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時計について考えている人のうち、置き時計を想像する人は希だろう。しかし、置き時計は腕時計よりもずっと前から存在していたし(日時計や水時計などを含めるともっと前から存在していた)、腕時計がなくなってからもずっと存在し続けることは間違いないだろう。腕時計では難しいが、置き時計でできる最も興味深いことのひとつは、周囲の温度変化をエネルギーとして利用することだ。何世紀もの時計製造の歴史のなかで、このアイデアを利用した試みがいくつか存在したが、1928年にジャン=レオン・ルター(Jean-Léon Reutter)が発明したアトモスは、現在ではその分野をほぼ独占していると言ってもいいだろう。
アトモス: バリュー・プロポジション
アトモスの仕組みと、なぜそれが世紀の時計なのかを知るには、このバリュー・プロポジションの記事をご覧いただきたい。
アトモスは、温度の変動により気体が膨張・収縮する現象を利用している(ほとんどのものがそうだが、素材や気体、液体、固体によってその程度は大きく異なる)。アトモスの心臓部は、塩化エチレンガスを封入した蛇腹状のカプセルで、短い鎖に取り付けられている。温度が上がったり下がったりするとカプセルが膨張・収縮し、チェーンが引っ張られゼンマイが巻かれる。アトモスのテンプは水平で、周期は1分と非常にゆっくりとしている(正確にはねじり振り子で、温度変化に強い合金でできたワイヤーに吊り下げられている)。アトモスは一度セットアップすればほぼ半永久的に動作するが、現実的には10年から15年ごとに点検することが推奨されている。
今回、ジャガー・ルクルトはWatches and Wonders展のテーマである“天国の時計”を表現した2種類のアトモスを発表した。ひとつはシンプルなミニマルモデルで、もうひとつは地球、月、太陽の相対的な動きと位置を極めて複雑な機械的モデルで表現したアトモス・インフィニットとアトモス・テルリウムで、後者は特にテルリウムと呼ばれる形態で表現されている。
アトモス・インフィニット
アトモス・インフィニットは、アトモスを最小限の構成にしたものだが、シンプルとは単純であるという意味ではないことを証明するものでもある。インフィニットは、スケルトンの時計と同じようなものだ。使える要素が少ないため、すべてがその場所になければならず、もしそれを台無しにしてしまったら、パーツとパーツの調和がとれていないことを隠すことはできないからだ。
インフィニットは円筒形のガラスカバーを備え、視覚的にも機構的にも時計を支配する大きな蛇腹、ねじり振り子、ダイヤル、針、時・分針を動かす歯車機構などがわかりやすく意図的に見えるようにデザインされている。
ダイヤルはブラックラッカー仕上げで、ふたつの同心円に時間用のバトンマーカー、ロジウムメッキの針、外側にミニッツトラックを備えている。この時計は、アトモスのメカニズムとしての魅力に加え、その鑑賞を美的、さらには哲学的な体験に昇華させることを目的としているのだ。HODINKEEのオフィスには長年アトモスの時計が鎮座しているが、アトモスを見るたびに、2万8800振動/時の現代的な腕時計のムーブメントから得られるものよりずっと穏やかで計測された時間の体験のなかに身を置くことができることを、私は証明できる。シロナガスクジラの潜水時の心臓の鼓動は1分間にわずか2回だという。アトモス・インフィニットを見れば、その巨大な生物が動く僻地の世界や、星や惑星の動きの悠久のテンポを少しは感じることができるのではないだろうか?
アトモス・テルリウム
インフィニットは天文時計を暗示しているが、テルリウムはそのデザインからそれを明確に表現している。
プラネタリウム時計が、同心円状の惑星軌道(通常は土星までの可視惑星)を表示しなければならないという制約がある一方で、テルリウム時計は時計デザイナーに多くの自由を与えるという点で、最も希少であるだけでなく興味深い天文複雑時計のひとつである。近年ではユリス・ナルダンのムーンストラックやA.ランゲ&ゾーネのテラ・ルーナ、ボヴェのリサイタル、ユリス・ナルダンのヨハネス・ケプラーなどが美しい腕時計として知られている。しかし、テルリウム時計はレア中のレアであり、HODINKEEでもこれまで取材した記憶がない。
テルリウム時計には、季節、月、太陽の周りの地球の軌道、地球の周りの月の軌道、ムーンフェイズ、星座の表示がある。地球と月は、太陽を表すダイヤルの中心の周りを、1太陽年、つまり365.2466日(390年で1日の誤差)で回転するディスクに収められている。地球は24時間に1周自転し、月は地球の周りを1周し、平均して29日と12時間44分と2秒の周期で公転している(月の軌道の歳差運動などにより、実際の長さは若干異なるため、平均値となる)。
せっかくミニチュア宇宙を棚に置くなら、それらしく見えるようにしたいものだ。アトモス・テルリウムは、かなり多くの装飾が施されている。地球表面はミニチュアペイントで、月面はレーザーエッチングでミニチュア再現され、地球と月のリングにはメテオライト(隕石)がインレイされている。
アトモスのような時計は世界中どこにもなく、どのアトモスにもそれぞれの魅力があり、最もベーシックなモデルでも限りなく見やすいのだが、私はテルリウムとインフィニットはジャガー・ルクルトがこれまでに作ったなかで最も美しい時計だと思う。アトモスは、信じられないほどリーズナブルな価格から購入可能だ。クラシックモデルはわずか83万1600円(税込)で、これは時計メーカーにとって最高のコストパフォーマンスと言えるだろう。しかし、このモデルはジャガー・ルクルトがこれまでに製造したアトモスのなかで最も複雑なモデルであることを忘れてはならない。しかし、最も安価なアトモスにさえ共通するのは、瞑想的な静けさであり、現代の時計収集の分刻みの拙速さに対する一石を投じることになるだろう。
アトモス・テルリウム: 直径215mm×高さ253mm、ムーブメントはジャガー・ルクルト製機械式 Cal.590。ねじり振り子/環状テンプ、60秒振動。時、分、テルリウム、黄道十二宮カレンダー。キャビネット、円筒形クリスタルガラスにハンドペイントされた星座。メテオライト、エングレービング、細密画、漆のインレイ。世界限定10個、6908万円(参考価格)。
アトモス・インフィニット: 直径215mm×高さ253mm、ムーブメントはジャガー・ルクルト製 Cal.570、60秒振動のねじり振り子/環状テンプ。時・分表示、ケース、ガラス製シリンダー。187万4400円(税込)
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アトモス コレクションの詳細については、ジャガー・ルクルト 公式サイトまで。