我々が知っていること
ドクサ(Doxa)は先日ニューヨークで開催されたイベントにおいて、小説家であり探検家でもあるクライブ・カッスラー氏との長年の交流を記念した特別仕様の時計を発表した。85冊以上の著作を持つカッスラー氏は、小説の主人公であるダーク・ピットの腕にオレンジ文字盤のサブ 300 プロフェッショナルを装着させ、ドクサのブランド認知に貢献してきた。新しいサブ 300T クライブ・カッスラー エディションは、この出版物の歴史とカッスラー氏が1979年に設立したナショナル・アンダーウォーター・アンド・マリーン・エージェンシー(National Underwater and Marine Agency、NUMA)による沈没船探索の卓越した技術に敬意を表したものである。
このスペシャルエディションは、カッスラー氏のすべてを讃えるかのようにスタンダードなサブ 300Tをベースとしており、サイズは直径42.5mm、厚さ14mm、ラグからラグまでの全長が44.5mmとなっている。今作の開発は2年以上前から始まったものであり、PVD加工によるエイジング仕上げが施されているのが特徴だ。興味深いことに、最大の難関はブレスレット、そしてケースとベゼルの仕上げと一致させることだったという。その結果として使い込まれたガンメタの輝きと、まるで忘れ去られた工芸品のような風合いが生まれたのだ。このドクサはピットが冒険中に無名の沈没船から発見した遺物のようにも思えてくる。
文字盤のデザインもまた特別で、サブ 300Tのいつものレイアウトの上に、エイジング加工された褐色のカラーリングとヴィンテージのコンパスローズを思わせるデザインが施されている。コンパスのデザイン部分には独自の処理が施されていて、光を受けて初めてわかる繊細な仕上がりを実現している。また、1931年7月15日生まれのカッスラー氏にちなみ、日付表示盤の7、15、31は赤く着色された。カッスラー氏は2020年に亡くなったが、父の名前を冠した時計を披露するために息子であるダーク・カッスラー氏がドクサ主催のイベントに出席。彼はNUMA在籍時に冒険を重ねた愛用の750T プロフェッショナルを着用していた。
時計を裏返すと、裏蓋には非常にクールな処理が施されており、NUMAがその活動の過程で発見した72隻以上の沈没船や遺物の名称がエングレービングされているのがわかる。また、素晴らしいことに、このスペシャルエディションの収益の一部はNUMAに寄付される予定だ。
限定品ではないものの、このモデルの各時計には個別のシリアルナンバーが入り(ベゼルスタンドの縁に、ドクサの通常のケースバックに見られるいつものマークと一緒に)、マッチするエイジング加工を施したスティールブレスレットとベージュのNATOストラップが付属して2690ドル(約37万円)で販売される予定になっている。ラバーストラップと、それに合わせたスティール製クラスプ(ラチェット式エクステンション付き)を希望する場合は490ドル(約6万7500円)が追加で必要になる。
我々の考え
今作は全体を通して、カッスラー氏とドクサ、そしてNUMAとのつながりを象徴する大胆かつ非常に特徴的な作品に仕上がっていると思う。僕は今日、早速この時計を見て(撮影して)みて、エイジング加工されたスティールの質感をとても気に入った。ドクサによると、PVD加工を施したのちにストーンウォッシュを施すことでエイジングを表現しているそうだ。ある意味あらかじめ傷がついているようなものなので、傷がつくことを心配する必要はない。
エイジング加工されたスティールの外観と質感だけでなく、文字盤も興味深い。しかし僕としてはプロフェッショナルシリーズらしいオレンジとコンパスのデザインはないほうがよかったと思っている。特にこの時計には、ダーク・ピットの小説を思わせるポイントが少なからずあるのだからなおさらだ。ピットは映画(最近ではマシュー・マコノヒー氏が2005年の『サハラ 死の砂漠を脱出せよ(原題:Sahara)』で演じていた)のなかでも、300 プロフェッショナルを着用していた。しかしながら、カッスラー氏の世界観を1本の時計に凝縮しようとしたときに色から質感、デザインに至るまでこの文字盤はNUMAとの関連性が高く、ほかのブランドでも同じことができるとは考えがたい。
ドクサはこの時計を何本作るか公言していない。だが筋金入りのカッスラーファン(たくさんいそうだ……、彼の本は1億部以上売れている)か、同じく熱心なドクサファンに向けたかなり限定的なプロダクトになるのではないかと思う。通常モデルの300Tに比べて800ドル(約11万円)の値上げとなるため、この点はより顕著になるはずだ。もしこの時計が好みに合っているのであれば、差額はそれほど問題にはならないかもしれない。しかしクラシックなドクサが欲しいということであれば、カッスラーモデルは標準的な300Tより少しばかり高価で、僕の好きなサブ 300と比べても200ドル(約2万7500円)ほど高い価格設定となっている。
ただでさえ風変わりなドクサのなかでも、さらに変わった時計だ。膨大な著作との関連性を超えた製品として、僕はこの時計の仕上げや文字盤のエイジング感、カラーリングをとても気に入っている。赤のアクセント(文字盤のカッスラー氏のサイン、ベゼルのマーク、リューズなど)は素晴らしく、この時計はNATOストラップによく似合うだろうと思う。また、上でも言及したように裏蓋はいいアクセントになっており、この時計の外観にマッチしている。
300T クライブ・カッスラーは、すでに確立された方程式を宗教的なまでに忠実に守っているブランドにとって、異質でありながら同時に親しみやすいモデルだ。本稿を読んでいるカッスラーファンを除いて、最初のドクサとしておすすめできるものではないが、事前情報やその後に見たプレス写真でから想像していたよりも僕はずっと気に入っている。
別に僕の300 シーランブラーの着用時間に挑戦させるほど腕に巻くつもりもない(というより、300 カーボンホワイトパールのように僕の心のなかに無断で住みつくだろう)。だが、個性的かつニッチでちょっとした遊び心のある要素の数々は、僕が多くのスペシャルエディションに求めるものであると同時にドクサをドクサたらしめるものとなっていると思うのだ。
基本情報
ブランド: ドクサ(Doxa)
モデル名: サブ 300T クライブ・カッスラー スペシャルエディション
型番: 840.80.031.15
直径: 42.5mm
厚さ: 14mm
全長: 44.5mm
ケース素材: 経年変化を楽しめるコーティングが施されたスティール製
文字盤色: タン(エイジング加工)
インデックス: プリント
夜光: スーパールミノバ
防水性能: 1200m
ストラップ/ブレスレット: エイジング加工を施したスティール製“ライスビーズ”ブレスレットにベージュのNATOストラップが付属。オプションとしてブラックのFKMラバー製ストラップ、エイジング加工を施したスティール製クラスプ
ムーブメント情報
キャリバー: ETA 2824-2
機能: 時・分・秒、日付表示
パワーリザーブ: 38時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 25
価格 & 発売時期
価格: 2690ドル(約37万円)
発売時期: ドクサのウェブサイトおよび販売店にて販売中
詳しくは、こちらをご覧ください。
話題の記事
WATCH OF THE WEEK アシンメトリーのよさを教えてくれた素晴らしきドイツ時計
Bring a Loupe RAFの由来を持つロレックス エクスプローラー、スクロールラグのパテック カラトラバ、そして“ジーザー”なオーデマ ピゲなど
Four + One 俳優である作家であり、コメディアンでもあるランドール・パーク氏は70年代の時計を愛している