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Photos by Tiffany Wade
我々が知っていること
およそ60年前にハミルトンウォッチカンパニーが廃業し、(完全な)アメリカ製時計製造史の最終章の幕が閉じたかに思われた。その産業はかつてスイスの時計職人たちを恐れさせて脅かし、スイスの工業化が促進した歴史のなかにあった。しかしそれは何らかの理由がきっかけで、時間という試練に耐えられなかったのだ。そして今日、ジョシュ・シャピロ(Josh Shapiro)氏が、1969年以来初となる完全なメイドインアメリカの時計を発表。“リサージェンス(Resurgence)” と名付けられたこの時計はまさにその名にふさわしいといえる。
ジョージ・ダニエルズ(George Daniels)の時計製造法に従い、ジョシュ・シャピロ氏と彼のチーム(この時計の製作に携わった5名の専任時計技師を含む)は、昔ながらの伝統的な道具を用いた高品質な手作りのオーダーメイドウォッチをひとつの工房で製造することを目指した。ヴィンテージのハミルトン731ムーブメントの設計をまずつくり直そうと試みたとき、チームはムーブメントが小さすぎることに気付いた。彼らは再びダニエルズの方法を採用した。理想的なダイヤルサイドを設計し、ムーブメントの中心距離を詰めて加工して、まったく新しいものをつくり上げたのだ。このムーブメントには3種類のブリッジデザインの用意とさまざまな仕上げを施していて、そのすべてが最高品質に達している。
Further Viewing: J.N.シャピロの工房の裏側
(Watches In The Wildの)エピソード3“The Road Through America”では、ロサンゼルスにいるジョシュ・シャピロ氏を訪ね、彼が追求するアメリカンウォッチメイキングに迫った。
「私たちはアングラージュも徹底的にこだわっており、特に内角(斜面)を強調しています。ムーブメントのホイールは14Kゴールドという特殊なものを使用し、スポークはフラットではなく丸みを帯びています。これは非常に難しいことなのです」と、シャピロ氏はプレスリリースで述べている。
J.N.シャピロ リサージェンスのデザインがダイヤルから始まったのはしかるべきといったところか。何しろそれがシャピロが最も得意とするところのひとつだからだ。チームはリサージェンス(のような時計)をつくるのに必要な設備として数百万ドルを投資しているが、同様に彼らが多くの時間も費やしているという事実は時計製造における最高の旋盤彫りが実現するということだ。文字盤は薄い層を積み重ねたもので、オーダーメイドでさまざまなパターンをカスタマイズすることができる。また多彩な文字盤、立体的なスペード針、インデックスにはローマ数字かアラビア数字、アラビア・インド数字、ヘブライ数字のいずれかを選択できるオプションも用意している。細部に至るまでこだわることができる、まさにオーダーメイドの製法なのだ。
そしてメイドインアメリカウォッチという要素もある。その大仰な主張については後ほど説明するが、もしFTC(米国連邦取引委員会/Federal Trade Commission)が工房のドアをノックしてきたらアメリカ製の時計製造である証拠を見せることができ、それはこの国の時計製造にとって大きく1歩前進したと、それだけシャピロ氏が強く思っているとだけ言っておこう。
「私が時計製造の道に進み始めた頃は、時計とそのなかにあるすべてのものをイチからつくりあげることが夢でした。そこでJ.N.シャピロ リサージェンスのために180個の部品のうち148個を自社で製造しました」と、プロトタイプについて語るシャピロ氏。この数字は自社で部品を製造しているだけで、それ以外はアメリカで製造している。
このムーブメントは38mm×8.7mmのケースに納められている。J.N.シャピロの旋盤彫りの技術を見せるために大型化したミドルケースにより、写真はやや厚みがあるように見える。ケースにはさまざまな金属、旋盤彫りの文字盤、カラーの選択があり、いろいろなマッチングやコントラストを楽しむことが可能だ。またラグは製造時に取り外しができるため、ユーザーは旋盤彫り文字盤のミドルケース用に、対照的な金属を用いたツートンケースを選ぶこともできるという。価格に関して、ローズゴールドのケースにフロストシルバーホワイトのダイヤル、またはダークグレーのジルコニウムダイヤルをセットしたものが8万5000ドル(日本円で約1180万円)から。18Kパラジウム製ホワイトゴールドケースにフロストシルバーダイヤルのアクセント、またはタンタル製ケースにネイビーダイヤルのWGアクセントの場合は8万ドル(日本円で約1110万円)から。最後にスティール製ケースにブルーインデックスとフロストシルバーダイヤル、またはダークジルコニウム製ケースにパープルのアクセントを加えたモデルは7万ドル(日本円で約970万円)から用意されている。
我々の考え
率直にいうと、これは私の感情にとって大切で重要なストーリーである。私の祖父はアメリカ製ポケットウォッチの熱心なコレクターで、全米時計コレクター協会(National Association of Watch and Clock Collectors/NAWCC)で懐中時計についての記事を執筆していた。私が初めて“チクタク”としゃべったとき、彼はイリノイ州の懐中時計を見せてくれた。彼は私が手にしていた時計だけではなく、時計製造とその歴史への愛も伝えてくれた。ジョシュ・シャピロ氏と電話で話していた際、もし祖父がアメリカの時計製造史に残るこの瞬間を見たらどう思うだろうかと考えていた。
時計製造の一部をアメリカ国内で行っていると誇らしげに主張する企業はたくさんあるが、いろいろと調査してみると、私はジョシュ・シャピロ氏こそが“メイドインアメリカ”の主張を真に裏付けることができた最初の人物であると思っている。多くの議論を呼び起こすようなテーマだと思うが、これはアメリカの時計製造に今後役立つテーマであり、それをさらに推し進めてくれると信じている。
では議論はどこにかかっているのか? (生産の)割合と部品がほとんどだ。部品の60%をスイス製にすればうたえる“スイスメイド”や、同じく特に制限のない“ドイツメイド”と違って、FTCの規制はかなり厳しい。それによるとアメリカ製だと主張できる製品は、“すべてかあるいは事実上すべて”アメリカでつくられたものでなければならず、“製品には外国産のものが一切含まれていないか、もしくは無視できる程度にごくわずかであるべき”としている。これは時計メーカーにとっては大変な負担だ。ほかのブランドはスイス企業のエボーシュムーブメントを使用したり、アメリカ製の比率を重量で測定したりしている。しかしこの目標を達成するための私の定義では、ブランドはムーブメントをイチから設計することに加えて、少なくともダイヤル、ブリッジ、ピニオン(機械加工が非常に難しい)といった部品を製造する必要があると思っている。ただこれらの時計が機能するためには、アメリカではほぼ見つけることができないヒゲゼンマイや石にいまだに頼っているのが現状だ。ほぼすべてをだ。
シャピロ氏によると、彼と彼のチームがプロトタイプをつくる際、スイスのプレシジョン・エンジニアリング社からフラットな板状のヒゲゼンマイを入手し、それをオーバーコイル化して自社の工房で振動させたという。またアメリカではまだ入手できない石(水晶やガスケットも同様)も外部から調達しなければならなかった。最終的にシャピロ氏は、ほかの産業向けに石付きのベアリングを製造するアメリカの会社を見つけ、数十年ぶりに時計用の石を製造することに成功した。さらにアメリカにあるヒゲゼンマイのサプライヤーを探し出して依頼し、なんと最低発注量となる2万8000フィート(約8.53km)分を購入した。これは10万個のヒゲゼンマイをつくるのに十分な量に値する。だがそれは仕事を成し遂げるために必要なことであり、これらの変更を生産モデルで実施する計画である。
リサージェンスのゼンマイはスイス製である。ただしFTCの規則では、日本製の電池を使用していてもアメリカ製の玩具だと認定されることがあるそう。(ゼンマイは)同じように使い捨ての動力源であり、バッテリーと同様必要に応じて整備時に交換できるとシャピロ氏は説明する。
そして時計本体にいこう。ギヨシェ文字盤は、おそらく私がもっとクラシックなアメリカンウォッチを見て育ったからだろうが、個人的にはあまり好みではないことは認めるが、シャピロ氏と彼のチームの仕事がいかに素晴らしいものであるかは否定できない。プロトタイプであってもレイヤードダイヤルではありえないほど精巧につくられている。少し凹んだ文字盤はアメリカのポケットウォッチを彷彿とさせるが、ギヨシェの層は驚くほど薄く重ねられている。ミドルケースの旋盤彫りは高級懐中時計を思わせる素晴らしいものだが、同時にブレゲのミドルケースの仕上げを思い起こさせる。写真を見ていて思ったのは、ほかのブランドはケースのデザインのその部分を無視しているのではないかと感じた。
ムーブメントの美しさは、アメリカの“リサージェンス”ウォッチとしてはまったく予想しているものではなかった。アメリカの懐中時計を見てみると共通するテーマがいくつかあり、多くの場合は4分の3プレートのトップに歯車が配されていた。その代わりにシャピロ氏は流れるようなブリッジのデザインをメインに選んだ。ほかの選択肢としては、非常に幾何学的なレイアウトを施したブリッジのもの、バルジューVZSSを思わせるようなやや古典的なスイスのブリッジデザインの計3タイプを用意した。購入者はダイヤルの色やケースを選ぶのと同じように、ムーブメントも3つのデザインのいずれかを選ぶことができるのだが、プロトタイプを見る限りでは、どれか気に入るものが見つかると思う。またアメリカ版コート・ド・ジュネーブともいえるダマスカス模様を再び楽しめるというのもうれしい限りだ。
パッケージとして、この時計は信じられないほど魅力的に映る。もし自分で時計をカスタマイズできるとしたら(例えばタンタルケース、ブルーダイヤル、可能であればブレゲ数字)私はきっと大喜びする。直径38mm、厚さ8.7mmのこの腕時計は特に着用感がよくて快適なはず。近いうちに実機が見られるのをとても楽しみにしている。シャピロ氏によると、彼らは7人のスタッフで年産約30本の時計を生産する予定で、すでに1年半まで予約が埋まっているという。その需要が続くことを願っている。今後アメリカで年間数百万本もの時計が生産されることは2度とないだろうが、ただこの時計やほかのアメリカの独立系企業が刺激になって、メイドインアメリカのムーブメントに参加するためにより多くの企業がさらなる努力をするきっかけになるかもしれない。
基本情報
ブランド: J.N.シャピロ(J.N. Shapiro)
モデル名: リサージェンス(Resurgence)
直径: 38mm
厚さ: 8.7mm
ケース素材: ローズゴールド、ホワイトゴールド、SS、ジルコニウム、タンタル、またはその組み合わせ
文字盤: フロストシルバーホワイト、ダークグレージルコニウム、ネイビー、ダークジルコニウムダイヤル、パープルアクセント
インデックス: ローマ数字、アラビア数字、アラビア・インド数字、ヘブライ数字
ムーブメント情報
キャリバー: リサージェンスR1、R2、R3
機能: 時・分・センターセコンド、ハック機能
直径: 30mm
厚み: 4mm
パワーリザーブ: 約48時間
巻き上げ方式: 手巻き
振動数: 1万8000振動/時
石数: 19
追加情報: ダマスカス模様を持つブリッジ
価格 & 発売時期
価格: 組み合わせにより、7万ドル(日本円で約970万円)から最大8万5000ドル(日本円で約1180万円)まで
発売時期: 2023年末からのお届けを予定、予約受付中
限定: 年間30本程度の限定生産
詳しくは、こちらをご覧ください。
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J.N.シャピロとリサージェンスの詳細については、公式ウェブサイトをご覧ください。
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