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WATCH OF THE WEEK 美術史専攻の私が、いかにしてカルティエのサントスへと導かれたか

元々抱いていた芸術や文化に対する関心が、メリット・パーマーをHODINKEEへと導き、それがカルティエへとつながった。

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Watch of the Weekでは、HODINKEEのスタッフや友人たちを招いて特定の時計が好きな理由を説明してもらっている。今週はHODINKEEの高級品鑑定士であるアトランタ在住のメリット・パーマー(Merritt Palmer)氏が、自身が所有するカルティエ サントス ガルベについて語ってくれる。

育つ過程で時計のことをあまり考えたことがありませんでした。なんといっても、Z世代である私は12歳から携帯電話をポケットに入れていましたし、特に時計に興味を持つ家族もいませんでした。大学で美術史を学ぶまで、時計収集というニッチな世界があることすら私は知りませんでした。

 美術品を扱うオークションハウスのサイトで、出品物の来歴や過去の落札結果などを調査しながら興味の赴くまま何時間も閲覧したりしているうちに、時計部門というものがあることを知るようになりました。最初に抱いた感想は当惑です。こんなに小さな物になぜそれほど高い値がついたりするのか。なかには文字通り、海の底から魚の網に引っかかって出てきたのではというようなものもありましたから。私は好奇心を抱きました。そしてたびたび目にするさまざまなブランドやモデルについて調べ始め、なぜ特定の時計が別のものより価値が高くなるのかを理解しようとしたのです。

Merritt Palmer

 時計に興味を持つ以前には主に、アンティーク家具やモダンな家具のデザイン、装飾アート、ファッションなどに興味がありました。絵画や彫刻など、展示して鑑賞するような伝統的形式のアートも大好きなのですが、美しくて機能的なものには特別な愛着があるのです。美的魅力と実用性を兼ね備えたものへのこの思いが、時計に対する私の向き合い方をつくり、私は時計をクリエイティビティの表現として、身につけて生活を共にできるアート作品として考えるようになりました。

 私は母に、新たに興味を持ったこの分野について一方的にあれこれ話すようになり、そんな私に母は、自分の持っていた小さなイエローゴールドのレディスウォッチをくれました。私はスマホを引っ張り出すかわりに手首にちらりと目をやる昔っぽい仕草がとても気に入りました。かなり大人っぽいアクセサリーをつけている感じがして、大学生活という気楽な場所を離れ、大きくて威圧感のある大人の世界へ入っていこうとしている自分にとって、不思議と勇気づけてくれる感覚があったのです。ただ、それでも私には自分で選んで、自分のテイストが反映された私自身の時計が欲しいという思いもありました。

 卒業後、HODINKEEに入社してアトランタ支社で鑑定士として働き始めた私は、突如として自分が、欲しいと思うような時計をほぼどれでも試着できる状況に置かれていることに気づきました。まるでお菓子屋さんにいる子どものよう。すぐに分かったことは、InstagramのポストやYouTubeで素晴らしいと感じた特徴も、実物を前にすると必ずしもその通りには感じられないのだということでした。

Cartier Santos

 私は自分が、ケースサイズが小さめのものに引かれること、ストラップよりもブレスレットのものが好きであることが分かりました。頭のなかで、時計に求めるものについての明確なチェックリストができ始めます。よくつけるシルバーのジュエリーに合うステンレススティール製のもの、ケースサイズが36㎜以下のもの、シックなもの、ちょっとひと味違うもの。そして知らず知らずのうちにカルティエに意識が向くようになったのです。

 タンクを買うのはどうかな、小さなクォーツのレディス用タンク フランセーズなんかいいかも、となんとなく考えていた2022年3月のある日、私のデスクにサントスのガルベがやって来ました。その滑らかで光沢のあるオールステンレススティールの風貌に、私はたちまち打ちのめされてしまいました。その小さなケースに自動巻きムーブメントが収まっていることが驚きでしたが、私を一番虜にしたのは、ギヨシェ彫りのダイヤルでした。あるひとつのものをこれほど痛切に欲しいと思ったことは過去になくて、また生まれてこのかた、これほど高額な買い物をしたこともありませんでした。

 有頂天になった私は母に取り乱した電話をかけ、絶対これを買うべきという気持ちの背中を押してもらいました。理性的に考えれば、これほど大きな買い物を衝動的にしてしまうなどあり得ないことでしたが、でも間違ってなかった。そしてやっぱり正しい決断でした。このサントスはまさに、私に最適なんです。

Cartier Santos

 流行に左右されずどこへでもつけて行けるこの時計の価値は、ほかでは得られなくて、私はいつもこの時計と一緒です。私を完璧に表現してくれている気がするし、まわりに示したい形で自分を表現してくれる時計なのです。エレガントでありながらエッジが効いて、クラシックでありながらひたすらクールで、ジーンズとTシャツにも、しっかりとドレスアップしたときにも、同じようにマッチするのです。

 多くの時計愛好家は、常に手持ちのコレクションに加える次の時計を探しており、既存の時計たちを愛するのと同じくらい、探し求めること自体が大好きなもの。私自身について言えば、ドレスウォッチ、スポーツウォッチ、カジュアルな普段用ウォッチなどを加える必要性を感じません。その全部がひとつの時計でまかなえているからです。それが悪いと言っているのではなく、ただ私には同じような衝動が湧かないというだけです。

 変な話ですが人生における現時点では、私は自分をいわゆる「時計収集家」だとも思っていません。毎日必ずつけるこの1本で満足しています。痒いところに手が届くように私にぴったりの時計です。もちろん将来のある時点で、必ず手に入れるべきだと訴えかけてくるような時計を見つけることもあると思います。でも私がそれを購入するには、このたいせつなカルティエを超えるものでなければなりません。


 ただ今のところ、私のこのサントスを負かすのは非常に難しいことだと思っているのです。

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