト(Henry Joost)と、『キャットフィッシュ(Catfish)』で有名になったアリエル(レル)・シュルマン(Ariel “Rel” Schulman)による最新作『シークレット・ヘッドクォーターズ(原題:Secret Headquarters)』のことである。
これはまるで『グーニーズ』のような、子供時代に見た冒険映画の現代版だ。ティーンエイジャーグループのひとり、チャーリー(『アダム&アダム』のウォーカー・スコベルが演じる)が、父親(オーウェン・ウィルソン演じる)が密かにスーパーヒーローであることを知って、人生を変えるようなおもしろい経験に直面する。チャーリーは自宅の地下にある父親の秘密の隠れ家を偶然発見し、それを知ることになるのだ。アイアンマン風のスーパースーツを誇示する以外に、ウィルソン演じるジャック・キンケイド、別名“ザ・ガード”が身につけていたのは、ベゼルが一風変わったクラシックなヴィンテージクロノグラフだった。
注目する理由
Paramount+でこのありえない映画の公開日を迎えた。なぜありえないのか? このジャンルの映画で、記事にする価値のある時計(実際には複数の)が出てくるとは、まったく予想していなかったのだ。しかし、ここで今、記事にしている。その発見の過程で、監督たちとともにカールトン・デューディ(Carlton DeWoody)氏とも話す機会があった。彼はここで時計アドバイザーのような立場だった。この夏の初めに発売されたばかりの「モーリス・ド・モーリアック×ラケット ラリーマスター」で彼のことを覚えているかもしれない。言うまでもなく、この3人は真の時計好きであり、その情熱をこの映画にも注いだのだ。
ジュースト監督はステンレススティールのオーデマ ピゲ ロイヤル オーク、シュルマン監督はゴールドのロレックス デイトジャストにブラウンのレザーストラップ、そしてデューディ氏はピンクのラリーマスターを着用しての会話となった(ちなみに私はバットマンで正解だった)。
ザ・ガードが着用している時計はホイヤーのオータヴィア Ref.2446cで、1960年代のヴィンテージクロノだ。このような映画には珍しい選択だが、これはジュースト氏にとって非常に身近なところから、彼自身の手首から来たものなのだ。そう、ウィルソンがスーパーヒーローを演じるにあたり、ジュースト監督は自身のヴィンテージホイヤーを提供したのだ。このことが大きな問題になるとは誰も思っていなかった。「彼に渡したとき、“彼はそんなにスタントはしないな”と思ったのです」とジュースト監督は語る。ところが誰も予想しなかったことが起こった。
「真夜中、ジョージア州の森で彼がUFOを発見し、(ネタバレ注意)大爆発が起きて後ろに投げ出されるオープニングシーンを撮影していたんです。そしてマットの上に投げ出されたときにベゼルが飛び出してしまったんです」
翌日の撮影まで誰も異変に気づかなかった。ジュースト監督は語る。「モニターを見ていて、“この時計は違う”と思ったんです。変でしたから。それで彼のところに行って、“ちょっと時計を見せて”と言ったのですが、ベゼルがなかったのです。それで全クルーに知らせました」
結局ベゼルは見つからなかったため、映画をよく見ると時計にベゼルが付いているシーンと付いていないシーンがあることに気づくだろう。
オータヴィアのRef.2446Cは、かつての有名なスクリューバックケースのオータヴィアを踏襲しており、興味深いリファレンスといえるだろう。ケースバックは周囲の水圧によって制御され、ガスケットが締まることで100mまでの防水性を確保する。気の利いたアイデアだ。また、マットブラックの逆パンダダイヤルも特徴的だ。
しかし、これはスーパーヒーローにふさわしい時計なのだろうか? ジュースト監督によればウィルソンの役柄にぴったりで、ウィルソンにもそう言ったそうだ。「ここにヴィンテージのホイヤーがあって、それは僕の想像では演じるキャラクターが父親から贈られたものなのです」とジュースト監督。「陸・海・空の時計としてデザインされたものですから、このキャラクターにぴったりなのです。アイアンマンのように、彼はあらゆる環境で戦い、そして空を飛ぶのですから」
映画には、ほかの時計も登場する。マイケル・ペーニャ演じる大悪党アンセル・アルゴンはウルベルク(UR100ブラック)をつけている。ジェシー・ウィリアムズ演じるショーン・アイアンズはモーリス・ド・モーリアック(クロノ モダンダイバー タイムトラベラー)、ケジイ・カーティス演じるビッグ・マックはG-SHOCK GA900 4A、モモナ・タマダ演じるマヤは“ミリタリーキッド”のキャラクターにぴったりなミリタリースタイルのタイメックスをつけている。この作品では、時計パーティーが繰り広げられているようだ。
見るべきシーン
終盤、チャーリーがザ・ガードの秘密の隠れ家で悪党と対決しているとき、ザ・ガードが助けに来て銃を持った悪党と対面することになる。彼女を阻止するため、彼は力の渦を発生させ、彼女を追い出す。このエネルギーを撃ち出すとき [01:10:05] 、彼の腕にあるホイヤーがちらりと見える。手のひらから電流を出すときでも、ヴィンテージウォッチを気にする必要ないのだと気づかせてくれる。
クレジットが流れる前、ザ・ガードとその息子チャーリーがキャンプをし、ホットドッグを焼いているところが映る。周囲の山々の景色を楽観的に眺めるふたり。ザ・ガードがホットドッグの仕上げをするために火に手を近づけると [01:36:02] 、チェックのシャツによく合ったホイヤーをつけた彼の姿が映し出される。この時計は、民間人のグリルにもスーパーヒーローの電流渦の出現にも使える、非常に汎用性の高い時計であることがわかるだろう。
『シークレット・ヘッドクォーターズ(原題:Secret Headquarters)』(オーウェン・ウィルソン、ウォーカー・スコベル、マイケル・ペーニャ、ジェシー・ウィリアムズ出演)は、ヘンリー・ジューストとアリエル・シュルマンが監督、グレッグ・ゴンザレスが小道具を担当。Paramount+で配信中。
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